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理科

地震の単元における探究型の授業実践の報告
~3地点の初期微動継続時間から震源を求める~

奈良市立富雄中学校 中山 知洋

1.はじめに

私は,主体的・対話的で深い学びのある授業を実践するために,日々3つの取り組みを意識して,授業づくりを行っている。

1つ目は,3~4人でのグループ学習である。生徒が自分の意見を発言したり,互いに聴きあったりするには3~4人が最適だと考える。2人では意見の多様性に欠け,5人以上になると自分の考えを発言する機会が減り,距離も離れるために,話が聞き取りづらくなる。3~4人のグループにして机をつけることで,お互いに見合い・聴き合い・学び合い,個別でも協働的にでも課題解決に取り組むことができる。生徒には,自分の考えを伝えたり,他者の考えを聞き,互いに批判し合ったりすることの重要性を指導し,生徒同士のつながりを高め,支え合い,協働的に課題解決に取り組む関係づくりを日々の授業で心がけ,社会で仲間とともに生きる力の育成を目指している。

2つ目は,授業の前半に設定する,基礎基本の課題を取り入れている。全員が達成できるような,本時の目標の基本となる部分を短時間で学習する。教科書をもとにした穴埋め問題や,簡単な計算問題,これまでに習った知識や生活体験の中で知っている知識から分かる原理原則の確認などを行う。忘れていたり,分からずつまずいている場合には,生徒は互いに聴き合い,学び合うことで,基礎基本が定着するように,ここでもグループで学習する。

そして,3つ目に難易度の高い探究型の課題を授業の後半にじっくりと時間をかけて取り組ませる。これまでに習った知識や生活体験の中で知っている知識を活用し,探究できるような課題を設定する。生徒たちは,誰しもが「分かりたい」という思いをもっているので,あえて難しい課題に挑戦させることで,その気持ちを刺激し主体的な学習につなげていく。授業の中で,試行錯誤を繰り返し,課題解決に向けて一歩進んでいる生徒から,自分の考えを広めさせることで,学びを深めたり,立ち止まっている生徒を引き上げたりするなど,対話的な活動を充実させ,基礎基本の定着と,より深い理解につながるよう支援する。これらの取り組みを通して,主体的・対話的で深い学びを実現し,言語能力の育成や情報活用能力の育成,ひいては科学的に探究する力の育成につなげようと試みている。

今回は,1年生の地震の単元で,「3地点の初期微動継続時間から震源を求める」という探究型の授業を実践したので報告する。

2.授業実践

Ⅰ.単元名「火山と地震」

Ⅱ.単元について

教師の説明の時間を限りなく短くし,生徒の活動や実習,資料から読み取ったり,探究的な課題解決に向かう時間を確保した。また,この単元では観察・実験など,直接体験することが難しいものも多いが,実際の映像資料や,モデル実験,過去に発生した地震データや資料を活用することで,生徒が本物に触れ学ぶ機会を増やすことを意識し,単元の授業の構成を行った。

Ⅲ.単元の目標

Ⅳ.単元の評価規準

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度
大地の成り立ちと変化を地表に見られる様々な事物・現象と関連付けながら,火山活動と火成岩,地震の伝わり方と地球内部の働きについての基本的な概念や原理・法則などを理解しているとともに,科学的に探究するために必要な観察,実験などに関する基本操作や記録などの基本的な技能を身に付けている。 火山と地震について,問題を見いだし見通しをもって観察,実験などを行い,地下のマグマの性質と火山の形との関係性などを見いだして表現しているなど,科学的に探究している。 火山と地震に関する事物・現象に進んで関わり,見通しをもったり振り返ったりするなど,科学的に探究しようとしている。

Ⅴ.単元の指導計画 全12時間(本時 4・5/12 )

時間 ねらい・学習活動 重点 記録 評価内容
1
  • 本単元の内容に関連した小学校での既習内容を確認する。
  • 地層の模式図を見て,「なぜこのような地層ができたのか?」を課題として,グループで話し合い,大地の動きについて考える。
地震や火山について,興味・関心をもとうとしている。
2
  • 「日本には,なぜ地震が多いのか?」を課題として,ジグソー法で3つの資料から読み取り,グループで発表し,日本周辺にはプレート境界が集中しているため,地震が起きやすいことを見いだす。
資料から,地震とプレートとの関係を見いだして表現している。[記述分析]
3
  • 「地震のゆれはどのようにして伝わるのだろうか?」を課題とし,実習を通して,地震の揺れは,ほぼ同心円状に伝わることを理解する。また,地震波は一定の速さで伝わることを理解する。
同心円状に揺れが広がる様子を作図や色をつけることで表現している。また,揺れの広がりを理解している。
4

5
「3地点の初期微動継続時間から震源を求める」という課題解決に取り組む。 地震計の揺れの記録から,伝わり方の違いや規則性について理解している。 [記述分析]
初期微動継続時間と震源距離の関係から,どのようにすれば震源を特定できるのかを見いだして表現している。  [作図・記述分析]
試行錯誤しながら,震源を特定しようとしている。
  • バネを用いた演示実験や簡易地震計を用いた地震計の記録を基に,揺れの大きさや伝わり方の規則性について理解する。
  • 初期微動継続時間が震源から離れるほど長くなることを活用して,どのようにすれば震源を特定できるのかを見いだす。
6
  • 地震のP波やS波の速さ,震源距離を求めるなど,地震についての知識や技能を身に付けているかどうかを難易度別の入試問題やAI型教材「Qubena(キュビナ)」を活用して確認する。
地震の波の速さと距離と時間の関係性を理解し,作図や計算を行うことができる。
7
  • 津波や液状化現象など,過去の地震の記録から大地の変動やそれにともなう災害について,実生活と関連付けて捉えようする。
実生活の中で,知ったり経験したりしたことを出し合い,理解を深めようとしている。
[記述分析]

Ⅵ.本時の目標

Ⅶ.本時の展開(第4時・第5時)

地震計を用いた地震波形の記録や,レインボースプリングを用いた波の実験を通して,2種類の波の性質の違いの理解を深めた。

活動内容 教師の支援 指導上の留意点と評価の内容等
①課題設定
  • 今日のめあて「地震のゆれから分かること」を知る。
  • 1月1日に発生した能登半島地震や,今後起こるであろう南海東南海地震にふれ,地震の揺れから分かることを研究し,防災に役立てる大切さを伝える。
  • 3~4人グループで行う。
  • 筆箱以外を机の中になおす。
  • 地震の揺れは,どのように記録するか考える。
  • 天井も床もすべて揺れる状況でどうすれば記録できるかを考えさせる。
  • 地震計のしくみについて理解し,実際に地震の揺れを記録し,地震波を観察する。
  • 重いものは動かず留まろうとする(慣性・中3),不動点というものがあることを伝え,簡易地震計を用いて,演示実験を行い,地震計の仕組みと地震波の観察をさせる。
②基礎基本の課題
  • ワークシート①の3地点の地震波形から分かることを個人・グループで考え,発表する。
ワークシート①配布
  • 兵庫県南部地震の揺れの記録から分かることを考え,グループで交流し,ワークシートに記入する。個人やグループで気づいたことを発表させる。
生徒の予想発言
  • 〇震源から離れるほど揺れが小さくなる。
  • 〇震源から離れるほど揺れ始める時刻が遅い。
  • 〇震源から離れるほど,最初の小さな揺れが長く続く。

  • 生徒にストップウォッチでの測定等で参加してもらう。
  • 地震には揺れ方や速さが異なる2種類の波があること,初期微動継続時間は震源から離れるほど長くなることを,バネを利用した演示実験で理解する。
  • レインボースプリングを3つ連結したバネを使って,地震波と初期微動継続時間と震源距離との関係を理解させる。
  • 重要語句をワークシート②に記入し,学習内容の確認を行う。
ワークシート②配布
  • 地震の揺れから分かることを,ワークシートに教科書等を使ってまとめさせる。
    また,P波やS波の速さの計算に取り組ませる。
◆地震計の揺れの記録から伝わり方の違いや規則性について理解している。
[記述分析]

・指導と評価の流れ(第5時)

前回の学習内容を振り返り,「初期微動継続時間と震源距離には比例の関係があり,それを利用すればどんな事がわかるか」という問いを前半の課題としてグループで考えさせる。
生徒の中から「初期微動継続時間がわかれば,どこで地震が発生したか予想できる」といった発言が出るように促し,後半の課題につなげる。後半では,「3地点の地震波から地図上の震源を求める」ことを課題とし,地震波形の読み取りや作図に生徒は粘り強く取り組んでいた。
授業の中で,課題解決に向け一歩迫っている生徒を指名し,発表させ,再びグループや個人に戻すことを何度か繰り返す中で,一人ひとりが課題解決に向けて取り組むことができていた。
最後に,振り返りをすることで,この授業で何を学び,どのように考えたか,生徒に自覚させるとともに,粘り強く学習を調整しながら取り組んだ生徒の様子を把握し,指導と評価に活かした。

活動内容 教師の支援 指導上の留意点と評価の内容等
③探究型の課題
4時間目で学習したワークシート①と②の内容を振り返る。
  • 今日の授業のポイントは,最初の小さな揺れの時間が震源から離れるほど長くなることであると伝える。
  • 探究型の課題は,わからずに思考が止まってしまうため,学級全体の進捗状況を見ながら,教師は課題解決に向け途中まで迫っている生徒を授業の中で2~3回程度指名し,学級全体での意見交流や意見発表させることで,学びを止めないように促す。
  • コンパスや定規を活用してよいことにふれる。垂直二等分線の作図は中学校1年生の2学期に数学で学習していることや,筆箱にコンパスや定規が入っていることを事前に確認しておく。

◆初期微動継続時間と震源距離の関係から,どのようにすれば震源を特定 できるのかを見いだして表現している。
[作図・記述分析]
◇試行錯誤しながら,震源を特定しようとしている。
・探究型の課題①
初期微動継続時間に注目させ,これを利用するとどんな事が分かるのかを,個人やグループで考えワークシートに記入し発表する。
ワークシート③配布
  • 「震源から離れるほど,初期微動継続時間が長くなることを利用したら,何が分かるか?」を課題にし,この課題を解決した日本人の大森房吉はノーベル賞の候補者になったことを伝え,意欲をわかせる。
  • 前回のワークシート②のグラフを参考にさせ,「震源からの距離と初期微動継続時間が比例している。」などの生徒の意見から震源を求めることができることに気づかせる。
・探究型の課題②
実際の3地点の地震波の初期微動継続時間を利用して,震源を求める。
ワークシート④配布
  • 2007年に起こったある地震の各地点の揺れの記録から,地図上にある地震の発生場所の真上にあたる震央を求める方法を探究させる。
  • 初期微動継続時間から震央を求めたり,定規やコンパスを使う方法について生徒から意見を出させ,生徒の学習の実態に合わせて個人やグループに返していく。
  • ④全体共有
    振り返り
  • 各自で考えた内容を発表する。
  • 補足資料を配布し,現在の「緊急地震速報」等による減災に役立てられている事を伝える。
  • 全体共有後,班に戻して,理解を深める。

ワークシート①では,地震波形から読み取れることをグループで学習し,ワークシート②ではレインボースプリングを用いた波の実験等を活用しながら,教科書の基本事項を確認する。ワークシート②の表の右側を空欄にしておき,情報を収集する力をつけさせるために,個人やグループで教科書から重要語句の説明を抜き出す時間を確保した。また,グラフから各地点の地震発生時刻をもとに初期微動と主要動の速さを求めさせることも行わせると良い。初期微動継続時間と震源距離との比例関係が分かるグラフを示しておき,第5時につなげた。

第5時では,ワークシート③を活用し,初期微動継続時間がわかれば,震源までの距離が分かることを前時の復習を兼ねて行い,ワークシート④につなげた。ワークシート④ではB4用紙の左に地震波形,そして右に白地図を用意し,生徒に「3地点の地震波から地図上の震央を求める」探究型の課題を出した。この活動を中心課題として取り組むことで,時間的・空間的な見方・考え方をはたらかせ,「地震のゆれの伝わり方や規則性」を見いだして表現することができる。

補足資料では授業の最後に示す,震央の解答と,瞬時に地震を測定する緊急地震速報にも活かされてきたことを学習のまとめとした。今回の探究型の課題を通して,試行錯誤し,課題解決に迫っている様子を次の実践記録で説明する。

ワークシート①

ワークシート②

ワークシート③

ワークシート④

補足資料①

補足資料②

3.実践記録

実際の授業の様子である。1クラスは公開研究授業として体育館で行われた。レインボースプリングで2種類の波の性質の違いを観察している。生徒は揺れが伝わる様子をみて,歓声を上げるとともに,縦波と横波の揺れの違いと,ストップウォッチで測定した速さの違いを理解した。

探究型の課題であるワークシート④を30分程度かけじっくり取り組ませた。個人で考えた後,立ち止まるたびに,自然とグループでの意見交流がはじまり,それぞれの断片的で不完全な考えをつないで深めていく。自分の考えを伝えようと表現を工夫したり,時には相手の意見に反論や再説明を求めたりするような交流を行っていた。

途中まで分かっている生徒を,授業の中で何度か発表させた。生徒には,「課題解決に〇〇さんの考えはとても大切だね」と話すと,率先してクラスのみんなに考えを共有してくれる。このように,課題解決に向けて,一歩進んでいる生徒から自分の考えを発表させる事で,自分が考えつかなかった他人の意見に「なるほど」と気付き,クラス全員の課題解決の足場がけとなる。

生徒のワークシート④から思考の様子を見ていきます。初期微動継続時間を,図から読み取り震央の特定に活かそうとしていることが分かる。
右の生徒は,ワークシート2のグラフから,初期微動継続時間と震源距離との比例関係を見出し,比例定数を元に震源距離を求めるようすが見られる。
地震計の揺れの記録から,揺れの大きさや発生時刻,初期微動継続時間などを生徒は読み取り,伝わり方の違いや規則性について理解していることが分かる。

初期微動継続時間と震源距離との関係から,様々な方法で震央の特定に迫っている。
左の生徒はコンパスを持っていなかったため,定規を何度も動かしながら,震央を探していた。
2箇所に絞られたところで,今年発生した能登半島の地震ではないかと予想していた。
右の生徒はスケールを元に,地図上での長さを計算し,課題解決に迫ろうとしている様子が見て取れた。計算や作図の痕跡から,試行錯誤しながら,震央を特定しようとしている様子が分かる。

定規やコンパスを用いて,中学1年生の2学期数学で学習する垂直二等分線を活用しており,教科等横断的な知識・技能を活かして,作図を行うことで,課題に迫っている事が分かる。

初期微動継続時間から求めた震源距離を基に,コンパスを使って震源を特定しようとしている二人の生徒であるが,少しのズレが有り,二人の解答には違いが見られた。
正しく作図しているのは,左の生徒ですが,震央の解答は間違っている。この後,補足資料で解答を説明した際に,この生徒は震源は地下にあるため,地図上では重ならないことに強く納得していた。

生徒の感想より(印刷では見にくかったので,そのまま抜粋しています。)

授業の最後の生徒の振り返りで,「班のメンバーと話し合っていったら,ちょっとずつ分かっていきました。」や「もっといろんな視点からみることが大切だと思った。」,「友達と協力して問題をとくのがとても楽しかった。」などの感想から,対話を通して,試行錯誤しながら課題を解決しようとするようすが見られ,協働して課題を解決していくことの楽しさを実感していることが分かった。

「P波とS波の速さが違うから,初期微動継続時間が長いほど,震源から遠いことがよく分かった。」や「数学の応用を使って問題をとけた。」「震源は絶対に重なるところにあると思っていたけれど,地震というのは地下の深くでおこっているので,ずれるということに気づいた。地震は平面でなく,立体で起きるということに納得した。」など,探究型の課題を通して,基礎基本の学習が定着し,学びが深まっているようすが見られた。

学習したことを活用して新たな課題に取り組もうとする姿や新たな疑問を見いだす姿が見られ,意欲の高まりが感じられる記述もあった。

「このような方法を利用すれば,災害の被害を少しでも減らせるのではないかなと思った。」課題解決の達成感や学習内容の有用感を感じながら,次時の学習や今後の生活に結び付けている記述もあった。減災や緊急地震速報につながる,生徒の振り返りを全体で共有し,全員でさらに学びを深めた。このように,生徒が試行錯誤しながら,主体的に課題を解決しようとすることで,基礎基本の定着と深い学びにつながっていく。
振り返りに,自分の考えたことや学んだことを記載させることで,どのような学びがあったのかを教師側が確認し,主体的で粘り強い取り組みの中で,学習内容の調整を行っているかを評価し,次の指導に活かすことができる。

4.終わりに

実践の成果として,3・4人のグループで行うことで,対話を通して,試行錯誤しながら課題を解決しようとする様子が見られた。生徒の感想から,協働して課題を解決していくことの楽しさを実感していることが分かった。
また,実験や資料をもとに,グループで対話し,教科書からワークシートを完成させることで,基礎基本を定着させ探究型の課題に向かう事ができた。
探究型の課題では,試行錯誤し,課題を解決しようと粘り強く取り組む姿勢が見られた。理科で学習したことだけでなく,数学で学習した垂直二等分線も活用して,課題解決に迫っていた。その中で,新たな課題に取り組もうとする姿や新たな疑問を見いだす姿が見られ,意欲の高まりが感じられた。また,学習したことを日常生活や社会と関連させて考え,減災について表現している生徒もいた。
試行錯誤しながら,自分の考えを表現したり説明したり,他者の意見を聞くことで,学びを深めることができただけでなく,言語能力や情報活用能力の育成,科学的思考力の育成につながっていたと考えられる。
今後の課題としては,難易度が高く,最終的に達成できなかった生徒もいたため,生徒の実態に合わせて難易度の調整や時間の設定をする必要があると感じた。
今回実施した探究型の課題には,長野県等の内陸の方が周辺の地震データが豊富で実践しやすく難易度も下がると考えられるが,授業を実践した2024年は,1月1日に能登半島の地震があり,生徒の興味関心も高まりやすいと考え,この関連地震である2007年の能登半島の地震データを活用した。今後は,振り返りの生徒の記述などを参考に,今後の指導に生かしていきたい。
この授業を行うにあたって,本校校長の伊藤雅之先生,奈良県教育委員会の山本昌智子先生,近畿大学教職教育部の佐竹靖先生はじめ多くの先生方にご指導ご助言頂いた。この場を借りて,お礼申し上げる。

【引用・参考文献】