文部科学省は,「幼保小の架け橋プログラム」について,子供に関わる大人が立場を越えて連携し,架け橋期(義務教育開始前後の5歳児から小学校1年生の2年間)にふさわしい主体的・対話的で深い学びの実現を図るものだとしている。さらに,一人一人の多様性に配慮した上で全ての子供に学びや生活の基盤を育むことを目指すものだと伝えている。これを受けて,私たちの学校でも,令和7年度より,スタートカリキュラムを導入することになった。3月から4月にかけて,子供達の環境の変化は著しい。園で生活してきた児童が,スムーズに小学校生活を送れるように,生活科を中心としてどのような活動ができるのか模索した。特に,4月の朝の活動は,園での生活を意識して,子供達が安心して過ごせる環境になるように配慮した。
園小が連携して,児童の情報交換を行い,児童理解に努めることは大切なことだ。私たちの地区では,年2回(6月,12月)に卒園児担任と1年担任とで,児童の情報交換を行い,夏休み中に,管理職を交えて園小連絡会議を行っている。また,園の先生が小学校の授業参観に年2回訪れるほか,小学校教諭も夏休みなどを利用して,地区の保育参観を行っている。このように,園小の互いの活動を参観し合うことで,子供達の経験や活動内容を知ることができ,よりスムーズな移行が可能となる。令和8年度をスタートするにあたっては,園小連絡会議で話し合われた内容を生かせるように活動を工夫した。
【和田小学校のスタートカリキュラム】
入学当初の2~3週間は,朝の活動をゆったりとした時間で過ごせるようにした。登校から1時間目が始まるまでを「のびのびタイム」として,子供達は自分の好きな活動に取り組んだ。登校後,ランドセルを片付けた子から順に,ぬり絵や折り紙,点つなぎのプリント,読書など,自ら活動を選んで取り組んだ。様々な本に親しめるように,多くの絵本を用意したり,興味を引きそうな本や簡単に読める本などを,紹介するコーナを設置したりした。初めは,緊張気味だった子供達も,好きなことに夢中になるうちに表情が和らいでいった。また,いろいろな園から集まるため,人間関係を築くのに戸惑う子も多い中,班で活動することで,ランドセルの片づけを手伝ったり,得意なことを生かして教え合ったりするなど,自然と関わる姿が見られた。
園の先生から,子供達が年長のときに夢中になっていた遊びを聞いて,こまやけん玉,指あみなどができるように,活動を広げた。「のびのびタイム」での活動が,その後の休み時間の過ごし方につながっていった。教師側も余裕をもって,見守ることができ,子供達の得意なことを知るよい機会にもなった。
4月中は,自己紹介,歌,ダンス,読み聞かせ,じゃんけん大会,お誕生日インタビュー,手遊びなど様々な活動を行った。子供同士の関わりが増えるように,活動を工夫した。国語の学習で,自己紹介を行った際は,クラス内で「よろしくねカード」を2枚作り,1枚は隣の席の友達へ,もう1枚はお家の人に渡す活動を行った。子供達から,「もっとやりたい」という声が上がったので,「クラス内サイン会」を行った。できるだけたくさんの友達と会話できるように,クラスの座席表を印刷したカードを作成し,友達と名前や好きなことを伝え合ったら,自分の名前のところにサインするというルールで行った。「クラス全員とやりたい」と意気込んで取り組む子,自分の名前のところにかわいいマークを書く子など,大盛り上がりだった。そのうち,「先生,休み時間にもやっていい?」という提案があり,活動を休み時間にも広げた。さらに,「となりのクラスの子ともしたい」という声に応えて,新たに白い用紙を渡し,1年生全員で,交流できるようにした。初めは,同じ園出身の子と会話する様子が見られたが,次第に,知らない子とも関わっていく様子が見られた。
【生活科】「がっこう だいすき」~学校を探検しよう~
(1)単元の目標
学校探検を通して,学校の施設の様子や学校生活を支えている人々の様子や友達との関わりを見付け,学校生活を支えている人々や友達のことが分かるとともに,楽しく安心して遊びや生活することができる。
(2)単元の評価規準
| 知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 |
|---|---|---|
| 学校探検を通して,学校での生活はさまざまな人や施設と関わっていることに気付いている。 | 学校探検を通して,学校の施設の様子や学校生活を支えている人々や友達と自分との関わりを見付けている。 | 学校探検を通して,楽しく安心して遊びや生活をしようとしている。 |
(3)実践内容
学校探検1 すきまちゃんをさがそう
入学当初,「先生,すきまちゃんはどこにいるの?」とたずねてくる子がいた。毎年2月に,園の年長児さんと1年生が一緒に交流する活動「わくわく交流デー」が行われている。その際,当時の1年生(現2年生)と協力して作った人形が「すきまちゃん」である。子供達が愛着をもっている「すきまちゃん」を生活科の学校探検に結びつけることにした。子供達に「学校のどこにいるのか探しにいこう」と声をかけたところ,子供達は大喜びだった。事前に,児童玄関や,図書室,理科室等の特別教室,いたるところに人形を隠しておいた。初めての校舎巡りだったので,クラス毎にみんなで,校舎内を見て回った。
すきまちゃんを見つけるたびに,「いたよ」と叫んだり,「ぼくが作ったすきまちゃんだ」と喜んだりしていた。探検後,教室で振り返りを行った。「机の下に隠れていたよ」「本が置いてある場所につかまっていたよ」など報告する中で,「すきまちゃんがいた部屋には,他にもいろいろな物があったよ」や「何をする部屋なのかな?」など,疑問もでてきた。そこで,すきまちゃんがいた部屋を,くわしく見にいくことになった。
学校探検2 じっくり みよう ~どんな部屋があるのかな 何がおいてあるのかな~
① お兄ちゃんお姉ちゃんの部屋を見にいこう
1回目は,上級生の部屋を見て回った。授業中なので,廊下から中の様子をうかがい,入ってもよい教室では,中を見せてもらったりした。「お兄ちゃんのクラスだ。机はどこかな」と探したり,6年生が使う椅子に座って「高いなあ!」と驚いたりしていた。漢字ドリルを目にして「難しいよ。何て書いてあるの?」と尋ねてくる子もいた。また,上級生が手を振ってくれたり,「見てもいいよ」と声をかけてもらったりして,嬉しそうだった。上級生の優しさに触れ,小学校ではどんな勉強をするのかイメージすることができた。
② 特別な部屋を見に行こう
2回目は,特別教室を中心に見て回った。子供達の目線から見えない道具などは,事前に机の上に並べて置き,近くで見られるように準備した。家庭科室の洗濯機や図工室のかなづち,理科室のビーカーなど,気になるものを見つけて,メモをとったり絵にかいたりした。その後の報告会では,それぞれの部屋で見つけたものを伝え合った。振り返りのなかで,「先生,まだ行ってない部屋があるよ」「扉が閉まっているお部屋は何の部屋かな?」と発言する児童がいた。そこで,次は,まだ見てない部屋を探検することになった。
学校探検3 ひみつのへやにいってみよう ~どんな人に会えるかな 何を聞こうかな~
① 予想をたてよう
まだ行っていない部屋や気になった部屋を整理し,何に使う部屋なのか,だれがいるのか,予想をたてた。子供達は,「けがを治してくれる先生がいるんだよ」や,「先生が電話していたよ」「きっと,えらいお客さんがくるよ」「いいにおいがしたよ」とそれぞれに,知っていることを発言していた。部屋の様子を全く想像できない子もいたため,部屋の中を大まかに撮影した動画を見せて,イメージをもてるようにした。そして,気になることや疑問について,意見を出し合った。「パソコンは何台あるの?」「棚には何が入っているの?」など,知りたいことをクラス全体で共有し,板書にまとめた。
② 計画をたてよう
子供達は,全ての部屋への訪問を希望したが,時間と先生方の仕事の都合上困難だった。そのため,探検に行く部屋を7つ(校長室 職員室 施設技師の部屋 保健室 給食室 特別支援教室 放送室)にしぼり,グループ毎に行く部屋を1つに決めた。そして,7つのグループが,それぞれに探検し,クラスみんなで部屋の秘密や疑問を解決できるように,後で報告会をすることになった。自分のグループしかその部屋にいかないので,責任をもって探検に臨もうと,意気込む子がたくさん見られた。
③ 探検に出かける準備をしよう
クラスの話し合いで,でてきた「はてな」をグループ内で持ちより,だれがどの質問をするのか話し合った。ワークシートに質問をメモし,話す順番を決めていた。「部屋に入るときは,どう挨拶するの?」「お礼を言った方がいいよ」など,あいさつや質問,お礼の言い方,マナーなどについて考え,何度も言う練習を行っていた。また,授業中の廊下の歩き方について,考える時間を設けた。
④ 探検しよう
自分達の担当する部屋へ,やる気いっぱいで出かけていった子供達。緊張しながらも,先生方にしっかりと質問し,聞いたことを真剣にメモしていた。初めはグループでまとまって活動していたが,次第に,各自が,部屋の中をじっくり観察して,気になるものをメモしたり,新たな疑問を発見して,進んでいろいろな先生方に尋ねたりする姿も見られた。校長室では来客用のソファに座らせてもらったり,部屋に飾られている作品について質問したりしていた。給食室では,大きなざるやしゃもじ,実物大の鍋を模した段ボールを見て,その大きさに驚いていた。頭の中で想像していたことを,見たり聞いたり触ったりして,体験を通して学んでいた。教室に戻ってきた子供達は,「たくさんの鍵が置いてあったよ」「校長先生の部屋にドラえもんがいたよ」など,興奮気味に語っていた。行ったことのない部屋に探検に出かけることは,子供達にとって,大冒険で,学校の様々な先生方と触れ合えたことがうれしかったようだ。
⑤ 探検報告会 みんなに伝えよう
グループ毎に,部屋で見つけた物や,インタビューして分かったことを絵や文でまとめた。そして,誰が何を伝えるか役割分担し,発表の練習を行った。「ぼくは〇〇のことを言うよ」「ここは二人で言った方がいいよ」など,グループで話し合った。声をそろえて言うところや,別々で言うところ,言う順番など,繰り返し練習することで,自信をもって発表に臨んでいた。いつも自信がなく,声が小さくなる子も,友達と声を合わせることで,安心して伝えていた。自分が発見したことを知らない友達に伝えたいという思いが強く,堂々と発表していた。また,聞き手も,友達の発表を聞いて,くわしく知りたいことを質問し,話し手も答えるなど,積極的に話し合いに参加する児童の姿が 見られた。子供達の「知りたい」「はてな」をつなげていくことで,活動が広がっていき,自分事として意欲的に活動できることが分かった。
⑥ お世話になった先生に感謝を伝えよう
探検報告会後,子供達から,「お世話になった先生にお礼をしたい」という声が挙がった。「施設技師さんは,ぼくたちの教室の電気をかえてくれるんだよ」 「保健室の先生に優しく教えてもらってうれしかったよ」「校長先生にこれからもよろしくお願いしますと伝えたい」など,様々な思いがあふれていた。みんなで話し合った結果,折り紙で飾りを作り,メッセージを添えてプレゼントすることになった。ちょうど図工で取り組んでいた「チョキチョキかざり」を生かし,一人一人が色紙で作った花の飾りをつなげ,部屋に飾ってもらうようにした。また,小さなカードにお礼の言葉や,分かったことなどを書き,色画用紙に貼ってお手紙として渡した。グループ毎にお礼を伝えに行くと,「喜んでもらえてよかった」や「折り紙を飾ってもらえたよ」など嬉しそうな報告が聞かれた。
スタートカリキュラムを実施したことで,ゆったりと朝の活動を始めることができた。朝の始まりの雰囲気,園生活と類似しているため,子供達も自然と学校生活に適応していった。
「のびのびタイム」では全員が同じ活動を一斉に行うのではなく,提示された選択肢の中から,好きな遊びを選んで活動できるため,自由度があって楽しく安心して過ごす様子が見られた。例年より,朝の登校を渋る児童が減少したように感じる。教員も,時間的,心理的に余裕をもって子供達に接することができた。様々な活動を行う子供達の様子から,一人一人の好みや性格などの理解に努めたり,不安そうな子に声かけを行ったりした。
4月は,流れがきまった「朝の会」は行わず,「なかよしタイム」として,読み聞かせやお誕生日インタビュー,好きなこと発表など様々な活動を行った。黒板前のオープンスペースに集まって活動することで,より近くで話を聞いたり,友達の発言に,耳を傾けたりすることができた。園での経験を生かし,歌ったり,踊ったりして,みんなで楽しく活動できた。このように生活する中で,「ノート配りや黒板そうじなど,仕事を手伝いたい」と希望する子がでてきたため,当番,係の仕事につなげ,5月頃から活動を始めた。
「わくわくタイム」では,生活科の学習として,主に学校を探検したり,朝顔を育てたりする活動を行った。できるだけ,子供達の思いや願いをつなげて,次の活動を考えるようにした。ちょっとしたつぶやきや,振り返りの発言などを拾い,次につながるような声かけを行った。朝顔を育てた際に,「どのくらい水をあげるといいのか」や「葉っぱじゃなくて茎が生えているところの土に,水をあげるといいんじゃないか」など,話し合って考えたことを,実際の水やりで実践する姿が多く見られた。保育園で野菜を育てた経験から学んだことを朝顔栽培に生かす子もいた。子供達が主体的に活動するために,「やってみたい」「知りたい」という好奇心や,「これは,どうなっているの?」という疑問を持たせるように活動を工夫することが大切だと感じた。
今年の夏に,小学校区の園に保育参観に行き,園児が様々な遊びを通して,思考したり工夫したり,協力し合う姿に驚いた。子供達は,何もできない状態で,1年生をスタートするのではなく,いろいろな経験を経て,素晴らしい力を身につけて,入学してくるのだと知った。小学校生活を送る上で必要なことは,1年生として指導すべきだが,子供達が身につけている習慣や経験した学びの力など,持っている力を理解して,活動を委ねる部分があってもよいと思った。特に生活科では,子供達主体の活動を工夫すべきだと改めて思った。小学校は,園と異なり,活動に十分な時間を確保できないことがある。限られた時間のなかで,子供達の思いをつなげていく工夫を今後も模索したい。
スタートカリキュラムを行って,園小の垣根が低くなったように思えるが,全くなくなったわけではない。園と小学校では,目的が異なるので,子供達が差異を感じるのは自然なことだと思う。子供達には,やはり乗り超えなくてはならないステップは存在するのだと思う。ただ,穏やかなスタートをするなかで,少しずつ学校生活に慣れていき,園は園のよさ,小学校は小学校のよさがあるのだと理解していくことが大切である。その上で,自分の力を発揮していってくれたらうれしいです。
がんばれ,1年生! これからも みんなのことを 応援しているよ!!