(1)教材開発の思い(経緯)
1年生の1学期の生活科といえば,学校のルールについて知ったり,友達や先生と自己紹介やゲームをしたりして学校に慣れるための活動に始まり,そして学校探検やアサガオの栽培活動が展開されていくという流れが多いのではないでしょうか。その中で,初夏に向けて,泥遊びや水遊びといった遊びの活動も入ってくると思います。学習指導要領にある「自然の物」を扱うことや,子どもたちにとって「身近なもの」を重視していくことはとても大事だと思います。しかし,授業の実践として考えたときに,屋外での授業は,天候に左右されてしまったり,黒板や大型テレビといった学習の補助をしてくれる道具が十分でなかったりして,子どもたちが遊ぶだけで終わってしまい,学習として何ができるようになったのか,何が分かったのかが,子どもにも教師にも見えづらいものになってしまうのではないかと思います。しかも,昨今の酷暑から,熱中症の心配があり,屋外の活動が思うようにできないことも,増えていくのではないかと想像されます。そして入学後,小学校の生活にすぐに馴染めない子どもたちが多い現状において,幼稚園・保育園からの接続を意識したスタートカリキュラムはますます重要になってくると感じています。
そういった背景を踏まえ,今回は新しい教材開発に挑戦しました。新しいと言っても,まったく新しいものを作り出そうとしたわけではありません。本校の研究主題「共によりよい生活を創造する子どもの育成(3年次)~非認知能力「自信」を深める学びのデザイン~」の実現に照らしつつ,子どもたちにとって,価値のある教材を選定しただけです。
はじめに,身近なものとして「紙」を教材にすることを考えました。折り紙やお絵描きで,子どもたちにとって,幼児期から親しんでいる身近なものであるのは間違いないです。しかし,その分,幼稚園・保育園の学びとの違いがなくなってしまったり,折り紙をする子とお絵描きをする子では,育成できる資質・能力が変わってきたりしてしまいます。お絵描きメインでは図工になってしまいますから,お絵描きはオプション的なものとして,メインは折り紙的な使い方でいきたいと考えました。ここで,「何を折ってもよい」ということもできますが,まだ子どもたちの追究の幅が広くなりすぎて,互いにアドバイスをし合ったり,一緒に活動したりするのが難しくなってしまうのではないかと考えました。1年生の6月の段階での実践を想定していましたから,学び方を学ぶような形にしていきたいという授業者の思いもありましたので,あえて,今回は全体で共通の折るものに限定し,話し合ったり,競ったりして子どもたちが協働して学習できるようにすることにしました。もちろん,折り紙でいろいろなものを折って,それで互いに遊んで楽しんでいくこともできるのですが,それは今後の単元に預けることにしました。
(2)紙飛行機の価値(教材観)
紙飛行機は,幼児期に折り紙で多くの子どもが触れたことのある物であると想像します。しかし,家庭や幼稚園,保育園といった限られたスペースの中で,安全に,思いきり紙飛行機を楽しむことは難しいのではないでしょうか。したがって,紙飛行機は,安全に十分に飛ばせるスペースを確保と,紙の用意といった,学校では簡単な準備によって,子どもたちが夢中になって取り組むことができる素敵な教材になるのではないかと考えました。
本単元における紙飛行機は,B5,A4のコピー用紙,折り紙の大・小,半紙,画用紙といった紙を基本の材料としました。主な遊び方は「飛ばす」ことなので,子どもたちは「遠くへ飛ばしたい」や「飛んでいる時間を長くしたい」といった飛距離や軌道,滞空時間に関する思いや願いをもつことができます。そうした思いや願いの実現に向けて活動していく中で,子どもたちには,「折り方」や「飛ばし方」,「丁寧に折ることの大切さ」,「紙の種類による飛び方の違い」といった気付きが生まれていきます。そして,紙飛行機への思いや願いが実現されると,友達との関わりの中で,飛距離や軌道,滞空時間に関わる遊びに発展していくことが想定されます。「どちらが遠くまで飛ばせるか,競争しようよ」や「バケツを置いて,それに紙飛行機を飛ばして入れるゲームをしようよ」というように,紙飛行機を使った遊びを創造し始めるのです。このようにして,身近な物である紙を使って遊びを創り出す楽しさに気付くことができると考えます。
こうした活動の中で,自分が目指す紙飛行機が作れないときや,飛ばすコツが見付けられたときに,友達と話し合ったり,できたことを伝えたいという気持ちが生まれたりします。そのときに,友達との関わりも自然に生まれ,友達と一緒に考えたり,遊んだりするよさに気付くことにつながり,日常生活において,進んで友達と関わりながら遊びをよりよくして,生活を豊かにしようとすることができると考えます。
(1)学年・単元名(内容項目)・時期
第1学年・びゅーん!かみヒコーキけんきゅうじょ((6)自然や物を使った遊び)・5~6月)
(2)単元の目標
紙飛行機を友達と飛ばすことを通して,折り方や飛ばし方の選択や力加減・角度の工夫をして,身近な物を利用した遊びを創り出すことのおもしろさ,友達と一緒に遊ぶことの楽しさ,自分自身の成長に気付き,友達との遊びを楽しむ。
(3)評価規準
【知識及び技能の基礎】
【思考力・判断力・表現力等の基礎】
【学びに向かう力,人間性等】
(4)単元計画(全8時間)
| 過程 | 学習活動(時数) | ○指導上の留意点 ◇評価規準<評価方法(観点)> |
|---|---|---|
| であう |
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<発言・行動③> |
| かかわる |
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<学習プリント②> |
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<発言・行動①②③> |
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<行動③> |
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| まとめる・生かす |
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<学習プリント①②③> |
(1)ねらい
自分が目指す紙飛行機の完成に向けて,友達と相談しながら,折ったり,飛ばしたりすることを通して,友達の関わり方のよさに気付き,進んで自分の折り方,飛ばし方の工夫を考えて,作り変えることができる。
(2)評価規準
友達と活動したことを基に,材料や折り方,飛ばし方の工夫について発言したり,紙飛行機をつくりかえたりしている。
<発言・行動①②③>
| 学習活動と子どもの意識 | 指導上の留意点 |
|---|---|
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幼稚園・保育園でも,友達と話し合う活動は経験してきていると思われますが,学校で学ぶ際には,話し合う活動はさらに重要になってきます。そのため,生活科の授業とは別に,「友達と話し合って学ぶよさ」について,子どもたちと確認する時間を設けました。その中で,子どもたちから「自分だけでは思い付かなかったことが知れて,楽しくなる」や「自分の話を聞いてくれて,うれしくなる」という意見が出てきて,これを掲示物にしてクラスに掲示しています。どの教科の授業でも,立ち返ることができるようにしています。
また,今回の紙飛行機の授業の中では,子どもたちが見付けた工夫やコツを,教師が模造紙に記録していくという形をとりました。子どもが「こうすると,うまく飛んだよ」と発言したときに,模造紙に太いペンで書いていくのです。T2の先生と協力して,子どもの発言をどんどん書いていきました。自然発生した発言だけでなく,「どうやったら,遠くに飛ばせたの?」「折るときに,気を付けたことは?」などと,教師側から言葉を引き出すようにしたこともあります。このように,子どもか
ら生まれた言葉を,まだひらがなすら書くことがままならない1年生の6月の時点で,その場で書かせることはせずに,教師が書いていったのです。そしてそれを見て,「〇〇くんに聞いてみれば,遠くに飛ばせる方法を聞けそうだ」などと,友達と話すきっかけを得て,友達と相談することにつながるようにしました。実際のところ,模造紙が完全に意図したように機能していたとは言い切れないのですが,「自分が言った言葉を,先生が書いてくれる」というだけでも,子どもたちには価値があったようで,「まずは先生に伝えたい」というところから,自分の学びを言葉にしようとしている姿が見られました。
本校の使命の1つである「公開研究会」という大人の事情から,本時を校庭で実施することが難しいということがありました。雨で急遽会場を変更するのが難しいですし,しかし何より,そもそも校庭で実施する予定を教室内に変更したら,子どもたちのやる気が落ちてしまいます。また,体育館で実施することもできますが,これも,大人の事情でできませんでした。こうした大人の事情による制約がある中,それでも,子どもたちの思いや願いに寄り添う授業を目指しました。さらに,紙飛行機という教材が,様々な学校で手軽に実践できることを実証したかったという,私の密かな野望もありました。
そういった経緯から,教室の机・椅子をすべてなくし,廊下にローテーブルを設置して,それを作業台として授業を展開しました。つまり,教室全体が紙飛行機を飛ばす空間なのです。こうすれば,晴雨関係なく授業を実施できます。子どもたちにとっては,教室も十分広い空間なのです。
しかし,だんだんと遠くに飛ばせるようになってくると,子どもたちから「もっと広いところで飛ばしたい」という声が上がりました。そこで初めて,「それなら,校庭に行ってみる?」と提案し,「行く!」となるのです。「紙飛行機をせっかく飛ばすなら,校庭でしょう」とか「安全を考えたら,校庭や体育館で飛ばすのがよいのでは」とお考えになる先生も多いかもしれませんが,子どもが思いや願いを抱いて,自分の思うように活動を展開していくきっかけの芽を摘んでしまうことになると思う
のです。教師の恣意的な面や,大人の事情が強い感じがしてしまいますが,子どもにとっても,ある程度,狭い方がよいことがあります。それは,子どもたち同士の距離が近くなることです。その方が,友達のやっていることが見えたり,声が聞こえて話したくなったりします。そういった学習環境の発展性もあります。
今回,紙飛行機の授業にあたって,本校の研究委員会からは,安全面への心配が指摘されました。確かに,教師からすると,教室で紙飛行機を飛ばしてほしくない理由として,安全面への心配があるのは事実です。「紙飛行機が目に当たったら,危険である」ということです。
これは,理科の先生のご協力によって解決しました。理科の実験で使う「保護メガネ」を借用したのです。1年生でも大きさが合う,小さめサイズがありました。これを使うことで,もしもの対策になり,室内でも,安全に紙飛行機が飛ばせるようになりました。
今回の授業では,教材の可能性,子どもの思いや願い,教師の働きかけといった様々なことを想定し,準備し,実践しました。それは,私一人でできたことではありません。多くの仲間の先生方のアドバイスやご指導の上に出来上がったものです。そして何より,目の前の子どもたちが能動的学習者として,一生懸命に取り組んでくれ,私を助けてくれたおかげで成立したものです。お世話になった皆様に,この場を借りて,御礼申し上げます。
【参考文献】