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生活

― 素材遊びから探究的な動くおもちゃづくり・遊び創りへ ―

八王子市立由井第二小学校 買田 まりこ

1.はじめに

生活科学習指導要領 内容(6)のおもちゃつくり単元に入るにあたり,予め,学年だより等で保護者に空き箱や紙コップ,プラカップ等の材料を準備してもらうことが多いと思う。児童は,保護者が用意してくれたいくつかの箱などを手に,(箱と箱を組み合わせてロボットを作ろうかな。タワーにしようかな。)と思いや願いを抱く。しかし,その思いや願いの中には,図工科の造形遊び「つくりだす喜び」の要素が強く,遊びの工夫や試行錯誤,協働的な遊びへと発展することが難しいものも多々含まれがちである。

今回,おもちゃづくりの活動を展開するにあたり,動力の面白さや不思議さ,友達などと遊びを創り出す楽しさを追究できるよう,あえて材料集めの依頼はせず,国語科の「おもしろいもの見つけたよ」という,対象物を観察し,特徴や気付いたことを表現する言語活動と関連させて,本単元の導入とした。

学習環境の支援として,すぐに使いそうな輪ゴムや割りばし,画用紙,トイレットペーパーの芯,紙コップ,ペットボトルキャップなどは,予め教師の方でストックしておき,児童が着想後すぐに使えるようにした。

また,作りたい物のイメージが湧いてから必要な材料を各自持ってくる他,他の人が使える物を入れる「ざいりょうたからばこ」も用意しておき,自由に使えるようにし,活動開始後に集める準備期間も視野に入れ,余裕のある計画を立てた。

2.単元について

(1)単元名 「うごくおもちゃであそんじゃおう!」第2学年

(2)単元目標 学習指導要領 内容(6)自然や物を使った遊び

〈知識及び技能の基礎〉

身近な自然を利用したり,身近にある物を使ったりするなどして遊ぶ活動を通して,その面白さや自然の不思議さに気付く。

〈思考力,判断力,表現力の基礎〉

身近な自然を利用したり,身近にある物を使ったりするなどして遊ぶ活動を通して,遊びや遊びに使う物を工夫してつくることができる。

〈学びに向かう力,人間性)

身近な自然を利用したり,身近にある物を使ったりするなどして遊ぶ活動を通して,みんなと楽しみながら遊びを創り出そうとする。

3.単元計画(0次を入れて全12時間)

学習活動 活動の主な支援 評価規準(評価方法)
0次
1H
おもしろいもの,見つけたよ!(国語と合科)
  • 輪ゴムの研究者になろう!

輪ゴム?面白いかな?
こんなに伸びるんだね!
丸めると,変な動き方で戻るよ。(写真1)
  • 輪ゴムを,はじめに一人に1本ずつ配り,伸ばしたり縮めたり丸めたりするなど自由に観察できるようにする。
  • 輪ゴムを研究して分かったことを伝え合う。
  • 教師の輪ゴムを飛ばす実演を見る。

ええ~?折っただけの紙で輪ゴムが飛ばせるの?やってみたい!


  • 途中から小さい画用紙,割りばし,紙コップなどの材料を追加して,各自研究する。

紙を折ったところにかけただけで,飛んだ!
  • 輪ゴムの特性を共有した段階で,小さく切った画用紙を折り,ひっかけた輪ゴムを飛ばす実演をする。
折り方を変えると,連発で飛んで面白いよ!(写真2)
  • 自由に画用紙や割りばし,紙コップなどの材料を取りに来て,輪ゴムと組み合わせてできることを試せるようにする。
知・技
  • 輪ゴムの動力の特性に気付き,動くおもちゃに生かせることに気付いている。
    (行動・発言・ワークシート)
輪ゴムって,意外と面白いんだね!
  • 飛ばす動きをする際には,人に向けず,場所を決めて試すように安全指導を徹底する。
  • 一人ひとりの気付きを
    • ねじれる・もどる
    • のびる・ちぢむ
    • むすべる
    • とぶ

などの特性のカテゴリーごとに分類し,動きの写真と共に掲示する。

もっと,いろいろな物も研究してみたいな!
  • 他にも研究してみたいものについて出し合い,次時の活動を伝える。
思・判・表
  • 動力となりそうな素材を考えている。
    (発言・ワークシート)
1次
2H
いろいろな物を研究してみよう!
ペットボトルキャップは,転がるよ。
磁石は,くっついたり離れたりして面白いね。
洗濯ばさみは,スイッチになりそう!
紙コップは,転がすと面白い回り方をするよ。
  • 予め,素材としてペットボトルキャップや紙コップ,磁石,ストロー,牛乳パックなどをストックしておき,使えるようにする。

いろいろな物を使って,動くおもちゃを作りたいな!

  • 「いろいろな動くしかけの研究」,「転がって走るしかけの研究」などに分類し,おもちゃ作りの参考になるように掲示しておく。
  • それぞれの素材の特性に気付き,おもちゃ作りに生かそうとしている。
    (行動・つぶやき・発言)
2次
3H
動くおもちゃを作っちゃおう!

どんなおもちゃを作りたいか,どんな材料が必要か計画書を作ろう。

ゴムで飛ばすおもちゃを作りたいな。何を飛ばして遊ぼうかな。

  • 個別最適な学びとなるよう,一人ひとりの思いや願いに寄り添い,必要に応じて助言する。
思・判・表
  • 作りたいおもちゃをイメージし,必要なものを考えたり,作成する見通しをもったりしている。
    (計画書・発言・つぶやき)
思・判・表
  • おもちゃの動きを予想したり,確かめたり,見直したりしながら試作品を作っている。
    (作品・行動・カード)

  • 友達と交流したり試行錯誤したりしながら,粘り強く取り組もうとしている。
    (行動・カード・発言)

トイレットペーパーの芯をいっぱい使いたいんだけど,家には1個しかないな。


「ざいりょうたからばこ」にたくさん入っていたよ。


もっと,材料を集めちゃおう!
  • 作ったおもちゃで遊んでみよう。
どっちが遠くまで飛ぶか,競争だ!
  • 作る際のヒントになるよう,教科書の二次元コードの活用法を示したり,教室に工作の本を置いたり,児童の学習用端末に参考資料を送付したりする。

どうしてそんなに速く動くの?やり方教えてくれる?


もっともっと遊びたい!おもちゃランドを開いて,他のクラスや1年生にも遊んでもらおう!

  • 計画書をクリアポケットなどに入れて掲示し,お互いが必要としている材料が分かるようにしておく。
3次
3H
みんなで,動くおもちゃで遊んじゃおう!
  • おもちゃ作りや遊びを通して工夫したことを生かして,おもちゃランドを開こう。
  • どんなおもちゃランドにするか,話し合おう。
  • 安全に思いっきり楽しめるように体育館で行うことを伝える。

自分たちのオリジナルおもちゃを作って,みんなが楽しめるおもちゃランドにしよう!

  • おもちゃランドを成功させるために,どんな会にしたいのか合意形成をしておく。
思・判・表
  • みんなで楽しく遊ぶことをイメージしながらどんな会にしたらよいか考えている。
    (発言・カード)

そのためには,みんなが遊べるようにおもちゃをパワーアップさせよう。


オリジナルなおもちゃになるよう,作戦会議だ!


「動くおもちゃ研究所」を作ろう。

  • 遊び方が似ていたり同じおもちゃを作ったりしている児童同士でグルーピングを行い,遊び方やルールについて話し合うようにする。
思・判・表
  • 自分と友達のおもちゃを比べたり,いろいろな方法を試したりしながら,おもちゃを改良している。
    (行動・発言・カード)
遊び方もポスターに書こう。
  • おもちゃを改良したり,お互いに説明したりアドバイスしたりして,おもちゃをパワーアップさせる。
  • 「1年生に分かりやすく」など,相手意識をもって準備できるようにする。
思・判・表
  • 楽しいおもちゃランドにするために,友達の工夫を見つけたり,よりよくするためにアドバイスしたりしている。
    (発言・行動・アドバイスメモ付箋)
思・判・表
  • みんなで楽しく遊ぶことを思い描きながら,遊び方やルールを改良したり伝え合ったりしている。
    (発言・行動・作品)
知・技
  • みんなで遊ぶことのよさやおもちゃを作ることの楽しさに気付いている。
    (発言・カード)

おもちゃごとにグループを作り,おもちゃや遊び方について他のグループから,「ここがいいね!」と,「こうするともっといいかも!」のアドバイスをし合う。


他のクラスのおもちゃでも遊びたいから,当番を決めておこう。

  • 1人ひとりが意欲と責任感をもって活動に取り組めるように見守る。
  • 招く側・招かれる側みんなが楽しめるようにするために,という視点でアドバイスし合うようにする。
  • 招待状などは国語科や書写の時間の合科などで行ってもよい。
2H おもちゃランドを開こう!
  • 他のクラスの人や1年生,先生たちを招いて,おもちゃランドを開く。
  • 飛ばす方向など,安全に関することは,全体で確認しておく。

お客さんに喜んでもらえて嬉しいな。


こんなにお客さんが来てくれて,びっくり。


遊んでいて壊れちゃったおもちゃがあったから,多めに作っておいてよかった。

  • 説明の仕方やかかわり方のよさを価値付け,自己肯定感を高めていく。

オリジナルおもちゃを「すごいね。」って言ってもらえたから嬉しかった。

  • うまくいかないグループには,必要に応じて助言して回る。
  • おもちゃが壊れたときのために,セロハンテープやビニールテープなどの修理コーナーを設けておく。
1H 活動を振り返ろう

自分の作ったおもちゃで,楽しく遊んでもらえて嬉しかった。


作るのも楽しかったけど,みんなで遊びを工夫したことがもっと楽しかった!


もっともっと面白いおもちゃをつくってみたい。

  • 活動を振り返り,楽しかったことや工夫したこと,お互いのおもちゃやお店のよさなどについて伝え合い,達成感や手応え感覚,成長を自覚的に捉えられるよう価値付けする。
思・判・表
  • 遊びを工夫したり,友達と楽しく遊んだりしたことを振り返り,表現している。
    (発言・カード・行動)

  • 身の回りの物を工夫しておもちゃを作ったり,みんなで遊びを創り出したりすると楽しくなることを実感し,これからの生活に生かそうとしている。
    (カード・行動・発言)

4.終わりに

今回の授業では,おもちゃの動力の一つである「輪ゴム」に絞ってじっくりと向き合い,「研究」するところから学習を展開させた。その活動を通して,「輪ゴム」の捉え方が,

と,輪ゴムを新たな見方(視点)で見ることにより,自分にとって楽しめる物の一つとして認識が広がった。

また,おもちゃ単元の導入を「動力」の観点で絞ったことで,その後,磁石,キャップ,バネ…へと広がりが見られた。それらを生かして,翌日にはプロペラ,パチンコ,割りばし鉄砲を家で作ってきた子がいた。

朝の会で紹介することにより,「自分も作ってみたい!どうやって作るの?」「割りばし何膳でできるの?明日,持ってくるから作り方教えて!」と,自然発生的に教え合う姿が見られた。

同じ輪ゴムの伸縮の力を使って物を飛ばすおもちゃでも,紙コップ,牛乳パック,トイレットペーパーの芯,ハンガー,割りばしと多岐にわたる材料で作っていた。

「動力」に絞ったことの利点として,飾り付けに凝る児童は少なく,「より遠くに」「より速く」「より高く」を追究する児童が多かった。予め保護者に材料集めを依頼しなかったが,「ざいりょうたからばこ」の活用で,それほど困る児童はいなかった。目の前に材料が潤沢にあると,それをどう使い切って作ろうという思考になりやすく,遊びに発展しにくい作品となることがあるが,あえて少ない素材から学習を展開させたことで,「動き」を探究し,協働的な学びへと発展することができた実践となった。

【引用文献・参考文献】