小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
生活

児童の「ここな〜に?」や,「行ってみたい!」「やってみたい!!」を大切に
〜1年生 生活科 「いくぞ!がっこうたんけんたい!」〜

1年 摂津市立千里丘小学校 小西 敦司

1.はじめに

本校でもこれまで,スタートカリキュラムを実施してきた。そのカリキュラムは,学校のルールや,学級での生活の仕方など全てのことが網羅されていた。しかし,そのほとんどが,「教師や上級生が1年生に教える」というカリキュラムだった。学校探検もその中の一つで,千里丘小学校では,2年生が1年生に,学校にある施設を紹介するという形式で学校探検を行なっていた。その様子を見ていると,2年生は,1年生に学校を紹介することで,「上級生の自覚を持つことができる」というメリットがあった反面,1年生の様子を見ていると,「右も左もわからず,言われるがままに連れて行かれている。」そのように感じた。
昨年度,スタートカリキュラムを先進的に取り組まれている,神奈川県横浜市の学校に視察へ伺った。その時にお話を伺った1年生の様子,学校探検の様子は,私がその年に担任をしていた1年生の姿とは違い,入学直後から,いきいきして,安心して学校生活を送っている姿が感じられた。
このような経験から,本校でもスタート期において,「これまで経験してきた遊びを中心とし,ゆるやかに各教科へ移行できる」ようにカリキュラムの見直しを行ってきた。学校探検は,その中でも中心となる単元として位置付けている。

2.単元について

◎活動のねらい

【知識及び技能の基礎】
学校には,さまざまな立場の先生がいることや,色々な施設があることがわかる。

【思考力,判断力,判断力等の基礎】
学校生活を支えてくれる人々の想いや願いについて考えることができる。

【学びに向かう力,人間性等】
身近な人々,社会及び自然に自ら働きかけ,意欲や自信をもって学んだり生活を豊かにしたりしようとする態度を養う。

◎単元について

この単元では,学校探検を通して,1年生が学校という新しい環境の中で子どもたちが楽しく学校生活の第1歩を踏み出し,これからの様々な学習や活動において,自信を持って生き生きと活動できるような単元である。
学習の中では,子どもたちの「行ってみたい!」「やってみたい!」という内面からわき出てくる意欲や,「どうしてだろう?」「ここはどんな教室かな?」といった問題を発見しそれを解決していく活動の楽しさを充分味わわせたい。また,学校の施設の名前や場所を覚えるだけでなく,子どもたちが積極的に友だちや先生や学校で働く人などと関われるように学習環境を整え,子どもたちにとって学校が安心できる大切な居場所になるようにしていく。

3.指導計画

【学習内容】 【指導上の留意点】 【評価】
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〇保育園や幼稚園において,どのような先生がいて,どのような教室があったかを交流する。

〇子どもが思ったことを伝え合う場面を設定する。

・子どもの疑問に対し,すぐに答えるのではなく,活動を通して解決できるようにする。

〇小学校には,どのような先生がいて,どのような教室があるかを予想する。また,疑問に思ったことを共有する。

〇小学校には,どのような先生がいて,どのような教室があるかを予想することや,疑問を持つことができる。

(知識及び技能の基礎)

〇学習課題を知る。
「がっこうたんけんをして,せんりおかしょうがっこうのことをしろう!」

〇初めに学習課題を提示するのではなく,課題意識を持たせてから,提示するようにする。

〇学校探検に行くためのルールを考える。

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〇探検に行く前に,前時に考えたルールを確認する。

〇各階の教室を探検する。

①1階を探検する

②他の階も探検したい!という子どもの声から,2.3階を探検する。

〇一人ひとりの興味・関心に基づいて校内を探検できるようにする。

〇各階の学校探検を通してわかったことをクラスで報告して,まとめる。

〇校内の教室配置図を準備し,子どもたちの報告(どんな教室があったか,どんな先生がいたか)を記入していく。

〇小学校には,さまざまな立場の先生がいることや,色々な施設があることがわかる。

(知識及び技能の基礎)

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〇全ての学校探検を通してわかったことをクラスで報告して,まとめる。

〇完成した教室配置図から,学校探検を振り返る。

〇学校には,さまざまな立場の先生がいることや,色々な施設があることがわかる。

(知識及び技能の基礎)

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〇さまざまな立場の先生からの話を聞く。

〇校長先生や,図書館の先生,給食室の先生を招き,それぞれの部屋の紹介に加え,思いや願い(たくさん本を読んでほしいなど)を伝えてもらう。

〇話を聞く中で,学校生活を支えてくれる人々の想いや願いについて考えることができる。

(思考力,判断力,判断力等の基礎)

〇話を聞いて分かったことを共有する。

〇共有したことを記録しておくことで,評価に活かす。

4.活動の様子

①学習課題の設定

子どもたちが主体的に学習に取り組めるようにするためには,「学習課題を子どもたちのものにできるかどうか」が重要であると考える。
本単元では,その手立てとして,まず「保育園や幼稚園には,どのような先生がいて,どのような教室があったか」について交流を行った。子どもたちがのこれまでの経験について交流する中で,「え,そんな教室なかった!!」「プール屋上にあったん!すごい!」という声が上がってきた。
その後,「みんなが過ごしてきた教室と同じような場所が千里丘小学校にもあるのかな?」「どんな先生がいるかな?」と小学校の教室や先生について予想をたてた。予想を立てる中で,「この部屋見たことあるから知ってる!」という声や,「え,私知らんねんけど〜!」「どこにあるん?」「行ってみたい!」という声が飛び交ってきた。
このように,「?」や,「〜したい!」という言葉は,子どもたちが学習に向いているサインであり,学習課題を子どもたちと作っていく上で大切になってくると考える。そのような子どもたちの声から,「学校探検をして,千里丘小学校のことを知ろう!」という学習をスタートさせた。「早くいきたい!!」「いついくん?」という,子どもたちの思いから学習課題を立てることで,学習課題がより子どもたちのものにすることができた。

②ルールを決める

子どもたちの主体性を大切にするために,「おやくそく」も子どもたちと一緒に考えていく。
子どもたちからは,これまでの経験を活かして「廊下は走らない」「お兄さん・お姉さんが勉強しているところでは,静かにする」など教師から何も言わずとも,素晴らしい意見がたくさん出てきた。出てきた意見をまとめて最後にみんなで再度確認を行い,探検の際に振り返りができるように掲示を行った。
このように,教師から提示するのではなく,これまでの経験からルールを作り上げて行くことで,私たちが「〇〇しましょうね!」というよりも守ることができると感じた。また,楽しさのあまり,ルールがおざなりになってしまった子どもにも,「どんなことをみんなで決めたっけ?」と問うだけで,「あっ,静かに歩くんだった!」と自分で気付き行動を改めることができていた。

③各階を探検する

いよいよ学校探検。前時に決めた「おやくそく」を確認し,「いろんな先生や教室を見つけてきて!」と送り出した。子どもたちは,自分たちが「行ってみたい!」「見てみたい!!」と思うままに探検をし,探検に行く中で,様々なことを学んで行った。

〇鍵が開いていない!!

「鍵がかかっている部屋を開けたい!」という思いをふくらませた子どもは,友だちと話す中で,「職員室に鍵がたくさんかかっていた」ということに気づき,職員室に鍵を取りに行った。初めての職員室。もちろん入り方も知らない。職員室にかかる鍵を見て,「ねえ!鍵!」となったところで,職員室にいる先生から職員室への入り方を教えてもらった。このように,先生が,「職員室はね,トントン!とノックして・・・」と私たちが時間をとって教えるよりも,必要になったときに,教えてもらうことで,子どもたちの心に残りやすくなると考える。

鍵がかかっている部屋を開けたい!
と,職員室にいく子どもたち。
この際,職員室の入り方を学んだ。

鍵を借りることができ,開けることができた。
中には見たことがないものがいっぱい!
部屋の説明もしてもらい,友だちに伝えていた。

〇校長室には写真がいっぱい!!

校長室にも訪問した。フカフカのソファーに座りながら,「写真がいっぱい!」という声から,歴代の校長先生の写真を数えだした。「1,2,3・・・」このような学びは算数科の学習でもあると言える。また,一人のものだけでなく,その学びを全体に共有することで,教科の学びへと続けていった。

〇給食室も見学したよ!

給食室があることを発見した子どもは,給食室でどんなことをしているのかに興味津々。たくさんの野菜を切ったり,大きなお鍋でおかずやご飯を作ったりしているところを見せていただいた。

〇お兄さん,お姉さんの授業をみたよ!

各階を探検していく中で,上級生の授業を見せてもらうこともできた。その中で,手の挙げ方や,話を聞くときの姿勢と言った,授業の受け方などを学んだ。また,「大きくなったら英語をしたり,理科室で実験をしたりできるんだ!」といったことも学ぶことができた。活動の中で,「入っておいで!」と言って一緒に漢字の学習をしたり,1年生に実験の説明をしたりする姿からは,上級生にとっても有意義な時間であると感じた。

④各階の探検を終えて

探検を終えて教室に戻ってきてから,「こんな教室があったよ!」「こんなことをしていたよ!」「〇〇先生がいたよ!」ということを共有していく。その中で,「職員室には,こうやって入るんだ!」「大きくなったらこんなことをするんだ!」ということも共有した。この場面では,ただ共有するだけでなく,職員室の入り方などを他の子どもたちも実演することで,国語科の学習につなげたり,校長室にある額縁を写真に撮り,その数をみんなで数える中で,算数科の学習につなげたりした。また,クラスで共有したことを掲示することで,子どもたちが振り返れるようにした。

⑤他教科とのつながり

学校探検を行う中で,子どもたちは様々なことを経験していく。その経験を取り上げ,前述のように,他教科への学びに繋げていくことがスタートカリキュラムを組む中でも大切になってくる。
例えば,学校探検へ出かけて気づいたことをクラスの仲間に伝える活動は,国語科の話す聞く学習に,また,教室や階段の数を数えたり,校長室にある写真を数えたりする活動は,算数科の学習へとつながっていく。
このように,生活科での気付きを各教科の学習へと繋げていくことで,より円滑に,また,主体的に学習へと向かわせることができた。

⑥実践を通した成果

今年度は,昨年度からやり方を大きく変えて学校探検を行なった。子どもたちの「やりたい!」「いきたい!」という意思を元に動く中で,子どもたちが早い時期から「自分」を出せるようになっていたと感じている。また,学校探検を行なっている時間だけでなく,「やってみたい!」や,「してみて楽しい!」が4月から継続的に聞くことができていることは,大きな成果であると感じる。1学期末に行なった,学校独自のアンケートにおいては,「学校が楽しいですか?」という項目において,肯定的な回答が昨年度に比べて増加したことや,登校を渋る子どもが例年に比べ少なかったことからも,小学校入学時の段差を緩やかにできたのではないかと感じている。

<参考文献>