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理科

理科での学びをより確実なものにすることをめざして(プログラミング教育)
-第6学年「電気の利用」の実践を通して-

6年 山口県山陽小野田市立埴生小学校(元・下関市立向井小学校) 萱野 誠

1.はじめに

令和2年度から本格実施となる学習指導要領。柱の1つとして「プログラミング教育」がある。本実践では,図1③について「プログラミングツールを用い,電気エネルギーを制御しながら扱う体験を通して,自分たちが追究した「電気を『つくる・使う・ためる』」と環境教育とを関連付けながら一体的に考えることができれば,子どもたちに“未来志向(指向)にもとづいたエネルギーについての感性”を涵養できるのではないか」と考え,取り組んだ。

プログラミング教育のねらい

図1 岡山県教育庁義務教育課 小学校プログラミング教育「はじめの一歩」より

2.本実践で扱うプログラミングツール

本校ではMESH(ソニー株式会社)を導入した。「ツール自体の扱いやすさ」「ツールを活用した学習の広がり」を考慮した。なお,山口県ではプログラミング教育実践研究協力校にmBot(Makeblock Japan株式会社)が導入されている。

写真:プログラミングツール

3.支援の具体

「1 はじめに」後段に記した「ねらい」を達成するために,以下の支援を計画した。

4.単元目標

5.単元計画(全17時間)※本実践では,第1・2次を学級担任が,第3次を執筆者が行った。

6.授業の実際(執筆者が行った第3次の学びを記す)

①学習したことと環境問題とのつながりを考えよう(1・2時間目)

まず,電気エネルギーがどのように私たちのもとに届けられているか考える場を設定した。学習問題「コンセントの先はどうなっているのだろう」のもと,ホワイトボードに考えをかき表す。コンセントの中をのぞきこみながら考えるY児。「だいたいの物は電池で動いている。たぶんめっちゃ(導)線があって,その先に電池がある」図3上は,Y児が所属する3班の考えである。図3下は「最近,よく太陽光のパネルが屋根にのっているよね。あれがコンセントにつながってるんよ」と考えたのはC児が所属する2班。全班の考えから「先には電気エネルギーをつくる場所があるはずだ」という共通点と「みんな考えがバラバラ。どうやってつくられているか,どうやって電気が届いているか知りたい」という差異点をもとにした問題意識を明確にした上で,DVD資料「ようこそ!エネルギー図書館へ」(2009.11電気事業連合会)を視聴した。
視聴した内容をもとに,子どもたちは「コンセントは電線がつながっていて,その先では発電所のタービンで手回し発電機と同じように電気がつくられている」ことを結論付けた。二重線部は「コンセントの中に小さい人がたくさんいてみんなが超必死に手回し発電機で発電してるんよ」とクスクス笑いながらつぶやいていたR児が発言し,仲間が納得して付け加えられた文言である。
DVD資料を視聴している最中,火力発電の映像が流れた。その映像を見て「環境に悪い」とのR児のつぶやきに,A児は「日本って化石賞(主催:気候行動ネットワーク)を受賞したよね」と反応していた。そのR児とA児のやりとりを紹介し,学習問題「電気を『つくる・使う・ためる』と環境と,どんなつながりがあるのだろう」を追究した。子どもたちの,その時点での考えは図4のとおりである。“火力発電”について「燃えた時に二酸化炭素が出ること」「化石燃料を使っていること。そのことが資源を使うことにもつながっていること」「電気を使うと,それだけ電気をつくらなければならないこと」を視点として考えを持っていた。
図5はDVD資料の視聴を通して,環境問題とのつながりを確認した後のまとめである。

図2 コンセントの中をのぞきこむ,図3 子どもたちの表出物の一部
図4 学習問題に対する最初の考えをまとめた板書

図4 学習問題に対する最初の考えをまとめた板書

図5 DVD資料を視聴した後の考えのまとめ

図5 DVD資料を視聴した後の考えのまとめ

まとめづらそうな様子を鑑み,キーワードを出させた後にそれらのつながりを問い(①),キーワード同士のつながりを明確にして文章をまとめていった。(②)その過程でM児は「電気エネルギーを使うのは便利だが,その代償として環境が悪くなる」ことに言及した。

②身の回りの電気機器のプログラミングを考えよう(3・4時間目)

前時の学習を受け「近年ではプログラムによって制御されるようになっている」ことを「トンネルに入ると明かりがつき,出ると消える自動車のヘッドライト」「入ると明かりがつくトイレ」を例示しながら確認し「自分たちでも同じ様なプログラムを作ってみよう」と投げかけ,学習問題「歩行者信号は,どのようなプログラムで光ったり点灯したりしているのか」に取り組んだ。「青色が点灯→青色が点滅→赤色が点灯」「そのプログラムを4回繰り返す」といった課題を解決した後「このような仕組みが『電気の効率的な利用につながる』とされている(教科書の表記)けれど,どのようなことが『電気の効率的な利用』につながっているのだと思う?」と問うた。以下は子どもたちの考えである。

図6 自分たちがつくったプログラムで横断歩道を追体験

図6 自分たちがつくったプログラムで横断歩道を追体験

プログラミングのよさに着目している子どもの考え
K児 信号と同じように,プログラミングされているから効率的なのだと思う。
電気の節約(節電)に着目している子どもの考え
R児 いらない電気を消すと,電気をむだなく使うことができる。
M児 家を出る時に電気を消す。家族と過ごすときには一カ所に集まる。
使う物自体の省エネルギーに着目している子どもの考え
Y児 世の中の電気(電球)を,すべてLEDにする。
“効率”について「電気をつくる」ことに着眼している子どもの考え
T児 たくさんの発電方法ではなく,二酸化炭素の出るのが少ない方法で電気をつくる。

図7 学習問題「電気を効率よく使うにはどのようにしたらよいか」につながる子どもたちの考え

③効率のよい電気の使い方を考え,利用の仕方を見直そう(5・6時間目)

子どもたちの考え(図7)から視点をつくり,学習問題「電気を効率的に利用するにはどのようにしたらよいか」に取り組む。共通して使用できるツールは以下のとおりである。

以下は,子どもたちの「電気を効率的に利用する」考えである。

また,Y児(図7)の考えを受け,LED(低電圧)を提示した。豆電球から交換するや否や「おぉ!」とどよめく。「メーター動いているの?」と反応する子どももいたぐらい,メーターの針はゆっくりと動く。

子どもたちは,ホワイトボードへの記録をもとに,そのようにプログラムした意図を伝え合う。「手回し発電機は火力発電と同じ仕組み。太陽光だと二酸化炭素の排出量が少ない」「昼間ためた電気を夜に使うと,夜に発電する量が減る。節電につながる」「プログラミングの利用で確実に電気を消すことにつながる」「しかも,人間にとって楽になる」「節電したりLEDを使ったりすると,電気をつくる量が減り,発電するときの二酸化炭素の排出量も減る」子どもたちの発言に即して,共にまとめた学習問題に対する考えが図8である。子どもたちは「効率的」を「環境(節電・二酸化炭素排出量の減少)」「人間の労力」「節約」を視点として意味付けていた。
単元末,以下のとおり,学習の振り返りを行った。なお,この振り返りは,第3次前に行った「電気」についてのイメージマップ第3次5時間目以後に行った「電気」についてのイメージマップ(図9)とを比較した上で行った。

図8 本授業の学習問題に対する子どもたちが見出した答え

図8 本授業の学習問題に対する子どもたちが見出した答え

図9 「電気」についてのイメージマップの例

図9 「電気」についてのイメージマップの例

7.おわりに

本実践では,理科での学びをより確実なものにする(「電気をつくる・使う・ためる」を一体的に考えられるようにする)ことをねらい,MESHを用いて授業づくりを行った。子どもたちの働きかけ(実験等)と「環境」とを丁寧につなぎながら単元を展開することは,電気エネルギーについての感性を涵養していく上で大変有用であることが,子どもたちの姿から確認できた。今後,さらに「理科での学びをより確実なものにする」ことをねらうことを考えると,「エネルギー」を柱としたプログラミング教育との系統を学年ごとに明確にして取り組むことが考えられる。

【補足】

子どもたちの,環境問題に対する認識には,量的にも質的にも違いがある。そのような違いのある子どもたちを,できるだけ共通の土台にのせることができるよう,「かがやけ!みんなのエネルギー」(経済産業省資源エネルギー庁)を活用した。(「3 支援の具体」と関連)活用の仕方は,以下のとおりである。

授業中でのタイムリーな提示

第3次2時間目において,子どもたちは,学習問題「電気を『つくる・使う・ためる』と環境と,どんなつながりがあるのだろう」を追究した。「二酸化炭素」「燃料」「発電方法の種別」「電気の量」等に着目して発言することが考えられたため,以下の資料(一部)を準備し,子どもたちの発言に応じて紹介した。

授業後でのタイムリーな提示

第3次「①学習したことと環境問題とのつながりを考えよう(1・2時間目),③効率のよい電気の使い方を考え,利用の仕方を見直そう(5・6時間目)」の考察において,「発電方法の種別」「環境」等に言及した際には,それに合わせた資料を提示した。これは,学習後,補完したり次時につないだりすることを目的として「読み物資料」として提示した。

【資料】