小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

簡易流水実験装置の開発と活用
―土砂災害に関する小学校5年理科での連携授業―

5年 比治山大学現代文化学部子ども発達教育学科 林 武広 

【はじめに】

日本では豪雨や台風による土砂災害が毎年のように国内のどこかで発生し,多くの人々が被災しています。例えば2014年8月には筆者の地元,広島市で大規模土砂災害(土石流が発生した渓流:写真1土石流で埋まった渓流:写真2),2017年7月には九州北部での豪雨災害,さらに2018 年7月に西日本を襲った豪雨では山陽3県から愛媛県に渡る地域で甚大な被害が発生しました。現在,被災地では復旧が進められている状況です(2014年の大規模土砂災害発生地で建設が進んでいる砂防堰堤,2018年10月:写真3)。この豪雨では広島市東部から広島県中央部付近の数千カ所で土砂崩れや土石流が発生し(朝日航洋株式会社による広島県呉市・東広島市の航空写真をご参照下さい:https://www.aeroasahi.co.jp/),希にみる大災害に見舞われました。この災害については国土交通省のサイトに詳細が掲載(“平成30年7月豪雨による土砂災害の被害実態”)されていますのでご参照下さい。広島県は従来から土砂災害が頻発する地域(危険箇所数は全国最多)として注目されていることもあり,今後に予想される土砂災害へ備えるためにも防災教育の充実が欠かせません。特に本格的な教育が開始される小学校での取り組みが重要となります。そこで地球科学及び科学教育を専門とする筆者は, “広島”という地域も考慮し,防災教育に携わる現職の先生方への研修も兼ねて小学校へ直接出向き,ゲストティーチャーとして担任の先生と連携して行う5年理科「流れる水の働き」の授業(以下,“連携授業)を実施してきました。この連携授業は毎年度行っており,その内容と成果の概要はこれまでに国際学会及び複数の学会全国大会で発表してきました。ここでは,これらの発表内容をもとに筆者及び共同研究者(以下,筆者ら)の取り組みの一端を紹介したいと思います。


(写真1)


(写真2)


(写真3)

【連携授業の経緯】

筆者は過去10年来,(公財)マツダ財団との共同研究「科学わくわくプロジェクト」の小学校理科支援事業として,また,(一社)広島県発明協会による企業の科学専門家が小・中学校理科の特別授業を行う事業に携わってきました。このような授業は筆者らの研究による小学校の先生方が期待する研修として“授業の参観”が顕著であるとの結果に沿ったものです。また小学校における防災教育の実施状況を明らかにするために2017年に広島県の公立小学校22校の小学校の先生方を対象にアンケート調査を試みました。301名の回答(複数回答)を集計した結果,「学級指導」での実施が最も多く,次に「社会科」,「訓練」,「理科」という順でした。理科の選択は16%程度であり多いとは言えません。教科の学習で社会科が突出している背景として, “くらしを守る”あるいは“災害から守る”,“自然災害をふせぐ”等の単元があることが考えられます。また,学級指導と社会科を併記した回答も多く,社会科と理科を併記した回答も少なくないことから多面的に防災学習の指導が進められている状況がうかがえます。
筆者は自然・自然現象の仕組みや成り立ちを学ぶ理科における防災学習の充実が重要と考え,筆者が主担当として5年理科「流れる水の働き」単元での連携授業(小学校での流水の働きの連携授業,授業者は筆者:写真4)を始めました。授業実施校は広島市教委との連携を通して,また上述のプロジェクト事務局への直接申し込みによって選定しています。この単元の実施校数は例年8〜12校,学級数は計20〜30程度です。加えて広島県外の小学校,また中学,高校での授業も行っています。なお, 6年「月と太陽」の単元でも同様な連携授業を行っておりますが,それについては別の機会に紹介したいと思います。

(写真4)

【小学校5年理科「流れる水の働き」について】

小学校5年理科「流れる水の働き」では流水による侵食,運搬,堆積作用を学びます。雨天時のグランドや河川や水路での流水の観察やグランド等で実際に水を流す実験を行いこれらの作用を確かめます。また川がカーブしているところを例にして流速の違いによる作用の違いも確かめます。これの学習に加え,流水に関わる災害としては崖くずれや洪水などの写真が掲載されています。小学校の先生方とのお話の中から,グランドなどでの実験がうまくいかず苦慮していること,また,実験を実施する場所探しも難しい等との意見を多数聞いておりました。そこで筆者は「流れる水の働き」での活用を前提に流水の働きに特化した流水モデル実験装置を開発しました。製作は広島市の日新精器株式会社にお願いしました。

【流水モデル実験装置の開発と概要】

いわゆる流水に関するモデル実験装置(以下,装置)は基本的に堆積作用に注目したものが中心で,地層の形成過程を効果的に示すことができます。一方,ここで紹介する装置は流水による運搬作用に注目したもので,①写真4のように小型,軽量で教卓上で演示実験ができる,②装置の水路上で流水による砂や礫等の動きが観察しやすい,③少量の水で安定した流れが得られることを基本として製作しています。全体の長さ1.2m(流水モデル実験装置の全景:写真5),水路後方には水路と一体的に繋げた高さ29.5cm,長さ20cmのタンクを設けており,水を貯めるタンクと水路との境にはスライド式の“水門”を設けています(流水モデル装置後方のタンク:写真6)。水門上部につけたネジを回すことで水が通る隙間の高さを変え,タンク上部の水道コックでタンクに注入する水量を調節して,タンクの水高を保ちつつ水を流します。
実際の流水の働きの実験では装置の水路をほぼ水平にして大〜小サイズの砂や礫(実験で使用している砂や礫,サイズ別に分別して使用:写真7)を置き,流す水の流速を変えて砂や礫の動きを観察します。当然のことながら小さい砂粒は流速が遅くても流されますが,大きな礫は動かされません。水路の端に三角形に広げた補助水路を取り付けることで,その上を流れる水の流速を遅くし,流されてきた礫または砂がそこで溜まること,つまり堆積作用を観察することもできます(流水モデル装置前方に取り付けた補助水路:写真8)。一通りの実験を終えた後,水路を15〜20度程度傾斜させて水を流し,全ての砂や礫が速い速度で一気に流れ下る土石流を再現します。また,水路をほぼ水平にして砂や礫を置き,タンクに水を貯めて水門を一気に開いて大量の水を流すことで洪水あるいは津波を再現します。水を流すためにかなり傾斜した水路(又は溝など)で流水の働きの実験をやってみたが,よい結果が得られないとのお話を聞くことがありますが,そのような場合は,いわゆる“土石流”が起こっている可能性があります。
なお,この装置に代わるものとして 白色の“軒とい”の利用が考えられます。その場合,流す水の調節に留意が必要です。軒といはホームセンター等で販売されています。


(写真5)


(写真6)


(写真7)


(写真8)

【授業の概要】

授業では,まず,この装置で様々なサイズの礫や砂を流し,通常の流水の働きを確かめます。さらに雨降りのグランドや実際の川底で砂が流される様子を動画教材で確かめます。時間がある場合は,グランドに出て,砂や土が流された様子や痕跡を見つける活動も行います。これらの学習の後,水路を傾斜させて砂や礫を一気に流す土石流の実験(土石流の実験:写真9,10)を行い,通常の流水の働きとの共通点や相違点をおさえます。さらに実際の土石流の動画も視聴して土石流への理解を深めます。これらの一連の学習を基に,土砂災害が予想される場合の避難の重要性を強調します。


(写真9)


(写真10)

【成果】

この連携授業の成果を明らかにするため連携した担任(担当)の先生対象のアンケートを毎授業ごとに行っています。まず“児童にとっても有益であったこと”への質問では,「興味・関心が高まった」の回答が6割5分以上で最も多く,次いで「しっかり考えることができた」が4割,さらに「実験が楽しめた」,「自分で考えながらノートを書くことができた」がそれぞれ3割以上の回答でした(2015年―2017年,回答数67)。授業後に寄せられた児童の感想では,以下の例のように児童は流水と砂や礫のサイズとの関係,また土石流の特徴も実感をもって理解できたと考えています。

● どうやったら、大きな石や、小さな石が水の力だけで動くことができるのか?などが、実験もふくめてよく分かって、自分の考えや、友達の考えを通してなっとくできました。

● 実験装置を使っての授業だったので、より分かりやすかったです。(石の大きさや、水の量によって流れ方が変わること。)

● 大きい石は、なかなか水に流れないけど流れる水+かたむきで、ものすごいスピードや、パワーになるということが、実験でよく分かった。

● 大中小の石はふつうのいきおいの水の量だと中小がながされ。いきおいが強い水の量だと大中小の石がながされるということが分かりました。

● 流れる水のはたらきのしん食,うんぱん,たい積はいろんなところでなっている(おこっている)と思いました。

● 今まで知らなかった土石流のことやつなみのこと,水を流した時の石の様子などよく分かりました。

一方,この連携授業を通して“先生にとって役だったこと”への質問では,“実験装置”の回答が卓越しており,次いで,“写真や動画教材”,“講師の説明”,続いて“単元内容そのものへの理解”,“教師自身の学びになった”の順で回答がありました。加えて連携した先生方から教員経験年数や背景が異なる数名の先生方を選んでインタビューを行い,分析(名古屋大学の大谷尚教授によるSCAT法による)した結果,それらの先生方の理科の授業作りにおけるパラダイム変換が見出されています。
これらのことから新たに開発した流水モデル装置を活用した「流れる水の働き」の連携授業は児童の理解増進と先生方の指導理念の変換や指導方略の改善に対し一定の効果があったと考えています。今後,装置のさらなる改良と授業過程の改善を進めつつ,本年度も引き続き連携授業を行う予定です。

追記:ここで紹介した流水モデル装置や連携授業ついて,さらに詳しい内容を希望される場合は筆者までメール(neko.hiroshima@me.com)にてご連絡下さい,

【主要参照文献】