小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

「自ら学び,見通しをもって考える子」をめざして
~「5年もののとけ方」の実践を通して~

5年 和歌山市立宮北小学校 野上 聖児

1.はじめに

本学級の子どもたちは,新しいことや初めてのことに興味をもって取り組み,主体的に関わろうとする。一斉学習の形態では思いや考えを表現することが難しい子もいるが,グループ学習など少人数にして話し合う活動を取り入れることで,表現しようとしている。友だちの思いや考えを聞き,自分の考えを豊かにできるよう,少しずつ取り組んでいる。

生活経験の中で「とける」ということを体験しているが,意識はしていない。そこで,生活の中にある身近な「とけるもの」から導入することにした。

単元導入で子どもたちにとって身近なものを扱い,学習のまとめとしても身近なものを扱えるよう第4次を設定した。生活の中での問題は答えが2つ以上あったり,あいまいだったりする。しかし,小学校理科の学習においては実験結果がはっきりとした場面設定をしていることが多い。本単元でも第1次からは塩化ナトリウムとミョウバンの純物質を扱ってきたが,第4次で混合物をもう一度考えることは,新しい物質の見方が生まれると同時に学習してきたことを再構築する機会となるだろうと考え,あえて身の回りにある「食べ物・みそ」を扱うこととした。

2.単元構成の工夫

単元導入 もののとけ方 2時間
第1次 水にとけたもののゆくえ 2時間
第2次 ものが水にとける量 5時間
第3次 とかしたものを取り出すには 3時間
第4次 力だめし・まとめ 3時間

導入で子どもたちの身近なものを扱い,溶けることへの興味・関心を高める。そして第1次からは食塩・ミョウバンを扱って条件制御しながら,きまりに気づかせていく。第3次までに学習したことをもとに,「みそ」を第4次で考える機会にした。



3.研究の実践

単元導入

子どもたちが「とける」ことに対して,どのようなイメージや経験があるのかを知るためにレディネステスト「何がとけると思いますか。また何をとかしたことがありますか。」を行った。

そこで,子どもたちの挙げた例の中から,塩や砂糖などの「とける」を学習することを確認し導入することにした。レディネステスト中での溶けそうなものは,「塩・砂糖・みそ・あめ・ミョウバン」が出てきた。「ミョウバン」が子どもたちの意見から出てきたが,何に使うものかは理解しておらず名前を知っているだけだったので,やはり単元中に教師側から提示する必要性を感じた。

話し合いの様子から,子どもたちは溶ける様子をじっくりと観察したことがないことが伺えたので,全員で塩が溶ける様子を確認することにした。予想するときに,塩が底まで到達するかしないかについて意見が出たが,塩の様子や水のかさについては意識していないようだったので,子どもたちから気づくことができるようにアクリルパイプを用いて塩が溶けていく様子を観察できるようにした。また水のかさがわかるようテープで印をつけることにした。

上記のような声が多く挙がったので下記のような,じっくりと観察できる方法を行った。

このような実験を通して「このモヤモヤはなんだろう。」「塩が消えると出てくるので,塩かも。」「他でもモヤモヤがでるのだろうか。」「やっぱり水が増える。」「どれだけとけるのかな。」といった気づきや疑問がでてきた。この後子どもたちが家から持ってきた,かたくり粉やコーヒーの粉などを使って実験し,溶けること溶けないことを見つけながら進めることができた。

○第4次

予想の段階では,みそは溶けないと思っていたがシュリーレン現象を目の前にすることで,子どもたちの中で矛盾が生まれる。2グループと3グループはお茶パックを使ってシュリーレン現象を観察した後に,ろ液を蒸発乾固させ茶色の析出を確認したことで,ろ液には「なにか」が溶けていることを発見していた。みそを異なる方法で溶かしたグループは,シュリーレン現象が確認できず,液も透明にならなかったので,「みそはやはり溶けなかった。」と表現していた。「23分たっても,透明になりませんでした。」という発言もあり,時間がたつという視点からも判断していることが伺えた。8グループでは温度を上げると溶けやすくなるタイプなのか,温度を上げても溶ける量はあまり変わらないタイプなのかを判断しようとするグループもあり,既習を生かそうとしていたことに感心した。

【予想の一例】

実験終了後,「どんな結果でしたか。」と尋ね,各グループから実験方法とその結果の発表をさせた。それらを板書していくことで,共通点とズレの発見がしやすいよう,溶ける・溶けない,という言葉を中心に整理した。子どもの中には「え?」という表情をした子がいた。溶けないと予想し,実験結果も溶けなかった子どもにとっては驚きだったようである。そこで3グループの蒸発皿の茶色の析出を見せ,事実を伝えるようにした。このときに色だけでなく,匂いがあったのもよかったと思う。

結果の発表後,すぐに「みそを水の中に入れると溶けるものと溶けないものがある。」と発言した。この発言は本時でねらっていたことで,2グループの実験からは既習と照らし合わせることで考えられたようである。しかし,どの結果を比べたのか考察の根拠の説明がなかったため,他の子どもたちはあまり納得していなかったようである。

そこで,みその成分表で最後に確認することにした。子どもたち全員が見えるようにプロジェクターで拡大して提示した。

右記を提示し「上の部分を見ると。」と指示した。ナトリウムを意識させたかったからだ。 子どもたちは上ではなく,下の部分の方がわかりやすかったようで,本時のねらいにせまるためには大豆や米などを扱った方がよかっただろう。

落ち着いて子どもたちの言葉を聞き,意図していることを考えればできたはずだと反省している。

4.成果と課題

家庭科の時間にみそ汁を作る機会があり,出来上がったみそ汁を置いておくと,透明な部分と茶色の部分に分かれた。それを見て「この透明なところも味がするはず!」と言って混ぜずに飲み,「やっぱりな!」と会話している姿を見かけた。学習したことが生かされている姿を確認できたことは大きな喜びであった。

同じ実験でもねらいによって,見せ方や提示の仕方は変わってくるが,本時の第4次を設定し,みそを考えることで,指導者として新しい見方や考え方,反省すべき点に気づけたことは大きな収穫である。本単元のウリは,子どもたちの身近なものから導入し,単元末にも子どもたちの身近なものを考えたところにある。

単元中に子どもたちが主体的に学ぶ場面を何度も確認できた。大きな要因として,子どもたちにとって身近なものを取り扱ったことと,自分たちで考案した実験で授業を進めることができたことだろうと分析する。実際に授業をしていると,時間的余裕はなかったが,子どもたちの意見から出てきた「みそ」を単元末に取り扱ったことはよかったと思う。宮北小学校の掲げる「自ら見通しをもって考える子」として実験を企画していくことで,子どもたちは主体性を高めていけることは間違いない。ただし,教師が単元やその時間のねらいをもち助言していくことは必要不可欠だ。このときの言葉かけこそが,これから私が学んでいきたいこと,いかなければならないことだと感じた。ちなみに,本単元のペーパーテストは普段よりよい結果だった。

本単元を通して「そういうことか,溶ける部分と溶けない部分があるんだ。」と新しい見方が生まれ,1通りの見方だけではなく,多面的なものの見方や柔軟な考え方を身につけていく一歩になったのではないだろうか。そして子どもたちの身近なものを再び扱うことで得られた,分析する喜びや達成感・有用感をエネルギーに,学んだことを生活の場でも「○○になるのだろうか。」「試したい。」「きっとこうだ。」というような思いがもてたのではないだろうか,と大きくはないが一歩前に進むことができたと実感している。