「問題の設定」いわゆる「問題づくり」の場面に難しさを感じる方は,少なくないのではないだろうか。
このような「問題づくり」における難しさを払拭したい。そのための手立てを確立したいと考えた。
そこで,私が考えた「問題づくり」の目指す姿は次の通りである。
子どもたちが解決したい! という思いをもった(≒ワクワクする)「問題づくり」を通して,子どもたちが見通しをもって問題解決に臨み,問題解決の力と科学的概念を獲得していってほしいと考える。
では,そのためにどのような手立てが必要なのだろうか。3年「音のせいしつ」の単元での実践例を通して,紹介していきたい。
(1)ルールを工夫した「体験活動(遊び)」による導入
まず,教室で聞こえた「音」に着目させた上で,身の回りでどんなものが音を出しているのか,そしてどのように音が出ているのかを考えさせた。
「楽器はたたくと音が出るよ」「ものが落ちた時はぶつかって音が出るよ」「テレビはどうやって音が出ているのかな」
こうした子どもの気付きから,「音が出ているもの」「音の出し方」には多様性があることを認識した上で,最終的に「物から音が出ている時,物は震えている」という結論を導けるように,布石を打っておく。今後の導入では楽器を使用するため,「問題づくり」で楽器のみの問題に留まらず,音一般の問題を見いだせるようになるためには必要な手立てと考える。
そしていよいよ「体験活動(遊び)」である。
本実践では「おもちゃのチャチャチャ」でのリズム遊びを行った。イントロ部の「チャ」に合わせて手拍子でリズム打ちをした後,2種類の楽器を提示した。トライアングルとウッドブロックである。さらに,ルールを提示する。それは「"おやすみ"の所は音が聞こえないようにする」というルールである。
この活動における意図は2つある。
1つは「遊び」を「体験活動」として用いることである。3年生の発達段階,そして初めて学習する理科を楽しいと感じてもらうためにも「遊び」であることが大切であると考えた。また,「遊び」だからこそルールの中で様々な試行錯誤が生まれる。試行錯誤の中で生まれた発見は子どもたちの意欲を高め,後の問題解決への意欲へとつながっていく。
もう1つは「ルールの工夫」である。「"おやすみ"の所は音が聞こえないようにする」というルールを設けることで,「困り」を生む。トライアングルとウッドブロックの2種類の楽器に限定したことも関係するが,「チャチャチャ」の後の休符で,ウッドブロックは音が自然と切れるために音が聞こえなくなるのだが,トライアングルでは音が響いてしまい休符の場所で音が聞こえてしまう。
一見簡単に見えたこの「ルール」の存在により,子どもたちは「あれ?」と立ち止まる。作戦会議が始まり,トライアングルは叩いた直後に指で押さえないと休符で音を止められないことに気付いていく。
(2)気付きを焦点化する教師の「問い返し」
「リズム遊び」の後「気付いたこと」を,ウッドブロックとトライアングルとを比較しながら板書していった。
ここで改めて「ウッドブロックは響かないから"おやすみ"で鳴らないけど,トライアングルは手で止めないと音が響いてしまう」という差異点が明らかになった。この「トライアングルは手でさわると音が止まる」気付きに対して,
「どうしてだろう?」
と教師が「問い返し」を行った。2つの楽器の差異点であり,「遊び」における「困り」に着目して問い返すことで「遊び」における問題を解決するという必然性を生む。さらに,物事の要因を考えることで「問題を見いだす力」の育成をねらう「問い返し」である。
すると,児童からは「トライアングルの振動(震え)がおさまるから」という考えが出された。ここで,「音と震えが関係しているのかな?」と音と振動についての仮説が少しずつ子どもたちの中に立ち上がり始めた。
「つまり,音が出ている時はどうなっているのかな?」とさらに問い返し,「音が出ている時は,震えているんじゃないかな」という子どもの言葉が導き出された。
ここで気を付けたいのは,この反応はあくまで一部の児童のものであるということである。見た目には震えが分からない以上,「音が出ている時は,震えている」という確信がある児童は少ないであろう。音が出ているトライアングルを触った感触を,震えと結び付けている子どもばかりではないことに留意する必要がある。
そこで,2つ目の「問い返し」を行った。
「本当に?」
音の様々な要素のうち,震えと音の関係に焦点化するとともに,「本当は震えていないかも」「いや,震えているだろう」という意見の対立が生まれる。こうして対話的な学びが生まれるとともに,深い学びへとつながる入口となると考える。
(3)問題づくりへの意欲を高める「ミニ討論」
先の「問い返し」の「本当に?」に対し,討論を行った。
「音が出ている時に,本当に物は震えているのか」
子どもたちの意見は分かれた。
「震えている」「震えていない」「よくわからない」のみならず「大きい音の時は震えているが,小さい音の時は震えていない」「楽器によって違う。トライアングルは震えているが,ウッドブロックは震えていない」といった意見も出された。
この討論を通して,子どもは自身の素朴概念を表出させたり,他者の素朴概念との「ズレ」に気付いたりした。「音が出ている時,物は震えているのか」という問題に対する「予想」も自然と立ち上がってきた。
しかし,ここで討論を続けても結論は出ない。討論と共に「本当はどうなのだろう」「確かめたい」という思いが高まった所で話し合いを終えた。結論を導かない討論――「ミニ討論」を通して「問題を解決したい」という思いを高め「主体的・対話的で深い学び」へとつながっていくと考えた。
(4)個人による「問題づくり」から「学級の問題」への練り上げ
ここまでの焦点化,思いの高まりを受けて「問題づくり」を行う。
「確かめたいこと,まだよく分からないこと,疑問を書いてみよう」
と指示し,まずは個人の問題づくりを行った。
子どもの見いだした問題は大きく抽象度で分類すると3つだった。
これらに関する問題を学級31人中29人が見いだしていた。個人による「問題づくり」はおおむねできていると評価できるが,このままでは学級全体で解決する問題にはなっていない。
そこで,個人が見いだした問題を板書で共有した後,
「これをできるだけまとめて,みんなで解決していく問題をつくろう」
と話し,子どもたちの意見をまとめて「ものやいろいろな楽器は,ふるえて音が出ているのだろうか」という問題へと練り上げていくことができた。
このように,本実践では
という過程を経て,子どもたちが「自分の見いだした問題」を解決していくという見通しをもつことができた。
なお,この過程は,3年生のこれまでの単元でも同様に行ってきた。この積み重ねを通して,子どもたちの「問題を見いだす力」「主体的に問題解決しようとする態度」を育成することができたと考える。以前3年生を担任した際にも,学年を挙げて「問題の見いだし」の指導に重点を置いて校内研究に取り組んだ。その3年生が6年生になった際に,全国学力・学習状況調査の「問題の見いだし」の設問において,全国平均を5ポイント以上上回る結果が見られた。3年生において「問題の見いだし」に重点を置いた指導を行うことで,子どもたちの理科に対する期待度や楽しみを高め,指導要領の目標にも迫ることができると考える。