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算数

問題を見いだす力を育てる(第6学年「資料の整理」)

宇部市立藤山小学校 木村 将士

1.はじめに

現代社会には多くのデータが溢れている。それらのデータは,自分にとって役立つものばかりではなく,個人の利益のため,見え方を操作されたものも多くある。故に,これからの未来を生きる子どもたちには,情報を正しく読み取り,事象の中から問題を見いだしていく力をつけてほしいと考える。

「データの活用」領域では,統計的探求プロセスである「問題-計画-データ-分析-結論(PPDACサイクル)」が重要視されている。このサイクルで,特に「問題」の部分を大切にしたいと考える。身の周りの事象の中から見いだした問題を改善し,自分自身や周りの環境をよりよいものにしていくことができるからだ。問題には,日常生活の中から見いだす「問題」や,データや結論を分析する中で見いだす「問題」がある。本単元では,特に後者の「問題」について考えていく。得られたデータや結論を多面的に把握したり,批判的に考察したりすることで,「問題」を見いだすことができるであろう。

また,子どもたちの中にある,平均値への見方を変えたいと考えた。子どもたちは5年生までの学習で,代表値の1つとして平均値を学んでいる。平均値は子どもたちの生活の中でも多用されており,平均値が全体の傾向を表す数値として絶対的なものとして捉えている子どもは多い。しかし,子どもが求めているものを表す数値として,平均値は必ずしもふさわしいとは言えない場合がある。場合によっては,中央値や最頻値を用いることが適切なときもある。本実践を通して,平均値や中央値,最頻値のそれぞれのよさや,どのような場面で使用することが適切なのかを子どもたちとともに考えていきたい。

2.本単元の目標

○度数分布を表す表やグラフ,代表値について理解し,それらを用いてデータを多面的に把握したり,批判的に考察したりすることができるようにする。

○情報を正しく読み取り,事象の中から問題を見いだすことができるようにする。

3.本単元における評価規準

知識・技能(知) 思考・判断・表現(思) 主体的に取り組む態度(態)

○代表値の意味や求め方,度数分布を表す表やグラフの特徴及びそれらの用い方を理解している。

○データを多面的に把握したり,批判的に考察したりしている。

○進んで身の周りのデータを考察しようとしている。

4.指導計画(全8時間)

第一次

1分間センスのデータを考察する

学習内容
・ドットプロット,代表値,度数分布表,柱状グラフの理解(知)
・多面的に把握したり,批判的に考察したりすること(思)
・進んでデータを考察する態度(態)

1

1分間の感覚を計測し,表に整理する。

2

1組と2組の1分間センスの記録を比較する。

3

ドットプロットを用いて記録を比較する。

4

1分間との誤差で記録を比較する。

5

1分間センスの1組と2組の記録を,度数分布表と柱状グラフを用いて比較する。

第二次

様々な場面のデータを考察する

学習内容
・代表値の適切な選択(知)
・多面的に把握したり,批判的に考察したりすること(思)

1

昨年のデータを参考にし,今年,たくさんつくるべき靴のサイズを考える。【最頻値のよさ】

2

引いたカードの数字が全体の何番目の大きさになるのか,代表値をもとにして考える。【中央値のよさ】

3

お店のデータをもとに,友達を連れて行きたいお店を考える。(本時)

5.本時案

(1)ねらい
データを多面的に把握したり,批判的に考察したりすることで,「問題」を見いだし,自分なりの判断ができるようにする。

(2)学習過程

学習活動・学習内容 子どもの意識 ○教師の支援

1 代表値をもとに,お店を選ぶ。 (10分)

・平均値,最頻値,中央値による比較

・友達をどのお店に連れて行こうかな。

何を基準にお店を選べばよいのだろう?

・評価の平均は①が3.6,②が3.8だね。

・そりゃあ平均が高い②のお店でしょ。

・でも,前の授業では,平均だけで判断すると,おかしなことになったよね。

・平均だけだと,判断できないな。最頻値や中央値も知りたいな。

・①の最頻値は3,②の最頻値は5だって。

・やっぱり②のお店がよさそうだよ。

・中央値は①が3.5,②が5だって。

〇平均で比べることに対して疑問をもった子どもの考えを取り上げ,その子どもの考えを全体に解釈するように促す。そうすることで,「問題」を見いだそうとすることができるようにする。

・②は最頻値も中央値も5なのに平均は3.8なのか。なんだか変な気がするな。

○平均が高くても,行きたいと思わないドットプロットの形を問う。そうすることで,データの仕組みに目を向けることができるようにする。

2 ドットプロットをもとに,お店を選ぶ。 (35分)

・ドットプロット

・自分なりの判断

・これだと判断できないから,ドットプロットが見たいな。

・うわっ,②のお店は5を選んだ人もたくさんいるけど,1も多いのか。

・平均が高いだけで判断するのはこわいな。

・失敗したくないから①を選ぼうかな。

・もう1つお店があるのだって。③のお店は平均が4.5らしいよ。

・4.5は高いな。それなら③を選ぶよ。

・でも何か怪しい気がするな。ドットプロットを見てみたいな。

・②のお店みたいに5が多くても,1がたくさんいるときかな。

・でも1がたくさんいると,平均は4.5にならないのではないかな。

・うわっ,全部で2人しかいないよ。

・平均だと③がいいと思ったけど,人数が少ない場合もあるのだね。やっぱり私だったら安定している①のお店を選ぶよ。

○データをもとにした自分の考えとその理由を明確にするように促す。そうすることで,他者の考えや,見いだした「問題」を踏まえ,自分の考えを修正したり強化したりできるようにする。

6.授業の実際

〇第一次 「1分間センスの結果を考察する」
1分間センスとは,ストップウォッチを片手にもち,スタートしてから1分間と思ったタイミングでストップし,自分の1分間の感覚を調べるものだ。子どもたちは,授業開始前に黙想をする習慣があり,その黙想時間が1分間であったため,1分間という時間で実践した。1時間目に自分たちの1分間センスを調べ,2時間目に調べたデータを考察した。本実践は6年生の2クラスで行っていたため,2時間目のデータの考察では,1組と2組の結果を比較した。その際,最初に1組と2組の1分間センスの平均値を伝えた。1組の平均値は63.71秒,2組の平均値は63.25秒であった。
2組で実践した際,自分たちのクラスの平均値の方がよかったため,子どもたちから歓声があがった。その後,下のような詳しい結果を提示した。(小数点以下は切り捨てにした。)

以下は詳しい結果を見た2組の子どもたちの反応である。

C:えっ,1組の方がよく見える。
C:1組の方が60秒が多いやん。
C:2組の方がばらばらになっている。
C:なんで,これで2組の方がよくなったん?
C:めっちゃ速い人とめっちゃ遅い人がいるから,平均がよくなってるんじゃないの。

平均値だけで比較すると不十分であると,子どもたちが感じ出した。その後,ある子どもが次のように話した。

C:全部,切り捨てにしたらだめじゃない?
T:どういうこと?
C:だって60.1も60.9も同じ60っておかしくない?60.9は四捨五入したら61じゃない?

子どもが集計の仕方についての問題を見いだした。すばらしい視点であり,すぐに価値づけた。小数点以下は全て切り捨てるという少々粗い集計をしたことが効果的だった。
教師側の本音を言うと,この結果の出し方ではなく,誤差(例えば,59秒と61秒は両方とも誤差は1秒となる。)で比較したほうが,センスが比較しやすいと考えてほしかったが,子どもはそうは考えなかった。(次時には,教師側から誤差のことを提案し,比較してみた。)

〇第二次 1時間目「昨年のデータを参考にし,今年,たくさんつくるべき靴のサイズを考える」【最頻値のよさ】
学習指導要領には,「例えば,ある靴メーカーが,来年,どのようなサイズの靴を多く製造するかを決める場合,今年1年間に売れた靴のサイズの平均値を求め,その平均値のサイズの靴を来年,最も多く製造するようなことはしない。この場合は,最も多く売り上げがあった靴のサイズ,つまり最頻値を用いるのが望ましい。」とある。そこで,下のデータを参考に,今年,どの靴のサイズをたくさん製造すべきかを考える授業を行った。この授業を通して,最頻値を用いるよさについて考えた。
授業の最初に,昨年売れた靴のサイズの平均値を子どもたちに伝えた。平均値は25.2㎝である。何人かの子どもは25.2㎝に近い,25㎝や24.5㎝をたくさん製造すべきと考えたが,何人かの子どもは,何かが怪しいと感じ,ドットプロットを見せてほしいと訴えてきた。授業の中で,「この靴屋はどのような街にあるのか?」「この靴屋の周辺に住んでいる人の足のサイズはどれくらいなのか?」「どれくらいの年齢層に人気のある靴なのか?」などの質問が飛び交った。私がやりたいこととは離れてしまったと感じたが,本質的に考えようとする子どもたちの姿に感心した。

〇第二次 2時間目「引いたカードの数字が全体の何番目の大きさになるのか,代表値をもとにして考える。【中央値のよさ】

上のような15枚のカードを下のように裏返した状態で提示する。次に,38のカードを表にする(子どもたちには偶然を装いながら,意図的に38を表にする。)。そして,この38の数字の大きさが,この15枚の中で何番目に大きいかを子どもに問う。

もちろん,これだけだと子どもは判断できないので,15枚のカードの数字の大きさの平均値がであると伝える。平均値が35と分かった子どもたちは,38は35よりも少し大きいから,真ん中よりも少し上の順番を予想することが多い。しかし,カードを表にしていくと,38の順番が意外に下の方だと気付いていく。大体の順番を知りたいときには,平均値よりも中央値を用いることの方が望ましい。中央値のよさについて考えた。

〇第二次 3時間目「お店のデータをもとに,友達を連れて行きたいお店を考える。」(本時)
実際の授業での板書

7.本実践を終えて

子どもたちは,得られたデータや結論を多面的に把握しようとしたり,批判的に考察しようとしたりすることで,問題を見いだそうしていた。単元を通して,それぞれの代表値のよさや,妥当性のないデータについて考えることを繰り返し行った成果だと考える。子どもたちには,これからも,身の周りにあるあらゆる情報を正しく読み取り,自らの人生を豊かにしていってほしい。

【参考・引用文献】