小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

身近な題材で数学的な考え方を育む
~トーナメントは不公平?~

東大和市立第八小学校 宮澤 大陸

1.はじめに

「算数って楽しいな。」「生活に役立つんだな。」

こんな言葉が児童から出るよう,授業を通じて数学のよさや数学的活動の楽しさを味わわせることが,算数好きな子を増やし,よりよい人生や社会の創り手を育てることにつながると信じている。

そのためには,まず,学習の出発点となる「日常の事象を数理的に捉え,問題を発見する」場面で,児童が問題を「自分事」に捉えることが原動力になると考え,児童にとって身近な生活の場面や社会との関わりを意識した題材から問題を設定することにした。また,問題解決の過程を通して働かせたい数学的な見方・考え方を明確にすることで,数学のよさを味わわせることをねらいとし,本実践を試みた。

2.主張

(1) 教材名

「トーナメントは不公平?」(第6学年)

(2) 日常とのつながり

お楽しみ会や学年レクでは,スポーツ大会を行う機会がある。そこでは,各チームに分かれた後,司会進行の児童から,対戦チームが書かれた「トーナメント表」が提示されることが多い。すると,「うちの対戦相手,優勝候補チームだよ。別の山がよかった。」「すべてのチームと戦ったほうが公平だよ。リーグ戦にしよう。」といった意見が出ることがある。私の学級でもよくあるのだが,だいたい司会か教師が,「時間がないからリーグ戦はできない。」と答える。するとなんとなく,皆うなずく。

でも,本当にそうなの?と,児童にとって身近な事象にダウトをかけることで,自分事の問題になるのではないかと考えた。そして,そこから「トーナメントとリーグは,どのくらい試合数が違うのだろうか。」「トーナメントで,不公平になるチームはいくつあるのか。」といった,算数で解決できる問題が生まれ,児童が主体的に解決を図っていけるよう展開を工夫した。

(3) 教材について

「トーナメントとリーグは,どのくらい試合数が違うのだろうか?」(第1時)
「トーナメントで,不公平になるチームはいくつあるのか?」(第2時)

本教材は,日常の場面で出た上の2つの疑問を元に組み立てた,2時間扱いの学習である。

第1時では,問題解決のためにまずトーナメント表の仕組みや作り方を知る必要が出て,それを元に「8チーム(スポーツ大会)では,トーナメントとリーグでどのくらい試合数が違うか」を調べる。8チームでの結果がはっきりすると,「もっとチームの数が多ければ,どのくらい差が出るのだろう。」など,条件を変えた場合に目を向けて考え,きまりを見つけたり,発展的に考えたりすることが期待できる。

第2時では,「トーナメントで不公平になるチームはいくつあるのか」という疑問から,(優勝チームはどんな形でも勝つと考え)「2位かもしれないチームはいくつ(可能性が)あるか」という問題を設定する。トーナメントで2位になるチームは,決勝で負けたチームだが,「決勝で負けたチームが本当に2番目に強いチームなのか?」と問うことで,焦点化され,算数で解決できる問題が生まれる。

↑破線は勝ち上がり

○は「2位かもチーム」

(例えば右図のように,全5チームでAが優勝した場合の「2位かもチーム」数は,Bと実際の2位Cの2チーム)そして,8チームの場合や,もっと数が多くなった場合を考えたくなる。では,甲子園に出場する全49チームのときの「2位かもチーム」の数を考えよう,というのが本時の主な課題である。

これらの問題解決を通して児童は,日常の事象から疑問を見つけ数理的にとらえ,問題化できるということに気付く。また,それぞれのトーナメント表について,変化する数量の性質を見出したり(「2位かもチーム」数のきまりは特徴的であり,児童にとって面白い),筋道を立てて考えたり,数学的な表現を用いて事象を表現したりして問題解決を図る中で,次に示すような数学的な考え方を経験させることができると考えた。

(4) 働かせたい数学的な見方・考え方

・単純化の考え方

第1時の問題では,8チームでの試合数は数えられるものの,チーム数が増えたとき(全49チームのとき)の,優勝が決まるまでの試合数を考えるときには,トーナメント表を作ることも複雑になり,解決に手間がかかる。そこで,「何かすぐに分かる方法はないか?」という思考がはたらくであろう。そこで,小さな数の場面から順に考えることにより,簡易化を図り,きまりに気付きやすくなる。

また,第2時の問題では,全49チームの「2位かもチーム」数を考えるが,第1時で学んだこの考え方を用いて解決を図っていくことが期待できる。

・帰納的な考え方

第1時では,トーナメントの全試合数,第2時では,「2位かもしれないチーム数」の変わり方について,児童が予想し,トーナメント表を描きながら自力で調べていく。そこで,見つけたきまりが正しいかどうかを確かめるため,チーム数を1つずつ増やしながら,児童は必要なトーナメント表を描き,数えていく。つまり,データを集めながら,正しいきまりを再構築したり検証したりしていく。そしてこのように考え見出したきまりから,問題の答えを導き出す考え方を身に付けさせたい。

3.授業の実際(第2時)

<日常の事象から問題を作る場面>

主な発問と児童の反応 留意点

T:トーナメントは不公平って言っていましたが,本当かな。

C:うん。優勝チームと違う山だったら,もっと勝ち進めるかも。

・児童の疑問から,本時の問題へとつなげるように発問した。

C:決勝まで当たらなければ,2位になれるかもしれないから。

T:なるほど。では,そういう「2位かもしれないチーム」がいくつあるのか分かれば,何か策が立てられそうですね。

  では,一緒に考えてみましょう。今回のお楽しみ会と同じ,8チームで考えられますか。

C:前回みたいに,もうちょっと少ないチーム数から考えたい。

・簡単な場合にして考えていこうとする姿が見られた。【単純化の考え方】

T:では,5チームで考えてみましょう。右のトーナメント表を見て分かるように,優勝チームはA(赤線)です。2位はどこですか。

・5チームのトーナメント表を提示した。

C:決勝で負けたE。

T:そうですね。いつもなら2位は決勝で負けたEですね。でも,BはEより弱いのでしょうか。

C:戦っていないから,分からない。もしかしたら強いかも。

T:Bが2位かもしれない,ということですね。勝ち負けが,相性や運によらないとしたら,CやDはどうですか。

C:もうEに負けてるから,絶対2位にはならない。

T:すると,やはりBとEが残りますね。準優勝のチームが2番目に強いとは限らないということですね。決勝で負けたEと,Bで勝負をすると,本当に強い2位が決まります。

・勝敗は運や体調などで左右されないこととし,余計な条件を捨象した。

T:BとEのようなチームを,「2位かもチーム」と呼ぶことにしましょう。2つのチームに共通することはありますか。

C:どちらも1位Aに負けたチームだ。他のチームには負けていない。

・共通点に着目させることで,きまりに気付かせ,整理しやすくさせた。

T:確かに2チームとも,1位のA以外には負けていないですね。Aよりは弱いことは分かりますが,他のチームより弱いかは分かりませんね。1位に負けたという

同じ立場で優劣がつけられません。1位に負けたチーム,つまり1位と直接戦ったチームが,「2位かもチーム」と言えそうですね。今回は2チームです。

C:5チームの時は,いつも2チームなのかな。

T:どうしてですか。

C:右の山のほうが,勝つのが大変だと思う。

T:なるほど,1位の場所や試合数によって変わってくるという予想ですね。では,1位の場所を変えて数えてみましょう。

C:始めは一番左が1位だったから,隣の左から2番目にしてみる。

C:そこは,回転させると,一番左と同じだよ。

C:CやDの位置だと,「2位かもチーム」は3チームだ。

C:Eの位置は,変わらず2チームだよ。

T:なるほど。では,1位の場所によって,「2位かもチーム」の数が変わったのはなぜでしょうか。

C:1位に負けたチームの数が変わったからだ。

T:よく見つけましたね。すると,5チームの場合,2位かもしれないチームは多くとも3チームあると分かりましたね。

C:やり方が分かったから,自分で調べてみたい。

C:前回みたいにきまりが見つかったら,チーム数が多くてもいけそう。

T:では8チームが分かったら,前回と同じ49チームに挑戦しよう。

・運よく少ないチーム数になったときを考えるのではなく,多くてもの場合で考えることを伝えた。

全49チームのときの「2位かもチーム」の数を考えよう。

・導入では,児童に身近な話題(疑問)をもとに問題作りを丁寧に行ったことで,児童が自分事として問題把握をしていた。

・トーナメント表では,普段優勝チームや準優勝チームにしか目が行かないが,「2位かもしれないチーム」という目の付け所が面白い(教材のよさ)という事後の感想があった。

・「2位かもチーム」の条件がやや複雑で,最初混乱する児童が見られた。

<条件を整理しながら,自力解決する場面>

主な発問と児童の反応 留意点

T:全2チームの場合,「2位かもチーム」の数は,いくつですか。

C:1チーム。というか2位が決まっている。

C:全3チームの時は,試合数が多い場合だから2チームだね。

・前時の学習を生かし,少ないチーム数から順に考える児童を賞賛した。【単純化の考え方】

・トーナメント表をひと目見て分かるよう,1位の道筋を赤で引き,「2位かもチーム」に○を付けるよう伝えた。

T:4チーム以上の時は,前回のように,ハンデがなるべくないように表を描きましょう。多くても,差が1までになるように。

C:全4チームだと,どこを1位にしても同じで,2チームだ。

C:5チームは最初にやったから,6・7チームのときも調べてみよう。

T:8チームについて確かめる前に,予想してみましょう。

・下のようなトーナメント表を掲示し,このような表は考えないことを押さえた。

・多くの児童が7チームまで調べられたところで,自力解決を一度敢えて止め,ここまで調べたことを,右のように黒板にまとめた。

・そして,8チームのときの「2位かもチーム」の数について予想させた。こうすることで,児童は自然に「きまり」を見つけて考えようとする。児童からは,「1が1回,2が2回,3が3回続いているから,次は4になって4回続きそう。」といった,根拠のある予想が出たことを賞賛した。

・この「4」の予想が,この先で裏切られるところが,本教材の面白さの一つである。

<きまりをすすんで見つけ,問題を解決しようとする場面>

主な発問と児童の反応 留意点

C:全8チームの場合は,「2位かもチーム」が3チーム。

C:あれ,予想と違った!おかしいぞ。どんなきまりなのだろう。

C:9チームの場合はどうだろう。調べてみよう。

C:9チームのときは4チームになった。これは何回続くのだろう。

(この後も,10,11…と順に調べたり,児童同士で話し合いながら,きまりを見つけ出そうと考えたりする時間が続いた)

・全9チームまでのトーナメント表と2位かもチームを児童に書いてもらい,黒板に示した。

T:さて。皆で調べて分かったことをまとめていきましょう。全9チームの時から「2位かもチーム」が4チームになりましたが,何チームの時まで4チームが続きましたか。

C:全16チームまで続きました。

T:そうですね。調べた人。調べる前に,予想した人はいますか。

C:はい。全チーム数が2・4・8の次で「2位かもチーム」の数が変わっていたから,8の2倍の全16チームまで4が続いて,次の17チームから変わると考えました。

T:同じように考えた人。では,そのきまりでいくと,5チームは全何チームまで続くのでしょうか。

C:32チーム。確かめました。

T:今日の問題の答えはどうなりますか。

C:全33~64チームの時の「2位かもチーム」が6チームだから,全49チームの時は,6チームになる。

T:きまりを見つけて確かめながら,問題を解決できましたね。この6チームで試合をすれば,2番目に強いチームがはっきりしますね。

・きまりを見つけると,数が多くなっても考えやすいというよさに気付かせる声掛けをした。

C:全部のチーム数が多くても,2番目を決めるための試合数は意外と少ないんだね。これなら,不公平感のあるチームも何とかなりそう。

C:1位以外の48チームで比べ直したり,総当たりのリーグ戦を行ったりするより断然楽かもしれないね。

・データを元に変わり方のきまりを推測したり,正しいかどうか確かめたりする姿を賞賛した。【帰納的な考え方】

・事後の感想では,「一見面倒くさいことや,分かりにくいことも,きまりを見つければ簡単に求められるということがおもしろかった。」といった考え方のよさを感じていた児童が多かった。

・単に答えを出すだけでなく,問題解決の過程できまりを見つけたり,見つけたきまりを使って解決を図ったりする帰納的な考え方の大切さを感じさせることができた。

<本時の学習や,見つけたきまりについて振り返る場面>

主な発問と児童の反応 留意点

T:なぜ,全チーム数が2・4・8…と2倍になるごとに「2位かもチーム」の数が増えていったのでしょうか。

C:チーム数が2,4,8…の時のトーナメント表に注目すると,シードが無いぴったりの状態。そこから,もう1チーム増えてシードがある状態になると,1回多く試合しないと1位になれないチームが出てくるので,そこで「2位かもチーム」が1チーム増える。

・トーナメント表の仕組みから見つけたきまりについて,筋道を立てて説明する姿を賞賛した。

T:なるほど。トーナメントの段数が増えて,1位チームの試合数が増えたから,変わったのですね。最初の条件とつながりましたね。

T:今日の問題を解決するために,よかった考えや,さらに知りたいと思ったことはありますか。

C:少ないチーム数から調べていったので分かりやすかった。

C:表に整理して,全チームと「2位かもチーム」数の関係を考えた。

・学習内容だけでなく,問題解決のために用いた考えや考え方のよさが表出するよう声掛けをした。

C:きまりを見つけて使っていくと無駄を省くことができた。

C:全100チームなど,もっと多いチーム数の場合を考えたい。

T:今回はいつもと違った考え方でトーナメント表を見てみましたが,現実には,優勝が決まった後さらに続けて行っていくことは難しいです。しかし,このように皆さんの日常生活における物事について問題意識をもったり,算数の目で見たりすることで面白い発見がたくさんできそうですね。

・今回の考え方は,トーナメントで1位を決めた後に,2番目に強いチームを決めるための理想的な方法であるが,現実では行うのが難しいことを伝えた。

<板書記録>

4.課題

・身近な題材を扱った問題設定により,児童は意欲的に取り組んだが,データを元にきまりを見つけたり説明したりする後半部分では,思考を促す手立てが十分でなく,つまずく児童が見られた。

・「2位かもチーム」の意味や条件を全体で押さえる過程で時間を使い,児童一人ひとりが思考する時間を十分に取れなかったため,一部の児童の意見のみを取り上げ教師が誘導的に進める部分があった。

・問題発見・解決の過程を通じて,数学的な考え方のよさに気付く様子が児童の発言から見取れたが,その姿をさらに価値付けして,多くの児童が数学の楽しさを味わうことができるよう努めていきたい。

【参考文献】