小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

問いを生み続けようとする子どもの育成~第1学年「大きい数」~

1年 愛媛大学教育学部附属小学校 佐藤 美空

1 学習内容の系統性について

子どもたちは,数の合成・分解や10の補数関係について考えたり,合併や増加,求残,求差の場面を立式したりする学習を進めてきた。本単元のねらいは,(1位数)+(1位数)で繰り上がりのある計算の仕方を理解し,計算できることである。そのために,今まで学習してきた10の補数という考えのよさに気付き,それを基にして繰り上がりのあるたし算の計算の仕方を考えていく。本単元で学習したことは,これから学習する繰り下がりのあるひき算や大きな数の加減計算などの素地となる。そして,第2学年では,十進位取り記数法に基づいて加減の筆算の仕方を考えることにつながる。更には,乗除とその筆算,概算など,様々な学習へと系統的に発展していく。

2 資質・能力の系統性について

算数科の「数と計算」の領域では,計算の仕方を考えたり,その過程を表現したりすることを重視している。本単元では,加数を分解して10の補数を見付け,10のまとまりを作って計算する単位の考えを働かせて,繰り上がりのあるたし算の計算方法を考えていく。学習したことを生かして計算ピラミッドを作る際には,友達と自分の考えの交流の中で「何か秘密はないのか」というように共通点や規則性を見付けようとしたり,「数を変えて作れないか」という類推的な考え方や「ひき算で作れないか」「ピラミッドの段数を増やしてできないか」という発展的な考え方を働かせたりすることができる。本単元以降の学習においても領域の枠を越えて,これらの数学的な見方・考え方を働かせることで,問いを生み続けようとする姿が育っていく。

3 他教科等や日常生活との関連について

国語科「かぞえうた」では,たし算かぞえうたを作る活動を取り入れる。いろいろな助数詞を自ら調べ,それに適した使い方を考えたり,合併の計算を何度も繰り返し音読したりすることで,たし算の習熟を図ることができる。生活科「みんなだいすき かぞくっていいな」では,本単元で学習する内容で問題を作って家庭に持ち帰り,家族に解いてもらったり一緒に問題作りをしたりする。すると,「もっと難しい問題を作って,家族の人に楽しんでもらいたい」という思いが自然に生まれ,学習に意欲的に取り組んだり,学習したことを使って新しい問題作りに励んだりするなど,主体的な学びをする子どもが育つと考える。このように,他教科等や生活の中で繰り上がりのあるたし算を意識させて学習を進めることで,学習内容をより深めることができるとともに,学習したことを遊びや生活の中で生かそうとする態度が育つと考える。

4 単元の展開(全14時間)

場面 子どもの課題意識と主な学習活動 評 価 の 規 準 時間
出合い

どんな式になるのかな。

・繰り上がりのあるたし算の式を考える。

・10の補数を利用した計算方法を見いだす。

・10の補数を利用するよさに気付いている。

追究

さくらんぼ・バナナ作戦で考えよう。

・加数を分解して計算する方法を考える。

・被加数を分解して計算する方法を考える。

・たし算カードの並び方のきまりを見いだす。

・加数,被加数の大小に着目して分解し,10の補数を利用した計算方法を理解している。

・繰り上がりのあるたし算ができている。

・答えが同じになる式を順序よく並べて,きまりを考えようとしている。

振 り 返 り

たし算でどんなことができるかな。

・10の補数を利用した計算方法を使って,課題を解決する。

・10の補数を利用した計算方法を使って,問題とお話を作る。

・繰り上がりのあるたし算の考え方を使って,答えの数から式を求めようとしている。

・繰り上がりのあるたし算が使える生活場面を考え,問題作りやお話作りに取り組もうとしている。

・解決した課題を発展させて,新たな問いを生もうとしている。

5 授業の実際

(1) 「出合い」

第1時では,生活科「あきをみつけた」と関連させ,秋探しに行く人や車の数が増える場面を想起させた。式を問うと,「8+3です」と正しく答えることができたので,たし算にした根拠を問い,合併や増加の考え方を確認した。次に8+3の計算の仕方を考えさせることで,本単元で学習することは繰り上がりのあるたし算であることに気付かせ,解決したい学習課題を設定することができた。
(T:教師,C:児童,教師の指導の工夫

T:どうして,8+3にしたのかな?(発送の源を問う)
C:あとから3台増えたってことは,「ふえるとがっしゃん」だと思ったから。
C:今までより,難しくなっているよ。
T:難しいって,どんなところかな?
C:答えが10より大きくなっているよ。
C:でも簡単にできるよ。
C:8に1増えると9,また1増えると10,また1増えると11になるよ。
T:○○さんは,何が言いたかったのかな?(思考過程の共有化)
C:1ずつ増やして考えているってこと。
C:でも,それだと時間が掛かるし,大変だよ。
T:どうしたいの?
C:速く計算がしたいです。
T:じゃあ,数が大きくなっても速く計算できるように,分かりやすい方法を考えてみましょう。

10のまとまりを作って説明する子ども

第2時では,8+3の計算の仕方を数図ブロックを使って考えさせた。子どもたちは,ブロックを使って10のまとまりを作る操作を通して,計算の手順を確認し,10の補数を利用するよさに気付くことができた。同様に,8+6や9+4,7+4の計算についても,10の補数を利用して解くことができていた。

C:まず,3を2と1に分けます。8に2を足して10。残った1を足して11です。
T:どうして2と1に分けたの?(発送の源を問う)
C:だって,8+2が10になるから。
T:○○さんの計算の仕方を隣の人と確かめてみましょう。(協同的に解決)
C:できたよ。(ペアで伝え合う。)
T:○○さんの考えのいいところは,どこですか?(思考過程の共有化)
C:10のまとまりを作っています。
C:ぱっと見ただけで,10と1で11って分かるからいいです。
C:10のまとまりを作ったら分かりやすいって,前習ったよ。
C:先生,他の問題もやってみたい。

子どもの振り返りノート

(2) 「追究」

第4時では,7+4のブロックを使わない説明の仕方を考えた。「10といくつのひき算のときに使ったさくらんぼ計算が使えるよ」という発表から,「さくらんぼ計算をやってみましょう」と全体へ投げ掛けた。ペアで確かめ合わせ,全体でも再度説明させることで,加数を分解して10の補数を考える計算の仕方の定着を図った。
第6時では,被加数が一定になっている問題(9+□)を考えさせた。この場合は,10の補数を意識して加数を分解することで,今までより速く計算できるようになり喜んでいた。この学習から,10の補数を更に意識して計算できるようになった。

子どもの授業ノート

子どもの振り返りノート

C:今日やった問題,全部9から始まっているよ。
C:全部一緒だから,簡単だね。
T:何が一緒なの?
C:9から始まるときは,さくらんぼを1と何かに分ければいいよ。全部ね。
C:9と1で10のまとまりを作るためだよ。
T:9+□の計算には,秘密が隠れていたんだね。今の考え方を使って,他の秘密を見付けられないかな?
C:8+□もできるよ。9のときと考え方は一緒だよ。
T:一緒ってどういうこと?
C:9のときは,いつも1と何かに分けていたから…。8のときは,いつも2と何かに分ければいいです。

(3) 「振り返り」

今まで学習したことを使ってできそうなことを問うと,「たし算の手紙をもっと書きたい」「さくらんぼ計算大会をやってみたい」「たし算のお話を作りたい」「問題を作って出し合いっこしたい」という子どものつぶやきが出た。そこで,たし算絵本を作ることにした。鬼ごっこや買い物など,生活場面を思い出し,自分の周りにはたし算が多くあることを実感することができた。
第12時には,発展的な内容として,既習事項を使った課題「たし算ピラミッド」を取り入れた。その仕組みを子どもたちに見付けさせることで,解いてみたいという意欲を高めた。よい考え方や解き方を全体で共有することで,順序立てて求めるよさに気付かせ,「分かる」「できそう」「やってみたい」という算数の楽しさを味わうことができるようにした。

T:数が書かれていますね。何か秘密があるのかな。
C:下の段から2と5を足して7,5と3で8,最後にその7と8を足して上の段が15になっている。
T:○○さんの言いたいことは分かりますか?(思考過程の共有化)
C:分かるよ。下からたし算をしているってこと。
T:なるほど。他に秘密はありますか?
C:15を7と8に分けて,7を2と5に分けて,8を5と3に分けているよ。
C:さくらんぼ計算に似ているね。
T:たし算のピラミッドなんて,すごいね。
C:(口々に)作ったことあるよ。作りたい。作れるよ!
T:じゃあ,作ってみましょう。たし算ピラミッドを作れそうかの自信点は,どれくらいかな?
C:4点(半数以上) 3点(1/3程度) 2点(0人) 1点(0人)
T:作るとき,どんなことに気を付けたらピラミッドができそうかな?
C:もし,一番下が10と9と1だったら,次が19と10になるからできない。
T:どうしてそう思うの?(発送の源を問う)
C:たし算にはなるけど,習っていない大きなたし算になっちゃうから難しいよ。
C:習ったところまででピラミッドを作ればいいと思う。答えは20までだね。
C:一番上は,たし算の答えにならないといけないよ。
T:20は入れてもいいんだね。じゃあ,1はどうかな?
C:だめだよ。一番小さい1だと,何をたしても1にならないから。
C:2もだめだよ。一番下に入れる数がないからね。

仕組みを説明する子ども


T:今日の学習を振り返ってみましょう。どんなことができましたか?(思考過程の振り返り)
C:20までのたし算がちゃんとできてうれしい。
T:今まで習ったことがしっかりできているんですね。すごい。どうやったら上手くいきましたか?
C:下の段は小さい数を入れるといいです。
C:上から順番に数を分けていくとできました。
T:次に考えてみたいことはありますか?(問いを生むきっかけ)
C:これを進化させるなら,段の数を増やすといいよ。
C:ひき算でも作ってみたい。
C:もっと大きい数の30とか100とかで作りたい。

第13時には,「たし算ピラミッドの問題を出したい」,友達や先生,家族に「解いてもらいたい」という子どもの思いを受けて,間違い探しや穴埋め形式のたし算ピラミッドを作ることにした。「下から順番にたし算していくと,2段目の数が何もなかったら面白いな」「上から数を分けて考えると,一番上を難しい数にしたら楽しいかもしれないよ」など,順序立てて考えながら,楽しんで活動に取り組むことができた。

子どもが書いた学級担任への手紙

6 成果と課題及び次年度の実施に向けて

○ 単位の考えにつながる10のまとまりを意識させ,半具体物を操作させたり図に表させたりすることで,10の補数関係を使って簡単に計算することができた。

○ 課題への自信点が低い子どもを把握し,意識的に声掛けをしたり,友達と課題解決できる場を設けたりすることができた。

○ 子どもの考えを問い返すことで,見えていなかった思考過程や考えの根拠などを明らかにし,それをつなげて積み上げていくことができた。それが土台となって新たな問いを生み出すことにつながったのであろう。

● たし算ピラミッドを提示したときに,たし算になっていることに気付けなかった子どももいた。まず1段目の数を提示し,2段目にはどんな数が入ると思うかを予想させたり,どうしてそう思うのか発表させたりすれば,より多くの子どもが課題を的確に把握し,主体的に課題解決に取り組んだり,「自分もたし算ピラミッドを作りたい」という思いを持ったりすることができたであろう。

☆ 数を順番に出したり瞬間的に示したりするなど,課題の提示の仕方を工夫することで,より多くの子どもの興味や関心を高めるとともに,課題解決への意欲をかきたてられるような授業作りに努める。

☆ 問いを生み続けようとする子どもの姿を引き出す教師の発問や問い返しを,類型化したり統合したりするなどの検証を続け,実践していく。それらをより質の高いものにすることで,更に数学的な見方・考え方を働かせて物事を論理的に考え,表現できる子どもの育成を目指す。