子どもたちが数学的表現を用いて問題解決を図ろうとする際,数学的表現はどのような意図をもって活用されているだろうか。例えば,「テープ図」を用いる際には,単元の中において,繰り返し活用しながら自分のものにしていくような姿も見られるだろう。その「テープ図」を用いる姿は果たして,他の単元では見られることはあるだろうか。当然,他の単元においては,連続量のイメージを伴う「テープ図」が使いにくい場合もあるだろう。しかし,他の単元での学習中に「あの時に使ったテープ図を用いると考えられるかもしれない」と振り返ることができる姿があれば,きっとそれは前回学習したことと,今,目の前にある事象との共通点を見いだすことができたからこそ出てくる発想なのではないかと考える。このような瞬間を生み出し,これから先の様々な単元でこれまで働かせてきた数学的な見方・考え方を適用し続ける子どもたちを育成したい。この姿こそ,現在,中央教育審議会で議論されている「統合的な理解」や「総合的な発揮」につながる学びであると考える。
以上の姿を目指すべく,本実践では,「単元間デザイン」という言葉を用いている。これは,単元と単元の間をつなぐための手立てである。教師がその意識をもって教材研究を行い,子どもたちと関わることによって,その意識が子どもたちの中にも浸透してくだろう。今回は,「単元間デザイン」によって,単元関係なく比例の見方を自在に働かせる実際の姿を提案したい。
① 教材研究の視点
それぞれの単元において,子どもたちが考えるための,または友達に説明するための数学的表現が様々に存在する。その際に各単元でよく用いられている数学的表現が存在する。例えば,小数のかけ算やわり算では数直線の図等,逆に比例では初めに表が扱われている。しかし,単元と単元をつなげて見てみると,単元配列では,基本的に比例が先に来るため,比例の終盤にかけて,小数のかけ算・わり算で用いる数直線の図へとつながる構造になっている。このような単元と単元をつなぐ数学的表現に着目することがまずは大事だと考える。さらにどのような事象を取り扱っているのかにも着目しておく必要がある。比例関係が学級の中で了解されている事象を小数のかけ算でも同様に扱っていることを意識すると,比例のイメージを小数のかけ算・わり算の学習に適用できるようになる。上記のように,単元と単元をつなぐ数学的表現や事象が何なのかに着目しながら教材研究することで,教師が単元間の意識を強くもちながら,子どもたちが働かせる見方・考え方を単元間の視点から見取ることが可能になる。
② 子どもたちが用いる数学的表現のよさを実感できるようにする
数直線の図についてはその描き方を教師が教えても,子どもたちにとってはよさがわからないため他の事象にも適用する意識が芽生える事は難しい。そこで,その数直線の図につながる表現を子どもたちから引き出し,その表現と数直線の図がつながる瞬間を子どもたちが感じることが大切である。つながる表現とは,数直線の図だと表やメモリが細かくついた数直線である。今回扱う数直線の図が抽象的な表現であるとすると,これの具体的な表現が表やメモリが細かくついた数直線となる。このように理解のしやすい具体的な表現から,考えをより簡潔に表しやすい抽象的な表現へとつなげながら,徐々にそのよさを実感していくのである。またつなげるだけでも,すべての子どもたちがよさを実感する事は難しいだろう。ここで必要になることが「一度使ってみる」ことである。よりよい表現が出てきた際に,一度それを用いて考えてみることで,そのよさが改めて実感できる機会となるだろう。さらに,ここで感じたよさを振り返りの時間で言語化してみることも大切である。このように,様々な機会を用いてアウトプットすることでよさがじわじわと浸透していくのである。そして,当たり前のように使えるレベルへと上げていきたい。そこで大切にした手立ては,継続的な見取りと価値付けである。すべての子どもたちが他の単元に移った際に,常にずっとその数学的表現を用い続ける事は難しい。しかし,事象同士が類似しているならば,同じように,数直線の図を活用して解決しようとする子が学級の中に現れるだろう。その姿を教師が見取り,価値付けを行っていく。このような手立てを繰り返すことで,子どもたちにとって共通点を見いだすことが出来る事象が増加し,同じようにこれまでの見方・考え方を適用させて解決することができる問題が増えていくと考える。このように,1つの単元だけでなく単元と単元の間でも,数学的表現のよさを実感させて,使えるレベルへと上げていくのである。
単元間デザインを今まで紹介してきた。ここで比例の単元と小数のかけ算,小数のわり算の単元を全て紹介することは難しいため,①数直線の図との出合い(比例の単元の終盤),②小数のかけ算の問題に対し,数直線の図を適用する場面(小数のかけ算の単元の序盤),③数直線の図を活用することで新たな計算方法を見いだす場面(小数のわり算の単元の中盤)を中心に紹介する。
①数直線の図との出合い(比例の単元の終盤)
この次の時間は,小数のかけ算の1時間目となる。その時間と同じような課題提示の仕方で始めることを意識した。そのため,「1メートルの値段が80円のリボンがあります。長さ□メートル」で,問題文を途中で切る提示方法を採用した。そこから子どもたちは値段を△円とすることで,比例していると考える姿があった。そして,単元のこれまでの学習の通り,数学的表現を用いて比例関係を確かめる活動へと進んでいった。
まずはこれまでの学習で活用してきた表の考え方を黒板に書いてもらった。ここでは表から横の関係や縦の関係を見いだしながら比例の意味に基づいて説明をする様子が見られた。次に,真ん中にある1本の線分図を描いている子がいたため,その子の考えをみんなに確認した。(真ん中の白色の線分図)私は,上の表とその線分図の同じ所へと目を向けさせていった。先程の表で見いだした縦の関係がそのままこの線分図では表されていることになる。表だけだと捉えにくかった「1メートルあたり80円」が,線分図では一目でわかることを確認した。そして,「この表と線分図が1つになったような図を紹介するね」と私から言葉をかけ,黒板中央下の方にある数直線の図を紹介した。(真ん中の黄色の線分図)この図を描く際に,全部のメモリを描く必要がなく,スキップすることができることも確認した。この図を子どもたちは「線路図」と名付けていた。最後に,□を36メートルと伝え,値段がいくらになるのかを子どもたちに問うた。その際に「線路図を使って考えられるかな?」とも付け足した。その結果,多くの子たちが今回の問題の状況を線分図に表しながら考える姿が見られていた。そして,黒板右下にあるような表現が出てきた。本来は1メートルと36メートルの部分だけ描いている図のみを共有すればよかったが,その下は1メートルと9メートルと36メートルの部分も描くことで,2回のかけ算(矢印2つ分)を工夫して表現していたため共有することにした。(この考えが後の③にもつながっていくことになる)
上の写真はこの時間の1人の振り返りである。本校の算数科では振り返りの時間にこのような「算数図日記」を活用している。これは,図等の数学的表現をかき込めるスペースと題名書くところ,文章を書く場所と分かれている。この時間に働かせた数学的な見方・考え方を日記調にすることで試行錯誤を含めて,時系列に書くことができるようにしている。このようにして,働かせた数学的な見方・考え方を情意面も含めながらまとめることで,この時間や単元における数学的価値として整理することができた。今回はここに新たに出てきた線路図(比例のときに使える数を線として,比例数直線にも伝えている)を含めて,省略しながら描くことで考えやすくなることを見いだす姿が見られていた。
②小数のかけ算の問題に対し,数直線の図を適用する場面(小数のかけ算の単元の序盤)
小数のかけ算の学習に入っても,黒板左上の問題文にある「1メートルが180グラムのワイヤーがあります」という記述だけで,「これも比例しているよ」という発言が自然と見られるようになってきた。子どもたちにとって比例しているというキーワードが来ると,今回も線路図が活用することができるのではないかと見通しを立てることができるようになってきていた。この180×1.6の積を求める際にも,様々な計算方法が表出したが,どうしてそのような計算方法で答えを求めることができるのかについて,この線路図をもとにして説明する姿が見られた。例えば,1メートルの時は180グラムであるため,被乗数と乗数の両方ともに16をかけると,16メートルの時に2880グラムになるということを見いだし,そこから10でわることでようやく1.6メートルの時の答えになることを説明する姿があった。このように式を整数にして積を求めた際,積の位を調整してあげる必要があることを,線路図と式を交互に結びつけながら説明していた。(熊本弁で「ドアを閉める」ときに用いる「あとぜき」から計算方法が名付けられた)
線路図を使った説明によって,ある程度計算の意味に対しての理解が深まった状態で次の問題を提示した。次の問題は黒板の真ん中にある「1メートルの重さが2.14キログラムのパイプがある」という事象である。この問題は,先程の問題と異なり被乗数と乗数の両方を整数に戻す必要がある。先ほども用いた考えを基にして試行錯誤を繰り返す様子が見られていた。右側にあるかけ算の筆算に関しては,まだ本単元において取り扱っていない。これまでの学習経験から筆算の途中の過程に着目し,それぞれ100倍と10倍していることから得られた積も1000で割る必要があり,それをそのまま筆算の考えに生かすことができることに気付く姿が見られていた。さらに,その計算の様子を改めて自分のノートの線路図にまとめる姿が見られていたので,黒板にその図を描き共有を行った。
③数直線の図を活用することで新たな計算方法を見いだす場面(小数のわり算の単元の中盤)
この前の時間の段階で,小数のわり算の事象と出合っているのだが,その際は「これも比例しているのかな」という見方が表出していた。この見方を共有することで,今回も数直線の図を用いて考える姿も見られていた。そして,かけ算の時と同様に被除数と除数を整数にして計算をすると商が求められるということを見いだしていた。ここで,比例関係を基にした発想が出てきた。それは,10倍や100倍だけでなく,同じ数ずつかけても,その計算の結果が変わらないのならば,同じ数で割ってもよいのではないかというアイディアである。これが黒板の写真,左下の考えである。両方とも8で割ることで計算がしやすいわり算へと変換する姿が見られていた。この考えについて,すぐにはそのよさが共感することが難しい様子もあった。そこで,なぜこれが成り立つのかをその右側の線路図を用いて説明することで共有を行った。その際にも,「これは比例しているからこの考え方ができる」と説明する様子もあった。この後,別の問題を提示した際には,この計算方法はうまく適用できない数の組み合わせであったため,筆算の考えにも価値を置く姿が見られていた。しかし,被除数と除数を同じ数でわる方法に関して,とても価値を感じている子も多くいた。その理由としては,この後の時間においてもこの方法を活用して,一度簡単な計算式にした後に計算を試みる姿が多く見られていたからである。比例関係を基にして自ら新たな計算方法を生み出し,線路図を用いてその方法を確かめた上で一度計算してみることでそのよさを実感する姿があった。だからこそこの計算方法は,子どもたちにとって解決方法の大切な手段となっていた。
ここで,1人の子の振り返りを取り上げる。この子がまとめている「わるわる法」とは,被除数と除数の両方とも10倍や100倍するのではなく,同じ数で割るという方法を適用してみた考えである。ここでは,÷8をするだけでなく,自分で÷2まですることで商を求めようとする姿が見られていた。これは,友達の発想をもとに,自分でもう一度試してみた結果,この考え方のよさを実感している姿なのではないかと考える。
【成果】
【課題】
【参考文献】