小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

子どもの「?」「!」でつながる単元デザイン 
~学級で育つ「自立した学び手」~
第2学年 「三角形と四角形」の実践より

島根大学教育学部附属義務教育学校 中尾 祐子

1.はじめに:自律と協働が生む「自立した学び手」

令和7年9月5日,中央教育審議会 教育課程企画特別部会において「論点整理(素案)」が公表された。そこでは,次期学習指導要領に向けた検討の基盤として,「生涯にわたって主体的に学び続け,多様な他者と協働しながら,自らの人生を舵取りすることができる,民主的で持続可能な社会の創り手」の育成を目指すことが示されている。[1]
これは「自立した学び手」と端的に表現でき,「協働性」と「自律性」という二軸が互いに補い合いながら育まれるものである。【図1】

【図1:自立した学び手】

本実践は,子どもが自らの学びを創り出し自立した学び手へと成長していく過程を記録したものである。教師が全てを導くのではなく,子ども自身が学びを方向づけ,仲間とともに問いを深めていく環境をつくることこそが,これからの授業づくりの鍵になると考える。

2.子どもの「?」「!」を起点とした単元デザイン

(1) 知識の再構成を促す「往還する」デザイン

探究的な学びは,教師の手を離れたときにこそ真価を発揮する。教師が毎時間新しい課題を提示する一方向的な授業【図2】に対し,本単元では,問いが問いを生むように学びが有機的につながっていくよう「?」や「!」を起点に単元を通して往還できるようにデザインした【図3】。

【図2:単元イメージA】

【図3:単元イメージB】

この往還的なデザインは,子どもの学びを次のような探究的な姿へと導く。

(2)単元目標(全10時間)

観点 目標
知識及び技能 三角形や四角形,及び,直角,長方形,正方形,直角三角形の意味や性質を理解し,構成することができる。
思考力,判断力,表現力等 構成要素に着目して,三角形や四角形の構成の仕方を考察するとともに,それらの特徴や性質を捉えることができる。
学びに向かう力,人間性等 三角形や四角形の考察に進んで関わり,構成要素に着目することのよさに気付き,生活や学習に活用しようとする態度を養う。

3.実践の展開と子どもの学びの変容

授業中の関わりから見取れる子どもの変容もたくさんあったが,本章ではノートの記録から読み取ることができる子どもの変容に絞って紹介する。

(1)第1時:「!」や「?」の創発

棒で囲んで動物の家を作る活動【図4】では,定規を使って直線を引くという既習を活用できる課題を設定した。授業中は,子どもの「!」や「?」に丁寧に関わるとともに,学びが広がるよう設計した。

【図4:啓林館「わくわく算数2下」P.133)】[3]

ノート①

ノート②

ノート③

ノート④

ノート⑤

ノート⑥

ノート⑦

(2)第2時・第3時:定義の必要性の実感と構成要素への着目

第1時に表れた仲間分けのアイディアにそれぞれが取り組むとゴリラの疑問と再会することで,「定義があれば仲間分けができる」という気付きにつながった。(ノート⑧⑨)

ノート⑧

ノート⑨

ノート⑩

ノート⑪

写真①

写真②

(3)第4時~第7時:問いの往還による概念の深化

生まれた問いが,単元中盤の概念学習に再登場し,子どもの学びを駆動した。

ノート⑫

ノート⑬

ノート⑭

(4)第6時~第10時:探究心の広がりと学びの統合

作図や構成活動では,「本当に正方形や長方形がかけているのかたしかめよう」と児童自らめあてを加えたり「ぜんぶ正方形にするなら」と児童自らめあてを再設定するなど,探究心が深まった。(ノート⑮⑯)

ノート⑮

ノート⑯

ノート⑰

ノート⑱

ノート⑲

ノート⑳

4.考察と今後の展望:学びの意味を自ら創る子どもたち

(1)実践の成果

本実践は,教師が一方的に知識を伝達するのではなく,子どもの「?」や「!」(問いや気付き)を起点として学びが展開することで,子どもの能動性をいかすことで自らの学びを豊かに創り出す子どもの姿がたくさん見られた。
導入の「動物を棒で囲む」というシンプルな操作活動は,子どもの思考と観察を活性化させ,図形の構成要素に着目する多様な問いや気付きを自然に引き出した。この自らの体験に基づいた問いが,単なる用語の暗記ではなく,図形の本質的な概念形成へと向かう強い動機づけとなったと言える。
また,「往還する単元デザイン」により,導入で生まれた問いや発見や願いが,単元全体を通して継続的に活用され,深化していく様子が見られた。この「問いがつながる」,「発見が積み重なる」学びの連続性は,子どもが自ら学習に意味づけを行い,探究的な姿勢を維持する上で非常に効果的だった。一人ひとりの気付きを対話の中で共有し,比較検討することで,学びの多様性が学級全体の理解を豊かにする協働的な学びも実現した。

(2)今後の展望と課題:「自立した学び手」の育成

本実践を通して見られた,自分の疑問を起点に学びを進める「自立した学び手」の姿は,これからの時代に求められる資質・能力の基盤となる。
引き続き,この「問いや気づきを尊重する授業文化」を学級に定着させることが,教師としての役割の一つである。そのためには,単元の設計を「指導の流れ」から「子どもの学びの流れ」へと根本的に再構成する必要がある。具体的には,授業の中で子どもの問いを精緻化し,次の学習課題へと転換していく教師の指導技術の向上が不可欠だと考える。
また,教科横断的な視点も取り入れ,問いが教科の枠を超えてつながるような学習機会を設定することで,子どもたちがより広い視野で学びの意味を構築し,探究を継続する力を育んでいきたいと考える。どの子も安心して自分の思いや考えを表現し,「問い」を学びの中心に置く授業づくりを継続的に追究していく。

【引用・参考文献】