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算数

算数科実践授業「速さ」(5年生)
~単元導入で気付かせたい3つのこと~

5年品川区立品川学園 平野 正隆

1.はじめに

グローバル化や人工知能AIなどの技術革新によって,予測困難な時代が訪れています。そんな時代の中で,算数で身に付けた力を生きて働かせるためには,必要な情報を自ら集めたり,選んだりする力と,主体的・対話的に問題解決に取組む姿勢が不可欠です。5年生「速さ」の実践を例に,生きて働かせる力を育てる算数の授業展開について考えていこうと思います。

【資料1 指導案(本時の授業展開)】

2.授業展開

(1)単元導入で気付かせたい3つのこと

「速さ」の学習,第一時の単元導入場面で,子どもたちに気付かせたいことが3つあります。特に①は「速さ」の導入において最も大切だと言っても過言ではありません。

【課題把握】

速さを調べるには「時間」「道のり」が必要であること。

【課題把握】

「時間」か「道のり」のどちらかがそろっていれば,速さは比べられること。

【自力解決・検討】

「時間」「道のり」どちらもそろっていないのなら,どちらかを計算してそろえれば比べられること。

(2)「時間」「道のり」の必要性に気付かせるには

算数の授業を通して学ぶのは,算数の問題を解く力だけではありません。問題を解決するためには,どんな情報が必要で,どうすればその情報を得られるかを考えることも大切です。最初から「時間」「道のり」を提示してしまえば,それらの情報が「速さ」を求めるのに必要だと気付く機会を失ってしまいます。では,どのように展開すれば,そこに気付くような授業を展開できるのでしょうか。

私の実践では映像教材を作成しました。いつも見慣れた校庭で,3人の先生が別々に走った映像です。A先生とB先生では,同じ道のり(距離)で,かかった時間が違います。B先生とC先生では,同じ時間ですが,走った道のりが違います。

映像を作成する際,ぴったりの時間に走るのはなかなか難しいので,微調整は映像編集で行います。また,道のりの違いに気付かせるため,スタート地点をそろえつつ,C先生だけゴールの位置を変えます。スタートやゴール地点には,普段から見慣れてる朝礼台やサッカーゴールが映り込むようにします。そうすれば,ゴール地点の位置の違いに気付きやすくなります。

(3)映像を見た反応は

気付いたことを話し合うなかで,道のりや時間の違いや必要性に気付き始めます。

「絶対,○○先生の方が速いよ」

「○○先生はなんか遅かった気がする」

「足の回転が○○先生は速かったように見えた」

このように,最初は感覚的に速さを語っていた子どもたちも,次第に具体性が出てきます。

「何秒か計りたいので,ストップウォッチを貸してください」

「なんか○○先生だけ距離が長かったような気がする」

「ゴール地点が違ったような。もう一度,映像を見せてください」

などと,「道のり」「時間」の必要性に迫り始めます。この段階に来たら,ストップウォッチを渡して,もう一度映像を見せます。

「計ったら,○○先生は,◯秒だったよ」

「やっぱり○○先生は長い距離を走ってたよ」

「何メートル走ったのか教えてください」

ここまで来れば,速さの導入場面で大切な“速さを調べるには「時間」「道のり」が必要であること”に気付いたといえます。

(4)「時間」か「道のり」をそろえれば

ここで気付いてほしいことは,以下のようなことです。

  • ①「A先生とB先生では,同じ道のりなのに時間が短いA先生の方が速い」
  • ②「C先生とB先生では,同じ時間なのに道のりが長いC先生の方が速い」
  • ③「A先生とC先生では,道のりも時間も違うので,このままでは比べられない」

①の場合は数字が小さいほうが「速い」となるのに対し,②の場合は数字が大きいほうが「速い」となるため,子どもが混乱しやすい場面です。黒板に書き記しておき,今後の課題解決の手立てとなるようにします。

さらに,A先生とC先生は,「時間」「道のり」どちらもそろっていないから,このままでは比べられないことに気付かせておきます。

(5)そろっていないのなら,計算してそろえれば

単位量や公倍数などの考えを用いて,時間か道のりのどちらかをそろえると,速さを比べられることを見出します。自力解決の時間帯であっても,いつでも班内で相談していいことにしています。班内で互いの考えを伝え合うことで,新たな考え(解法)を知ったり,表現の違いを理解したり,説明の練習をしたりすることができます。

全体検討の段階では,そろえ方には様々な方法があることと,それらが分類分けできることに気付かせます。そのため,考え方の相違点・共通点を話し合い,「そろえているのは道のりなのか,時間なのか」「そろえ方は,単位量なのか公倍数なのか」などが明確になるように,下の板書のように整理しながらまとめていきました。

時間をそろえる 道のりをそろえる
最小公倍数でそろえる

時間を4秒と5秒の最小公倍数20秒にそろえて考えました。

A先生 100m 20秒
C先生 120m 20秒

同じ時間なのに道のりが長いC先生の方が速いことが分かります。

道のりを20mと30mの最小公倍数60mにそろえて考えました。

A先生 60m 12秒
C先生 60m 10秒

同じ道のりなのに時間が短いC先生の方が速いことが分かります。

単位量でそろえる

時間を単位量あたり(1秒)でそろえて考えました。

A先生 5m 1秒
C先生 6m 1秒

同じ時間なのに道のりが長いC先生の方が速いことが分かります。

道のりを単位量あたり(1m)でそろえて考えました。

A先生 1m 0.2秒
C先生 1m 0.16…秒

同じ道のりなのに時間が短いC先生の方が速いことが分かります。

3.まとめ

必要な情報だけが提示され,その処理をすればいいような問題では,算数で学んだことを生きて働かせる力にはなりません。算数の学習を通して,問題解決に必要な情報を自ら集めたり,選んだりする経験をさせていきたいと考えています。また協働的に学び合うことを通して,新たなことに気付いたり,新たな考え(解法)を知ったり,良い表現方法を学んだりすることが大切だと思っています。

【資料2 学び合いの取組】