私はTOEICのスコアを持っているわけでもなければ,英検を受けたこともなく,英語力に自信があるわけでもない。また,外国語教育を専門的に学んできたわけでもない,ごく普通の小学校教員である。それでも,少しでも「よい授業をしたい」と教材研究をし,自分なりに工夫してきた。しかし,授業を繰り返す中で,どうしてもモヤモヤとした課題意識が消えずに残っていた。子どもの学びをきちんと見取れているのだろうか。子どもに本当に力がついているのだろうか。子ども同士の英語でのコミュニケーションは,果たして成立しているのだろうか。
そんな私が,学年(6年生)の外国語科の教科担任を務めることになった。学年全体の授業を担う以上,「子どもがコミュニケーションをする上で活用できる基礎的な力を高めたい」「子どもが自分の考えや気持ちを伝え合える授業をしたい」そんな授業を実現したいという思いがより膨らんできた。この思いを実現するために,自分の授業を根本から見直すことにした。本稿では,英語が得意ではない教員が,自分の数少ない強みを生かして取り組んだ外国語科の授業改善の実践を紹介する。
授業づくりに先立ち,自分がこれまで行ってきた外国語科の授業を振り返った。私の授業は「①スモールトーク → ②語彙のインプット(ゲーム・チャンツ等)→ ③メインアクティビティ(コミュニケーション活動)→ ④振り返り」という,オーソドックスな流れだった。しかし,それぞれの場面に課題を感じていた。
①のスモールトークは,単元の新出語彙や表現を使って展開することが多い。学習の見通しをもたせ,興味・関心を喚起する重要な場面だが,英語が苦手な指導者にとっては負担感があった。
②のゲームやチャンツは児童に人気の活動だが,その中で児童一人一人が語彙や表現を習得できたかどうかを確かめることは難しいと感じた。
③のメインアクティビティは,コミュニケーションの素地を養う上で最も大事な場面である。しかし,②で語彙や表現を十分に習得しないままこの活動を迎える児童が少なくなく,コミュニケーションが成立していないペアやグループが見られた。そうならないように②に時間をかけると,今度は③の時間が足りなくなる。結果として,インプット偏重の授業になりがちだった。
④の振り返りは「とてもできた・できた・あまりできなかった・できなかった」といった自己評価にとどまることが多く,児童の伸びやつまずきを適切に見取れているとは言い難かった。
こうした課題を抱えたまま,授業前日には「盛り上がるメインアクティビティは何にしよう」「スモールトークを考えなければ」「インプット活動は歌かチャンツかゲームか」と悩む夜を繰り返していた。
では,どんな授業をつくっていくか。考えた末,自分の「得意」を生かすことにした。私はこれまで算数科や社会科などで,自由進度学習をはじめとする自己調整学習に取り組んできた。自己調整学習とは,学習者が自分なりに目標を立て,課題や学び方を自分で判断し,学習の途中で自分をモニターして,うまくいかなければ調整し,結果を振り返って次に生かす,というサイクルを回す学びである。また,ICTを活用した授業づくりも継続してきた。
画像1 ブレンディッド・ラーニングの概念図(角谷 2020)より引用
そこで,「児童が自己調整力を発揮しながら自分のペースで学ぶ授業」「ICTを活用した授業」という自分らしさに,本校の研究主題である「児童が協働的に学ぶ授業」を掛け合わせた授業を模索した。文献や実践を調べる中で出会ったのが,角谷(2020)の提唱する外国語科における「ブレンディッド・ラーニング」である。これは,一斉指導・個別学習(e-learning)・ペア/グループ学習を往還しながら学ぶ学習スタイルであり,児童に学びを委ねる場面を設けつつも,一斉指導による指導・評価をしっかりと位置付けている点が特徴である。まさに自分の目指す授業像と重なると感じ,挑戦することにした。
(1)単元の基本の流れ
どの単元も,次の流れを基本として6〜7時間で構成した。単元のゴールは「指導者とやり取りをしたり発表したりするパフォーマンス課題」である。
①教師のお手本動画を見る(めあて・ルーブリックづくり) ②動画教材などで繰り返し練習する ③教師とのミニパフォーマンスに挑戦する(やり取り・発表) ④②と③を繰り返す ⑤ベストパフォーマンスを提出し,単元を振り返る
例えば6年生の「行ってみたい国を紹介する」単元では,「旅行会社の店員になって,お客さんにおすすめの国を紹介する」というパフォーマンス課題を設定した。以下,この学習スタイルを支える手立てを紹介する。
(2)手立て1 ポータルサイトによる学習環境づくり
画像2 ポータルサイトのトップ画面
児童が自分のペースで学習を進めるためには,必要な教材に自分でアクセスできる環境が欠かせない。そこで,動画教材,デジタル教科書,ピクチャーカード,各種リンク,その他の資料を一つに集約したポータルサイトを作成した。児童はこのサイトにアクセスすれば,学習がおおむね完結できる。単元ごとにページを設け,パフォーマンス課題,レベル別のお手本動画,新出表現の練習動画などを配置している。
他にも,授業支援アプリで音声付きのピクチャーカードを参照できるようにしたり,Kahoot!の一人プレイ用リンクを用意したりもした。
(3)手立て2 動画教材による反復練習
画像3 レベル別のお手本動画
単元の導入では,一斉授業の形で,指導者が自作したお手本動画を児童と視聴する。お手本動画は,単元のパフォーマンス課題を指導者自身が実演したもので,レベル1〜3の3段階で用意した。基本的には私一人で出演しているが,「行ってみたい国を紹介する」単元は店員と客のやり取りという設定だったため,他学年の先生に客役として出演してもらった。レベル3は評価Aに相当する十分なパフォーマンス,レベル2は9割程度の児童に達成してほしい評価B相当,レベル1は不十分な点が残る評価C相当のパフォーマンスである。
初めは,あえてお手本としては明らかに不十分なレベル1の動画を見せる。「どこを直したらもっとよくなるかな」と改善点を話し合ったり,気を付けたい点を出し合ったりしながら,児童とともにルーブリックをつくっていく。単元の学びの方向性を児童自身がつかむ,大事な場面である。
画像4 新出表現の練習のための動画
また,お手本動画とは別に,単元の新出表現を練習するための動画も撮影した。例えば「行ってみたい国を紹介する」単元であれば,"Where do you want to go? → I want to go to 〜." "In 〜, you can 〜." といった基本表現を,画面に文字や国旗を示しながら指導者が説明する動画である。児童はこの動画を繰り返し視聴して練習することができる。分からなくなったら動画に戻る,聞き取れるまで何度も再生する,といった学び方が可能になり,児童が繰り返し英語に触れる環境をつくることができた。
(4)手立て3 ルーブリック&レーダーチャート
この学習スタイルの心臓部といえるのが,ルーブリックと,それに対応したレーダーチャート型の評価シートである。
ルーブリック(Can-doリスト)は「内容について」と「見た目について」の2つに大きく分けている。「内容について」は単元の学習内容に関する達成基準で,指導者から児童に示すことが多い。一方「見た目について」は,話し方や聞き方,相手への伝え方といった,主に非言語的なコミュニケーションに関する基準で,前述のレベル1のお手本動画を見ながら児童とともにつくる。児童はこのルーブリックを基準に,自己評価しながら学習を進めていく。
レーダーチャートは「単元の新出表現」「伝える工夫」「相手を見て」「表情・ジェスチャー」「英語らしい発音」の項目からなり,ルーブリックと対応している。指導者がミニパフォーマンスを評価する際に使い,挑戦した児童にその場で記入して返し,簡単なアドバイスを添える。児童は自分の達成状況を視覚的に確認し,次の練習の調整に生かすことができる。
画像5 単元のルーブリック
画像6 評価のレーダーチャート
画像7 デジタルバッジ
さらに,レーダーチャートの得点に応じてデジタルバッジを付与することとした。(canvaで作成)各項目の得点が基準を超えるとバッジを獲得できる仕組みで,これを励みに繰り返し挑戦する児童も多かった。
(5)手立て4 学習ステップの可視化
画像8 学習過程を示すステップチャート
児童に学びを委ねる学習では,「自分は今どこにいて,次に何をすればよいのか」を児童自身が把握できることが重要である。そこで,単元の学習過程を「インプット → 練習 → ミニパフォーマンスへの挑戦と改善 → 書く練習・テスト勉強」の4つのステップに整理し,画像8のような階段状のステップチャートとして授業支援アプリ上で児童に示した。児童はこのチャートを見て,自分の学習が今どのステップにあるかを確認しながら学習を進める。チャート上の人型のイラストは児童自身が動かせるようになっており,自分の現在地を示す簡単な目印になる。「まだStep1だから,今日は練習動画をしっかり見よう」「Step3まで来たから,ミニパフォーマンスにもう一度挑戦しよう」というように,児童が自分の現在地を把握し,次にすべきことの見通しをもつことが,このチャートのねらいである。また,話す活動で終わらず,最後のステップに「書く練習」を位置付けることで,単元を通して話すことから書くことへと学びをつなげている。
(6)ミニパフォーマンスの実際
児童は,一斉指導や動画教材での学習をもとに自分のパフォーマンスをつくり,「よし,いける」と思ったタイミングで指導者のところへ来て,ミニパフォーマンスに挑戦する。
「行ってみたい国を紹介する」単元では,児童は自分が紹介したい国を選び,端末に国旗や名所,料理などの写真を映しながら発表した。オーストラリアを選んだ児童は国旗やオペラハウスの写真を示しながら,ギリシャを選んだ児童はパルテノン神殿や現地の料理の写真を示しながら,身振りを交えて紹介する。同じ課題でも,選ぶ国も見せ方も児童によって実にさまざまで,一人ひとりの工夫が表れる場面である。
ミニパフォーマンスの様子は動画で撮影して児童に返却する。児童はその動画とレーダーチャートを見ながら自分のパフォーマンスを振り返り,試行錯誤を繰り返す。外国語科が苦手なある児童は,何度も何度もミニパフォーマンスに挑戦し,できるようになるまでやり続けた。一斉授業では埋もれがちな児童が,自分なりのペースで何度でも挑戦できることも,この学習スタイルのよさだと考えている。
画像9 児童の振り返り
児童に学びを委ねる場面の多い本実践であるが,委ねっぱなしにするわけではない。定期的に振り返りをするように促し,児童が自分の学びをモニターし,軌道修正できるような枠組みをつくっている。完全に学びを委ねるわけではなく,ある程度の枠組みは示し,その中で指導者がサポートし,すべての児童がゴールにたどり着けるようにしている。
特に,単元末の振り返りには,児童の学びの姿が具体的に表れる。ある児童は「今回の単元では相手の人によりわかりやすくするために(英語学習系の)動画を見ていました。動画を見ていたら『そうなんだ!』と思うところがたくさんあってとても勉強になったなと思いました。あと最初らへんの時間にクイズアプリをしてどんな単語が出るかを確認していました」と書いた。自分の学習方法を自覚的に選び,工夫している様子がうかがえる。
別の児童は「デジタルバッジを全部集めるという目標があったから,やる気も出たし友達に教えるところまで出来たと思います。次の単元でリベンジしたいことは…」と記述した。バッジが動機付けとなり,さらに単元の学びを次の単元に生かそうとする,自己調整のサイクルが回り始めていることが分かる。
また,「友達とたくさん練習しました。苦手な発音が違っていたら教えてくれたし,ジェスチャーの例も教えてくれました。友達がミニパフォーマンスをしているのを見学してそこから学んだこともたくさんありました」という記述からは,協働的な学びの中で新しい気付きが生まれていることが読み取れる。こうした友達との協働に関する記述は非常に多かった。
さらに,「いろいろな国を調べるごとに,それぞれの国には,素晴らしい場所,素晴らしいもの,美味しい食べ物など,まだまだ自分の知らないものでとてもびっくりしました」と,紹介する相手の気持ちを考えたことや,世界への興味の広がりを記した児童もいた。自分で情報にアクセスしながら学ぶからこそ生まれた,国際理解にもつながる感想だと感じている。
このように,記述による振り返りを定期的に位置付けたことで,今までよりも児童一人一人の学び方や伸び,つまずきを見取ることができるようになった。振り返りは児童の自己調整を促すと同時に指導者にとって最も確かな見取りの材料でもあると感じた。
実践を終えて,確かな手ごたえを感じている。第一に,動画教材とポータルサイトによって,児童が繰り返し英語に触れる環境をつくることができたこと。第二に,児童がルーブリックを活用して自己評価・自己調整しながら学習を進める姿が見られたこと。第三に,話す・読む・聞く力の向上を実感したことである。
一方で課題も感じている。教え合い・伝え合いといった協働的な学びをさらに充実させること,語彙と表現の習得をより確実に担保すること,そしてミニパフォーマンスが目的化しないようにすることである。今後も改善を重ねていきたい。
ここまで読んで,複雑な授業展開だと思われた方もいるかもしれない。しかし,この学習スタイルの核は「動画教材」「ルーブリック」「振り返り」の3つである。この3つさえ用意できれば,どの教科書でも,どの単元でも実践可能である。私のように英語に自信がない先生にこそ,ぜひ挑戦していただきたい。児童が自分のペースで,夢中になって英語に向かう姿に,きっと出会えるはずである。