小学校外国語科の授業において,児童が「既習事項を使って何とか伝えようとする姿」をいかに引き出すかは,多くの指導者が抱える共通の課題ではないでしょうか。
日々の授業を振り返ると,児童の中に「正しい英語でなければならない」という心理的なハードルや,語彙の不足からくる「言いたいけれど,英語で言えないから諦める」といった姿が見受けられることがあります。
本校では,「伝えたかった表現が英語で言えなかった際,既習の言葉やジェスチャー等を使い,粘り強く伝えようとする意識」や,「相手の話を受け,これまでの学習を想起して質問したり感想を付け加えたりして,即興的に会話を広げようとする意識」が,まだ十分に育っていないという課題を感じていました。
外国語を学ぶ真の目的は,単なる知識の習得にとどまらず,言葉を交わすことを通して自他を理解し,つながる楽しさを感じられることにあると思います。その先にあるのは,「英語でできることが増えた」という実感に伴う自己効力感の向上と,相手を尊重できる,安心して自分を表現できる豊かな人間関係の構築であると考えます。
本実践では,第6学年の年間を通したSmall Talkの指導において,「中間指導」と,「コミュニケーションストラテジー」のスモールステップでの導入方法を軸に据えました。児童が「知っている英語でなんとか伝えられた!」という達成感を味わい,即興的なやり取りを楽しむ姿を目指した取り組みについて紹介します。
泉(2017)が提唱する「方略的能力(コミュニケーション・ストラテジー)」の育成を柱に据えました。語彙が限られる小学生にとって,聞き返しや知っている英語でやり取りを繋ぐ力は,対話を楽しむための必須スキルです。
このなんとかしてやり取りを繋ぐ力を段階的に育むため,文部科学省(2017)の『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』が示す「対話を続けるための基本的な表現」を基にした教材を作成し,実践を行いました。
対話を続けるための基本的な表現例(P.84-85)
| 対話の開始 | 対話の始めの挨拶 Hello./How are you? /I'm good. How are you? など |
|---|---|
| 繰り返し | 相手の話した内容の中心となる語や文を繰り返して確かめること 相手:I went to Tokyo. 自分:(You went to) Tokyo. など |
| 一言感想 | 相手の話した内容に対して自分の感想を簡単に述べ,内容を理解していることを伝えること That's good./That's nice./Really? /That sounds good. など |
| 確かめ | 相手の話した内容が聞き取れなかった場合に再度の発話を促すこと Pardon? /Once more, please. など |
| さらに質問 | 相手の話した内容についてより詳しく知るために,内容に関わる質問をすること 相手:I like fruits. 自分:What fruits do you like? など |
| 対話の終了 | 対話の終わりの挨拶 Nice talking to you./You, too. など |
(1)Small Talkの設定(相手意識を高める文脈づくり)
6年生「Where do you want to go in Japan?」
中学校の英語の先生が参観に来てくれる日でもあったので,中学校の修学旅行の行き先を決められるとしたらと設定して話させました。
(2)中間指導による「対話を続けられる・粘り強く表現できる姿」の育成
①「対話を続けるための基本的な表現例」を参考に,対話継続の方略を知るスライドを,児童へスモールステップで提示
しました。(以下,次頁の「指導の実際」にスライド例あり)
②活動の途中に,児童が「言いたくても英語で言えなかった表現」を全体で確認する中間指導を位置付けました。
ここでは,単に正しい英語を教えるのではなく,「知っている単語などで,どう伝えるか」を共に考える時間を設けました。
これらにより,対話継続の方略能力・語彙不足で諦めるのではなく,既習事項を総動員して「なんとかして伝えようと試行錯誤する粘り強い姿勢」を育むことを意図しました。
| 十分満足できる状況 | おおむね満足できる状況 | 努力を要する児童への支援 | |
|---|---|---|---|
| 知識・技能 | |||
| 思考・判断・表現 | 相手に質問するなど,会話を膨らませながら,行きたい場所と,その理由を尋ねたり,伝えたりすることができる。 | 行きたい場所と,その理由を尋ねたり,伝えたりすることができる。 | 既習事項の復習や,ペアワーク,中間指導を通して,表現を想起させる。 |
| 主体的に学習に 取り組む態度 |
相手に質問するなど,会話を膨らませながら,行きたい場所と,その理由を尋ねたり,伝えたりしようとしている。 | 行きたい場所と,その理由を尋ねたり,伝えたりしようとしている。 | 既習事項の復習や,ペアワーク,中間指導を通して,表現を想起させる。 |
| 児童と教師・児童と児童のやり取り(中間指導) | 使用した教材スライド |
|---|---|
②補助資料を見て,表現を想起するとともに,どこに行きたいかイメージさせる。
(このようにいくつかの都道府県と表現を確認しました。) |
![]() (スライドの行先見本に限るのではなく,行きたい場所は児童に任せました。) |
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③T-Cでやり取りをする。(内容面でのフィードバックをする)
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④ペアでやり取りをさせる。
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⑤中間指導
(この他にもいくつかの単語や表現を考えました。) |
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(本時に至るまで年間を通し,Small Talkの際に,今日はLevel1まで。今日はLevel 2まで挑戦しようとスモールステップで提示してきました。慣れてきているので,本時は3つ同時に提示しました。) |
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⑥ペアを変えてやり取りさせる。
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⑦中間指導
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(この他にもいくつかの単語や表現を考えました。) |
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⑥ペアを変えてやり取りさせる。 |
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年間を通して,中間指導による「対話を続けられる・粘り強く表現できる姿」の育成を目指して来ました。3学期は,「What's your best memory on the school trip?」についてSmall Talkを行いました。中間指導では,子どもたちは「恋バナ」を表現したかったようで,クラスで表現を考えたところ,「Love Talk」を使うことになりました。その後,何度かペアを変えてやり取りをした後,いつも通りひと組のペアを選び,やり取りの様子をクラスの児童に見てもらいました。(以下がそのやり取りです)
「思い出話」を「Memory Talk」と表現していた姿が見られました。恐らく未知の表現であったのではないかと思いますが,「Love Talk」を応用し,知っている知識を総動員してなんとか伝えようとした児童の様子が嬉しく,また指導者自身もそのねばり強い態度を見習わなければならないと感心させられました。
アンケート結果でも,「相手とできるだけ長く会話をしたり,くわしく伝えたりするために,知っている英語を使い,表現の付け足しができましたか?」の5月の強肯定的回答が34.4%でしたが,3月では44.8%(強弱全体の肯定回答は86.2%)に増加したことも見取ることができました。
しかしながら,話題によっては意欲の低下や語彙の不足が壁になり,やり取りが途切れてしまう場面も見られました。小学校段階での基礎的な語彙・表現の定着と活用,意欲が高まる課題設定のバランスをどう図っていくかが,今後の課題です。
また併せて失敗を恐れず,誰かとつながろうとできる,温かい雰囲気や態度を育てることが大切だと再認識させられました。これからも,児童が安心して豊かに表現できるよう,ともに試行錯誤を続けていきたいと思います。