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数学

データに基づいた思考力・判断力・表現力の育成
~箱ひげ図の指導を通して~

大村市立西大村中学校 西 祥広

1.はじめに

「中学校学習指導要領(平成29年告示)」の「第2章各教科 第3節数学 第2各学年の目標及び内容 第2学年」では,「D データの活用」について,次のように明記されている。

  • (1)データの分布について,数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
  • イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
  • (ア)四分位範囲や箱ひげ図を用いてデータの分布の傾向を比較して読み取り,批判的に考察し判断すること。

本稿では,上記の(ア)を念頭に置き,四分位範囲や箱ひげ図を用いて,批判的に考察し判断する題材として,長崎県の人口の変化を取り上げた。

長崎県の人口減少問題は,長崎県にとって喫緊の課題である。また,本県の生徒自身も,長崎県の人口が減少しているイメージを持っている。しかし,全国的に人口減少が進んでいるため,長崎県自体の人口の変化の特徴を考察しにくい点もある。また,人口の増減をただ単に調べても,人口総数がそれぞれ各都道府県で異なり比較が難しいし,長崎県の人口の変化の特徴を考察するには,考察する視点が不足している。

そこで,47都道府県の年齢別の人口の割合に着目した。割合に着目することで,都道府県の人口の変化の特徴を比較することができると考えた。47都道府県の年齢別の人口の割合を表した箱ひげ図を読み取ることを通して,長崎県の人口減少問題に関して,批判的に考察し判断することは,思考力,判断力,表現力の育成につながるものと考えた。

2.実践事例

2-1 単元名 データの比較

2-2 指導計画(全6時間)

2-3 実践した授業

評価基準A 箱ひげ図を読み取り,長崎県と他の自治体について比較し,人口の分布や変化の様子を説明することができている。
評価基準B 箱ひげ図において,代表値を用いて分析することができている。
Aの場合の支援 長崎県と他の都道府県のデータを比較し,それぞれの変化の様子の違いに気付かせ,更に,その変化が生じている理由を考えさせる。
Cの場合の支援 箱ひげ図のどの部分に着目するかを考えさせ,着目した部分を基にして分析させる。

(4)指導過程

生徒の学習活動 指導の手だてと留意点
導入5分

1 長崎県の人口の変化について予想する。

1 全国の人口が減少している事について紹介する。

予想される反応
増加 or 減少 or 変わらない

・長崎県の人口が,全国と比べてどのように変化しているか,考えていくことを伝える。

めあて長崎県の人口の変化について,全国と比べて分析しよう。

展開40分

2 資料1から次の情報をワークシート1に整理する。

・長崎県のデータ。

・2008年の47都道府県の15歳以下の最小値,四分位数,最大値。

・箱ひげ図を1つ作成する。

2 資料1を見て,情報過多であることを実感させる。
最小値,四分位数,最大値を求めるためには,エクセルで小さい順に並べ替えることが早いことを伝える。

・最小値は1番目

・第1四分位数は12番目

・中央値は24番目

・第3四分位数は36番目

・最大値は47番目であることを確認する。

3 ワークシート2に調べた情報を書き込む。

・箱ひげ図に,長崎県のデータを点で打つ。

3 資料1だけでは,分析しにくいことを実感させ,ワークシート1で作成したように,9種類の箱ひげ図を用いて考えさせる。

・箱ひげ図の見方の確認を行う。

4 ワークシート2を見て,長崎県や全国の人口の変化を見て,自分で考察したことをまとめる。

4 自分の意見をまとめるときに,着眼した所を明確にさせる。
○○年の△△歳の項目の□□という値を見て,●●だと考えた。

例)2008年,2013年,2018年の15歳未満の中央値を見ると,値が減少しているので少子化が進んでいる。

5 学級全体で自分の考えを発表し合う。

予想される反応

・全国的にも少子高齢化が進んでいる。

・長崎県は,15歳未満の割合は全国と比べて,中央値より上位の方にいる。

・長崎県は,15歳以上65歳未満割合は,2013年から2018年の5年の減少の仕方が著しい。

・長崎県は,65歳以上の割合が全国と比べて高い。

5 意見交流する際には,お互いの共通点や相違点を意識させる。

※箱ひげ図から読み取れる事実と,その事実から考察された意見を区別させる。

まとめ5分

6 本時のまとめを行う。

6 興味があれば,e-StatというHPから人口についてのデータが調べられることを伝え,人口の増減の理由についても考えるように伝える。

まとめ箱ひげ図を使うことによって,データの分布や変化の様子を分析することができる。

3.授業の実際

指導過程の生徒の学習に沿って,述べていく。

1に関しては,ほとんどの生徒が減少していると予想した。

2に関しては,まず,資料の情報の多さに驚いていた。最大値と第3四分位数との差が大きいこと(ひげが長いこと)と,第1四分位数から第3四分位数までの差が小さいこと(箱の大きさが小さいこと)に気付いていた。その時点で,沖縄県の特徴に疑問を持ち,「長崎県の特徴に関しては,高齢者の割合が予想以上に多くいること」に驚いていた。

3に関しては,ワークシートの箱ひげ図を見ることで,全国的に少子高齢化が進んでいることを実感している。生徒支援の工夫として,長崎県と全国の人口の変化の様子を比較しやすくするために,長崎県のデータを点でプロットさせた。

4に関しては,次のような意見が出た。

5に関しては,4での意見を交流する中で,着目する点に気付いたり,変化の原因を長崎の現状と重ね合わせたりしている意見が聞かれた。特に,大学進学や就職が理由であるという意見が多数聞かれた。

4.成果と課題

○身近な内容における箱ひげ図の利用

教科書の内容における箱ひげ図の利用例としてあげられているのは,選手を決めるとき,長縄でどこが勝つかの予想をするとき,桜の開花を予想するとき等であった。

今回の人口の減少については,生徒にとっても身近な内容であるとともに,原因を考える必要がある問題である。箱ひげ図をもとに変化の様子を読み取るとともに,その理由に踏み込ませることによって,社会科と関連させ,教科を横断し,学びを深めることができる教材になったと感じている。

○箱ひげ図の有用性

生徒が人口だけのデータを与えられたとき,47都道府県の情報が多すぎてとても驚いていた。そして,最大値,最小値を見つけるだけでも大変そうだった。このデータをヒストグラムで表しても,膨大な量のグラフとなる。

そこで,人口の割合を箱ひげ図に表すと,人口の推移や全体の分布がとても分かりやすく,少子高齢化を箱ひげ図を通して実感している様子が見られた。

また,箱ひげ図に長崎県のデータをプロットすることによって,全国から見た長崎県の状況や変化の様子を感じているようだった。特に,長崎県が箱の中にあるのか,箱の外にあるのかや,箱のどの位置にいるかを比較する生徒がいたことから,箱ひげ図の見方を学習する際にも,有用であると考えられる。

●箱ひげ図の作成

今回の実践では,箱ひげ図は教師が用意し,生徒は箱ひげ図を読み取ることが学習内容となっている。理想は,生徒自ら箱ひげ図を作成することである。

しかし,生徒が人口のデータをもとに,箱ひげ図を作成することは,授業時数を考えると厳しいのが現実である。本実践では,箱ひげ図を一つ作成し,箱ひげ図の作成の仕方を確認した。その上で,「箱ひげ図をどう読み取るか」,そして,「読み取った結論から何を考えるのか」を意識させた。

●箱ひげ図の読み取り方

教科書を使った学習では,箱ひげ図を通してデータの全体の様子を読み取ることを意識している。本実践では,47都道府県のデータ全体の様子から見た長崎県のデータに着目させた。そのために,生徒によっては箱ひげ図から何を読み取り,どのように考えればよいのか,悩む生徒も多かった。そのようなことから,このような題材を取り扱う場合には,代表値や箱やひげの見方などを,事前に丁寧に指導をしておくこともポイントとなると感じた。

〈引用・参考文献〉