中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

ドイツ由来の教材「数の石垣」の実践報告
~数と式の領域に焦点を当てて~

広島市立阿戸小中一貫教育校 奥田 努

1.教材の特徴

「数の石垣」(図1)は,下段の隣り合う数をたし合わせて上段の数を求めていくピラミッド型の教材である。最大の特徴はルールが非常にシンプルであるということ。また,演算の与え方を工夫することで,たし算だけでなくかけ算や四則混合の石垣を作ることもでき,扱う学年や単元に応じて難易度を柔軟に調整できることが大きな特徴である。

2.教材の背景とこれまでの国内の研究概要

この教材は,1985年にドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州で告示された新学習指導要領のもとで発行された教科書「数の本」に収録されたことに端を発する。翌1987年にはドルトムント大学に「Mathe2000」というプロジェクトが設立され,Erich Ch. Wittmann,Gerhard N. Müller(ヴィットマン,ミュラー)両氏がその開発研究を主導した※1。「数の本」の背景には,「数学=パターンの科学」という数学観を根底にして,数学的な「パターン」を探究し,発見し,理由づけ,表現するという学習活動の考え方があり,「数の石垣」はまさにその理念を体現する教材といえる※2。

国内では,國本景亀氏(高知大学)がwittmann教授の数学教育学について研究を(※3),山本信也氏(熊本大学),宮脇真一氏(熊本県大津町立大津小学校)らが小学校段階を対象に実践・研究を重ねてこられた※4。児童が石垣を完成させる過程で規則性を見出し,互いに理由をつけて説明し合う学習活動は,算数科における「パターンの探究・発見・理由づけ・表現」という一連の学習過程を自然に引き出すものであった。(図2)

3.教材の応用の方向性

この「数の石垣」を中学校段階に応用することで,「文字の有用性」を実感できる教材として活用できるのではないかと考えた。「文字の有用性」を実感するとは,「文字を使うと法則性や規則性を簡潔に説明することに使える」という実感であると定義した。中学生の多くは,文字を「分からない数の置き換え」としてしか捉えておらず,文字を使った説明問題に苦手意識を抱える生徒が少なくない。「数の石垣」が持つパズル的な面白さと,規則性を探究・発見する活動は,この苦手意識を和らげ,文字の有用性を実感させる上で大きな可能性を持っていると考える。また,実践の設計にあたっては,生徒から「文字の有用性」を引き出すために,「帰納的な考え方」(※4)から「演繹的な考え方」(※4)を自然と引き出せるように,発問を一つひとつ吟味しながら行った。

4.授業実践報告①

中学校1年生「文字と式」の導入(広島県中学校数学教育実践研修会【第19回】で実施)

本実践では,生徒から「文字の有用性」を引き出すことをねらいとして,授業実践を行った。
まず,生徒に3段の「数の石垣」を提示し,「頂点の数を10の倍数にしよう」という数の石垣ゲームを行った。【図3】

左下の数は生徒各自が自由に決めてよいこととし,学級全体では左下の数を「3」とした場合の石垣をまず例示した。【図4】
続いて「いくつか石垣を作ってみましょう」「他の数でも試してみましょう」と促し,生徒一人ひとりがワークシート上で左下の数を自分で決め,複数の「数の石垣」を作った。
生徒が作った石垣を互いに比較・交流する中で,「みんなの石垣を並べてみると,何か気付いたことはありませんか」と問いかけ,「左下の数が5の倍数であれば頂点の数は必ず10の倍数になる」という規則性が生徒自身から引き出された。さらに,「左下の数」×8=「頂点の数」という関係を見出す生徒も現れた。これは,いくつかの場合を計算していく中で,きまりを発見する帰納的な考え方が働いている場面である。

ここで「『左下の数」×8=「頂点の数」』という関係は,すべての数の場合について本当に成り立ちますか?」「全ての数を確かめましたか?」「どんな方法でみんなが考えた関係が(全ての数の場合に)成り立つの?」などと問い返す。帰納的な考え方は,あくまで「いくつかの例を調べて,たぶんこうだろう」という推測の域を出ない。この問い返しによって,生徒から理由や根拠をもって説明する必要性が引き出され,「全部は確かめられないが,たぶん成り立つと思う」「文字で考えたらいいと思う」という考え方が引き出された。帰納だけでは「たまたま成り立った」ことの域を出ないという限界に生徒自身が気付き,理由づけの手段として「すべての場合を説明するには文字が要る」という文字を使った必要感が生まれた。

そこで「なぜ文字を使おうと思ったのですか」を問うと,「文字を使えばすべての数の場合を確かめなくてよいから」「文字にはどんな数も当てはめられるから文字で説明して,あとから数を入れ替えればよい」という発言が生まれた。これは,文字が単なる「分からない数の置き換え」ではなく,「気付いた規則性を説明するための理由(根拠)」として機能することへの気付きであり,既知の事実(文字式)を根拠に筋道立てて説明する演繹的な考え方への移行にほかならない。帰納的な考え方を活用して発見した規則性を,演繹的な考え方を活用して理由づけ・説明することで「すべての場合に成り立つ」レベルへと高めていく一連の流れこそが,「文字の有用性」に迫る授業の核となる。以下は参考までに,指導案(授業者用の略案)を掲載しておく。

5.授業実践報告②

中学校2年生「式の計算」の導入【数の石垣マジック】

本時のめあては「『数の石垣マジック』のタネ明かしをしよう」である。マジック要素を含む導入を行うことで,「パターンの探究・発見・理由づけ・表現」という学習活動を通して,生徒の興味関心や主体性を引き出すことをねらいとして,授業実践を行った。演算を全てたし算とし,「左下の数」と「変化の数」(1段目の各マスが同じ数ずつ変化していく規則)を自由に決めてよい4段の「数の石垣」を提示した。【図4】

学級全体で「左下の数が3」「変化の数が2」の場合の石垣を例示し,ルールを共有した。続いて代表班に,自分たちが作った石垣の「3段目の2つの数」だけを教えてもらい,教師が「左下の数」と「変化の数」を言い当てるというマジックを行った。実際の授業では,3段目の数「28」「52」から瞬時に「左下の数は1」「変化の数は6」を言い当て,生徒から驚きの声が上がった。その後,グループごとに石垣を考えさせ,その全てを当てることで,生徒の興味関心はマジックのタネに自然と移行していった。【図5】

その後,「なぜ,すぐに答えることができたのだろう」と問いかけ,色々な数を「左下の数」と「変化の数」に当てはめて石垣を作る探求活動の中で,1段目と3段目の間にある規則性を発見した生徒の発言を取り上げた。ここでも,複数の石垣を比較して規則性に気付くという帰納的な考え方がまず働き,続いて「左下の数と変化の数を文字に置いて考えるとよい」という意見が出されたことで,規則性を説明するための理由として,文字の有用性に触れながら,演繹的な考え方へと展開した。板書では,左下の数を「x」,変化の数を「y」とおくことで,文字を使った石垣を作った。その石垣の1段目と3段目の関係を見出す活動を通して,マジックの種を文字式によって説明できることを生徒とともに導いた。【図6】
もちろん,授業の展開によっては,規則性に気づかない場合もあるが,ヒントの提示の仕方で生徒にパターンを発見する活動を調整することができる。

6.教材の可能性

「数の石垣」の可能性として,演算の種類や,段数,扱う数の範囲を変えるだけで,数と式,方程式,関数などの領域に応用可能な教材である。演算をかけ算にすれば,下段でかけ算,上段でたし算といった複合的な石垣を作ることもでき,単元のねらいや生徒の実態に応じて難易度を調整できる教材といえる。

また,この教材の学習活動は,「数の本」の基本理念である「パターンの探究・発見・理由づけ・表現」という学習過程を,片桐重男先生の「帰納的な考え方」「演繹的な考え方」をはじめとする数学的な考え方の枠組みに沿って,そのまま中学校数学の授業デザインに落とし込むことができる点も大きな魅力である。①マジックのタネを見出す活動を通して規則性に注目しながら探究する(帰納)②グループで互いの石垣を比較して規則性を発見する(帰納)③マジックが成り立つ理由を「左下の数」「変化の数」を文字に置いて説明する(演繹)④文字を使った式でマジックの理由を表現する(演繹・表現)という一連の流れは,そのまま「主体的・対話的で深い学び」の実現にもつながっていくだろう。

さらに,パズル的な面白さを備えていることから,文字を用いた説明に苦手意識のある生徒にとっても取り組みやすい。「文字は分からない数の置き換えである」という理解にとどまりがちな生徒に,「文字は自分達が気付いた規則性を説明するために使える」という文字の有用性を実感させる好機となる教材である。

7.終わりに

中学校の生徒には,文字を使った説明問題への苦手意識を抱えている生徒が多く見られる。その苦手意識を少しでも払拭したいという思いから,パズル要素を含む「数の石垣」という教材に注目し,今回の教材開発・実践に取り組んだ。また,片桐重男先生の「数学的な考え方」の枠組みをヒントにして,帰納から演繹へと生徒の思考をつなぐ発問を整理した。
また,【図7】は中学校3年生への応用例である。私自身は,単元の導入で応用したが,この他にも様々な応用例があると思われる。より多くの先生に,単元や生徒の実態に応じてさらに条件を工夫しながら『ドイツ由来の教材「数の石垣」』を全国の先生方に実践していくことを願っている。

【参考文献】