文部科学省デジタル教科書推進WGから令和7年9月24日に発表された「審議まとめ」では,デジタル教科書を「教科書の形態として紙だけでなくデジタルも認め,現場が選択できるようにすることを制度上位置付け」るとともに,「一部が紙,一部がデジタルで作られたハイブリッドな形態の教科書も認める」とした。また,学習者用デジタル教科書は,「国から,英語は約100%,算数・数学は約55%の小中学校等に提供」されており,筆者の勤務する学校では,令和4年度と令和5年度,令和7年度に使用している。

デジタル教科書には,教科書紙面だけでなく後述する「解答」機能や,「映像解説」機能,ルビふり機能など,様々な機能が搭載されている。これは,デジタル教科書推進WGの参考資料にも掲載されており,紙の教科書ではできない機能が多数組み込まれている。
本実践では,生徒が個々のペースで学習を進める一助として,学習者用デジタル教科書の解答表示機能と,指導者用デジタル教科書のこたえパスワード表示機能を用いた。また,実践校1では,武藤(2025)が提唱する「『学級全員が説明する』授業」を参考に,生徒同士で説明しあう活動に,学習者用デジタル教科書の「解答」機能を取り入れて実践した。
対象学年 全学年
対象単元 全単元
実践に使用したもの
本実践で利用した機能
実践期間 令和3年度~現在まで
授業実践校
静岡市立城山中学校
生徒数 約260名
職員数 約20名
担当学級 通常学級
静岡市立大里中学校
生徒数 約630名
職員数 約50名
担当学級 知的特別支援学級,自閉情緒特別支援学級
数学の教科書「未来へひろがる数学」は,主に次の各項目によって構成されている。
これらのうち,問,練習問題,章末問題,巻末問題のそれぞれでは,学習者用デジタル教科書および,指導者用デジタル教科書に解答を確認できる機能がついている。そのため,詳しい使い方は後述するが,授業時にはこの機能を利用して生徒が個々に解答を確認しながら学習を進めることができるよう工夫している。
(1)学習者用デジタル教科書がないとき
学習者用デジタル教科書が使えないときには,上記各問題の解答を生徒が確認できるよう,教師用指導書にある解答集を教室前方の教卓に置き,自由に見られるようにした。この方法を取ることで問題に取り組んだあとの確認を生徒に委ねられるため,生徒一人ひとりのペースで演習を進めることができた。しかし,解答集は一冊しかないため,複数人(特に5人以上)で見ようとすると,冊子の取り合いになったり見たいページがばらばらでなかなか見ることができなかったりすることが多かったため,この点が冊子を複数人で見る際に困難な点であった。
(2)学習者用デジタル教科書があるとき

図 2 学習者用
「こたえパスワード」が
聞かれる
学習者用デジタル教科書を使用できなかった令和6年度を除き,令和4年度から現在に至るまで,授業において生徒が自由に使えるように工夫してきた。特に,学習eポータルからの統一フォーマットでのアカウント登録と,Googleアカウントとのシングルサインオンができるようになってからは,登録やログインにかかる手間が圧倒的に軽くなり,活用しやすい環境が整ってきたように感じる。
学習者用デジタル教科書を用いた授業を行うにあたり,(1)で述べた方法を基本として,生徒がそれぞれのタイミングで必要な時に解答を確認したり,模範解答やデジタルコンテンツからヒントを得たりすることができる環境を模索した。
本実践では,学習者用デジタル教科書の各問題にある「解答」機能を利用する。この機能を選択すると「こたえパスワード」を求められる(図2)ため,授業者は指導者用デジタル教科書からパスワードを表示し,大型提示装置や板書等で生徒に示す。(図3・図4)一時的に見せたい場合は,大型提示装置を用いるが,通常は前述の(1)と近い運用を想定しているため,答えパスワードを板書していつでも生徒が解答を確認できるようにしている。
図 3 指導者用「こたえパスワード」画面
図 4 板書例(青文字と青枠で示す)
(1)で課題として挙がった「複数人で解答を確認することの困難さ」については,この学習者用デジタル教科書を用いることで解消された。
なお,この方法を行うにあたり,生徒と次のような約束をしている。
これらの約束をすることで,「わからないから答えを写してできたことにする」という生徒をなるべく減らせないかと考えている。授業中,筆者は生徒の様子を観察し,一人で困っている生徒や議論が難航しているグループのサポートを主に行うように意識している。(後述の実践は,実践校2(自閉情緒特別支援学級)での実践のため,これとはやや異なる方法で授業を行った。)
(3)実践例:1年生数学「文字式の表し方」
本実践では,文字式の表し方のルール「①かけ算は×を省いてかく,②数と文字の積は数が前,③同じ文字の積は指数を使う,④わり算は÷を省いて分数でかく」を前時で学習したため,その練習のため教科書の問いを用いた学習を行った。この授業では,×や÷を使って表された式からルールを適用した式をかく「問1」と「問3」をメインとして取り上げた。この2つの問いが自力で解けた生徒は,ルールに従って表された式から×や÷を用いた式をかく「問2」や「問4」に取り組むという流れで行った。本実践を行ったクラスの生徒の実態として,上位の生徒は比較的自力でこれらの問いに取り組むことができるが,下位の生徒は文字が複数出てきたり,負の符号が出てきたりすると途端にわからなくなってしまうことがある。そのため,自らのペースで学習できる生徒には,「教科書62ページの問1と63ページの問3をノートに解き,デジタル教科書で答え合わせをしよう。それが終わったら,問2と問4をノートに解き,デジタル教科書で答え合わせをしよう。」と指示を出し,図5のように板書で示した。一方,自力で解くことが難しい生徒には,筆者と特別支援教育支援員(以下,支援員)が個別にフォローに入り,一緒に解いたりヒントを提示したりしながら,問1と問3に取り組ませた。
授業中盤,生徒から「×と÷が混じったものもやってみたい。」との発言があったため,教科書の例を生徒とともに確認したのち,問5も同様の方法で取り組むこととした。
図 5 板書記録
(1)成果
本実践では,解答の確認を生徒に委ねることにより,次のような利点が見出された。
生徒自身が解答をよく読むようになった。
「なぜ」間違ったのかを考えるようになった。
自分と模範解答の途中過程の違いについて考えるようになった。
上記の各項目について,解答を手に級友と議論する姿が見られた。数学が得意な生徒にとっては,自身の解答が模範解答と異なるとき,模範解答で示された解法がどのようなものかじっくり考える姿が見られた。一方で,数学が苦手な生徒にとっては,自分の考え方が合っていることを確認したり,途中過程を比較したりすることで自分がどこでつまずいたかを自覚することができていたようである。また,級友に質問する際にも,「(解答が)ここでこの式になっているけど,どういう意味?」などと,自分の不明点を明らかにして聞く姿も見られた。
教科書の「問」だけでなく,「解答」機能が使えるすべての問題でこの取り組みを行ったことにより,解答を自ら確認し,学習を進めることができる生徒の姿が多く見られるようになった。そのため,筆者はより自力で演習に取り組むことが難しい生徒のサポートに注力することができるようになった。
(2)課題
上述の通り,自ら演習を進めることができる生徒が増えてきた一方で,学習者用デジタル教科書を用いることによる欠点も見つかった。最も大きいことは,学習用端末の不具合が発生した場合,教師はこたえパスワードを提示できず,生徒は解答機能を使用することができなくなる。この場合は,デジタル教科書を使用する以前に行っていた教師用指導書の解答集を用意する必要が出てくる。実践校2では,筆者が常に所持できる指導書がないため,この方法での授業実践は難しくなる。学習用端末の使用年数が長くなるにつれて,不具合が出やすくなると考えられるため,今後の実践において他の方法も模索・検討していきたい。
また,解答を表示できてもそれを読み取ることが難しい生徒もいる。実践校1では,生徒同士で説明しあうことで解決できる場合もあったが,実践校2ではなかなか難しい場面もあった。この場合,筆者や支援員が助言することで問題に取り組むことが多かったが,今後,同様の困難さを抱える生徒に,生徒同士で説明しあう活動や支援員等による助言では理解が難しい場合,どのような支援方法が考えられるかについても今後の課題である。
指導者用デジタル教科書に加え,学習者用デジタル教科書が55%の学校に提供されるようになり,これまではその操作方法を覚えたり,活用方法を模索したりすることが主な取り組みであった。学習者用端末の使用が始まって令和7年度末で5年が経過しようとする中,端末の不具合も多く発生している。デジタルの良さを生かしつつ,アナログである紙の指導書等をいかに組み合わせて授業を行っていくか,考えていきたい。また,生徒全員が互いに説明する活動との組み合わせを通して,生徒が「考える」ことの楽しさを味わってもらうにはどのような手法が考えられるか,模索していきたい。