英語教師として,英語の授業でこだわりとしているのは,学習したことを「分かる」だけでなく,実際に英語を使って「伝える力」を育成することです。現行の学習指導要領が示され,そこに示された資質・能力や「何ができるようになるか」という視点から自分の授業を見直す中で,私は次第に,授業の中で生徒が実際に英語を使って表現する場面をどのように増やしていくかを強く意識するようになりました。そのためには,英文を読んだり,英語を聞いたりして理解するだけでは十分ではありません。ReadingやListeningによるインプットをもとに,自分で考え,英語で表現するWritingやSpeakingへと学びをつなげていくことが大切だと考えています。特に私は,Writingを,インプットとアウトプットをつなぐ重要な橋渡しとして捉えてきました。読んだり聞いたりして得た情報をもとに,自分の考えを整理し,それを自分の英語として表現する。その過程を経ることで,さらにSpeakingや,その後の学習へつなげることができると考えたからです。こうした考えから,単元末課題を一つの技能だけで完結させるのではなく,複数の技能を関連付けながら,一つの学びの流れとして設計することを意識してきました。
単元末課題では,まず英文を読み,その内容を理解することから始めます。その上で,読んだ内容を自分自身の経験や考えと結び付け,「自分ならどうだろう」「自分なら何を伝えたいだろう」と考える場面を設定します。このように,学習した内容を自分に引き寄せて考えることで,単に英文を理解するだけでなく,自分自身の伝えたいことを生み出すことをねらっています。そして,その考えを英語で表現するためにWritingに取り組みます。ここで書いた英文は,その場だけの「提出物」ではありません。その後の音読や発音練習,Speaking,さらにReproductionへとつながる学習材料になります。基本的には,以下のような流れを設定しています。
まずは自分の英語を書き出してみることを大切にし,その後に正確さを高めていくという意味で,FluencyとAccuracyを段階的につないでいくことも意識しています。特に中学校1・2年生では,正しくなった英文を何度も音読し,自分の中に取り込んでいく時間を大切にしています。自分で考えて書いた英文を,正しい英語として繰り返し使うことで,学習した表現を徐々に自分のものにしていきたいと考えています。
この学習の流れの中で,Writingの添削は大きな役割を担ってきました。生徒が自分で書いた英文を振り返り,間違いに気付き,より正確な英文に直すことは,その後の音読やSpeakingにつなげる上でも重要です。しかし,長年実践を続ける中で,添削には大きな課題がありました。
以前は紙の辞書を使って必要な単語を調べながら英作文に取り組んでいました。その後,1人1台端末が整備され,検索や翻訳機能などが身近になると,それらを使って英文を作る生徒も見られるようになりました。翻訳機能を使えば,「言いたいこと」を英語にすることは容易になります。しかし,その英文には,授業でまだ扱っていない文法や,生徒がこれまで学んできた範囲を大きく超えた語彙が含まれることも少なくありませんでした。英文として正しくても,それが「今の自分の英語の力で表現した英文なのか」と考えると,疑問が残ります。それでも,生徒の「伝えたい」という思いを大切にするためには,ある程度仕方のないことだと考え,実践を続けてきました。
一方,教師が一人ひとりの英文を添削するには,受け持つ生徒が多ければ多いほど膨大な時間が必要です。授業中には教師の前に「添削待ち」の長い列ができ,時間内に終わらなければ,英作文を預かって放課後などに一つひとつ確認し,訂正やコメントを書いて次の時間に返却することになります。丁寧に指導したいという思いがある一方で,添削を待つ生徒の時間と,添削を行う教師の時間の双方が必要になります。
ここには,さらに大きな問題がありました。単元末課題がスピーチである場合,英作文はゴールではありません。原稿を完成させた後には,音読や発音練習を行い,実際に話すという活動が待っています。ところが,英作文に時間がかかる生徒は,その次の段階へ進むことができません。
この連鎖を英作文による「二次災害」と捉えるようになりました。本来,英語を使って「伝える」ことに挑戦するための活動であるにもかかわらず,英文を書くことに時間を使い切ることで,その先にある大切な学習機会まで失われてしまうからです。この課題を抱えながら,どうすれば生徒が自分の力で英語を生み出すことと,必要な支援を受けることを両立できるのかを考えてきました。そのような試行錯誤の中で,生成AIの活用を始めました。そこで考えたのは,生徒に「AIに英文を書かせる」のではなく,「自分で書いた英文をAIに見てもらう」という使い方です。
生成AIのGoogle GeminiのGem機能を利用して,生徒一人ひとりの英作文を支援する「英作文アドバイザー」を作成しました。このGemには,単に「英文を添削してください」と指示するのではなく,その単元で学習した既習単語・表現,既習文法,授業内で伝えた注意点,必要な語数や必須使用文法などを設定しています。また,最初に生徒の英文の内容を肯定的に評価すること,文法やスペルの誤りを分かりやすく示すこと,修正した部分を太字で示すこと,なぜ修正する必要があるのかを簡単に説明すること,さらに英文をよりよくするためのアドバイスを複数提示することなども指示しています。
ここで大切にしているのは,AIが生徒の代わりに英文を完成させることではありません。
まず,生徒は辞書や検索,翻訳機能,生成AIなどを使わずに,自分の力で英文を書きます。間違ってもよい,スペルを間違えてもよいと伝え,とにかく今の自分の英語力で書き切ることを求めます。その後に初めて生成AIを使い,自分の英文を振り返ります。
生成AIを「正解を教える道具」ではなく,「自分の英文を振り返り,よりよくするためのアドバイザー」として位置付けています。
英作文を修正して完成させたら,それで終わりではありません。特に中学校1・2年生の学習では,正しくなった英文を繰り返し音読し,発音を練習し,自分の中に取り込んでいく時間を大切にしています。完成した英文は,スピーチの原稿として繰り返し活用します。音読を重ね,発音を確認し,相手に伝わるように練習します。そして最終的には,原稿を見ずに話したり,何も見ずに英文を書き出したりするReproductionへとつなげます。私は,この「正しくなった英文を何度も使う」過程を,学習した英語を自分のものにしていくための大切な時間だと考えています。「自分で英文を生み出す」→「正確さを高める」→「繰り返し使う」→「自分のものとして再現する」という学びを積み重ねることで,学習した英語を知識として持つだけでなく,実際に使えるものへとつなげていきたいと考えています。
この取組によって,特に大きな変化を感じているのが,英作文に時間がかかる生徒への支援です。これまでであれば,英作文の完成に時間がかかる生徒は,周囲の生徒が音読や発音練習へ進んでいる中で,原稿作成や教師の添削を待ち続けることがありました。現在は,まず自分の力で英文を書き,その後,生成AIから個別のフィードバックを受けながら英文を改善することができます。その結果,スピーチをする前の段階で英作文に苦戦していた生徒も,他の生徒と同じ進度で,自分のスピーチ原稿の音読練習や発音練習へ進むことができるようになりました。これは,単に添削の時間を短縮できたということではありません。「英作文ができないから,その先に進めない」という二次災害を回避し,生徒が本来挑戦すべき「話す」「伝える」という活動に使える時間を増やすことができたということです。私が目指しているのは,生成AIを使うこと自体が目的となる授業ではありません。「書けないから,話せない」という状況をできる限り減らし,今の自分の力でまず英語を生み出し,必要な支援を受けながら,次の挑戦へ進むことのできる授業です。すべての生徒が同じ速さで学ぶことはできません。だからこそ,一人ひとりに必要な支援を届け,できる限り多くの生徒が学びの流れから取り残されない環境をつくりたいと考えています。
No child left behind.
自分の力で書く。必要な支援を受ける。そして,英語で伝えることに挑戦する。その学びの循環を,一人でも多くの生徒につなげていきたいと考えています。