中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

「伝わった!」から始まる English Fun
―「相手に伝える」をゴールにしたアウトプット活動―

宝仙学園中学校・高等学校 江藤 貴洋

1.はじめに

本校は共学の中高一貫校であり,10を超える入試制度を通して,多様な背景をもつ生徒が入学してきます。そのため,英語学習における生徒の実態も幅広く,英検準1級以上を取得している生徒がいる一方で,アルファベットの読み書きから復習する生徒もいます。また,最近では英語に対する意識にも大きな差が見られ,入学時アンケートでは「英語が好き」と回答した生徒は約50%である一方,「苦手・嫌い」と回答した生徒は約25%でした。

こうした実態を踏まえ,私は "English Fun" をキーワードに授業づくりを行っています。ここでいう Fun とは,単に「楽しい授業」を意味するものではありません。授業をきっかけに,「この歌を家でも聴いてみよう」「英語で言ってみたい」と,生徒が自ら英語に触れたくなったり,英語を学び続けたいと思ったりする気持ちを育むことを目指しています。

2.実践の概要(授業の考え方)

人は,何かを伝えたいから言葉を使います。英語も同じです。文法や語彙の学習は,「伝える力」を身に付けるための手段であり,それ自体が目的ではありません。学んだ知識や表現を使って,自分の考えや気持ちが相手に伝わったときにこそ,英語を学ぶ喜びが生まれると私は考えています。

そして,この「伝わった」という成功体験が,生徒一人一人の English Fun につながると信じています。だからこそ,教科書を扱う際にも,アウトプット活動を授業のゴールに位置付け,「伝える」ことを意識した授業づくりを行っています。

本校では,「文法の導入(Writing / Reading)(BLUE SKY Premium)」から「本文の読み取り(Listening / Reading / Speaking)(BLUE SKY)」へと学習を進め,各時間の最後にアウトプット活動を取り入れています。教科書には Think & Speak や Let's Talk などの表現活動が用意されており,ネイティブ教員と連携したスピーキングテストも実施しています。それらに加え,単元の内容や生徒の実態に応じて,独自のアウトプット活動も取り入れています。以下,その実践例を紹介します。

3.実践例(具体的な活動例)

(1) 未来ワーク

これは,学習した文法事項を,「後輩が使う“未来”の“ワーク”ブックを作る」という設定でまとめる活動です。生徒は,「どう説明すれば分かりやすいか」「どんな例文なら理解しやすいか」を考えながらまとめるため,単なる知識の整理ではなく,相手を意識したアウトプット活動となります。

活動を始めた当初は,板書や BLUE SKY Premium の内容を書き写すだけの生徒も多く見られました。しかし,回数を重ねるにつれて,例文やレイアウト,イラストなどに工夫が見られるようになり,「より分かりやすいワーク」を目指して取り組む姿勢が見られるようになりました。中には,練習問題まで自作し,教員顔負けの完成度に仕上げる生徒もいました。

また,この活動を通して,「分かりやすくまとめること」の面白さに気付いた生徒は,数学や理科など他教科でも,相手に伝わりやすいノートづくりを意識するようになりました。一つの教科で身に付けた「伝える」という視点が,他教科での学びにも広がっていったことは,本実践の大きな成果の一つでした。

(2) デジタル絵本づくり

教科書には音読活動やスピーキング活動など,「伝える力」を育むための活動が数多く取り入れられています。本実践では,それらの学習の発展として,教科書で学習した物語を「幼い子どもへの読み聞かせ」という目的に置き換え,デジタル絵本づくりに取り組みました。音読を「正しく読む」活動にとどめるのではなく,「聞き手に伝える」活動へと発展させることをねらいとしています。

活動の流れは以下の通りです。(本活動では『Eeyore Has a Birthday and Gets Two Presents』(BLUE SKY 1)を扱いました。また,本校では生徒一人に1台のタブレット端末を貸与しています。)

Clipsの字幕機能により,生徒は自分の発音を客観的に確認しながら,納得がいくまで録音を繰り返すようになります。また,中には聞き手である幼い子どもを意識し,声の抑揚や話す速さを工夫し,本物の読み聞かせのような作品に仕上げる生徒も見られました。

さらに本活動は,生徒一人一人の個性が発揮される活動にもなりました。普段のスピーキングテストでは,人前で英語を話すことに苦手意識をもつ生徒も,録音であれば納得がいくまで何度も挑戦することができ,生き生きと活動に取り組んでいました。一方で,イラストを描くことが得意な生徒は物語の世界観を豊かに表現するなど,それぞれの強みを生かした作品が数多く見られました。評価の対象が「英語を話すこと」だけでなく「伝える作品をつくること」へと広がったことで,多様な生徒が活躍できる活動となりました。

この活動を通して,生徒の音読は,「正しく読む」から「伝えるために読む」へと変化しました。英語を単なる音読教材としてではなく,「相手に伝えるためのことば」として捉え直すきっかけとなりました。

(3) Vlog制作

これまで,未来ワークやデジタル絵本づくりなど「相手に伝える」ことを意識したアウトプット活動に取り組んできました。その集大成として,修学旅行を題材に,英語によるVlog制作を行いました。自分が実際に体験したことや,その土地の魅力を英語で発信することで,「この場所へ行ってみたい」「こんな体験をしてみたい」と思ってもらえる動画を制作することを目標としました。

活動の流れは以下の通りです(動画の作成方法は(2)と同様です)。

本活動を通して,生徒は「英語で何を伝えるか」を自ら考え,表現する経験を積むことができました。これまで取り組んできた「相手に伝える」活動の集大成として,生徒は自分の体験や思いを英語で発信する喜びを実感していました。英語を「学ぶもの」から「自分を表現するためのことば」として捉えられるようになったことは,本実践の大きな成果でした。

4.生徒の変容

本実践を継続する中で,生徒にはいくつかの変化が見られました。

まず,英語に対する意識の変化です。入学時に実施したアンケートでは,「英語が好きですか」という質問に対して肯定的に回答した生徒は約50%でした。しかし,1年間を通して「相手に伝える」ことを意識したアウトプット活動を積み重ねた結果,現在では80%以上の生徒が英語を好きだと回答するようになっています。

また,授業内だけでなく,授業外でも自発的に英語へ取り組む生徒が増えました。英語検定に積極的に挑戦したり,課外のボランティア(観光客の案内)に参加する生徒もおり,「やらされる英語学習」から「自分で取り組む英語学習」へと変化しつつあることを実感しています。

こうした活動を積み重ねる中で,「伝える」という目的があるからこそ,生徒は「もっと相手に伝わる英語にしたい」と考え,語彙や表現,英文法を学ぶ必要性を実感するようになりました。本実践を通して,生徒は「伝えるために学ぶ」という意識をもちながら,主体的に英語と向き合うようになりました。

5.おわりに

授業で,私がもう一つ大切にしていることは,「自分自身も授業を楽しむこと」です。

本実践を始めてから5年以上が経ちますが,生徒の発想や表現から学ぶことも多く,毎回ワクワクしながら授業に臨んでいます。近年では生成AIの活用も広がり,生徒から文法のまとめ方や英語表現の工夫を教えてもらうこともあります。教師が教えるだけでなく,生徒とともに学び合えることも,この実践の大きな魅力だと感じています。

学校や英語教育を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。しかし,英語で「伝わった」という喜びや,「もっと伝えたい」「もっと学びたい」と思える気持ちは,これからも変わらず大切にしていきたいと考えています。教師と生徒がともに English Fun を共有しながら,これからも学び続けられる授業を創っていきたいと思います。