昨今の教育課程において「探究」の重要性は増している。中学校学習指導要領(平成29年告示)解説(総合的な学習の時間編)から,総合的な学習の時間では,各教科等で育成された資質・能力を横断的に活用し,現代的な諸課題の解決に向けた探究的な学習の充実が求められていることがわかる。このことから,各教科等で育成された資質・能力を横断的に活用するためには,各教科の授業の中で,探究学習を行う必要性が見えてきた。
英語科における「探究」とは,目的,場面,状況に応じて設定された課題に対して,得られた情報を精査し,相手に配慮した内容や表現を用いて,課題を解決していくことであり,その解決していくプロセスの中に,教科の見方・考え方を働かせることができるようにすることが重要だと,私は捉えている。そこで,本実践では,「教科横断的な視点」を英語科の授業に取り入れ,課題に対して,他教科と英語を横断しながら課題解決をする探究学習の実践を試みた。そして,生徒が自分の取り組む課題に対して,各教科での見方・考え方を働かせるようなものにすることで,教科の探究学習の充実を図ることができるのではないかと考えた。本単元では,「教科横断的な視点」を取り入れた四つの課題を設け,探究学習の具現に取り組んだ。その取組や実態について紹介する。
(1)単元について
○単元名: 「英語で探究しよう」(特設単元・教科横断的な視点を取り入れた探究学習)
【全体に提示した課題】(実施学年:中学3年生)
※以上のような講座を四つ提示し,生徒が興味,関心のある講座を個々に選択し,探究学習を実施。
※本実践報告では,「英語×音楽」を中心に紹介を行う。
○探究学習「附中に来校される外国人に向けて,英語版校歌をつくろう」(英語×音楽)
| 外国語におけるコミュニケーションによる見方・考え方 | 来校する外国人に向けて,校歌の「特別感」が伝わるように,校歌にふさわしい英語表現を構築したり,紹介をしたりする姿(英語版校歌をつくる場面) |
|---|---|
| 音楽の見方・考え方 | 言語の特性を理解し,英語の語感を生かした旋律やリズムに気を付けながら,相手に「校歌」のよさ(特別感)が伝わるように歌おうとする姿(英語版校歌を歌う場面) |
(2)探究プロセスの構築(共通課題から選択課題へ)
図1 全体に提示した探究プロセス
探究学習の実践にあたり,「共通課題」を設定からはじめた。「共通課題」とは,学級全員で同じ課題に向けて探究を進めることである。「Learning from Nature」という教科書題材から,「Let's make a presentation of new biomimetics」という共通課題を設定した(全5時間)。生徒は,共通課題の解決に向けて,教科書やインターネットから「情報収集」を行い,得られた情報を精査し,考えを構築した。その後,友との活動報告のやり取りから,本時の活動を振り返り,次時への見通しをもった。このような生徒の姿から,探究のプロセスをより意識するために,教師は,「①課題発見,課題解決→②情報収集→③情報の精査,考えの構築(再構築)→④表現,まとめ→⑤振り返り,次時への見通し」といった「探究のプロセス」の図を提示した(図1)。共通課題を扱う中で,生徒が探究プロセスを意識して学習に取り組むようにすることで,生徒は,その後の選択課題へ進んだ際にも,自走しながら探究を進めることにつながった。
また,このような探究学習の中で,互いの学びについて,英語でやり取りする場面を設定した。このような場面を設定することで,生徒は,本時の目標を互いに共有し,友と互いの学びについて,自分の考えを伝えたり,友の考えに対してアドバイスや質問をしたりすることを通して,課題解決への見通しをもつことができた。そして,次の授業での「②情報収集」や「③情報の精査,考えの構築(再構築)」のプロセスにおいて,教科の見方・考え方を働かせて,課題を明確に捉えて,課題解決に向かうことができた姿があった。このように,「共通課題」→「選択課題」という流れを設定することで,探究のプロセスを活用することができ,課題や学びについて,友と英語でやり取りすることを通して,目的,場面,状況を明確に捉え,教科の見方・考え方を働かせ,課題解決に向かうための素地となった。
(3)選択課題での生徒の学びの実際(英語×音楽)
図2 協働的に英語版校歌をつくっている姿
図3 M生のつくったメモ(一部)
図4 友とのやり取りから考えを捉え直している姿
選択課題「附中に来校される外国人に向けて,英語版校歌をつくろう」(英語×音楽)では,目的,場面,状況を明確にするために,本校の来校者を想起する場面を設けた。本校は,日本の方だけではなく,台湾,アメリカ,エジプト,スウェーデンなど様々な国の方々が来校している現状を,生徒とともに確認した。その上で,教師は,これらの国々は,「校歌」という文化があまりなく,儀式的行事では「国歌」を歌っていることを共有した。生徒は,「校歌について知りたいと思っているのではないか」と来校者の願いを考えたり,「校歌は自分たちにとってシンボルのようなものである」や「英語版の校歌をつくることで,日本の(学校)文化について知ってもらえるのではないだろうか」などと願いをもったりして,課題を明確にしていった。生徒は,英語版校歌をつくっていく中で,直訳では歌うことができないことに気付き,「歌詞の意味」や「メロディー」,「歌詞に込めたい思い」を視点に,歌詞に合う英語表現を友と協働しながら精査し(図2),自分たちの考えをメモにまとめ(図3),英語版校歌をつくっていった。また,音楽科の作詞活動を想起し,グループメンバーとともに音に合わせて歌いながら英語版校歌をつくった。そして,グループで考えた英語表現がふさわしいかどうかについて,友とのやり取りを通して,アドバイスし合い,よりふさわしい英語表現を再構築していく姿があった(図4)。英語版校歌を歌う際には,「旋律」や「リズム」を意識して英語版校歌を歌おうとする姿があり,音楽の見方・考え方を働かせて,探究学習の中で,両教科の見方・考え方を働かせ,考えを構築していく姿があった。その後,歌詞に合う英語表現について,紹介文を書いた。
(4)生徒の成果物から
図5 M生が作成した英語版校歌と紹介文
附中に来校される外国人に向けて,附中の校歌の「特別感」を伝えるために,「歌詞の意味」や「メロディー」,「歌詞に込めたい思い」などの視点を整理して,英語版校歌を作成し,まとまりのある内容で相手に届く紹介文を書いた(図5)。
M生は,校歌を紹介するにあたり,まず,読み手に,校歌の背景をイメージできるようにするために,校歌がいつ作詞作曲されたかなどの成り立ちについて,簡単な説明を行った(黒枠)。その後,日本語の歌詞をローマ字表記とともに示し(赤枠),自分たちが考えた英語での表現(青枠),その表現にした理由(黄枠)を読み手がその歌詞の情景を思い浮かべることができるように書き,自分たちの校歌への特別感も含めて紹介文としてまとめることができた。この紹介文を作成する中で,M生は,外国語におけるコミュニケーションに よる見方・考え方を働かせた姿である「来校する外国人に向けて,校歌を知らない外国人にも校歌のよさ(特別感)が伝わるような英語表現や紹介をする姿」があった。また,実際に歌う際には,音楽の見方・考え方を働かせた姿として「言語の特性を理解し,英語の語感を生かした「旋律」や「リズム」に気を付けながら,相手に「校歌」のよさ(特別感)が伝わるように歌おうとする姿」があった。このように,探究のプロセスを意識する中で,英語と音楽の両教科の見方・考え方を働かせ,互いの教科を往還しながら課題解決に向かっていくことができた。
これは,共通課題で探究のプロセスを意識することで,自走して学べることや,教科の見方・考え方を働かせ,自分の考えを構築していくことができた姿と考えられる。
実践を通して,生徒は,探究のプロセスを意識しながら,課題解決に向けて,英語や他教科の見方・考え方を働かせ,考えを構築(再構築)していき,探究学習を進めていくことができた。
今後の課題として,内容面における充実性はあったが,言語面の質の担保には課題が残った。成果物を作成していくにあたり,どのような表現が有効的だったかについても振り返りを行い,共有していくことで,言語面の指導にも生かしていきたい。また,このような探究学習をしていく上で,普段の授業でも,目的,場面,状況を明確にした単元を貫く問いを設定し,教科の見方・考え方働かせ,自分の考えを構築(再構築)していく単元構想をしていきたい。