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英語

―ゲーム要素を含む英語交流活動を通して楽しみながら英語を学習する生徒の育成―

豊橋市立東陽中学校 藤井 大裕

1.はじめに

4月の授業オリエンテーションで行ったアンケートによると,「英語が難しくてわからない」「うまく話せない」という理由から「英語が好きではない」「どちらかというと好きではない」「どちらともいえない」と非常に多くの生徒が答えた。また,「実際の場面で話すと緊張して何も言えないかもしれない」と不安をつぶやく生徒や,英語を話すことに対して消極的な生徒も多いという実態がある。本学級の生徒たちは,決められた表現のやりとりやゲーム要素を含むさまざまな活動を通して,友達や先生と英語で会話をすることができ,「英語をもっと練習してペラペラしゃべれるようになりたい」という思いをもった。そこで,ゲーム要素を含む英語交流活動を通して英語をコミュニケーションとしてとらえ,自分の思いが伝わる喜びやうれしさ,英語自体の楽しさを実感し,英語を好きになってほしいと考えた。

2.単元の導入

ALTが近隣の小学校の児童と会話をしているシーンを動画で視聴した。人気のキャラクターを児童たちがALTに紹介するが,ALTはそれらについてあまり知らず,児童たちに"Please tell me your favorite character!" というお願いをした。しかし,多くの児童たちが "No!" と答えた。その後,生徒たちはALTから送られた「小学生とキャラクターの話がしたいのに,小学生が教えてくれなかったから,中学生のみんなに教えてほしい。」という内容のビデオレターを視聴した。これらの動画を視聴したことで,生徒たちは人気キャラクターについての紹介文を作り,ALTに英語で伝える必然性がうまれ,ALTに人気のキャラクターを紹介したいという気持ちをもった。

3.ゲーム要素を含む英語交流活動TOYO QUESTの実施

TOYO QUESTとは,授業前半に行う基本表現の定着を目的とするゲームを実施し,授業後半に最後の活動としてゲームで定着したことを活かして,発表原稿に伝えたい英文を書き加えていくという一連の活動である。

(1)動詞QUEST

be動詞や一般動詞の既習内容を復習しながら,二つのミニゲームを実施した。一つ目に既習の動詞を使ってビンゴゲームを行った。ビンゴゲームを通して,動詞の意味を確認するとともに自分のキャラクターを紹介するうえでどのような動詞が使えるのかを考える姿が見られた。二つ目には,さいころとカードを使って文をつくるゲームを行った。さいころをふって主語を決め,カードを引いて動詞以下の内容を決める。生徒たちは動詞を正しい形に直して使えるように考えたり,意味を確認したりして,楽しみながらゲームに挑戦する姿が見られた。

(2)助動詞QUEST

【資料1】助動詞QUESTで使用したボード

異なる助動詞を使ったゲームを三回通り行った。【資料1】のようなボードを用意し,中央に消しゴムを置く。中央にある消しゴムを助動詞を使った文を一文言うごとに自分の方に1マス進めることができ,時間内に自分に一番近いマスまでたどり着いた方がゲームに勝つことができる。一回目にはcanを使った文を,二回目には,mustを使った文を話すように設定した。三回目には,can, will, must, should, couldの五種類の助動詞を順番に使って英文を話すように設定し,徐々に難易度を上げていく方法をとった。生徒たちはゲームに勝ちたいと思い,さまざまな助動詞を使って英文をいくつも言うことができた。

(3)接続詞QUEST

カードを使って神経衰弱のようなゲームを行った。2色のカードを用意し,ピンク色のカードには接続詞(if, because, whenなど)の節を,水色のカードには,主節を記載した。三人グループを作り,二人はプレーヤー,一人は審判とし,時間を区切りながら役割をローテーションする。プレーヤーはカードをそれぞれ1枚ずつめくり,接続詞を使った文を言い,その文の意味も言う。審判はそれらを聞いて英文の正しさと意味の解釈の正誤を判定するというルールで行った。接続詞を使って文を書くことに苦手意識を持っている多くの生徒がゲームを通して復習したことで,意味を理解しながら接続詞を使った文を言うことができた。

(4)不定詞QUEST

不定詞QUESTでは,3種類のゲームを行いながら,名詞用法,副詞用法,形容詞用法を定着できるようなゲームを設定した。一つ目のゲームでは,ミッションカードの例文を参考にして,名詞用法の中でもlike to~やwant to~を使った英文を言えたら相手に消しゴムをパスするEraser Bomber Game(消しゴム爆弾ゲーム)を行った。二つ目のゲームでは,接続詞QUESTで行ったカードゲームを不定詞の副詞用法を復習できるカードを使って行った。三つ目のゲームでは形容詞用法を復習をするために,Something in his Bag Gameを行った。先生のかばんに入っているものをイラストカードとして準備し,生徒がそのカードをめくって相手に英語で説明をしていくゲームである。相手が英語を聞いて答えられたらポイントとなる。多くの生徒が不定詞に対して苦手意識をもっているが,ゲームを通して楽しそうに復習し,英語の意味や解釈を楽しみながら活動に取り組む様子が見られた。

(5)熟語表現QUEST

これまでに学習した熟語や構文を復習するためにすごろくゲームを行った。すごろくでとまったマスごとに使う熟語表現を指定し,それを使って正しく英語を話すことができればゴールに向かって進むことができる。生徒たちは友達の英語を聞いて,自然と正しい英文かどうかをメンバー同士で考えながらすごろくを楽しむ姿が見られた。

4.原稿作成時の個別時間(INDIVIDUAL TIME)と協働時間(COLLABORATION TIME)の設定

TOYO QUEST終盤の原稿を書く際には,INDIVIDUAL TIME(個別時間)とCOLLABORATION TIME(協働時間)に時間を区切った。INDIVIDUAL TIME(個別時間)には,各QUESTにおいて復習した文法や表現を使い,自力で英文を書く活動を行った。英語を苦手とする生徒も,ゲーム内で活用したカードやワークシートを利用して自力で書くことができた。COLLABORATION TIME(協働時間)には,グループを作り,自分が書いた文の正しさを実感したり,間違いを修正しあったり,自分の言いたいことと相手の解釈に差異がないかを確認したりするやり取りが見られた。これらの時間を設けたことで,生徒たちは個別に考えた英文をもとに正しい英文かどうかを確認したり,誤っている英文を一緒に直したりして,正しい英文を書くことができるようになったと感じた。

【資料2】各TOYO QUESTを通して生徒が書いた文章

5.東陽中学校英語力向上検定の実施

【資料3】東陽中英語力向上検定

コミュニケーション活動の前には,「東陽中英語力向上検定(以下,東陽英検)」を行う。より相手に伝わりやすいように「話すスピード」「声の大きさ」「アイコンタクト」「英語らしい発音」「資料の活用」の基本的な五つの観点を意識して,ALTの代わりにJTE(日本人英語教師)に向けて発表を行う活動である。一度,コミュニケーション活動の前に実践をし,評価を受けることで,自分の活動を客観的に振り返ることができると考えた。この東陽英検を通して,「1回目よりも2回目は資料を使いこなしながら,目を見て話せるようにしたいな」やJTEの評価を見て「もっとゆっくり話して,カタカナ英語をより英語らしい発音に直せるようにしたいな」などと,主体的にコミュニケーションをとろうとする姿が見られた。

※英語らしい発音とは,カタカナ英語(日本語なまりの発音)ではなく,アクセントや正しい母音の数で単語を発音していることをさす。

【資料4】生徒の東陽英検の目標と評価

生徒は資料4のように目標設定し,繰り返し練習をして,何度も東陽英検を受検する意欲的な姿を見せた。1回目の受検では,目標と比較して,話す速さや発音に課題があるとわかり,繰り返し練習をする姿が見られた。2回目の受検では話す速さが目標に達した。さらに,暗記してアイコンタクトすることは目標を超える評価を得ることができた。

6.CAN-DOリストをもとに行う振り返り

単元のはじめにルーブリックを提示したり,CAN-DOリストをもとに振り返り用紙に毎授業のToday's Goal(振り返る内容)を記載したりすることで,生徒たちが単元の見通しをもつことができると考えた。授業の終わりに必ず振り返りを行う時間をとり,一時間の学習においてできるようになったことを書き留め,コミュニケーション活動への主体的な姿勢が育まれた。

第2時
CAN-DO
ALTに伝えたい内容を整理することができる
もっと資料を集めて,適切な情報をまとめていきたい【資料4】
第34567時
CAN-DO
TOYO QUESTを通して,文を書き加えることができる
できるだけ読み手に分かりやすく伝えられる単語を選びたい【資料6】
文を1つ1つ別に書くのではなくて関連づけて説明したい【資料10】
I thinkなどは自分の考えを述べる事ができるので,せっきょく的に使いたい【資料12】
接続詞の文を増やしたいです【資料16】
第9時
CAN-DO
『東陽中英語力向上検定』において自分の目標を達成できる
発音に気をつけたいと思いました。……1文1文の読む速さを調整したい【資料19】

【資料5】CAN-DOリストに対する生徒の振り返り

資料5のように,次時への目標を記述しており,次回以降の学習にその目標を達成するために努力する姿が見られた。「CAN-DOリストをもとに行う振り返り」を行ったことで目標の達成度を自覚することや,次時ではどのようにしたいかという願いをもつことができた。

7.まとめ

生徒にとって身近で親しみのある存在であるALTが小学生とのやりとりに困っている状況を知ったうえで日本のキャラクターについて伝える活動を設定したことで,ALTを助けたいという思いをもつことができた。また,日本のキャラクターは特徴が明確で伝えやすく,自分が好きななじみのあるキャラクターを選択できることでこれまでに学習した文法などをいかしてすすんで活動に参加することができた。

既習内容を復習するためのミニゲームを行ったことについては,英語の意味を理解しながらゲームに参加している生徒が多く見られた。これまでゲームをすること自体を楽しいと感じたり,ゲームをする雰囲気が楽しいと感じたりしている状況であったが,英語の意味を理解したり,英語を話したりすることへの楽しさを感じている姿が見られた。またゲームを通して,既習内容を復習するとともにゲーム内で使った文法や英語表現を活用して,キャラクターを紹介するための原稿を書くことができた。

原稿を書く時間としてINDIVIDUAL TIME(個別時間)とCOLLABORATION TIME(協働時間)に時間を区切った。INDIVIDUAL TIME(個別時間)には,ゲームを通して使った英語を使おうとする姿や過去のゲームで使った表現を探して使おうとする姿が見られた。COLLABORATION TIME(協働時間)では,グループの生徒同士で表現を聞きあう姿や単語のスペルを確認しあう姿が見られた。英語を苦手とする子も必死に友達に助けてもらいながら原稿を書こうとしており,この時間が苦手な子にとって必要な時間であったと感じた。

この授業を実践し,生徒たちが英語を使う場面設定をすることや生徒同士で関わり合いながら英語を繰り返し練習することの必要性や既習内容をコミュニケーション活動につなげることの重要性に気づいた。今後も楽しく英語学習に励むことができるよう,工夫をしていきたい。