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英語

主体的・対話的で深い学びの実現に向けた単元内自由進度学習の実践
‐単元内自由進度学習の失敗と成功事例‐

(元)浦添市立浦西中学校 安里 三矢子

1.はじめに

現行の学習指導要領が施行されると同時に「主体的・対話的で深い学び」(文部科学省,2020)の実現が求められるようになった。当初は,これが「学んだことを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力,人間性」,「実際の社会や生活で生きて働く知識及び技能」,「未知の状況にも対応できる思考力,判断力,表現力」という資質能力を育むための授業改善の視点だという理解が及ばず,「主体的・対話的で深い学び」を授業の中に作り出すことをゴールに授業づくりをしていた。当時の生徒達は,私主導で展開される多様な言語活動に忙しくついてくるといった様子で,一見すると主体的に学習しているように伺えるが実態は「させられている学習に一生懸命についてきている」というものであった。

生徒が英語を学んでそれを実生活やこれからの自分の人生,社会活動に生かそうと学びに向かって欲しい,授業を通して獲得した知識・技能を実生活で生かして欲しいと,まだ学んでいない知識・技能が必要な場面でも,これまで既知の知識・技能をなんとか駆使して英語でのコミュニケーションを図って欲しいと願い授業づくりに勤しんできた。しかし,実際はテストのために,成績のために,先生に指摘されないために学ぶ生徒と生徒を活動に取組ませるために様々な言語活動を列挙する私でつくり上げる授業であった。

本実践記録は,このような課題の解決に取組むための第一歩として,生徒が「主体的に」実生活,これからの自分の人生や社会生活に生かそうと思い英語を学びたくなるような授業改善に取組もうと「単元内自由進度学習」に類する実践の記録である。

2.単元構想と授業設計

これまでの授業づくりから考えた課題は以下の3点である。

従来の私の授業づくりは,導入(Daily Questions,本時のめあての確認,Small talkなどの帯活動等),展開(本時のめあてに迫る言語活動,文法指導,教科書からのインプット等),終末(本時のめあてに対する表現の確認,言語活動を通して生徒が獲得した知識・技能の確認,本時の復習にあたる宿題の提示等)で組み立てていた。これまで求められてきた,資質能力を育成するための1時間完結型で,めあてとまとめが正対する授業づくりである。

この授業づくりで重要なポイントを残しつつ,生徒が「主体的に学びたくなる」授業づくりのために,押さえたポイントは以下の3点である。

私は過去3年間,葛藤しながらグラデーションの中で従来の1時間完結型から今年度の単元内自由進度学習型へ移行してきた。今年度の,生徒の資質能力の育成に寄与したと感じた形は,奈須(2021)が問う「『令和の日本型学校教育の構築を目指して(答申)』で提起された,個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」は一校のカリキュラムの中でどのように実現可能なのか」というものに共感し,そこに向かう事例(佐野,2023;恩納村及び加賀市の実践事例,2024)を参考に,試行錯誤したものである。私が単元内自由進度学習への改変の基盤とした論を以下の表にとりまとめた(表1)。

表1 NITSニュース第241号「単元内自由進度学習」奈須(2025)を筆者が抜粋し作成

ジョン・キャロル
(1963年提唱)
  • 誰でも十分な時間さえかければどんな学習課題でも習得できる。
  • 現に生じている個人差は,各自が必要としていた学習時間に対し,実際に費やされた学習時間が十分であったかどうかに依存する。
リー・クロンバック
(1957年提唱)
  • ATI(適正処遇交互作用):指導法や教材の効果が,個人の学習特性や認知特性によって異なることを発見。
  • ATIはうまく学べていない子どもも,別な指導法や教材でなら上手く学べるかもしれないという視点と,多様な指導法や教材を選択肢として準備することが望ましいという原理を提起。
加藤幸次
(1970年代後半)
  • 愛知県東浦町立緒川小学校などの複数の学校現場と協働で,今日「単元内自由進度学習」と呼ばれる教育方法を開発。

これらをもとに,以下のポイントを押さえた単元構想及び授業設計(表2)を立案し,全ての単元で実践した。

表2 単元構想及び授業設計のポイント




  • 生徒が主体的に取組みたくなるように留意し,言語材料を使用する目的・場面・状況を示した単元ゴールとその見取りの設定
  • 生徒と教師が全10時間の単元の見通し(導入1時間,単元ゴールに迫る学習活動6時間,レビュー0~1時間,テスト等1~2時間,振り返り1時間)を持ち協働で授業に取組めるよう,単元ゴール,単元末の見取り,単元計画,補助教材を一元化し,単元導入で提示



  • 導入:Daily Questions, Small Talkなどの帯活動, 単元ゴールの確認,事前課題の確認,本時の問いの確認,単元導入時に生徒自身が設定した本時のゴールを修正
  • 展開:本時の問いに迫る活動,Checkリストに取組む活動,パフォーマンステストや単元テストに向けての活動,教師による一斉中間指導(必要時)
  • 週末:本時の問い"Q"に対する個々の回答"A"の確認及び共有,単元ゴールとチェックリストの進捗から考えた事前課題の選択

3.使用した教材と支援ツール

生徒1人ひとりが学習活動に十分に取組むことができ,それぞれに必要な指導法や教材を選択し,単元毎に求められる資質能力の獲得に主体的に取組むことができるように支援するために,以下のような仕組みと支援ツールを使用した。

図1 生徒が自身の学びの足跡を記録し,振り返りに活用するセルフチェックシート(両面A3)

図2 生徒が自身の学びの足跡を記録し,進捗の確認や振り返りに活用するロイロカード

図3 ロイロカードに記載された単元ゴール

図4 ロイロカードから単元ゴールを転記するセルフチェックシート

図5 単元の見取りとして第9時の欄に掲載し生徒に共有するルーブリック

図6 単元の見取りとして第9時の欄に掲載し生徒に共有するテストプラン

図7 ロイロカード上部に配置した日々の事前課題と授業での取組みの足跡の記録スペース

図8 ロイロカード左下に配置した単元ゴール達成の足場架けになるようなチェックリスト

図9 ロイロカード右下に配置した単元ゴール達成に有用なICT教材のWEBカードや教科書やワークなどのページ,補助教材をまとめて掲載

4.失敗事例

単元内自由進度学習に取り組み始めた当初(図10)は,様々な失敗事例に出会った。言語活動が活発になされることがなく,単元テストやパフォーマンステストにおいても,単元で見につけて欲しい資質能力の定着が悪く,驚くことに,特に知識・技能の定着が停滞していた。

図10 単元内自由進度学習を始めた当初の生徒のカード

そこで,表3にまとめたような失敗事例に対して単元ごとに修正を加えた。次項に修正後の事例と生徒の様子の比較について述べる。

表3 本実践を通しての失敗事例と修正点

失敗事例 修正点
「単元内自由進度学習」に取り組み始めると,個々の生徒に対するフィードバックの機会を重視し,一斉指導が必要な場面で,その機を逸してしまい,言語活動の必要な修正が上手くいかなかった。 全体で確認が必要と判断した場合には,的確にポイントを押さえた一斉指導を中間指導として実施する。
単元ゴールやチェックリストを知識・技能に拠ったものにしてしまい,生徒の英語での言語活動が激減し,個別学習塾で各自がドリル学習をしているようになってしまった。
  • 単元ゴールは生徒が興味関心を持って,主体的に取り組みたくなるようなものであり,単元内で学ぶ知識・技能を活用し,思考・判断・表現する必要なものを設定する。
  • チェックリストは単元ゴール達成の足場架けとなるような言語活動をスモールステップで設定し,全員がクリアすべきものとレベルアップしたい人がチャレンジするものを設ける。
単元ゴールと教科書の内容が離れている場合,教科書の活用が上手くできず,自作教材に偏ってしまった。 生徒用デジタル教科書を生徒が適切な場面で活用できるよう,機能と活用可能な場面を教える機会を随時設ける。
【単語の確認,音声と文字の一致のための音読,ターゲットセンテンスの文法確認,ターゲットセンテンスが文章内でどのように活用されているか確認,ターゲットセンテンスの活用練習】
事前課題を指定すると,生徒がその時々に必要な事とはズレが生じてしまった。 事前課題リストを作成し,自身の単元の学びの進捗と単元ゴールの達成に向けて適宜必要な課題が選べるようにする。

5. 成功事例と生徒の変容

上述した修正点を踏まえ,単元を追うごとに修正を加えたところ(図11),生徒は自由に学び方や教材を選択しながら言語活動を積み重ね,知識・技能の定着が見られた。例年実施される沖縄県学力到達度調査において,過去数年に渡って県平均を超えることが出来なかったが,実施学年全てにおいて県の平均正答率を超えることができた。特に,スピーキングテストにおいて県平均を超えたことから,言語活動の充実が図られたことが分かる。

図11 単元内自由進度学習構想の試行錯誤を経た年度末の生徒のカード

6.振り返りと今後の課題

本実践記録は,「主体的・対話的で深い学び」を授業の中に作り出すことをゴールに,教師主導で展開され,一見すると主体的に学習しているように伺えるが実態は「させられている学習に一生懸命についてきている」という授業からの脱却を図った取り組みの記録である。このような課題の解決に取組むための第一歩として,生徒が「主体的に」実生活,これからの自分の人生や社会生活に生かそうと思い英語を学びたくなるような授業改善に取組もうと「単元内自由進度学習」という手段を取り入れた。

本実践により,生徒が主体的に言語活動を展開することを通して,単元で身につけて欲しい資質能力の定着が見られ,それらを活用して試行・判断・表現する様子が伺えた。しかしながら単元ゴールを教師主導で設定することから脱却できておらず,単元における学びの計画においては十分な時間の確保が出来なかったという課題が残る。今後は,生徒と身につけて欲しい資質能力をCan-doリストを通して共有し,その資質能力を発揮する必要がある目的・場面・状況を想定して単元ゴールを設定することに取り組んでいきたい。また,その単元ゴール達成のためには,どのようなチェックポイントが必要なのかを問い,そのチェックリストに向かって個々人で10時間という限りある時間をどのような学び方で進むのかという計画する時間を確保したい。また,生徒が個別最適に学びを進めると同時に言語活動に取り組むことができるような仕組みを様々な角度から考えていきたい。

7.まとめ

英語科における単元内自由進度学習を実施する際には,言語活動を適切に設けるための仕組みづくりが必要であることが分かった。本実践においては,単元ゴールと併せてテストプランやルーブリックを単元導入時に生徒と共有し,そこに向かうために必要な言語活動をチェックリストとして配置することで,単元内自由進度学習が英語科においても効果を発揮するものとして展開できた。今後も,教科の特性を踏まえた生徒の個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図る環境設定や学習支援ツールの開発及び授業づくりに尽力したい。

8.参考文献