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授業実践記録(数学)

青翔中学校・高等学校数学科の6年一貫教育への取り組みについて

奈良県立青翔中学校・高等学校 木南 俊亮

1.はじめに

青翔中学校は,奈良県初の県立併設型中高一貫教育校として,5年前( 2013年)に開校した。3期生までは1学年40人,4・5期生は2クラス80人という小規模な学校である。

青翔高校は全国初の理数科単独高校であり,スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている。特に,高校で行う探究活動につながるような教育内容の構築や生徒の資質・能力を総合的に育成することなどを研究の柱としている。また,実物に触れたり話を聞いたりする,「本物を体験する学校行事」を多く取り入れている。

2.「6年間を見通した数学教育実践」について

(1)学力差を広げない

開校前に,他府県の多くの中高一貫校を訪問し話を聞く機会をいただいた。どの学校も「6年の中での中だるみをどうするか。大きく開いてしまった学力差をどうするか。」が課題であると聞かせていただいた。特に本校は,1学年が1学級または2学級と少人数であるため,学力差が開くということは,学年が上がるにしたがって,授業のやりにくさや生徒のモティベーションの保ちにくさなど,深刻な問題になると予想された。

(ア)中学3年間の少人数授業

中学生の間は数学の授業は1クラスを20人ずつの2グループに分けて授業を行っている。少人数で授業をすることにより,低学年の学習の過程で学力差ができるだけ生じないよう,きめ細かな指導を実践し,生徒の興味・関心や学ぶ意欲を高めて,主体的な学習を保障している。

(イ)ICTを活用した教育活動(協働作業やまとめ発表学習の充実)

生徒の学習意欲を高めるためにタブレット端末を導入し,授業での効果的な利用方法を研究している。タブレットを利用してグループ学習をしたり,まとめや発表に利用したりしている。数学以外にも,タイの姉妹校の生徒とSkypeで会話するなど,様々な用途にタブレットを利用している。デジタル教科書もほとんどの教科で活用されており,先進的な取組を行っている。

(ウ)低学年・中学年の指導

入学直後は,自ら学習する習慣がついている生徒は少ない。まず,家庭学習する習慣や,課題を決められた期日に提出できることなどの基本的な学習習慣スキルを身につけることを中学年までの目標とした。

低学年では,小テストを数多く行い,合格できるまで追試を繰り返し,完璧に理解できるまで,指導するようにしている。

中学年では,下位層の学力を底上げしつつ,上位層も引き上げるようにしている。具体的には,参考書を副教材として使用し,有意義に利用する方法を模索している。現在は「Focus」を使用している。参考書を長期休業中の課題として取り組ませて,新学期に課題テストを実施するだけでは,普段の疑問点の解消のために参考書を使えない。そのため,現在は教科書傍用問題集を使わないで,普段の授業の練習問題もFocusを中心に学習させている。重いFocusを毎日持ってくる生徒,章ごとに製本しなおして持ってくる生徒,別冊解説を持ってくる生徒など,いろいろ工夫をして利用してくれている。また,Focus例題チェックシートを,できる限り毎時間の最初に「小テスト」の形式で1枚ずつ解いている。これだけでは,応用問題等の難問を解くことができないので,長期休業中に実施する進学講習等でも例題チェックシートを利用している。また,余力のある上位層の生徒に対しては「システム数学 入試必修問題集練磨」の問題にチャレンジさせている。

高学年の生徒に対する指導については,現在検討中である。

(エ)モティベーションを高めるために

高校入試がないので,中だるみしやすく,放っておくと学力差が大きくなる。そのため低学年から数学に対する興味関心を持ってもらえるようにいろんなアプローチをしている。
青翔計算力コンテスト・・・全中学生が同じ問題にチャレンジする。限られた時間で集中して正確に計算できるように指導している。1年に3回程度実施している。
数学検定  ・・・中学1年生から希望者が受験している。英検や漢検,日本語検定など検定については学校全体で取り組んでいる。
数学甲子園 ・・・中学3年生から,有志グループが毎年参加している。優秀な成績を残しているわけではないが,数学好きの生徒たちが数学を先取りして自学するための原動力になっている。
MATHコン・・・中学2年,3年は夏期休業中の課題として全員が取り組んでいる。後述する数学の探究活動の入門として,考えるきっかけとなっている。

昨年2017年度の高1全国模試の数学の標準偏差は以下の通りである。できる限り標準偏差を小さくしようと努力してきたが,なかなかうまくいかないものである。

1年 7月 1年11月 1年 1月
本校 13.6 14.7 13.7
全国 18.1 19.9 20.0

(2)統計教育に力を入れる

中学3年間は,統計だけを学ぶ時間を週に1時間設けている。開校から2年間,奈良教育大学の「理数プロジェクト」として,大学教員と大学院生の派遣や統計に関する教材開発や授業補助を実施していただき,現在の本校統計教育の礎を築いていただいた。

指導目標としては,次の3点を設定した。
(ア)統計に関する基礎的な知識を修得する
(イ)身の回りの事象を,グラフを用いて整理し考察できる活用力を養う
(ウ)コンピュータを用いてデータを整理し,まとめて発表できる力を養う
この指導目標を達成するために「統計グラフコンクール」と「統計検定」を活用している。

統計グラフコンクールに出品するポスターを制作するということは,「問題を定義し,データを集め,データを分析しグラフを作成し,結論を説明する」というPPDACサイクルを理解し実践していくのに適した学習課題である。

また統計検定4級は中学卒業段階を想定して実施されている検定であり,内容的にも4級取得を目指すことは統計の学習に対するモティベーションを持続させ,具体的目標を与えることとなり,学習が充実している。授業場所をPC室に限定し,必要に応じてデータ処理についてもコンピュータを利用している。考察するデータとして,生徒たちの身近なものを用意すれば,統計的な考え方を日常生活や学習に生かす態度を養うことができると考えている。3級は高校の数Ⅰ「データの分析」が主な出題範囲であるが,全員が中2と中3の間に取得するように指導している。

座学だけではなく,グループでの協働的な数学活動を多く取り入れ,発表学習をすることにより能動的な学習が進むように工夫できた。各学期に1回は発表学習をしている。中学生は各学年とも3学期は,統計的な課題解決ができるように課題を与えて,じっくりと取り組んでいる。このことにより,数学的活動の楽しさを実感し,日常の事象や社会の事象を統計的にとらえて分析することが,いかに有用かが理解できたのではないだろうか。

中学3年間で,高校での探究活動に役立てるため「推定・検定」まで学習したかったが,週に1時間の授業では最後まで進めることはできず,現在も高1の授業で継続している。記述統計と推測統計の間にある壁は厚く,うまく授業を進めることができなかった。どのように学習計画を立てるかが課題である。全ての中学校でこのような統計教育ができるわけではないであろうが,もうすぐ高校で実施される「理数探究」に備えて,すべての中学生が統計的な考え方を身につけ,課題解決力を身につける必要性が高まっていると思われる。

高校での課題研究やSSH科目「探究科学」などで生徒たちは実験データを基に仮説を立て推定・検定をしているが,理論的なことを理解せずに形式的に処理をしている。ブラックボックス化した課題解決のプロセスを少しでも理解できるよう取組を始めた。

高校では,SSH科目であるSA(スーパーアナライズ)数学を実施している。このSA数学において,特に授業で統計について学んでいるわけではない。前述したように,「推定・検定」まで学ばせたかったが,どのように進めていくかなど,まだ方針すら立っていない状態である。しかし,生徒たちは今まで学んだ知識をもとに,いろんなコンテスト等にチャレンジしている。引き続き「統計グラフコンクール」に出品する者もいれば,「和歌山県データ利活用コンペティション」や「地方創生☆政策アイデアコンテスト」,「スポーツデータ解析コンペティション」などに有志が応募している。それぞれに,学んだ統計知識を利用活用しているようである。

(3)探究活動

(ア)中学校での探究活動

中学校では,高校のSSH科目で実施する探究活動の基礎的な事項を学ぶ。自ら課題を見つけ,実験などから得たデータを分析・研究し,その結論を検討させ,PPDACサイクルに基づく研究の在り方を身につけさせている。中学2・3年生は,夏期休業中の課題として全員が「MATHコン」に取り組んでいる。課題研究に取り組ませるのには,モティベーションも高まり良い機会となっている。中学生としては少し難しい取り組みであり,あまり良い作品は生まれていないが,この取り組みを続けることによって,高校生になってから花開くのではないかと考えている。

中学3年で学ぶ「数学探究基礎」では,高校になって探究活動を行う際に必要な考え方や探究メソッドについて学ぶ。Excel,PowerPoint,GRAPES,GeoGebraなどのソフトの使い方についてもこの授業を通じて学習する。授業の中では,「課題研究メソッド」を活用している。「課題研究メソッド」は個人に購入させているわけではなく,学校で購入したものを授業中に貸与して,必要な場面で使っている。

(イ)高校での探究活動

高校では「スーパー探究科学」というSSH専門科目を履修する。数学,物理,化学,生物,地学の5つの分野で,グループに分かれて探究活動をする。ここでは「MATHコン」で養われた課題に対する探求する態度が活かされていると感じる。
また,高校1年で学ぶ「SA数学」では,普段の授業で,できないような内容について学んでいる。情報倫理や著作権などの知的財産についての学習や,測量実習,Pythonを利用したデータ処理について学んでいる。これらの学習内容も,総合的に探究活動に寄与していると感じている。

(4)外部の力の活用

数学がどんな活用のされ方をして,どれだけ私たちの生活に貢献しているかを知らせるのは,私たち数学教員の使命だと考える。しかし,我々の言葉はなかなか生徒たちの耳に届かないことが多い。そんなときでも,外部の専門家の言葉や,企業の方の言葉はスッと生徒の胸に飛び込むことが多い。本校では,それぞれの教科で,必要なときに外部講師を招聘して話を聞いたり,こちらから専門家のところに出向いて話を聞いたりしている。是非,いろんな学校で外部の方の話を活用されることをお勧めしたい。

数学関係の行事(本年度実施予定分)
 RESAS講習会(経済産業省近畿経済産業局・来校)
 大阪工業大学プログラミング教室(大阪工業大学枚方キャンパス・訪問)
 滋賀大学データサイエンス講座(滋賀大学データサイエンス学部・訪問)
 数学で理解する3D描画プログラム(ECCコンピュータ専門学校・訪問)
 測量実習授業(近畿測量専門学校・来校)

3.今後の取組について

本校は,全国初の理数科単独高校,スーパーサイエンスハイスクール指定校の中高一貫教育校であり,高校でのノウハウを生かした質の高い理数教育を中学校でも展開している。6年間を見通して,先取り学習や重要項目のスパイラル学習を取り入れたカリキュラムの研究・実践を続けていかなければならない。また,評価に対する研究にも,中学と高校が一体となって取り組んでいるところである。各方面からの協力とご教示をお願いしたい。