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理科

体感的な理解から仮説を立て追究する課題探究的な授業

北海道札幌市立平岡緑中学校 桑原 俊行

1.はじめに

本実践は,3学年エネルギー単元「仕事の原理」に関する2時間扱いの授業実践である。本題材における実験は,力を加えた距離,物体が動いた距離の2つを測る必要があり,実験操作の難しさがあると感じる。方法を説明してやらせるだけでは,操作の意味や目的を理解せずにやっている作業になってしまうと感じる。そこで,定滑車,動滑車,斜面を用いて重いものを持ち上げる体験を生徒全員に行わせた。体験をもとに仮説をたてることで目的意識をもち,主体的に解決しようとする姿勢が生まれることをねらった。

2.課題探究的な学習の展開

(1)課題の把握・課題の設定

1/2時間目に行う。学習課題を内在化するために,道具を使った時と使わなかった時の仕事を生徒が体感し,仕事の量を感覚的に比較することができるようにした。具体的には,導入で質量20kgのキャリーケースを床から実験台まで持ち上げる体験をする。その後,体育館ステージのスクリーンの巻き上げや,グランドピアノの搬入,給食ワゴン用のエレベーターなど,重いものを楽に持ち上げる際に道具を使えば良いことに気付かせ,重い物体を運ぶ際に使用されるクレーン車やエレベーターに滑車が使われていることや,ピラミッドを建設する際に傾斜を用いたという説を紹介する。その後,天井に設置した定滑車,ホイストロープ,板を用いてつくった斜面の3種類の道具を使ってキャリーケースを持ち上げることを体感する。道具を使った際の力や引っ張る距離を体感することで,道具を使った時と使わなかった時の感覚の違いから,「道具を使うと仕事の大きさはどのようになるだろう」という学習課題につなげていく。「道具を使うと楽に引き上げられることから,道具を使うと仕事の量は少なくて済むのではないか」,「力は少ないが引っ張る距離が長くなるので,道具を使っても仕事の量は変わらないのではないか」などの仮説を立てる。仮説をたてることで目的意識をもち,主体的に解決しようとする姿勢が生まれることをねらった。

(2)観察,実験

生徒が仮説を検証できるように,実験用の定滑車,動滑車,斜面を用いて生徒実験を行う。その際,「1kgの台車を10cm持ち上げる」ことを共通条件とした。この実験では「台車を持ち上げた距離」と「力を加えて力の向きに動かした距離」を同時に測る必要があり,実験操作が複雑になりがちである。そこで「台車を持ち上げた距離」については,高さ10cmの印がついた自立する発泡スチロール棒を用いて,目盛りを読む必要がなくなるようにした。

(3)観察,実験の結果の分析・解釈

「道具を使うと仕事の大きさはどのようになるだろう」という主課題を解決するために,定滑車を用いるときの仕事,動滑車を用いるときの仕事,斜面を用いるときの仕事の3つの分散課題を班で分担し追究するジグソー学習的な学習形態を用いることとした。
分散課題を追究していく過程で,生徒は同じ課題を追究する他の班の生徒と学び合い,自分なりの解決を行う。これを持ちより主課題の追究に入る。分散課題を追究する場面では,調べたいことに注目しながら数値を扱うことで,量的な視点で結果を分析する姿が見られると考えられる。主課題の追究場面では,他の実験結果と自分の実験結果を結びつけ解釈しようとする姿が見られると考えられる。これらの活動を通して班員一人一人が役割をもち自らの考えを伝える場面を生むことや,他と学び合うことの有用性を実感できるようにすることをねらっている。また,分散課題の追究場面,主課題の追究場面の2段階の追究場面があるため,多くの考えに触れることができ,自らの情報の吟味や情報の再構築を幅のあるものとしていくことができると考える。それぞれの分散課題の追究が終了した段階で結論を持ちより,主課題に対する総合的な結論を見いだす流れとした。

学習形態のイメージ
学習形態のイメージ

3.授業の流れ

(1)目標

・体験をもとに学習課題や仮説を設定し,実験で確かめる。

・道具を使っても仕事の量は変わらないことを他者との交流をもとに見いだす。

(2)展開(2時間扱い)

流れ 生徒の活動 教師の関わり
(1

2)
課題
把握

○前時の学習内容を振り返る。

・仕事の求め方を確認する。

・前時の学習内容を振り返らせ,仕事の求め方を確認する。

○床に置いてある荷物を机の上にのせる仕事を行う。

・質量20kgのキャリーケースを持ち上げる。

・仕事を行うよう指示する。

○楽に持ち上げるには道具を使用すると良いことに気付く。

・てこ,クレーンなど

・学校の中にも楽に持ち上げるための道具が存在することに気付く。

・楽に作業を行うにはどうすればよいかを考えるよう促す。

・体育館のネット,給食用エレベーターなどに気付かせる。

○道具に滑車が使われているものがあることや,斜面を用いる方法があることに気付く。

・クレーン車やエレベーターに滑車が使われていること,ピラミッド建設に斜面が使われた説などを紹介する。

○定滑車,ホイストロープ,斜面を実際に使用し,荷物を持ち上げる実験を行う。

・道具の使い方を説明し生徒に体験させる。

○手で持ち上げたときとの違いを感覚的に比較し,道具を使った時の仕事の大きさはどうなるのか疑問を持つ。

・道具を使わずに行ったときとの違いを根拠に考えさせる。

【学習課題】
道具を使うと,仕事の大きさはどのようになるのだろう

○課題に対する仮説を立てる。

・仮説を立てるよう促し,交流する。

○課題を解決するための分散課題を設定する。

 
【分散課題Ⅰ】定滑車を用いると,仕事の大きさはどうなるか
【分散課題Ⅱ】動滑車を用いると,仕事の大きさはどうなるか
【分散課題Ⅲ】斜面を用いると,仕事の大きさはどうなるか

○班内で,誰がどの分散課題を追究するか決め,同じ課題を追究するものどうしでグループを再編成する。

・1つの分散課題×3グループ,合計9グループを編成する。

・班内で分担を決め,グループを再編成する。

○グループで実験の方法や注意点を確認する。

・結果を比較するために,「1kgの台車を10cm持ち上げる」ことを共通条件とする。

・力の大きさと力の向きに動かした距離を測定する必要があることを再確認する。

・誤差を小さくするため測定値は平均値を使用する。

・それぞれの実験装置の図を提示し,留意点を確認する。

○次時の見通しをもつ。

・次時に実験を行うことを確認する。

(2

2)
課題
追究

○学習課題や仮説を確認する。

・学習課題や仮説の確認を促す。

○道具を使わずに台車を持ち上げたときの仕事の大きさを確認する。

・9.8N×0.1m=0.98Jになる。

・道具を使わずに台車を持ち上げたときの仕事の大きさを確認させる。

○実験を行う。

【分散課題Ⅰ】定滑車を用いた仕事
【分散課題Ⅱ】動滑車を用いた仕事
【分散課題Ⅲ】斜面を用いた仕事

(共通条件)1kgの台車を10cm持ち上げる仕事を行う。

・10cm持ち上げることは印のついた棒を目安にする。

・それぞれ3回試行し,電卓で平均値を出して仕事を求める。

・実験操作を適切に行えるよう支援する。

○代表グループが実験データを黒板に記入する。

・いくつかのグループを指名し黒板に記入させる。

○グループで得られた実験結果を,道具を使わずに行った時と比較する。

・力の大きさはどう変化しているか

・力の向きに動かした距離はどう変化しているか

・班に戻った時に説明ができるよう比較することを促す。

課題解決

○最初の班に戻り,自分が行った分散課題と,他の分散課題の結果を互いに交流する。

・他の分散課題の結果を収集し,主課題の解決を促す。

○集まった情報をもとに,主課題の解決を行う。

・仮説のとおりにならない場合は原因を考えるよう促す。

○学級全体で結論を交流し,課題解決を共有する。

【課題解決の姿】
定滑車は力の大きさも力の向きに動いた距離も変わらない。動滑車と斜面は力が小さくなるが,その分,力の向きに動かした距離は長くなる。道具を使っても仕事の量は変わらない。

・課題解決を全体で共有する。

・仕事の原理を説明する。

○わかったことをワークシートに整理する。

・次時予告を行う。

(3)評価

・体験をもとに学習課題や仮説を設定し,実験で確かめることができる。(観察・実験の技能)

・道具を使っても仕事の量は変わらないことを他者との交流をもとに見いだす。(科学的な思考・表現)

4.授業の様子

滑車の利用に気づかせる場面(体育館のネット)
滑車の利用に気づかせる場面(体育館のネット)
生徒が道具を体験する様子
生徒が道具を体験する様子
実験装置
実験装置

5.まとめ

<成果と課題>

・実際に物を持ち上げる体験をすることで関心を引き出すとともに,仮説の設定がスムーズに行われた。

・定滑車を用いた体験では,体重をかけて持ち上げられることで軽くなったと感じる生徒がいたが,そのことが反対に追究しがいのある課題へと変化していた。授業後も数人が滑車の前で話し合う姿が見られた。斜面の実験では,分散課題の中で話し合い,角度を変えて再度仮説を検証するグループもあった。

・学習形態の工夫で,通常の班での学習ではあまり活動できない生徒が,すすんで学びに向かっていた。

・実験データがほぼ正確に得られ,課題解決は全員が納得できるものになった。

・主課題の解決に向かう場面では,他の分散課題の結果をワークシートを見て書き写すことに一生懸命の生徒がいた。