中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

チスジノリを通した環境学習

上郡町立上郡中学校 東山 真也

1.はじめに

本校の校区を流れる安室川(兵庫県赤穂郡上郡町を流れる千種川の支流)には環境省レッドデータブック(2007)で絶滅危惧II類,兵庫県版レッドリスト(2010)でAランクに分類されるチスジノリが生息している。この藻類は2003年までは兵庫県では絶滅したと考えられていたが,2004年に再発見された。そこで,この珍しい藻類の生態と復活を目指した調査・研究が科学部を中心として開始された。この活動を通して,生徒たちは身近な自然に関心を持ち,その複雑な仕組みを解き明かしていく過程を体験を通して学習し,研究の大変さや難しさ,楽しさを実感した。また,様々な生き物が微妙なバランスで生息する自然の仕組みの不思議さに触れ,一度壊してしまえば元に容易には戻らない自然環境の保護を校内や地域へ発信していく活動へと発展していった。ここではその研究の概要と取り組みの様子を報告する。

2.チスジノリの一生

まず,チスジノリの一生を右図で解説する。一般にチスジノリと呼ばれているのは配偶体で雌雄異株,安室川では長期間見られる。シーズンでは9月半ばから翌年の6月にかけて観察できる。安室川では最大60cmになるものがあった。

そして,4月~6月にかけて果胞子を作り,シャントランシア体(胞子体)になる。普段,チスジノリはシャントランシア体で単為生殖を行い世代交代をしている。そして,何かのきっかけでシャントランシア体が配偶体になるが,そのきっかけはまだ完全には解明されていない。年によっては配偶体をほとんど作らない年もある。

3.科学部の調査・研究

科学部では2004年から研究を開始し,(1)チスジノリが生える環境を調べる「水質調査」 (2)チスジノリが生えやすい環境を作って調べる「川を磨き・耕す」研究 (3)配偶体の成長の特徴を調べる「配偶体調査」 (4)シャントランシア体から配偶体になるきっかけと,シャントランシア体の生活を詳しく調べる「シャントランシア体密度調査」 (5)シャントランシア体を増やし配偶体へ育てる「シャントランシア体移植調査」と研究を進めてきた。現在は(4)(5)の調査・研究を継続中である。以下,その概要を報告する。

(1) 水質調査

水質調査は2004年3月から2006年7月まで計65回行った。測定場所はチスジノリが見られる場所B,その上流側A,下流側C,湧水地点Dの4カ所で気温・水温・水深・流速・pH・導電率・COD・においを測定した(右図は水温のグラフ)。この調査からチスジノリの見られたB地点は湧水地点のD地点のように夏場は少し水温が低く,特に冬場は少し水温が高いことが分かった。つまりチスジノリが生育する場所は湧水の影響が大きいところで,流速と水深がある程度あり,日陰で石の表面がきれいであるということが分かった。

(2) 「川を磨き・耕す」

石の表面がきれいなところで生息することが分かったので,以前チスジノリが見られ,今は全く見られない場所で,人為的に川底の石の表面を磨いたり,石をひっくり返してきれいな面を出すような働きかけを行い,上流側にシャントランシア体付きの石を移植して観察した(右図が記録の一部)。その結果,川を磨き・耕した実験区ではシャントランシア体が急増し,そのままの対照区ではシャントランシア体が減少していった。しかし,配偶体は発生しなかった。また,2ヶ月ほどたつとどちらの実験区でも他の藻類が繁殖し,シャントランシア体が姿を消していった。この結果から,石の表面をきれいにすることは有効であるが,チスジノリが生育するためには継続して石の表面がきれいであることが必要であることが分かった。

(3) 「配偶体調査1」(2006年~2007年)

2006年秋には配偶体がたくさん出現してきたので,2006年~2007年のシーズンはその配偶体の成長の様子を調べた。右図左の○△◇×のところに配偶体が発生した。右図右のグラフは流速と各配偶体の成長合計をグラフにしたものである。この結果分かったことは流速が大きいところの株は大きく成長でき,流速の弱い岸に近い株は成長できない。大きく成長した株はこの場所では最大20cmになり,速いもので1日約1cmも伸びることが分かった。

「配偶体調査2」(2009年~2010年)

このシーズンはたくさんの配偶体が出現し(200株以上)配偶体の観察ができた。右のグラフからは3月が小さな株から大きな株まで分布範囲が広く,株数ももっとも多くなることが分かった。また,4月12日には配偶体が果胞子を作っているのも確認できた。

そしてこの調査の期間中にシャントランシア体から配偶体が立ち上がっている株を発見した(右写真)。これでシャントランシア体から配偶体が立ち上がることが初めて確認できた。

(4) 「シャントランシア体密度調査」(2008年7月~現在も継続中)

チスジノリの普段の姿であるシャントランシア体のことを詳しく調べてその特徴や配偶体になるきっかけなどを探っている。方法は各調査区(2m四方の枠)内のこぶし大以上の石を10個無作為に取り上げ,シャントランシア体のもっとも多いところに右図のように3cm×3cmの枠をあてシャントランシア体の数を記録する。そして,10個の石の平均を出してグラフにしたものが下図である。

この調査の結果,現在までに分かったことはシャントランシア体の数は大きく増減し,配偶体が出現しているところではそれに先駆けて必ずシャントランシア体が増えており,シャントランシア体が減少し始めると配偶体も減っていくこと。また,8月に大きな出水(3m以上)があると9月から配偶体が多数出現し,9月に大きな出水があると出現が大きく遅れるということが分かった(2012年は4月に初めて配偶体が発生した)。

(5) シャントランシア体移植調査

下の写真のように安室川からシャントランシア体付きの石を採集し,検鏡し,単胞子を発生させている石を洗濯ネットに入れてエアレーションし,単胞子を付けたネットだけ川に入れてシャントランシア体の発生状況を調べた。

その結果が上のグラフである。a,b,eは日陰で比較的流速が速いところに入れたネットで,そこではネットからも周りの石からも多数のシャントランシア体が発生していることが分かる。そして2012年~2013年のシーズンはこのネットを入れた場所だけたくさん配偶体が発生した。

4.広げる活動

科学部員がまずチスジノリのことや科学部の研究をパネルを使って説明し,次に実際にチスジノリが生えている川の中に入ってもらい,箱めがねで観察してもらった。参加者は地域の方だけでなく他市からの参加も多数あった。

5.まとめ

生徒はチスジノリという生き物のことを深く追求していけばいくほど,その生態は複雑でなかなか思い通りに解明できない研究の難しさを知り,一方 成果が出た時の喜びも大きいことを実感した。先輩から後輩へ実験結果やテーマが受け継がれていくので,その重みと自分たちの責任を感じることもできた。そして,どの生物も他の生物との関係や川の環境と密接につながり関わり合って生きていることを知り,人と自然の共生のあり方について考え始めることができた。

また,中学生が働きかけることで保護者や地域の関心も高まり,様々な形で応援してもらうとともに,身近な自然への関心を高めてもらうことができたと考える。