中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

天気図作成による「天気」の単元のまとめと発展的な学習

愛媛県中学校 A教諭

1.はじめに

天気予報は毎日テレビやラジオ,インターネットなどのメディアを通して発信され,毎日の生活に欠かすことのできない情報の一つである。毎朝,天気予報を観て登校している生徒も多いのではないかと思う。天気の学習は中学2年生で行い,気象観測や天気記号,天気図,高気圧,低気圧,前線などを学習する。しかし,学習してきた内容と,今自分が見上げた上空で起きている気象の変化とを結びつけて考えている生徒は少ないのではないだろうか。

そこで,自分が中学生だったとき,理科の授業で書いた天気図を思い出した。NHKラジオ第2の「気象通報」から天気図を作成することによって,学習内容の確認・集約とともに,自分の住んでいる地域の天気と天気図との比較ができる。また,既習の内容と実生活とをより結びつけることができ,生徒は,そこから自然事象に対する興味・関心がさらに強くなるのではないかと考えた。そこで,気象通報について調べたところ,気象庁のホームページに気象通告がデータ化して,1日遅れであるが1日3回の観測分が毎日更新されていることが分かった。これを活用すれば,ラジオの時間を気にすることなく作図を行うことができるため,教材として活用することにした。(今後NHKラジオ第2の「気象通報」のデータとは,気象庁のホームページに更新されるデータのことである)

2.天気図について

天気図は,NHKラジオ第2の「気象通報」のデータを用いてラジオ用天気図用紙に各地の風向き,天気等を記入し,それを基に等圧線や低気圧,高気圧,前線などを書き込み,現在の日本周辺の気象の状態を知るためのものである。続けて書くことによって気象変化の流れを知り,天気予報をする手がかりとなる。

NHKラジオ第2の「気象通報」

放送時間 観測時間
9:10~9:30 当日 6時  
16:00~16:20 当日12時  
22:00~22:20 当日18時   毎日放送している。

放送内容

3.実践研究

単元「地球の大気と天気の変化」(啓林館)は,1章「空気中の水の変化」,2章「大気の動きと天気の変化」,3章「大気の動きと日本の四季」で構成されている。天気図について学習するのは第2章からである。教科書の内容に沿って天気記号や風向,風力を学習した後に等圧線の書き方に触れ,簡単な等圧線を書く実習を行った。これが,1回目の天気図の作成である。その後数回行い,学習内容が進むにつれて天気図に載せる内容を充実させていった。

(1)小単元指導計画

「第2章 大気の動きと天気の変化」(全8時間)

学習項目 学 習 内 容
風はどのようなしくみでふくのか

第1時 天気と気圧の変化の関係が分かる。 等圧線の書き方を知る。(実習①)

第2時 高気圧,低気圧の差で生じる大気の動きと天気に関係があることが分かる。(実習②)

大気のようすを調べよう。

第1時 気象観測の仕方を知り,観測を行う。

第2時 観測したデータを整理し,グラフなどに整理し発表する。また,典型的なデータを基に天気と気象要素の関係が分かる。(実習③)

大気の動きによって天気はどのように変わるか

第1時 気団のでき方とその性質,前線のでき方や基本構造が分かる。

第2時 寒冷前線や温暖前線における雨の降り方の違いや通過後の気温や風の変化が分かる。(実習④)

第3時 前線通過後の天気,気温,風向の変化を知る。

第4時 低気圧や移動性高気圧の動きと関連づけて,日本付近の天気の移り変わりの規則性が分かる。(実習⑤)

(2)指導の実際

実習①
等圧線について説明を行った後,練習用に作成したデータを用いて,4hPaごとの地点を探し等圧線を引く方法を,全体で確認しながら一斉に作図を行った。

実習②
高気圧,低気圧,その他天気記号,風向・風力についても学習し終えたので,NHKラジオ第2の「気象通報」のデータを用いて天気記号を作図用紙に記入し等圧線を引いた。実際のデータを作図するのは初めてだったので,一度回収して確認した後,教師が作成したものを配布し,確認・修正させた。そして,低気圧,高気圧をデータに基づき記入し,高気圧から時計回りに風が吹き出し,低気圧に向かって反時計回りに風が吹き込むように日本付近の風の流れを矢印で表し,この作図から予想される愛媛県の天気と風向・気温を予想させた。

「天気」の予想理由の欄に「高気圧が近づいているから晴れ」と予想している生徒が多く見られた。確かに高気圧があると天気は良くなる。しかし,この日の愛媛県は高気圧と低気圧の間に位置し,高気圧の下降気流によって晴れだとはいえるものではなかった。また,「気温」の欄にも高気圧によって気温が高いと予測している。気圧が高くなることによって温度が上がるのは上空でのことだと説明した。それよりも風向に注目して気温を予想するように助言した。風向については,学習した高気圧,低気圧の風向を基に作図し,予想できている生徒が多かった。ちなみにこの日の天気は,「晴れ・8℃・北北西」だった。

天気図については,生徒によって上手に書けている者と,どのように等圧線を引けば良いのか全く分からない者とに分かれた。

生徒が書いた天気図 実習②

実習③
実習②同様に作図を行い,愛媛県の天気と風向と気温を予想させる予定だったが,実習②が予想以上に時間がかかったことから,行わなかった。

実習④
前線についての学習を終え,温帯低気圧と前線の関係も学習を終えている。よって今回は,「等圧線,高気圧,低気圧,風向,前線,低気圧周辺の寒気・暖気の色分け」が書かれた天気図を作成させた。

「気温」の予想理由に「寒冷前線より北になっているので寒気に入っているから」と書いてある。授業で学習した「温帯低気圧周辺の寒気と暖気」関係を理解し,予想に活用することができている。「風向」の予想理由が,「気温」予想の記述と矛盾してはいるものの,風向西を予想した理由は,高気圧,低気圧に発生する風について理解していることが確認できた。

生徒が書いた天気図 実習④

実習②の天気図と比べてずいぶん上手に等圧線を引けるようになっている。温帯低気圧,前線,寒気,暖気を書き込むと,大気のようすが視覚的に分かる天気図が書けている。

実習⑤
偏西風によって日本付近の天気は西から東に変化しているということも学習した。今回の実習では,愛媛周辺の天気のデータを削除したものを渡して作図し,天気図から愛媛県の天気を予想させた。

予想理由に,「積乱雲」「等圧線の間隔が広い」「寒冷前線が通過したので」など,学習した内容が書かれている。自分が書いた天気図を見て既習の内容を使い,予想をすることができている。感想の中に「予想するのも楽しかったです。」「今回は前より考えて予想することができた。」と書いてあり,天気図を書くことへの抵抗がなくなり,意欲的に活動する姿勢も感じられるようになった。

生徒が書いた天気図 実習⑤

上の天気図は,前線が発生した低気圧が西日本に接近している日の天気図である。3回目になり,生徒同士で相談して書いたものであるが,等圧線のバランスや前線,寒気,暖気などが上手に仕上がっている。この図を見ると,寒冷前線による積乱雲によって愛媛県は雨,等圧線の間隔が広いことから風は弱く,風は,低気圧の中心に向かって反時計回りに吹き込むことから風向は北西,気温は寒気が入り込むことから寒いと予想される。

3.成果と課題

生徒は,天気図を何度か書いていくうちに,等圧線を上手く書くことができるようになった。内容の進度にあわせて,低気圧,高気圧,前線,前線にともなう雲などを学習するごとに,それらを天気図に書き加えていった。そのことによって,それぞれの学習内容が天気図を書くことによって関連した事象だということに気付かせることができた。また,予報をすることによって,既習の内容を確認するとともに,既習事項を活用するという学習活動ができた。

しかし,生徒にとっては慣れない作業だったため,思っていたよりも時間がかかり,宿題にするなど生徒に負担をかけたという懸念が残る。また,気象庁の気象通告のデータ化が1日遅れなので,リアルタイムの天気図を書くことができないのも課題の一つである。