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数学

「第1学年 平面図形 角の二等分線の作図の謎に迫る」
-生徒が持つ傾向を活かした授業展開-

山形県南陽市立赤湯中学校 安達 心

1.はじめに

わたしは,生徒のつまずきを大切に扱いながら授業を行うことを心がけている。なぜならば,つまずきの中に学びの深まりや広がりに繋がる種が存在すると考えているからである。今,算数・数学教育においては,系統性や学び直しを重視した指導がより一層求められていることが,小・中学校の学習指導要領,中央教育審議会答申などに明記されている。系統性を大切にしながら指導していく中でつまずきを発見したならば,学び直して解消しなければならないことを示唆しているものと考える。わたしが求めているのは,個別的なつまずきの解消方法ではなく,授業で出現したつまずきを生徒が持つ傾向として肯定的に捉え,教師も含めた教室の生徒全員の持つ力を活かして数学を追究していく指導である。

2.生徒が持つ傾向を活かした授業

(1)生徒の視点でつまずきを捉える重要性

Lakatos(1980)は,数学の知識を発展させるためには,反例もしくは変則事例を積極的に活用することを強調し推奨している。また,Borasi(1994)は,errorを踏み台とすることで探求が深まることを15のエピソードから紹介し,4つの成功経験により数学の学習における健全な態度を開発することができるとしている。山本(2004)に登場する生徒の説得の仕方は,何か一つの理由により説き伏せるというよりも,根拠を重ねるようにして説得を進めている。また,布川(2010)の例では,教師のわかりやすい例を取り上げる工夫が,生徒のつまずきから離れていくこととなる。これは,生徒のつまずきを教師の視点からのみで判断すると,つまずきの本質を見落とす危険性があることを示唆している。

(2)生徒が持つ傾向を活かした授業の実践

布川(2010)の研究成果を土台にして,生徒のつまずきを活かして学び合いに発展した授業実践を考察した。抽出した生徒を中心に学び合いが広がり,つまずいた生徒,つまずきに直接関わった生徒,間接的に関わった生徒それぞれの立場にとって,つまずきが新たな学びの種となり,学びの広がりと深まりがあることを,授業実践を通して確認できた(安達,2013a,2013b)。このことが成立する前提には,指導する教師が生徒の視点にとことん寄り添うことにある。教師が生徒のつまずきから数学を学び,本質に迫る教材を開発することとした。生徒のつまずきは,教師の指導が影響を及ぼして出現しているため,より肯定的に着眼し,生徒の持つ傾向と考えることとした(安達,2014a,2014b)。

3.授業実践

(1)授業指導案

題材 「角の二等分線の作図の謎を探ろう。」

目標 角の二等分線の作図を,一般化された方法で描くことを意識することができる。

指導過程

過程 学習内容 教師の働きかけ(◎主発問 ○発問 △指示) ・つなぐ ◇みとる
導入
10分
[一斉]
角の二等分線を作図する。

◎角の二等分線を作図しましょう。

①分度器で角度を測り,計算で半分にした角度で線を引く。

②紙を折り角度を分割して線を引く。

③コンパスと定規を使い,コンパスの半径を変えないで作図する。

④コンパスと定規を使い,コンパスの半径を変えて作図する。

⑤その他

◇①②(⑤)を思考している生徒には,既習事項を振り返らせ,③④のいずれかの方法での作図も促す。

・図形の性質によるたこ形,ひし形の根拠を明確に示しておく。

展開1
[個人]
7分

[学び
合い]
13分
コンパスの半径を変える,変えない,どちらの作図方法が数学的に優れているのか?
コンパスの半径を変える作図が教科書に出ている理由を考える。

◎③と④の半径を変える,変えない...どちらの作図方法が数学的に優れているか根拠も明らかにして考えましょう。

◇柔軟な発想や思考を求め,自分の意見を最低ひとつは持てるように,補助発問を用意し支援する。

学級の人と意見を出し合い,理解を深めたり広げたりする。

△近くの人や参考になりそうな人の意見を聞き,理由としてもっとも「なるほど」と思えるものを発表してもらいます。自由に交流してください。

・必要に迫られた対話を重視し,ひとりで思考し続けることや,移動して学びを求めにいくことを容認する。

展開2
15分
自分の考えを発表する。他の人の発表を聞きながら,角の等分線の作図の意味を理解する。

△自分の考えを発表してくれる人はいませんか。

①角度を変えて考える。

②集合論を用いて考える。 ③その他

・用語や記号の使い方など,数学的に正しい言葉で説明させるように導く。

◇発表を通して,角の二等分線の作図の意味と一般化の役割を認識させ,作図の理解を深めさせる。

終末
5分
本時の学習の振り返りを行う。

△プリントに今日学んだことをまとめましょう。


◎探究課題を出題する。

◇プリントに本時の学習を振り返りながらまとめられるように,適宜支援する。

(2)結果

①コンパスの半径を変えない生徒の傾向

角の二等分線をコンパスの半径の長さを変えないで作図する生徒の傾向に着目し,変えて作図する方法と対比して一般化を図った。自分が当たり前に考えていたことと事実とのずれの可能性が,疑問を生じさせ意欲に変わったことが授業後の感想からうかがえた。たこ形とひし形の包含関係の思考や,すべての角度での検証を試みる活動が促進され,コンパスの半径を変える作図方法が一般的であることに帰着できた。

②包含関係で一般化を図る生徒の様子

ひし形がたこ形の特殊な場合であるという包含関係に着眼し,包含関係で説明を行った生徒がいた。その際に,正方形と長方形の関係を引き合いに出し,その関係性をわかりやすく説明している。授業後のインタビューから,それは正方形が四角形の中で最も特殊な場合であることに加え,長方形の定義が正方形のそれに類似していることが要因であったことが分かった。「特殊」,「一般」という用語をはっきりと用いる生徒もおり,意見を整理することができた。本授業の提示課題が,生徒の思考を揺さぶり,一般化を図ったり,定義する際に数学的な用語を正確に使ったりさせる魅力があることが推察される。

③様々な角度で検証し一般化を図る生徒の様子

生徒は,一般化するということはどのような場合にも当てはまるということを認識しており,この場合は様々な角度で検証している。実際に描くことを通して確認できることから,他の生徒の主体的な活動にもつながった。実際に生徒の感想の中には,様々な角度での検証が最も理解できた旨の記述が多数あった。また,垂線の作図へのつながりや180°以上の角の場合についても思考がつながっている。実際に自分で描くことによって,その実感がより作図の技能の向上に結び付いている。

④探究課題について

【探究課題】
先端が切れた右のような図に,先端から出る角の二等分線を描こう。

生徒の傾向として下記の左のような作図が出現した。これを元に角の二等分線の性質に立ち返ることができた。また,この課題の基本的な解答の作図が下記の右のように作図することであろう。これは,本時でいう「特殊化」したひし形の考えに基づいた解である。

4.おわりに

生徒の感想の中に,「何も意識しないで作図していた」や「半径を変えないことが楽だから作図していた」といったものが見られた。こうした生徒の持っていた傾向に着目して教材を捉えることによって,生徒は当たり前だと思っていたことに疑問を持つ。そして,それは思考する意欲につながっていったと考えられる。また,一般化する過程の中で,確かな根拠を模索していることがうかがえた。包含関係による説明では,用語の使い方などに気を配り,根拠を明白にして思考していた。また,実際に描きながら角度を変えて検証することによって,角の二等分線の意味や数学的な活動を伴う思考にたどり着いたものと考える。180°以上の角度を検証するなど,更なる追求心も生まれており,角の二等分線に限らない一般化への意識の高まりや,作図方法の場面による使い分け,垂線の作図方法との関係性にまで生徒の思考が深まっている。

引用・参考文献

安達心(2013a)「生徒のつまずきを活かした授業の考察-2χ×7=14χを学び合う-」,『第46回日本数学教育学会秋期研究大会発表収録』,pp.97-100

安達心(2013b)「生徒のつまずきを活かした授業‐「2χ×7=14χ」の学び合いの事例を通して‐」,『山形大学大学院教育実践研究科年報』,第5号,pp.212-215

安達心(2014a)「生徒が持つ傾向を活かした授業展開‐角の二等分線を作図する場面の考察を通して‐」,『日本科学教育学会研究会研究報告』,vol.29,No.2,pp.63-68

安達心(2014b)「生徒が持つ傾向を活かした授業展開-角の二等分線を作図する場面の考察を通して-」,『山形大学大学院教育実践研究科年報』,第6号,pp.32-39

Borasi,R.(1994)"Capitalizing on errors as 「springboards For Inquiry」:A teaching experiment.",journal for Research in Mathematics Education,Vol.25,No.2,pp.166-208

Lakatos,I.(1980)『数学的発見の論理:証明と論駁』(佐々木力訳),共立出版

布川和彦(2010)「提言-生徒の視点から始めることと生徒の視点に帰ること」,『数学教育』,明治図書,pp.4-9

山本晋平(2004)「子どもどうしのコミュニケーションによる数学の理解の変容についての研究」,『数学教育論文発表会論文集37』,pp.403-408