中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

音読を通じてスピーキング(やりとり・発表)に繋がる指導

西東京市立ひばりが丘中学校 佐藤 善明

1.はじめに

都中英プロジェクトチーム部(PT部)に所属して4年目となる。PT部では今年度,「指導場面に応じた音読指導の開発」というテーマのもと具体的な音読指導の進め方について研究を進めていった。PT部の活動方針は以下の3つである。

〇「指導場面に応じた音読指導の開発」として,新学習指導要領がめざす主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにするために,生徒がコミュニケーションの目的や場面,状況などを意識して活動が行えるような基礎作りを行う。

〇英語の音声や語彙,表現,文法,文構造などの知識を用いて,聞く,読む,話す(発表),話す(やりとり),書くの5領域において,指導場面に応じた目的別音読指導の充実を図る。

〇生徒用デジタル教科書の導入に伴いICTを活用した指導法の研究を推進し,グローバル社会に対応すべきこれらの外国語教育に不可欠な指導の改善に繋げる。

  • ① 段階的に示した5つの領域別の目標を設定し,その実現のために具体的な指導法を研究する。
  • ② 小・中学校の接続を重視し,学びの連続の過程で段階的に表現が身につく指導法を研究する。
  • ③ ICTを活用した指導の検証を行い,成果と課題を明確にすることにより,効果的な学習活動・教材等の研究を行う。
  • ④ 授業での指導と評価を一本化し,生徒の学習状況を的確に把握できる評価方法について研究する。
  • ⑤ 生徒の言語能力向上に繋がる評価の時期や各観点からの評価についての研究を行う。
  • ⑥ 研修会において,講師を招聘し,様々な視点でICTを用いた指導法について研究する。

また,研究推進にあたり,文教大学 阿野幸一先生の資料「目的別 音読指導のレシピ」にある指導場面に応じた指導事例を参考とした。そして2月に研究授業の実施と文教大学 阿野幸一先生を講師としての部内研修会を実施した。これは,そのとき行った研究授業の実践記録である。

2.指導計画と授業展開の実際

中学1年生40人クラス。明るく,素直な生徒たちが多いため,落ち着いて学習できる雰囲気がある。また,英語が苦手な生徒は全体の2~3割である。しかし英語に対する学習意欲が高い生徒が多いため,発言や発表を意欲的に行う。ペアワークやグループワークにおいても,英語が苦手な生徒をサポートし,協働的に学び合う姿勢がよく見られる。そのため,音読練習では生徒用デジタル教科書を使用し,その音声のマネができるようにペアで工夫して音読練習をするように指導を行ってきた。家庭学習においてもデジタル教科を使った音読練習を積極的に行うように指導している。音読練習の際には,文教大学 阿野幸一先生の資料「目的別 音読指導のレシピ」の33の練習法の中から指導の目的に合わせて使い分け,組み合わせている。実際の私の研究授業を紹介したい。

<指導計画>

目標◆・主な活動〇・評価する場面◎ 評価
1

◆本単元全体のめあてを確認し,単元の全体の見通しを持つことができる。

〇絵や写真や教科書動画を使って,単元の題材と表現(want toとtry to)の特徴の確認。

※本時では記録に残す評価は行わず,目標に向けて指導を行う。また,生徒の学習状況の確認をする。

2

◆教科書本文の内容と不定詞(名詞的用法)の形・意味・用法を理解ができる。

〇教科書本文を使った,不定詞(名詞的用法)の理解と読解。

〇デジタル教科書を使った,パート1音読練習(一斉)。

〇文法ドリルを使った,不定詞(名詞的用法)の形・意味・用法の理解。

※本時では記録に残す評価は行わず,目標に向けて指導を行う。また,生徒の学習状況の確認をする。

3

◆将来の夢や希望を伝えるために,したいことやしようとしていることを伝えることができる。

〇デジタル教科書を使った,教科書本文のパート1音読練習(個人)。

◎自身の将来の夢や希望を伝えるために,したいことやしようとしていることを3文程度で作成し,ペアでやり取りをする。

聞くこと話すこと[やりとり]書くこと

書くこと

4

◆相手の希望を知るために,したいことやする必要のあることをたずねたり答えたりすることができる。

〇教科書本文を使った,不定詞(名詞的用法)を含む疑問文と否定文の理解と読解。

〇デジタル教科書を使った,パート2音読練習(一斉)。

※本時では記録に残す評価は行わず,目標に向けて指導を行う。また,生徒の学習状況の確認をする。

5

◆不定詞(名詞的用法)を含む疑問文と否定文の形・意味・用法を理解ができる。

〇デジタル教科書を使った,パート2音読練習(一斉,個人,ペア)。

〇即興でやり取りをする。

〇文法ドリルを使った,不定詞(名詞的用法)を含む疑問文と否定文の形・意味・用法の理解。

聞くこと,話すこと[やりとり]

6

◆行きたい国とそこでしたいことやその国が抱えている問題について調べ,伝え合うために,お互いの考えをたずねたり答えたりすることができる。

〇デジタル教科書を使った,パート2音読練習(ペア)⇒希望ペア数組発表。

◎ペアでオリジナルスキット作り,音読練習。希望ペア発表。

聞くこと,話すこと,書くこと

書くこと

7

◆人やものの様子を説明するために,視覚的な判断を伝えることができる。

〇教科書本文を使った,<look+形容詞>の理解と読解。

〇デジタル教科書を使った,パート3音読練習(一斉)。

※本時では記録に残す評価は行わず,目標に向けて指導を行う。また,生徒の学習状況の確認をする。

8

◆<look / sound / get+形容詞>の形・意味・用法を理解ができる。

〇デジタル教科書を使った,全パート音読練習(一斉,個人,ペア)。

〇文法ドリルを使った,<look / sound / get+形容詞>の形・意味・用法の理解。

聞くこと,話すこと[やりとり]

9
(本時)

◆世界や地域の問題を伝えるために,したいことやする必要のあることについて,自分の思いを伝えることができる。

〇世界や地域の問題について自身の思っていることをメモし,ペアでやりとりを行う。(数人と行う)

◎教科書のポスターを参考にし,自身の考えたことをもとに,ポスターを作成する。(時間があればペアで発表練習)

聞くこと,話すこと,書くこと

書くこと

10

◆不定詞(名詞的用法)や<look+形容詞>を用いた文の形・意味・用法を理解し,適切に使って表現することができる。

◎単元のまとめとテスト。

〇ポスター発表練習。(ペア・グループ内発表)

主読むこと,書くこと,話すこと

11

世界や地域の問題を伝えるために,したいことやする必要のあることについて,自分の思いを伝えることができる。

〇ポスター発表。

聞くこと,話すこと

普段から主に行っている音読練習は以下の8つである。毎時間すべてを行う時間はないので,目的に合わせて組み合わせている。

  • ① Repeating 1 【テキストを見て,チャンク単位で:教師,デジタル教科書】
  • ② Repeating 2 【テキストを見て,文単位で:教師,デジタル教科書】
  • ③ Buzz reading【回数指定・時間指定,一斉練習】
  • ④ Overlapping 【デジタル教科書の音声に合わせて】
  • ⑤ Read and look up and say 【教師主導,暗唱用ポーズ入り】
  • ⑥ Shadowing 【デジタル教科書の音声に合わせてクラス一斉に】
  • ⑦ 穴あき音読 【キーワードや文法ターゲットをブランクにして:プリント】
  • ⑧ 英訳音読  【日本語を英語にする:プリント】

デジタル教科書やプリントを用いた音読練習に関しては,家庭学習でも行うよう促している。また,音変化については特に授業では詳しく説明せず,生徒自身でデジタル教科書の音声を繰り返し聞くことで気付かせることにした。

<授業展開>

今回の研究授業での言語活動は次の2つである。

〇世界や地域の問題について,したいことやする必要があることなど自分の考えや思いを伝えたり,相手からの質問に対して答えたりすることができるようにする活動。(話すこと[やりとり])

〇世界や地域の問題について,したいことやする必要があることなど自分の考えや思いを,まとまりのある文章で書くことができるようにする活動。(書くこと)

生徒の活動 活用・習得する力 教師の手だて・評価等
導入
(10分)

1 挨拶

2 主体的な音読練習
(教科書本文パート3)

相手意識を持った音読練習

2 デジタル教科書の音声をマネし,抑揚や発音等を英語らしく読み,相手に伝わりやすいように話すことを意識させる。

3 教師と生徒でのやりとりを通して,活動のねらいをつかむ。

3 言語活動に対する目的意識を高められるようにする。

GOAL 世界や地域の問題を伝えるために,自分の考えをポスターにして伝えよう!

展開
(37分)

4 ポスターの内容を考える

4 活動で使う語句の練習を行う。必要に応じてタブレットで自身が使う語句を調べさせる。机間指導して困っている生徒の支援をする。

5 ポスター内容についてペアでやりとりをする。

質問する・答える
want to

5 例を使いながら,即興のやりとり。相手に自分の考えが伝わりやすいように話すことを意識させる。

6 ポスター作成

相手意識をもって書く。

6 ①タイトル②今起きている問題,自分の気持ちなど③伝えたいメッセージの構成で自分の考えを書く。その際,タブレットを使いながら自力で書くことを促す。机間指導で,困っている生徒の支援をする。ポスター作成が終わらなかった生徒は,次回までの宿題にする。

7 ペアで発表練習(時間がない場合,進みが速い生徒の作品紹介)

相手意識を持った音読練習

7 時間がある場合,ペアで発表練習。相手に自分の考えが伝わりやすいように話す練習をペアでアドバイスし合いながら行うように促す。時間がない場合は,進みの速い生徒に発表させる。

終末
(3分)

8 指導者から,本時の活動に対する賞賛を伝え,挨拶する。

8 全体の場で本時の授業に対する取り組みを賞賛することで,達成感を持たせ,次時への意欲を高める。

主体的な音読練習(教科書本文)において,普段から生徒それぞれがタブレットで生徒用デジタル教科書を使用し,生徒自らが自分に必要な練習方法を考えて,repeating・overlapping・shadowing・穴あき音読など自身に合った練習を行っている。その際に,必ず音声のマネ(抑揚,発生,音変化など)をし,英語らしく言えるように,また,相手に伝わりやすい工夫(アイコンタクトや表情など)を促している。今回も,即興でのやりとりで使う表現が含まれている本文の音読練習を行った。その効果もあり,ポスター内容についてペアでのやりとりでは,英語らしい発音やアイコンタクトを意識した活動をすることができていた。発表に向けたポスター作成では,タブレットを使用して自分自身が伝えたい内容を調べ,紙にポスターを制作することが9割以上できていた。早くポスターが出来上がった生徒は,発表に向けての音読練習を始めることができた。音読練習を楽しみながら練習させる授業の雰囲気作りと生徒との関係性を深めることが,生徒のモチベーションを上げる1つの方法であると感じる研究授業であった。

3.考察

生徒たちは元気よく楽しそうに音読練習等も声を出し,授業を行うことができていた。課題は,次の2つの改善点が挙げられる。

〇デジタル教科書での音読練習の方法

今回の生徒の主体的な音読練習では,家庭学習との連動を意識し,デジタル教科書を用いて,生徒自身がRepeating 2 【テキストを見て,文単位で:教師,デジタル教科書】,Overlapping【デジタル教科書の音声に合わせて】,shadowing【デジタル教科書の音声に合わせて】,穴埋めrepeating,shadowing【デジタル教科書のマスク機能を使用し,音声に合わせて】の中から自分のレベルやインプットしやすい方法を選び,音読練習を行った。様々な音読練習を生徒に伝えることで,家庭学習で自分自身の目的に合わせた音読練習ができるようにしている。

課題点は,周りの音を気にせず自分のペースで練習できるようにするため,イヤホンやヘッドホンを使用したほうが効果的であり,家庭学習に繋がりやすい。ただし,音読練習の方法や意識すべきことを習慣化させておくとより効果が期待できると考えられる。

音読練習がスピーキング力向上に効果的であると考えられるのは,スピーキング(話すこと)のプロセスが①話そうと思う内容が,そのままで問題ないかどうかチェックしながら作り出すこと(概念化)から始まり,②それを頭の中で言語化し,③実際に声に出して発話する。③の結果,出てきた自分の声は同時に自分で聞いて処理されることになる。このプロセスを繰り返すことで流暢なスピーキングが実現する。

これに対し「音読」は,与えられた文字情報を発話するので,①の概念化は行われず,②,③のプロセスを踏むことになる。つまり,音読練習をすることで,「言語化」「調音」を繰り返し体験でき,スピーキングのときに使う処理過程をシュミレーションすることになるので,自然とスピーキング力が訓練される。阿野(2019)の中では,スピーキング(やりとり,発表)の力を鍛える音読練習として主に①Repeating(リピートの際にテキストから目を離し,教師またはデジタル教科書の音声の後について繰り返す,文単位)②Repeating(リピートの際にテキストから目を離し,教師またはデジタル教科書の音声の後について繰り返す,チャンク単位:英語の意味のまとまりごとに一時的に暗記)③Read and look up and say(ペアワークでアイコンタクトを取りつつ役割練習を行う)④Read and look up and say(生徒主導で教師に向かって語れるように)⑤Shadowing(音読練習として難易度が高い。リスニング力向上にもつながる)が挙げられている。
この際の注意点と意識させたい点は,①テキストのコミュニケーションのページなどを活用する(やりとりの力をつける場合)。②気持ちを込めて自分の言葉として話すようにする。聞き手に伝えようとする姿勢を忘れない。③教師またはペアと目が合ったときに話す。④機械的なリピート練習ではなく,スピーキングのためのトレーニングであることを意識。そして家庭学習で取り入れる際には,鏡を使用し自分に語りかけるように行う。Repeatingの場合は,デジタル教科書の音声を用いることでこれらの音読練習が可能である。

〇ポスター作成において(書くこと)

書くことおいて,タブレットの使用が可能であるとGoogle翻訳を使う生徒が多くなる。メリットはオリジナリティーを即座に出すのに使えるが,語彙,文法,表現などの定着がしにくいと考えられる。辞書であれば,その単語の例文をたくさん読むことで,その単語の意味がとれ,本質がつかめてくるはずである。語彙,文法,表現の定着に繋がりやすいと考えられる。発表の際は,紙よりもICTを活用し,スライド等で発表したほうが視覚的にも興味を持つことができるとともに,お互いに共有しやすい。

4.今後の展望

デジタル教科書を用いた音読練習の家庭学習との連動をより深めていくことと効果を検証するために,その成果を見るためのデータが必要である。どのような家庭学習で音読チェックしたのか,何を意識して行ったのか,音読練習で気が付いたことなど事前事後のアンケートを行うことで記録を残していく必要があると考える。また,効果検証の結果やESAT-Jの結果も参考にし,その結果を活用した音読レシピ改善や組み合わせを作り出し,指導場面に応じた音読指導の開発に取り組んでいきたい。

【参考文献】