中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

5ラウンドシステムをとりいれたEnglish richな授業への挑戦

京都先端科学大学附属中学校高等学校 内藤 翠

1.はじめに

本校の創立者である辻本光楠は,15歳で単身渡ったアメリカ・サンフランシスコの地で目の当たりにした当時の日本人の姿に愕然とし,「世界のどの舞台に立っても堂々と自分の意志で行動できる人材の育成」を建学の精神として,1925年に京都商業をスタートさせました。その後,1990年に京都学園と校名変更をして全日制普通科となり,2000年には念願だった中学校開校も果たしました。そして,2021年には,学校法人永守学園と法人合併し,「京都発世界人財」の育成を掲げて,京都先端科学大学附属中学校高等学校として中高大一貫教育の新たな歴史を歩み始め,今年で創立97年目を迎えます。また2021年度よりSGHの発展型であるWWLコンソーシアム構築支援事業のカリキュラム開発拠点校として文部科学省より指定を受けており,国内外の教育機関と連携を図りながらグローバル教育の創造に努めています。中学部ではGN(Global Navigator)コースを設置し,生徒一人ひとりの適性に応じて,高等部の国際コース・特進ADVANCEDコース・特進BASICコース・進学コースの特色豊かな4つのコースへ接続します。

2.生徒の英語環境を支えるネイティブ教員

長年グローバル人材の育成に取り組んできた本校にとって,なくてはならない存在がネイティブ教員です。スピーキング力・ライティング力の育成はもちろん,生徒が「英語を身近に感じる」環境づくりに大きな役割を果たす常勤ネイティブ教員の数は,現在10名と大変心強い状況です。このような環境下で実施している取り組みの1つに,年間3回の「English Day」というイベントがあります。この日は,英語の授業内で教員・生徒が英語を使うだけでなく,朝の職員朝礼や他教科の授業などを含め,学校全体が「できる限り英語を使ってみよう」という1日を過ごします。1日通して積極的に英語を使おうとしていた生徒にはBest effort賞が,そして非常に優れた英語力を発揮できた生徒にはBest performance賞が設けられ,受賞者には特製バッジが贈呈されます。また,週1回放課後に食堂を利用してネイティブ教員が開催している「English Space」も,生徒たちが自発的に英会話を楽しむ場所として人気があります。特に今年度より年次進行で全学年全クラスにW担任制を敷くことになった中学部には,全校生徒約180人に対して4名のネイティブ教員が在籍しています。中学1年生で毎朝8時20分から約20分間,中学2・3年生では週1回同時刻に実施しているMorning Vocabularyの時間には,Phonics理解や語彙力の育成を中心としてビジュアル教材等も多く用いた活動を通して,生徒たちは楽しみながら英語に触れています。そしてネイティブ教員は週2回の英語演習の授業はもちろん,正担任として年間通じた全ての学校行事に生徒と共に参加することで,生徒たちは日々英語のシャワーを浴び,英語を身近に感じる環境が整っているのです。また,来年度からは音楽・体育・美術でイマージョン授業を実施することも決定しています。

3.5ラウンドシステムについて

本校では2020年度より5ラウンドシステムを授業に導入し,今年で3年目を迎えました。5ラウンドシステムとは,横浜市立南高等学校附属中学校で2012年にスタートした教授法ですが,全国の他の中学校や高等学校でもこの教授法を取り入れている学校が増えています。本校がこの5ラウンドシステム導入を決めた背景には,生徒の語彙や文法などの定着に課題を感じていたことに加え,各担当者で授業の進め方にどうしてもバラつき・個性が出過ぎている状況がありました。統一した教授法の確立を目指すにあたり,この5ラウンドシステムが「繰り返すこと」で英語運用能力を育成するという点と,そもそも言語習得の理論に沿った教え方としても大きな可能性を感じたということが導入に踏み切った最大の理由でした。グローバルに生きていくための「本当に使える英語」を生徒がいかにして身につけるか,本校中学部の大きな挑戦が始まりました。

さて本校では,横浜市立南高等学校附属中学校の5ラウンドシステムの進め方を参考に3年間の指導計画を立てています。まず1年次には教科書1冊を5回扱い,2年次以降はレッスンごとに視点を変えて4回扱うという進め方です。

1年次
ラウンド1 リスニングによる内容理解
ラウンド2 内容理解した本文での音・文字の一致
ラウンド3 音読・新出語彙の確認
ラウンド4 穴あき音読・文法理解
ラウンド5 リプロダクション(再現)
2年次以降
ラウンド1 リスニングによる内容理解・音と文字の一致
ラウンド2 音読・新出語彙の確認
ラウンド3 穴あき音読・文法理解
ラウンド4 リテリング(再話)

5ラウンドシステムでは,1年生は入学後2ヶ月ほどは教科書の全レッスンをラウンドの第1段階であるリスニングメインで学んでいきますが,本校ではそれと並行してネイティブ教員がMorning Vocabularyの時間や通常の授業内でPhonics指導を重点的に行うことで,第2段階である音と文字の一致にとてもスムーズにつなげることができています。また,最初からやみくもに音読指導をするのではなく,まず音声を含む大量のインプットで意味理解をしてから音読を始めることで,英語表現の獲得がより効果的になると感じています。本来の5ラウンドシステムではラウンド5にリテリング(再話)を1年次から実施しますが,本校では1年次のラウンド5ではまずリプロダクション(再現)をしっかりできるように指導し,2年次以降の最終ラウンドでは発展形としてパラフレーズやリテリングができる力の育成を目指しています。新学習指導要領ではこれまでの「読む」「書く」「聞く」「話す」の4分野の「話す」が,「話すこと[やり取り]」と「話すこと[発表]」に細分化された形で改訂されましたが,5ラウンドシステムの最終ラウンドの活動は,一人の話者が連続して話す力であるこの[発表]の力をつけるための練習と位置付けることができるのです。

4.2年次以降のラウンドシステム授業

上述の通り,本校では横浜市立南高等学校附属中学校での実践を参考に指導計画を立てており,2年次以降5ラウンドシステムを4ラウンドに再統合し,教科書全体ではなくレッスンごとにラウンドを展開する授業をしています。具体的な進め方は以下の通りです。

活動内容 配当時間 活動に使用するもの
ラウンド1 リスニングによる内容理解・音と文字の一致 1 音声・イラスト・T/F Question・並び替えプリント
ラウンド2 音読・新出語彙の確認 1 音読冊子・単語フラッシュカード
ラウンド3 穴あき音読・文法理解 3〜4 音読冊子・文法説明スライド
ラウンド4 リテリング 1 リテリング用ワークシート

リテリング用ワークシート(左)とペアでのリテリング活動の様子(右)
イラストとキーワードをたよりに,自分の言葉で相手に伝えるリテリング(再話)活動

ラウンドシステムが生徒たちに浸透した2年次以降も大切にしているのは,まとまりのある英文を聞き取ってまず概要把握をさせることです。英語力が伸び悩む生徒に多いのが,全てを理解しなければならないと思うあまり,分からない単語や表現に出くわした途端にそれ以上の理解が進まなくなってしまうということです。実生活においてもスピーディーに要点を掴むことが求められるため,日頃から授業内でこの訓練を多く経験することが必要だと考えます。

また音読活動の際に使用するオリジナル冊子では,英文をチャンクごとに区切り,そのチャンクごとに日本語の意味を記したページや,動詞周辺を穴あきにしたページ,前置詞周辺を並び替えにしたページなどを含むことで,音読練習をしながら様々な視点から意味理解と表現獲得を促せるようにしています。この音読活動では,どれだけその英文に慣れてきていても毎回必ず音声データで正しい発音や抑揚などを確認してから,その後教師と生徒間での練習やペア練習に進むようにしています。そして,音読練習のパターンにも常に変化を持たせることで,緊張感を保ったまま何度も英文に向き合えるよう工夫をしています。

2年次以降の最終ラウンドであるラウンド4では,1年次に取り組んだリプロダクションを発展させ,自らの言葉で伝えるリテリング(再話)の訓練を積みます。生徒は各シーンのイラストとストーリーを語る際に手助けとなるキーワードが書かれたワークシートを手にペアで活動をしますが,最初はリプロダクションから抜け出せなかった生徒も,練習を重ねたりクラスメートのリテリングから学びとったりする中で,徐々に自らの言葉で内容を伝えることができるようになっていきます。やはりここでも大切なことは本文の内容を一言一句もらさず読み上げることではなく,自らが理解した話の概要をあくまで相手に伝えようとする姿勢です。さらに,口頭でリテリングした内容をライティングで文字化して自らがふり返ることで,アウトプットを次のインプットへとつなげることも可能にしています。

5. 帯活動の重要性

本校では,1コマ50分の授業内で,5ラウンドシステムを使った教科書の学習とは別に,冒頭の15分に帯活動としてNHKラジオ英会話テキストを用いた活動の時間を設けています。繰り返すことで定着を図る5ラウンドシステムではどうしても1回の授業で生徒が触れられる語彙数が限られてくるため,教科書の内容以外の語彙・表現のインプット量を別で確保することは, English richな授業を成立させるためにも必要不可欠であると考えます。生徒は家庭学習としてラジオ英会話に取り組み,授業内ではその日のキーフレーズについての補足説明やそのフレーズを使ったアウトプット活動を重点的に行います。具体的にいうと,必要に応じて写真やイラストなどビジュアル教材も併用しながらあるテーマについて数分の「語り」を英語で行い,それを生徒に聞きとらせます。週末にしたことや身近な話題などテーマは様々ですが,その英語の中にラジオ英会話で取り上げられたキーフレーズはもちろん,前時に学んだ教科書内の表現もできる限り織り交ぜることで,生徒の概要把握力の育成を目指します。この活動の際に注意することは,教師が自分の言いたいことを一方的に英語で浴びせるのではなく,生徒の様子に応じて語る英語のレベルやスピードを調節したり,理解度を確認するために生徒とやりとりを行ったりすることです。

こうして,教師自身が英語表現を使うモデルとなった後,今度は生徒たちにもキーフレーズを使った自己表現にチャレンジさせます。数分の準備時間を与えながらもある程度の即興性も残した形で,緊張感のあるメリハリの効いた言語活動となるよう工夫が必要です。ここで生徒たちに感じてほしいことは,その表現はどのようなシチュエーションで使うものか,自分が何を伝えたい時に使うか,伝えられた時の喜びなど,まさにコミュニケーションのツールとしての英語への感覚です。これは新学習指導要領においても重要視されている「コミュニケーションを行う目的や,場面,状況等に応じて自分の考えや気持ちなどを適切に表現する」という点とも合致します。そして,複数の話者が相互に話す[やり取り]の力をつけるための重要な練習場面でもあります。

6.「伝えられた喜び・伝わらないもどかしさ」を経験する海外交流

本校では建学の精神に沿って,20年以上前から生徒全員に海外研修の機会を与え続けてきました。現在では,高校2年時に国際コースでイギリス・カナダへの7〜10ヶ月の長期留学,特進ADVANCEDコースで約3週間のイギリス研修,特進BASICコース・進学コースは約10日間のアメリカ研修を実施しています。一方中学校でも,3年時に全員が約2週間のカナダ研修を経験します。授業内でこれまで身につけた様々な知識を実際に運用すべき場に身を置くことで,伝えられた喜びと伝わらないもどかしさの両方を感じると,元々英語習得に前向きだった生徒はもちろん,これまで授業内外の教師の声かけではなかなか英語習得に意欲的になれなかった生徒にも大きな影響を与えます。研修先で言語や文化・その他の「ホンモノ」に触れ,帰国後の学校生活やその後の進路決定のターニングポイントとなった例は少なくありません。

しかし,本校が5ラウンドシステムを導入した2020年は全世界的に新型コロナウィルス感染症が流行し始めた時期でもありました。オンライン授業を余儀なくされたり対面授業が実施できている中でも活動内容に大きく制限がかかったりするなど,英語習得をめぐる環境は非常に厳しい状況に立たされましたが,中でも生徒たちが一番楽しみにし,私たち教員も生徒たちの成長を期待する場であった海外研修が中止となったことは,非常に辛いことでした。そこで中学校では,これまで長年のグローバル教育で築きあげてきた世界各国とのつながりを活かし,スウェーデンとインドとのオンライン交流の実施に踏み切りました。事前に互いの国の文化や学校生活などについてグループごとに制作した動画を共有した上で交流に臨み,複数回行うオンライン交流の際にはその内容をもとに意見交換をしました。オンラインでの会話のやり取りはある意味対面の時よりも高度な言語運用能力が必要であるため,生徒たちはどうすれば自分たちの言いたいことが伝わるか,そして困ったときにはどうするかなど,回を追うごとに準備物やその場での対応などに工夫を加える姿が見られました。実際,社会においてもこれまでのオンサイトに加えオンラインも組み合わせたハイブリッド的な仕事の仕方や生き方がより活発化しており,生徒にはよい経験になったと感じます。今後もこのように,実際に現地に行ってホンモノに触れる研修とオンライン上でつながる交流をうまく組み合わせて生徒たちの世界がより広がる仕組み・仕掛けづくりをすすめていきたいものです。

7.最後に

英語を使えることが「強み」であった時代は終わりを迎え,逆に英語力がないことが人生の選択肢を狭めてしまい「弱み」になる時代を生き抜いていかねばならない今の生徒たちに,私たちはどのような英語教育を進めていくべきなのでしょうか。大学入学をゴールにするのではなく,大学入学後も中高で培った英語力をもとに各分野の学びを深め,10年後には社会の中心的存在となり英語を使って自己実現と社会貢献を果たす生徒を育成することこそが,我々英語を教える者の使命ではないかと感じています。そのためにも,英語は「学ぶものではなく使うもの」であることを感じられるEnglish richな授業実践に努めていかなければならないのです。

〈引用・参考文献〉