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英語

一人1台端末を活用した英語科における授業実践

港区立三田中学校 松野 麻里恵

1.一人1台端末の活用

「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~」では,「個々の興味・関心・意欲等を踏まえてきめ細かく指導・支援することや,子供が自らの学習状況を把握し,主体的に学習を調整することができるよう促していくことが求められる。」とある。令和3年(2021年)から全面実施となった学習指導要領に基づき,一人1台端末を活用した「即興で話す力を高める授業実践」と「主体的に学習に取り組む態度を育成する授業実践」を紹介する。

2.即興で話す力を高める授業実践

10分程度の帯活動として,毎時間,授業の始めにペアで英語でやり取りを行っている。一つのトピックに対して,ペアの相手を替えて3回ずつ行っている。トピックについては,生徒にとって身近なことや関心のある事柄(スポーツや食べ物,好きな人など)とし,話すことの抵抗感を低くしている。生徒には,話すための準備時間は与えず,メモ等も取らせず,その場で考え,「即興」を意識したやり取りを行うよう促している。

以下に帯活動の流れを紹介する。

時間 学習活動
1分

・一人1台端末で録音する準備をする。

※付属のカメラ機能やボイスレコーダー等を活用する。

1分

・教師がトピックを提示する。

2分

・録音しながら,ペアで英語でやり取りをする。

※教科書等は何も見ず,その場で話す内容を考える。

1分

・録音を停止し,保存する。

5分

・「英語で言いたかったけれど言えなかった日本語」を記録する。

・教科書や辞書,一人1台端末などで,「英語で言いたかったけれど言えなかった日本語」を調べる。

・調べた結果を記録し,蓄積する。

・録音した自分の発話を聞き直し,次時に生かす。

帯活動を継続的に行った後,生徒はALTと一対一で会話をしたり,ALTの前で生徒同士でやり取りしたりすることで,帯活動で培った成果を発揮する場面を設けている。

ALTとのやり取り

生徒同士のペアでのやり取り

この活動を通して,生徒からは以下のような感想や意見が挙がった。

一人1台端末を活用して,自分が話したいと思うことを調べ,次の発話に生かすことで即興で話す力や語彙力の向上につながったと考えられる。

生徒は自らが抱く疑問や課題をその場で解決することがしやすくなった。今回の帯活動においても,個々のニーズに応じて,生徒自身のペースで課題解決を図っている。課題解決の方法においても,「英語で言いたかったけれど言えなかった日本語」を検索する生徒もいれば,発音を調べ,聞き,練習する生徒もいた。また,自分の発話を聞き直し,次時の発話内容を再構築する生徒もいるなど,多岐に渡った。今までは,生徒の発話を教師が一つ一つ取り上げ,修正するといったフィードバックの方法が多く,教師の負担やフィードバックを行うための時間確保に苦悩していた。しかし,一人1台端末の活用により,教師の負担を減らし,より生徒一人一人に応じた学習を促すことができるようになったのは,大いなる利点だと感じている。

3.主体的に学習に取り組む態度を育成する授業実践

授業の終わりに一人1台端末を活用した学習の振り返りを行わせることで,生徒の主体的に学習に取り組む態度を育成している。一人1台端末で,生徒一人一人に振り返りシートを配布し,記録・蓄積させている。その日の授業で,「何ができるようになったか。」,「なぜ,できるようになったと思うか。」,「さらにできるようになりたいことは何か。」という項目に沿って,生徒に学習を振り返らせ,生徒自身で学習を調整する力を養っている。一人1台端末内で,記録し,保存することで,生徒は,授業内外問わず,学習を振り返ったり,自らの成長を実感したりすることができていた。

また,小テストの結果を撮影し,保存・蓄積し,生徒自身で学習の状況を把握しやすくすることで,生徒が学習を調整し,主体的に学習に取り組むことができるようにした。学習履歴(スタディ・ログ)から,生徒自身で対策を考え,取り組んでいる様子が見られた。また,教師も生徒の学習の成果がすぐに確認できるため,生徒が抱えている課題をいち早く察知し,授業改善に生かすことができた。

4.おわりに

英語学習において,生徒が抱える課題は千差万別である。その生徒一人一人のニーズに応じた指導を行う上で,一人1台端末は多いに有効であると考える。今回は,個別最適な学びを促す授業実践を主に紹介した。しかし,一人1台端末を活用することで,これまで以上に,生徒同士で学習の成果を共有したり,協力して学習に励んだりといった,協働的な学びも実現することができると感じている。これからも活用場面や活用方法について模索し,新たな指導法の構築へとつなげていきたい。

〈引用・参考文献〉