教育改革のとりくみ 目次

地域とつくる浜田小コミュニティ・スクール
子どもは小さなまちづくり人

「知的好奇心にあふれ,地域の『もの・人・こと』とかかわって,『明るく・楽しい・元気な』学校・地域社会を創造できる子どもの育成」を目指して


茨城県水戸市立浜田小学校

1 はじめに

 本校は旧水戸城(徳川御三家)の東側の低地に位置している。学区周辺は下市と呼ばれ,約400年前,水戸の城下町整備にあたり,上市地区の商人・職人たちを移住させたこと,「田町越」によってつくられた商人,職人の多い町であった。

 江戸〜昭和初期のような賑わいはないが,様々な工夫を重ねながら商店街の活性化に取り組んでいる大人たちが多い。

 そのような中で子どもたちは明るく,元気に,大事に育てられているが,周りのことには無関心,希薄化した人間関係(地域,子ども同士)の中での生活が多くなっている。

○地域の課題として
 ・商店街の活性化  ・水辺空間(備前堀,桜川)の効果的な利用
 ・学校教育への当事者意識の無自覚

○子どもたち,学校教育の課題として
 ・学びの私事化 地域の「もの・人・こと」の存在価値,かかわりをもたない
 ・自尊感情や自己肯定感が低く,未来志向に元気強さが少ない,感じられない

 このような課題を解決するために,コミュニティ・スクールの枠組みを取り入れ,子どもたちの学びの質を高めようと学校改革に取り組んでいる。

 

2 研究のねらい

(1)

 コミュニティ・スクールの枠組みを組織し,『学校運営協議会(評価委員会を含む)』,『地域連携プロジェクト委員会』(「商店街・職人」,「歴史・自然」,「子育て・交流・祭」),『学びのプロジェクト委員会(学校)』の融合と協働を図り,地域の課題解決や子どもの豊かな学びの質を保証するための在り方を究明する。


(2)

 生活科・総合的な学習の時間を重点的に,地域の「もの・人・こと」といった地域素材を生かした地域参画型授業の工夫を通して,学びの必要性を知り,追究力,表現力,コミュニケーション力を高めながら,地域づくりに自ら参画できる児童の育成を目指した学習指導の在り方を究明する。

 

3 コミュニティ・スクール構想の組織

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4 研究の実際

(1)

学校運営協議会

組織

 構成メンバーは,学識経験者,地域住民(学校評議員,学校関係者評価委員を含む),学校教職員で組織し,21名である。前々年からの研究成果で,学校に対する意見の反映等を考慮し,絞り込まれてきた人数である。

   

活動内容

 活動内容としては,学校運営計画の承認,研修会(先進校訪問等),地域住民,保護者の意向調査(各種アンケート,感想などから),地域連携プロジェクト委員会の活動の検討,承認,学校関係者評価に基づく学校運営への提言,コミュニティ・ルーム設置準備への提言,学習支援ボランティアの検討などである。他県の先進校などの事例も参考にしながら,浜田小学校独自のコミュニティ・スクールの在り方を模索中である。

   
(2)

地域連携プロジェクトによる活性化事業・授業

商店街・職人プロジェクト委員会

 毎月のプロジェクト委員会の意見交換の中から,商店街を舞台とした学校行事や学習が計画されるようになった。

 

「幸せの黄色いハンカチ」(8月)
 児童の思いの言葉やイラストなどを1枚の黄色い布に描き,8月1日〜31日までハミングロード商店街に飾った。「黄門祭り」の飾りにもなり,有効であった。その後,小学校の運動会の飾りとしても活用した。

     
 

「ハミングロードハロウィーン」(10月)
 英会話の学習をハミングロード(地域の商店街)を舞台に実施した。幼稚園児も参加して行うようになり,地域も盛り上がりを見せている。

 

「ハミングロードマラソン大会」(11月)
 子どもたたちの体力づくりの一環として,ハミングロードを通行止めにし,マラソン大会を行うようになった。地域や保護者のの声援を受け,好評である。

   

歴史・自然プロジェクト委員会

 

 子どもたちに自然環境を考えさせたり,文化的行事を伝えたりするため,「ホタル観察会」や「備前堀子ども灯篭流し」を実施した。

 

 

「ホタル観察会」(7月)
 茨城生物の会会長,小菅次男先生を講師として,「ホタル観察会」をプロジェクト委員会,PTAの共催で実施している。出発前に小菅先生から環境保護などのお話を聞いているところである。(環境保護活動中なのでホタルの観察場所は公表できません。)

     
「備前堀こども灯ろう流し」(8月)    

備前堀に伝わる伝統と歴史のある灯ろう流しを,地域に残る文化的な行事の体験活動として,親子参加で行った。左はプロジェクト委員の指導による灯ろうづくりの説明会,右は灯ろうを流しているところである。

   

子育て・交流・祭プロジェクト委員会

 
 

「おはやしクラブの発表」
 本学区には,4つの団体からなる山車連合会があり,プロジェクト委員を中心にクラブ活動のボランティアとしてお世話になった。
 2月の研究発表会のアトラクションとして発表したところである。

   
(3)

学びのプロジェクト委員会(学校)

 

学びのプロジェクト委員会の位置付け

   

学校運営協議会・地域プロジェクト委員会との連携

 

 学びのプロジェクト委員会とのつながりにおいては,3つの地域プロジェクト委員会の意見等(子どもたちに学ばせたい教材など)とのすりあわせの中で学習活動をつくり出している。

 

【各プロジェクト委員会から授業実践までの流れの一例】

商店街・職人プロジェクト→

一日店長などの試みは→【学校】まちづくりへの提案(6年)→【学校】にぎわうまちづくり→フリーマーケット・郷土料理の試食コーナー(学校・プロジェクトとの合意)

歴史・自然プロジェクト→

ホタルの生息→【学校】(2年 親子レクリェーションで観察会を実施したい 生活科→学区探検)→「ホタル de ナイト」の実施(ホタル de ナイト…2年生の親子レクリエーションで,ホタルの観察会を実施した。光り輝く本物のホタルに感動を味わった児童,保護者も多く,豊かな自然がある地域の環境を見直すきっかけにもなった。)

子育て・交流・祭プロジェクト→

おはやしを子どもたちに伝えたい→【学校】おはやしクラブの検討・希望調査→おはやしクラブの設置→おはやし(4年 音楽)体験学習

   
(4)

生活科・総合的な学習の時間を核として学びの質を高める(育てる力→追究力・表現力・コミュニケーション力)授業の事例

総合的な学習の時間 5年生 単元構想案{ぼくらの備前堀 過去から未来へ}

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追究意欲を高まる指導過程の工夫

 

 育てたい力(各学年に応じた追究力,表現力,コミュニケーション力の系統性)を明確にし,各教科,領域,地域プロジェクト等との関連,評価規準,支援の在り方なども構想案に含めた。総合的な学習の時間では【出会い→事実追究→意味追究】を進めるために,スパイラルな学習過程として《つかむ→調べる→話し合う→まとめる・広げる→生かす》と捉え,追究力,表現力,コミュニケーション力を高める中核として『話し合い』を充実させる活動に取り組んだ。

個の学習(追究,聞き取り調査・文献調査,表現,考え)を大切にする指導

 

 子どもたちの思いや考えなどに寄り添った授業を進めるためには,子どもたちが何を,どのように考えているか,生活体験や家庭環境なども含めた児童理解が欠かせない。より確かな児童理解から学習が展開できるよう,本活動の事前までの子どもの捉え方やものの見方,考え方の変化を一覧にまとめ,授業に臨むことに心がけた。

事実追究・意味追究における話し合い活動の充実

 

 課題を共有し,課題を解決する協同的な学びを大切にする視点から,話し合い活動を充実させた。話し合い活動においては,(ア)お互いの意見や考えを十分聞き合うこと(イ)一人の考えなどに立ち止まり,お互いの意見を交換すること(ウ)相手の意見に反応しながら自分の意見,考えをもつこと(エ)少数の意見,考えも大事にすること などに留意しながら進めるようにした。

単元後半の児童の感想から

 

 「不便で困ることもあるけど,備前堀を見ていると心が和んでくる。なんだか見ているだけで安らぎの気持ちになれるので,絶対に残したい。」「これからも永遠に残るように次の世代に引き継げるように守っていきたい。400年もの長い間残っているなんて,すごいと思う。いろいろな人に役立っていてすごいと思う。これからも残していきたいし,守っていきたい。」
 子どもたちにとって単なる用水路ではなく,歴史性にあふれ,食料生産の増加や湿地帯の水抜き,水戸城の守りの一部となっていたことなどを学び,意味あるものと価値付けることができた。

 
 

5年生「ぼくらの備前堀」
 事実追究の学習として,備前堀のできたころの様子やできたわけについて,石碑の読み取りなどを中心に,話し合っている場面。

 

5 研究の成果

(1)

アンケート結果

コミュニティ・スクール調査研究に関する学校運営協議会委員アンケート結果


基準

A(よい,そう思う) B(おおむねよい,どちらかといえばそう思う) C(ややよくない,どちらかといえばそう思わない) D(よくない,思わない) E(わからない)


平成21年1月24日実施 回答人数11名(意見は抜粋を記載)

番号 質問内容 評価(%)
1

コミュニティ・スクール研究課題ア「保護者や地域住民の意向を的確に把握し,反映させるための具体的方法について」
学校公開アンケート,保護者会での聞き取り等を行いましたが,地域住民の意向を十分把握できたと思いますか。

31, 63, 6, 0, 0
2

コミュニティ・スクール研究課題イ「学校運営に関する学校運営協議会の役割と関係者・関係機関との連携の在り方について」
先進校視察,先進校講師招聘,校舎改修に伴うコミュニティ・ルームの計画,コミュニティ・スクール継続の市への申請を行いましたが,関係機関との連携が図れたと思いますか。

46, 36, 18, 0, 0
3

コミュニティ・スクール研究課題ウ「児童の学習活動における教育資源となる人材活用のあり方について」
4つのプロジェクト委員会の活動,学習ボランティアによる授業への支援を行いましたが,効果的な人材活用が図れたと思いますか。

73, 18, 9, 0, 0

4

コミュニティ・スクール研究課題エ「学校運営協議会における学校点検・評価のあり方について」
学校運営協議会委員の方による学校関係者評価を行いましたが,評価の内容や方法について共通理解が図れたと思いますか。

0, 64, 18, 9, 9
5

広報,情報公開網の構築について,コミュス浜田の全戸配布,各種行事の新聞社,テレビ局への取材依頼を行いましたが,効果が上がったと思いますか。

64, 27, 0, 0, 9
6

3つのプロジェクト委員会の活動は,コミュニティ・スクール内の活動として効果があったと思いますか。

46, 45, 0, 0, 9
 

保護者のアンケート結果


アンケート質問内容(保護者)  平成20年12月15日実施 回答者数231人,回答率77%








1

学校からの知らせ(学年だより,コミュス浜田等)を読んでいますか。

2

浜田小では学習ボランティアの方に授業に入っていただく学習を多く行っていますが,子どもの学習に良い効果がありますか。

3

学校は保護者からの連絡や相談によく対応していますか。

4

コミュニティ・スクールの各プロジェクトの行事(備前堀灯籠流し)は子どもにとって良い活動でしたか。

5

コミュニティ・スクールの各プロジェクトの行事(ハミングロードハロウィーン)は子どもにとって良い活動でしたか。

6

コミュニティ・スクールの各プロジェクトの行事(ハミングロードマラソン大会)は子どもにとって良い活動でしたか。


基準

A(よい,そう思う) B(おおむねよい,どちらかといえばそう思う) C(ややよくない,どちらかといえばそう思わない) D(よくない,思わない) E(わからない)

 
(2)

成果

地域の人々や保護者のコミュニティ・スクールについての理解が深まりつつあり,コミュニティ・スクールについて関心をもってもらうことができた。

学習ボランティアについては,幅広い地域人材の活用(年間延べ人数約1000人)を図ることができ,児童の学習活動,学習への取り組みが意欲的になってきた。

広報誌「コミュス浜田」の学区全戸配布になって,小学校の活動の様子が地域住民によく理解され,,開かれた学校づくりとしても非常によかった。

3つの地域連携プロジェクト委員会の事業は,地域の人々と子どもたちとのふれあいの場になり非常によかった。保護者のアンケート結果からも,「よい」,「おおむねよい」が90%を超えている。また,保護者アンケートの「浜田小のよいところはどういうところか」という問いに対しても,「コミュニティ・スクールの各プロジェクト行事」や「地域とのふれあい」と答えた人が非常に多かった。

地域の人々たちと学校とのつながりができて,地域の活性化が図られた。学校と地域のかかわる接点が多くなり,子どもたちへの教育活動の幅が広がった。

地域を素材とした授業づくりに各学年が進んで取り組み,産業学習の体験活動や聞き取り調査活動などの活動が活発になり,話し合い活動による真剣な課題追究 ができるようになってきた。特に地域生活に直接参画する学習,課題を問いかける学習などが自然にできるようになってきた。

 

6年生「まちづくりへの挑戦」の授業
 フリーマーケットを開き,人の賑わいを計画したグループの活動

 

6年生「まちづくりへの挑戦」の授業
 郷土料理「煮合い」の試食コーナーをつくり,賑わう子どもたちの店

 

6 今後の課題

(1)

 耐震化の大規模改造工事に伴い,コミュニティ・ルームが設置される予定である。その運営方法,規約等,今後の課題となっている。

   

(2)

 学校運営協議会での学校関係者評価は難しい。評価規準の設定等,今後の課題である。

 

(3)

 学校運営協議会委員の人数の精選,組織,審議内容,実施回数等について検討する必要がある。

   

(4)

 コミュニティ・スクールとして,継続することが大切である。そのためには,無理のない活動や体制の構築が必要である。

   

(5)

 地域連携プロジェクト委員会と学校の学びのプロジェクト委員会の均衡を保ち,双方が負担になることなく,子どもの学びの質を高める施策を打ち出していくことが今後も大切であり,課題でもある。

 


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