教育改革のとりくみ 目次

確かな学びを支える学校図書館

読書センターとしての取り組み   〜豊かな心を育て,本と子どもをつなぐ〜


島根県松江市立城北小学校

はじめに

 今日の激動する社会情勢の中で,これからの時代を生きていく子ども達には,社会の変化に柔軟に対応し,人間性豊かに,たくましく生きていく力が求められている。

 そのために学校教育では,自ら学び自ら考える力の育成や,豊かな人間性を育むことが重要視されている。また国際的な学力調査の結果などから,日本の子ども達に,単なる知識や技能を詰め込むのではなく,読解力や思考力,表現力を身につけさせる必要性があると指摘されている。

 自ら学び自ら考える力を育成するためには,子ども自身が自ら課題を見つけ,自ら考え,自ら解決していくという学びが大切である。それは,次の学習や他の学習,またはくらしの中で生涯に渡って生きて働く力(生きる力)を育てることであり,確かな学びであると考える。このような確かな学びのためには,自ら課題を見つけたり,課題解決のための情報を選択収集したり,目的に応じてまとめたりする情報リテラシー(情報活用能力)を身につけることが必要である。情報化の現代社会では,あふれる情報の中から正しい情報を判別し,自分に必要な情報を選択して入手しなくてはならない。そしてその情報を吟味し,自分の考えをまとめて発信する力が必要である。その力をつけることは,学び方の基礎を身につけることであり,生涯学習者となるための基盤であると考える。

 このような情報リテラシーを育てるためには,子ども達が本に親しみ読書力が育つ土壌が必要である。全ての学習の基礎となる読書力を育てるために,子ども達の読書活動を推進することを基盤として情報リテラシーを育てていく。また,子ども達を豊富な資料と出合わせることで子ども達の知的好奇心を育て,学習への意欲を高めたり,子ども達に必要な情報を提供したりする場として,学校図書館を充分に機能させながら情報リテラシーを育成する教育活動に取り組んでいる。

 ここでは,全校体制で図書館教育に取り組み,図書館を活用して学び方の基礎を身につけさせるとともに,子ども達にさらに図書館の魅力,読書の喜びを伝え,読書の質を高めるための学校図書館の運営について平成19・20年度の活動を中心に紹介していく。

 

T 子ども達に本の楽しさを伝える読書活動

 

1 ブックトーク

 テーマを設け,関連した本を7冊から8冊紹介する。読み聞かせを入れたり,印象的なところを部分読みしたり,あらすじを紹介したりなど,その本の魅力をトークしていく。選書にあたっては,発達段階にあわせてたくさんの本の中から選んだ。読みやすく子ども達の興味を引きそうな本や絵本なども取り入れるが,子ども達が普段手に取らないけれど,ぜひ読んでほしい作品も積極的に取り入れていくようにした。また低学年には読み聞かせを中心に冊数も少なく,高学年にはしっかりと読み応えのある本を入れていくなど,紹介の仕方や選書についてもバラエティーに富むよう工夫して行なった。ブックトークしたあとは,すぐに子ども達が本を手に取り全ての本が貸し出しに出る。また,その後も子ども達の口コミでそれらの本が書棚から動き出す。子ども達に本の楽しさを伝え,読書の世界へいざなう直接的で効果的な方法である。また,ブックトークで紹介した本は,テーマにあわせて集めた他の本とともに学年や学級ごとに貸し出しを行い,学年の廊下や学級に置いて子ども達がすぐに手に取れるようにした。ブックトークのあとには,作者,タイトル,出版社などのデータをリストにして配布し,子ども達が読みたいときにすぐ探せるようにしておいた。

 
 
【本の楽しさを伝えるブックトーク】

 

2 お話会(ストーリーテリング)

 「おはなしのろうそく」をともし日本の昔話やグリムの昔話,世界の民話などのお話(ストーリーテリング)を三つから四つする。絵もなくことばだけで届けるお話に子ども達はじっと耳を傾ける。ことばの音のもつ美しさや,無駄なく力強く語られることばを繰り返し聞く体験により,子ども達の想像力が育つ。また,ことばを映像化できる力が読書へと結びついていく。どのクラスで行なっても大変よくお話が聞ける。お話の世界にひたり楽しむことのできる子ども達が育っている。



〜お話を子どもに〜 
ストーリーテリング

 

3 読み聞かせ会

 学年単位の活動など人数が多いときには読み聞かせ会を行なう。ビッグブックや紙芝居を読んだり,手遊びをしたり,クイズをしたりなど,本を通して楽しい時間を持つことができる。


 

4 読書へのアニマシオン

 スペインのモンセラ・サルト氏による手法で,75の作戦がある。読書を楽しむ力,物語を分析的に読む力など読書にまつわる内面的な活動を自然に学べるように考えられた読書活動のためのプログラムである。学年に応じたプログラムで読書の楽しさを味わわせている。


 

5 児童文学作家との交流

 平成19年12月には鳥取県出身の児童文学作家である木村研さんとの交流会を行なった。1年から3年までは木村さんの作品である「999ひきのきょうだいのおひっこし」の絵本を読んでもらった後,手作りおもちゃを作って交流した。子ども達は紙皿やストローなど身近な材料を使って簡単に楽しいおもちゃができることを知り,一緒に作ってとても喜んで遊んだ。また,6年生も木村さんの作品「サンタクロースをやめた日」の読み聞かせの後,続きのお話を考え,絵本を作るワークショップを行った。読み聞かせにしっかりと耳を傾け自分なりのイメージを膨らませて考えていた。実際に活躍中の作家とのふれあいで,作品がより身近なものとなり,その後も木村さんの作品を借りて読む子どもが増えた。

 
 
【木村研さんとの交流会】

 

6 折り紙教室

 夏休みの図書館開館日に,折り紙を得意とする教員による折り紙教室を行った。たくさんの子ども達で賑わい大変好評であった。一枚の折り紙から,昆虫や動物,ハートのバッグなど様々な作品が出来上がった。折り紙教室をきっかけに折り紙に興味を持つ子どもが増え,折り紙の本の貸し出しも増加した。また,子ども達からのリクエストもあって,夏休み以降も毎月定期的に昼休みに折り紙教室を行っている。



【折り紙教室】

 

7 ふれあい読書

 5年生時に総合的な学習「やさしさ見つけ」で1年生に読み聞かせに行っていた子ども達が6年生になり,さらに読み聞かせボランティアを募集して,月に2回低学年の教室を回って読み聞かせを行った。図書館にも選書の相談にきて,読み聞かせに行くクラスの子ども達にあった本を慎重に選んでいく。また,ストーリーテリングに挑戦した子どももいる。低学年の子ども達もこの時間を楽しみにしており,異学年交流の温かいふれあいの場となっている。

 
 
【6年生ボランティアの読み聞かせ】

 

8 心に残る一冊

 毎年6年生への卒業祝いとして,教職員の「心に残る一冊」をカードに書き,ミニブックにして一人一人に贈っているが,6年生の子ども達はとても喜んで読んでいる。お世話になった先生の意外な一面を発見したり,自分も読んでみようとリクエストしたりなど卒業を控えて子ども達と教員と本を通して交流が深まる。ミニブックにのっている本は集めて,職員室前のコーナーに置き貸し出しを行う。卒業生はもとより,他の学年の子ども達も先生の「心に残る一冊」を手に取り読んでいる。

 
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【卒業生に送る心に残る一冊のカード】

 

9 3つの「図書館だより」の発行

 学校司書が毎月学年ごとに,児童向け「図書館便り」を発行している。学年に応じた詩の紹介や本の紹介,図書館行事の案内,情報リテラシーにかかわる図書館クイズなど毎回内容を工夫している。また,裏面は大人向けの「図書館便り」として,その学年の図書館を使った学習の様子を載せたり,その学年のファンファンタイムで読まれた本のリストを載せたりなどしている。2つの図書館便りの発行により,家庭と子どもと図書館を結んでいる。

 また,司書教諭は毎月職員室版「図書館便り」を発行している。翌月の図書館を活用した学習の案内をしたり,読書の大切さについて書いたり,おすすめの本の紹介などを載せたりしている。忙しい中,できるだけ目を通してもらえるよう職員会の日にあわせて発行し職員会の中で一言添えるようにした。

 

U 子ども達の思いを大切にした読書活動  〜図書委員会の活躍〜

 

1 春の読書週間

  「子ども読書の日」にあわせ,読書週間を設定した。朝自習の時間を使って,図書委員会の子ども達が1年生にビッグブックの読み聞かせを行ったり,全クラスにブックトークを行なったりした。図書委員会のブックトークも恒例となり,子ども達の紹介の仕方も年々上達している。また,図書館キャラクターと標語の募集も行ない図書委員会の子ども達の審査で下のような「ものがたりのへや」と「かがくのへや」の図書館キャラクターと標語が決定した。選んだ図書館キャラクターと標語については,図書委員会の子ども達が全校集会で劇にして紹介した。

 
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【押し花のしおり】

【図書館キャラクターのしおり】

【全校集会の発表】


 

 
【 図書館スタンプラリー】

2 図書館祭り

  秋の読書週間にあわせ,図書館祭りを行った。ポスターやチラシで図書館祭りについて知らせたり,図書館スタンプラリーを計画,実施したりした。図書館スタンプラリーは6ヵ所の関所を設け,図書館に関するクイズを解きながらスタンプを押してもらって次へ進むという催しである。図書委員会の子ども達が低・中・高学年向きのクイズを作った。クイズの内容は高学年では著作権や年鑑の問題や図書の分類や配架について,低学年には絵本の探し方など「図書の時間」で学習したことをもとに工夫して作成していた。委員会の子ども達の意識も年々変化し,適切な問題が作れるようになってきているのを感じた。

 また,城北っ子図書コンクールと題し,物語・絵本・四コママンガのコンクールを行った。子ども達から寄せられた作品を図書委員会で審査し,選ばれた作品には賞品として,子ども達手作りの押し花に詩を添えたしおりを贈った。

 

V 魅力ある図書館を目指した環境整備

 

 学校図書館中や廊下,階段の踊り場など,様々な場所に,季節や行事,その時々の話題に応じたコーナーを設けた。そして掲示を工夫したり,本のディスプレイやインテリアを考えたりするなど,子ども達が本に親しみを持ち,心が安らぐような環境整備を行なった。図書館の日当たりの良い一角に「ぽかぽか文庫」と名前をつけて,その月の記念日や行事にあわせた本の展示を行なった。

 また,職員室前にもコーナーを設け読み聞かせに適した本や季節や行事に応じた読み聞かせ用の本を置いている。担任が子ども達への読み聞かせに活用するほか,子ども達も手にとって読んだり借りたりしている。

 
 
【クリスマスのアドベントカレンダー】
【ぽかぽか文庫】

 

W 図書館応援団「もくもくの会」との連携

 

 結成されてから14年目になる,本校の強力な図書館応援団である。保護者や保護者OB,地域の方などの「もくもくの会」の皆さんにご協力をいただいている。学期に一回,打ち合わせ会や懇談会,反省会など学校と「もくもくの会」との話し合いの場を設けながら共通理解のもと活動を行なっていただいている。継続的な読み聞かせ,本の修理や掲示など快適な図書館作り・子供たちに新着図書を早く届けるための装備など,様々な活動が子供たちの読書意欲の向上に結びついている。また,家庭・地域の人による図書館ボランティア活動により,子ども達は地域の人に見守られていることのぬくもりや愛情を感じることができる。そのぬくもりの中でボランティアの皆さんの読み聞かせを聞くことにより,子どもたちは様々な本にふれ本の世界に浸る楽しい時間を持つことができている。


 

【図書館環境整備】

1 「もくもくの会」活動日

  毎週金曜日の10時から12時まで,図書館の環境整備や図書の修繕,装備などを行っていただいている。表には出ない活動ではあるが,「もくもくの会」の皆さんのこうした地道な活動が真に学校図書館の支えとなっている。

 

2 ファンファンタイム

 毎週火曜日の朝読書の時に全学級で読み聞かせを行ってもらっている。このファンファンタイムを行うにあたっては,学校司書が読み聞かせに使われた本のリストを作成したり,選書の相談にのったりしている。子ども達はこの時間を楽しみにし,読んでもらった本を借りたり予約をしたり,家庭で本の話題が出たりなど,読書を勧める上で大切な時間となっている。


 

3 もくもく広場

 水曜日はそうじがなく,長い昼休憩となっている。その昼休憩を使って,学期に1回,「もくもく広場」が行なわれる。7月には七夕会として,ブラックライトのパネルシアターや歌を楽しんだ後,短冊に願い事を書いて笹につるした。

 
 
【たくさんの子ども達でにぎわう拡大版「もくもく広場 七夕会」】

 

【もくもく広場 クリスマス会】

 12月の「もくもく広場」は『三年とうげ』のブラックライト紙芝居のあと,校長先生に韓国語の言葉の響きの良さについて教えてもらった。

 この日のために,もくもくの会のメンバーで何度も集まって計画,練習,リハーサルと準備を行なっていただいた。

 この「もくもく広場」には毎回たくさんの子ども達が訪れる。


 

4 図書館ボランティアだよりの発行
     
 学校からは,学校司書が図書館ボランティアの活動の様子や活動の感想,ファンファンタイムで読まれた本のリストなどを載せた図書館ボランティアだよりを全校に向けて月一回発行した。また,もくもくの会からもメンバーの皆さんに向けて「もくもく通信」が発行されている。

 

X 取り組みの成果

 

  読書活動については低学年では,読み聞かせや本の紹介を中心に本の楽しさを味わい図書館に親しめるようにすること,中学年では,幅広く読書ができるようにすること,高学年ではめあてを持って読書に取り組むことなどの実践を行なった。子ども達の発達段階に合わせ,子ども達の思いに添いながら読書活動を工夫したことにより,各学年で子ども達の読書の意欲が高まり成果があった。また,子どもと本とをつなぐ一つの方法として,テーマを設けてそれぞれの学年の身近な場所に本を置くということも子ども達の読書を勧める上で有効だった。また,1年生から本の紹介を行ない,学年が上がるごとに工夫して本の紹介ができるようになっている。

 本校では読書の質を高めるという目的で「おすすめの本」を各学年選定している。発達段階に合わせて長く読み継がれた本を中心に選書した。担任が紹介したり,読み聞かせたりする中で,今まで同じシリーズばかり読んでいた子どもや,簡易な読み物中心に読んでいた子どもも,「おすすめの本」に挑戦する姿が見られる。低学年ではクラスごとに分冊して担任が読み聞かせ,1か月ごとにローテーションすることで,子ども達が興味をもってよく読んだ。

 こうした積み重ねもあり,図書館の貸出の時に手にしている子ども達の本の傾向が変わってきた。簡易な本しか読めなかった子が,読み応えのある読み物を手に取り,着々と読み進める姿が見られるようになった。全体的に読書の力が育ち,読書の質も高まってきたと思われる。

  市内で初めての学校司書が配置されてから9年目を迎えた。常に進化する図書館として実践を積み重ねて,19年度には研究発表会を開くことができた。松江市の司書の配置校は年毎に増え,今年度(平成21年度)は松江市の小学校全校に学校司書が配置され,「人のいる図書館」が実現した。今後も学校司書配置校の先駆けとしての責任をしっかりと受け止め,子ども達の夢や願いをかなえる図書館として実践を重ねて情報発信していきたい。

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