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授業実践記録(数学)

ソーマキューブを数学的に解析することを目指した数学的活動

大阪府高槻高等学校 竪 勇也

1.生徒の実態

本校は中高一貫の私立の男子校である(平成29年度より男女共学)。本校に入学してくる生徒に共通する特徴として,計算力もあり,定型問題に強いが,少し見方を変えられると途端に対応できなくなる等,本質的な理解に至っていない。これを改善すべく,授業において,こちらの説明を鵜呑みにするのではなく,疑ってかかることを求めてきた。こちらも思考を促すような発問を投げ掛け,議論を重ねることで理解を深めることを目標とした授業を展開するよう心掛けている。

2.実践の内容

中学2年の3学期より高校内容の数学を指導している。今回は中学3年における数学Aの『場合の数,確率』の授業実践に関して紹介したい。中学1年時にも場合の数に触れているが,入学前の段階ですでにPやCの記号を知っている生徒が6割程度いた。しかし,意味を理解した上で使えている生徒は皆無であった。道具は使い方を誤ると危険である。使い方の説明はあったかと思うが,新しく道具を得た喜びが勝り,説明が耳に入らなかったのであろう。手持ちの道具の危うさを実感してもらうべく,まず私は下記の問題に取り組ませる。

8個のボールを3つの箱に分けて入れる問題を考える。ただし,1個のボールも入らない箱があってもよいものとする。 以下に述べる4つの場合について,それぞれ相異なる入れ方の総数を求めたい。

(1)互いに区別のつかない8個のボールを,区別のつかない3つの箱に入れる

(2)互いに区別のつかない8個のボールを,A,B,C と区別された3つの箱に入れる

(3)1から8までの異なる番号のついた8個のボールを,区別のつかない3つの箱に入れる

(4)1から8までの異なる番号のついた8個のボールを,A,B,Cと区別された3つの箱に入れる

1996年の東京大学の問題の改題である。この問題には場合の数の本質が詰まっており,1時間掛けて,議論を重ねることで,非常に理解が深まると考える。この問題を皮切りに,理解を深めることに重点をおき,場合の数,確率の授業を展開した。この単元の最後の授業として,ソーマキューブを用いた授業を行った。

3.教材のねらい

ピート・ハインが考案したパズル“ソーマ”を数学的に解析することを念頭においた教材である。既習単元である「場合の数」の数学的活動を促す課題学習として位置付けている。グループでの活動も検討したが,1人1人が実際に立方体の木片を手に取り,様々な角度から立体を見て,考察する経験こそが重要であると考え,クラス全員分の教材を用意して,個人での活動を重視した。小学校の時から立体図形を苦手にする生徒は多く,その意識を改善する一助になることも期待できる。目の前の立体を手にしながら考えることで立体の理解も深めることができる。

自身で製作した立体を組み合わせて,立方体を作る作業は童心に返ったようで単純に楽しい。ただ,それだけに止まることなく,組み立て方の総数を考え,議論し,手順を考えることも重要な観点である。

4.実際の授業

1辺3cmの立方体(木片)31個のセットを生徒全員に配付し,以下の課題を与えた。

課題1

「立方体の面を最大4個繋げて,立体を作るとき,何種類の立体ができるか。ただし,直方体は除く。」

最終的にはボンドにより木片を繋ぎ合わせるが,机上に立体を作りあげる作業に徹しさせる。立体を作るためには木片を3個以上繋ぐ必要があること,および3個の木片によりできる立体はただ1種類であることは即座に理解できる。4個の木片により構成される立体の種類を考えることを主眼においた課題である。3個の木片による1種類と合わせて,6種類と7種類の2通りの考えに大別される。7種類を主張する生徒の机上を電子黒板に投影する(図1)。6種類と主張する者は⑤,⑥を同一とみなしている。⑤,⑥において,一方を回転させたとしても,他方と一致しないことを確認させる。7種類であることを確認させた後,ボンドで接着。

課題2


図1

「7種類の立体を組み合わせて,立方体を作ることはできるか。」

課題2に関してはこちらからの提示は実際には行わない。課題1において27個の木片を使用した。27は3の3乗であることから,こちらから指示するまでもなく組み合わせて立方体を作る作業に移行していた。数分後には完成できた旨の発言が聞かれるので,別の方法で組み立てるよう指示を出す。生徒間において立方体を完成させるまでに時間差はあるが,概ねの生徒が組み立てに成功。

一定時間を与えると早い者は4~5通りの組み立て方で立方体を完成させたと主張する一方,その中に回転して一致してしまうものが存在する,すなわち重複していることへの不安も口にする。また,複数回組み立てると,以前の組み立て方を忘れてしまう。これを踏まえて,新たに2つの課題が議論の中から生まれた。「組み立てた立方体の記録の取り方はどのようにすれば良いか。」「1つの組み立て方に対し,同じ記録は何通り存在するか。」

図1のように立体に番号を割り振り,完成した立方体を3階立ての建物と見立て,1階ごとに3×3のマスに記録を取るといった意見も生徒から出された。

5.まとめと課題

木片を31個用意した理由は課題1において,8種類目の可能性を残すためである。7種類の組み立てに苦労する者もいるが,個々に応じた課題を与えることは意識している。課題2以降も2つの課題が出てきたが,いずれも生徒から自発的に出されたものである。これは大きな成果であったと考える。記録の取り方などは空間を平面に置き換え,分析する。簡単なことのようで意外とできないことではないだろうか。作業を進めるなかで,課題を見つけ,解決方法を探る。発表を聞き,生徒間で議論を重ね,理解を深める。一見時間を要するが,理解を深め,定着に繋げるには最善の方法であると考える。また,立体図形を実際に手に取ることも重要なことである。映像教材など様々なツールが出てきてはいるが,手に取り,様々な角度から立体を眺めることに勝るものはない。

先に述べたように,この実践は既習単元である「場合の数」の数学的活動を促す課題学習として位置付けた。なお,課題3「立方体の組み立て方は何通りあるか。」であったが,この問いは高校数学を超越したものであり,現段階において解答することは困難である。入試問題に捉われない題材で数学的活動を展開できたことは大きな成果であった。