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教師の方へ

授業実践記録(数学)

教科書の素朴な疑問から探究力を育成する
―授業者の探究的な教材開発を通じて―

広島県立尾道北高等学校 平山 成樹

【1】 はじめに

「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」(平成24年8月28日中央教育審議会答申)によると,これからの教員に求められる資質能力について,「教職生活全体を通じて,実践的指導力等を高めるとともに,社会の急速な進展の中で,知識・技能の絶えざる刷新が必要であることから,教員が探究力を持ち,学び続ける存在であることが不可欠である(「学び続ける教員像」の確立)」とまとめてある。この方針に則り,本授業実践記録は,授業者の「教科書における素朴な疑問」から授業内容を探究し,教科書の内容を発展させる形で授業内容・授業方法を構築し,生徒に探究力や数学の良さを認識させることを目的としたものである。内容としては「数学Ⅰ」の「図形の計量」における「四面体」を主な題材として扱い,学習した内容を入試問題で活用する場面も取り入れている。その授業実践のストーリーを,ポイントを明示しながら次に示す。

【2】 素朴な疑問

教科書の章末問題でおなじみの,次の問題に素朴な疑問を感じた。

4.三角錐OABCにおいて,

のとき,次の値を求めよ。

  • (1) OAの長さ
  • (2) △OBCの面積
  • (3) △ABCの面積
  • (4) 点Oから△ABCに下ろした垂線の長さ

(4)の問題において,体積から垂線の長さを求める意義は何なのか。
そもそも,垂線の足はどこに存在するのか。(生徒は課題意識をもっているのか)

体積は辺や垂線の長さから求めるのが自然な発想であり,四面体の体積から垂線の長さを求める思考の流れに,技巧的な印象を強く受けた。そもそも,垂線の長さに注目するのみで,垂線そのものについて深く考察できていない点に,思考の中途半端さを感じる。垂線の足の位置はどこに存在するのか考えることなく,単に垂線の長さのみ求めるのであれば,図形的な考察は不十分であると感じた。

【3】 教材研究と授業実践・検証

【2】で感じた疑問について,次の3点を中心に教材研究を行った。

  • ①垂線の足の位置を三垂線の定理を用いて考察させる。
  • ②垂線の足の位置を模型を活用して具体的に理解させる。(教具やプリントを提示する)
  • ③垂線の足の位置を活用する入試問題に取り組ませ,その意義を実感させる。

授業の導入部分として,次の問題を考えさせた。

【問題1】次の図は1辺の長さが4の正方形である。 BP=CP,CQ=DQのとき,次の問いに答えよ。

  • (1) この展開図をもとに作成できる立体は何か。
  • (2) 各面の面積をそれぞれ求めよ。
  • (3) 立体の体積を求めよ。

3つの面がそれぞれ互いに垂直であることになかなか気付かない生徒もいたが,実際に展開図を配布し,自ら立体を組み立てることで,その事実を確認し,根拠を考えることができた。続いて,次の問題を考えさせた。垂線の足の位置に関する発問である。

【問題2】
三角形APQを三角錐BAPQの底面とするとき,
(1) 頂点Bから底面APQに下ろした垂線の長さBHを求めよ。
(2) 垂線の足Hの位置をプリントの展開図に作図せよ。

(1)は【2】で取り上げた典型的な問題である。(2)がこの授業の主なテーマである。まず生徒自らに垂線の足がどこにくるのか疑問をもたせ,互いに発表させた。

このように生徒自らに課題意識をもたせたうえで,「三垂線の定理」を用いて,垂線の位置を見取り図から説明した。

さらに,見取り図の位置から,展開図における垂線の足の位置について考察させた。ここで空間図形を具体的に考察させるために,模型を提示し,立体から展開図に変形することで,垂線の足の位置の作図方法について視覚的にイメージさせた。

(教具として用いた模型)

見取り図
一部の面を展開した図
展開図

三角錐から展開図へ広げる流れを通して,垂線の足の位置は点B,C,DからAP,PQ,AQにそれぞれ引いた垂線の交点であることを示した。見取り図と展開図の変化が視覚的に見えることで,垂線の足の位置についての理解を深めることができた。

最後に,垂線の足の位置を活用する入試問題に取り組ませた。

【問題3】
次の図はある三角錐の展開図である。


で△ABEは正三角形である。このとき,次の問いに答えよ。

  • (1)CDの長さを求めよ。
  • (2)△ABCを底面として,三角錐の体積を求めよ。


(2009 北海道大学 理系 改題)

展開図を配布し,生徒自らが立体を組み立てて問題に取り組ませた。問題1とは異なり,垂線の足の位置が展開図における底面の三角形の外部に存在することから,見取り図では考えにくいことを実感していた。そこで,展開図における垂線の位置の作図方法を用いて,問題解決に取り組む姿勢が見受けられた。

このような図形の問題は,幾何的に考えたり,ベクトルや座標を導入して考えたり,さまざまな方法で問題を考察することができる。展開図を用いた考え方もその1つとして位置づけることで,問題解決の切り口が広がるのである。

資料1「授業プリント」(PDF:624KB)

垂線の長さを求めるにあたり,生徒のさまざまな解答を次にまとめる。どのような直角三角形に着目するかで,様々な解法が考えられる。

(解法1)

(解法2)

(解法3)

(解法4)

【4】 終わりに

生徒に授業内容を活用して課題を解決させたり,さらに探究したりする力を身につけさせるためには,教師自らがその力量を高める必要がある。本実践においては授業者の素朴な疑問から教材に対する課題意識をもち,探究的な教材研究を通じて1つの授業の流れを構築した。ある研修において,教材研究とは「学ばせるべきものを学ばせたいものにすること」であり,発問とは「学ばせたいことを生徒が学びたいと思うように働きかけること」であると学んだ。授業に,授業者の探究的な視点を取り入れることで,生徒と授業者とのやりとりが活性化する。生きた教材を用いて生きた授業が可能となるのである。これからの教育で求められる「教師としての探究力」を今後も高めていきたい。そして,そのような「姿勢」が,数学を媒体として生徒の人格形成に資するように,日々研鑽していきたい。