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授業実践記録(英語)

英語 授業実践記録

中央大学附属横浜中学・高等学校 橋本 恭

1.はじめに

本稿では,高校1年の1学期という,高校3年間で生徒が英語力を伸ばしていくうえでもっとも重要な時期に焦点をあて,中高ギャップをどう埋めていって,2学期につなげるか,私なりの過去の実践を紹介させていただくこととする。

2.分量に慣れさせる

高校1年生は,筆者自身もそうであったのをいまだによく覚えているが,1レッスンの英語量に圧倒される。コミュニケーション英語Ⅰの場合で,中3の教科書の最後のレッスンの2倍ほどの分量になるようである。経験のない距離を走るのは苦しいものだが,慣れてくれば走れる距離はさらに伸びるものである。分量に慣れさせるために心がけているのは,主に次の5点である。

1. 全セクションを一気に通読させる

2学期以降は初見の予習の段階から通読をさせるが,1学期のうちはすべてのセクションの内容理解を終えた段階で,本文を通読させる。空読みを防ぐために,通読した後に解答しなければならない問題を用意したり,課末のComprehensionをやらせたりするのもよいだろうが,1パラグラフ毎に1語ずつ不要な単語を入れておいたプリントを使うようにしている。このようなプリントを用いずに教科書をベタに読ませるときは,ノートなどで読み終えた行を隠させることもある。こうすると,目が泳ぐのを抑え,視界に入る英語量も次第に減っていくので心理的な負荷を下げることができるようである。以前は,B6程度の大きさの厚紙の中央に7mm×7cm程度の穴を開けたものを配布して,この穴を英文に沿ってずらしながら読ませたことがあったが,返り読みも防げるはずだったこの方法は不評であった。なお,啓林館のELEMENT English CourseⅠは,1レッスンの本文が基本的に見開きで印刷されていてゴールが見えるので,通読をさせるのに都合がよい。

2. 全セクションを一度に聴かせる

これもすべてのセクションの内容理解を終えた段階で行う。高校からの入学生に挙手で聞いてみたところ,中学では教科書を収録した音源を持っていないことが多いようであるから,この活動は生徒には負荷が高いと考えられる。また,中には途中で集中力が途切れる生徒もいる。そこで,全セクションを一度に聴かせるといっても,実際には途中で一時停止して,停止直前の英文を言わせるといった活動をはさむようにしている。

3. 常にレッスンの最初から音読させる

スタート地点はいつも固定しておいて,ゴール地点だけを先に伸ばしていくというやり方である。なお,中学3年間で,あるいは中学3年のときに授業内に音読指導を受けた経験がある生徒は,挙手できいたところ,やはり全体の6割弱,家庭で音読練習の経験があるものは3割弱であった。発音,アクセント,イントネーションの指導も初歩的なことも含めて改めて指導する必要もあり,また音読の習慣を身につけさせるのにも一工夫必要であるが,字数が限られているのでこれについては機会を改めたい。

4. 要約させる

要約するために生徒は繰り返し本文を通読することになる。要約は英語で口頭発表させる。

5. 夏季休暇に洋書を読ませる

いくつかの推薦図書を示しはするが,基本的には自分が読みたいもので読みきれそうだと感じるものを自由に選ばせ,本の内容と感想を書かせて提出させる。校内の図書館から借りて読む生徒もいれば,両親や兄弟にすすめられた本を読んだりする生徒もいる。ほぼすべての生徒が,未知語をとばして読んでもそれなりの理解が得られることを実感し,一冊を自力で読み終えたことで一定の達成感と自信を持ったことを嬉しげに綴っている。

3.英語を言葉として捉えさせる

英語を勉強するというのは,単語や熟語を覚え,空所補充などの問題に取り組むことである,というイメージを強く持って中学を卒業してきた生徒は少なくない。高校入試というハードルを越えなければならないという現実がある以上,無理からぬことである。授業では次のような順序で生徒に活動させたり,意識させたりするようにこころがけ,英語を言葉として捉えさせようと努めている。

1. 「聞く」→「言う」→「書く」

活字を目にすることを常に学習の出発点にするのではなく,聞こえた英語を口に出したり,口頭で変換練習をしたり,口頭作文にも取り組ませる。課末のTry It Outのような空所補充問題に取り組ませる場合も,まず空所だけ埋めるというのではなく,英文全体が活字を見ずに言えるようになってから,全文を書き出させるようにする。

2. 「黙読」→「音読」→「暗唱」→「再話」→「意見」

読んで意味がわかったら終わりというのではなく,自分の理解した意味が相手に伝わるように音読するよう指導する。相手に伝わる音読ができるようになったら,その内容を自分の英語で相手に話す練習をさせ,その最後にそれについての自分の意見を,理由を含めて付け加えさせる。基本文は暗唱させて,次の時間にテストする。

3. 語順通りに読む

語順通りに意味を捉えられるようになることを常に意識させる。一旦意味理解が終わった文章は,可能な限り音声でも聴かせることで,英文の途中で後戻りする癖を抑えさせる。また,本文テクストから句読点を取り除き,文頭の大文字を小文字に変えて,すべての語と語の間のスペースを同じにしたプリントを作成し,元のテクストに頭の中で戻しながらゆっくり音読させる。

4.指導要領の穴を埋める

中学でも高校でもきちんと取り立てて学習しないままになりやすい事項は,できるかぎり高校1年1学期のうちに学習させたい。中学と高校の学習指導要領の間でギャップとなっている部分であるが,生徒によっては高校受験のために塾で学習している場合もあるが,習熟しているとは言えない段階にある生徒が大半である。主なものは次の通りで,多くは語順整序問題などで誤りやすい点でもある。

・ 主文が肯定の場合の付加疑問

He left the room, didn't he ?

・ 主文が否定の場合の付加疑問

You haven't finished your homework yet, have you ?

・ 感嘆文

What a good idea it is !
How fast he runs !

・ 所有格の関係代名詞whose

I have a friend whose sister works for Keirinkan.

・ 目的格の関係代名詞whom (接触節は既習)

He is the boy whom I met at the bookstore.

・ 疑問詞で始まる疑問文で,末尾に前置詞があるもの

What are you looking at ?

・ 末尾に前置詞がある接触節

This is the book I talked about yesterday.

・ 不定詞の形容詞用法で,句の末尾に前置詞があるもの

Will you give me anything to write on ?

これらの形式を含んでいても,聞いたり読んだりする場合には,生徒は大まかな意味をとることはできるものである。私は,1学期中に扱うレッスン本文をOral Introductionやプリントなどでこれらの形式を含むように言い換えて示して,口頭練習や口頭作文に持ち込んで導入している。

5.発音記号を読めるようにする

賛否両論あるが,私は高校生には発音記号の指導をすべきであると考えている。ただし,取り立てて系統的に教えるのではなく,通常の発音指導と辞書指導の中で繰り返し触れていくだけであるが,辞書で引いた未知語を発音記号から発音することが1学期中にほぼできるようになる。

6.辞書を使えるようにする

生徒には紙の英和辞書を毎時間用意させ,辞書を開く場面を作る。毎時間小分けにしながら次のことを繰り返し指導している。

  • ・ 見出し語の右肩の数字
  • ・ 見出し語の途中にある点の意味
  • ・ アクセント記号
  • ・ 発音記号中の「-」や「()」の意味
  • ・ 米音と英音の表記
  • ・ 品詞の表示
  • ・ 複数形が示されている場合と示されていない場合
  • ・ 過去形と過去分詞形が示されている場合と示されていない場合
  • ・ 「進行形不可」,「命令形不可」,「受身不可」「比較なし」「限定」「叙述」のような表示の意味
  • ・ 可算・不可算の表示について
  • ・ 訳語の区切りの「,」と「;」の区別
  • ・ 選択制限(「人が」「物が」「場所を」など)
  • ・ 用例中のone,one's,a person,sbなど
  • ・ 熟語・イディオムの調べ方
    これらの事柄は,電子辞書にもそのまま掲載されてはいるが,やはり視認性の高い紙の辞書の方が導入しやすい。英和辞典が使いこなせるようになってから電子辞書も併用するのがよいと生徒には指導している。

筆者に与えられたスペースはそろそろ尽きる。語彙指導はどうしているか,音読指導は具体的にどのような手順を踏んでいるか,実際にどのようなプリントを作っているか,などかなり多くのことに触れることができていないが,これらも機会を改めさせていただきたい。