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授業実践記録(英語)

スラッシュリーディングを導入する時のひと工夫

日本工業大学駒場高等学校 齋郷 徹

1.はじめに

5年ほど前にスラッシュリーディングを導入してみようと始めたころ,生徒は「英語を読むということは1個1個の単語を日本語に置き換え和訳する」という考えが非常に強く,生徒が戸惑いを隠せない状況が多くありました。それから数年が経った現在でも逐語読みに慣れきってしまっている生徒はスラッシュリーディングに取り組むと最初戸惑います。そのような生徒が逐語読みからスラッシュリーディングにスムーズに移行できるような工夫を私自身の失敗例も含めながらご紹介できればと思います。

2.スラッシュリーディング導入の失敗

当時使用していた教科書にはスラッシュリーディングを導入しやすいように本文に既にスラッシュが入っていました。それを利用しながらどこにスラッシュを入れたら良いか解説をして,スラッシュごとに和訳をして授業をしてみましたが,「自分でスラッシュを入れて読んでごらん」といった所で失敗が起こりました。

○こちらの指示の失敗

「意味のカタマリごとにスラッシュを」と言ったところ,スラッシュを入れる位置が全員バラバラになってしまいました。「SVで切って」「前置詞の前で切って」というように細かくスラッシュを入れてくる生徒もいれば,「スラッシュを入れなくても読めます!(本当に?)」という生徒もいたりと授業で一斉指導するのが大変な状態になってしまいました。

○和訳がなくて不安な生徒

「日本語に訳すことが英語を読むこと」という考えの強い生徒は思った以上に不安を隠せない様子でした。スラッシュ毎に口頭で訳を言っていたのですが,それでも不安がる生徒は多く,スラッシュごとの日本語訳を配布したところ,それをあてにして授業内では集中して活動しない生徒が目立つようになりました。理想である「英語を英語のまま読む」という状況に至りませんでした。

3.解決に向けて

○初期段階ではスラッシュを入れる箇所のルールを明確に

文によって臨機応変にスラッシュを入れていかなければなりませんが,最初は「意味のカタマリごとに」というあいまいな指示ではなく具体的にしました。教科書の中にある説明「コンマ,セミコロン,コロン,ピリオドの後」「接続詞・疑問詞・関係詞が作る節の前後」「前置詞・動名詞・不定詞が作る句の前後」「長い主語の後,長い目的語や補語の後」(LANDMARK English communication I)という説明だけにせず,まずは「前置詞の前で入れる」ということの徹底に取り組みました。その際に大切にしているのが,字面だけを見てスラッシュを入れるのではなく,句の説明をしっかりとすることです。「前置詞句がどんな働きをするか」に着目させるとより生徒はスムーズにスラッシュを入れられるようになっていきます。

前置詞の前で入れる。

I will meet you / at your office / on Monday.
場所

上のような文で前置詞が作るカタマリが「場所」と「時」を表す副詞句になっていることを説明し,「場所のカタマリでスラッシュを入れる」「時のカタマリでスラッシュを入れる」とルールを作ると次のような文でもスムーズにスラッシュを入れることができるようになります。

次に

What did you do / in the backyard / the day before yesterday?
場所

副詞句について説明しておくと上のような文でも,「時を表すカタマリ」としてスラッシュを入れることが簡単にできるようになります。

さらに

I was watching TV / when you came home.

副詞節になっても「時を表すカタマリ」だからスラッシュを入れる。というように字面だけでスラッシュを入れることから「意味のカタマリ」でスラッシュを入れるというようになってきます。生徒はスラッシュを入れる場所が明確になってきます。

「前置詞の前で入れる」という形式上のことからスタートしますが,前置詞句が作る副詞の働きを意識していくことで「副詞のカタマリ」に対して確実にスラッシュを入れていけるようになります。

ここでは具体的に前置詞がつくる副詞句についてお話しをしましたが,名詞/形容詞句(節)についても同様のことが言えます。最初は表記されている文字だけを見てスラッシュを入れさせますが,句や節の働きを意識させることで「意味のカタマリ」でスラッシュを入れることの意味がわかるようになります。

○実際の授業内でのやり方

導入の時点ではプリントで練習をしてルールをきっちりと教えました。次に教科書にスラッシュを自分たちで入れさせた上で,こちらはどこでスラッシュを入れるべきか模範解答を示します。ルールを作った上で明確な答えを示す(もちろん答えは1つしかないわけではないですが),たったこれだけのことでスムーズに指導しやすい状況になりました。繰り返すうちに生徒たちもどこでスラッシュをいれるかを理解し,自然と自分でできるようになりました。

4.日本語訳からの脱却に向けて

○初期段階では

本文に取りかかる前に新出単語やスラッシュの入れにくい未知の構文について教えます。次に本文にスラッシュを入れさせ,スラッシュの答え合わせが終わった後,しばらく読み直す時間を生徒に与え,本文に関するT/F問題を解いてもらいます。そこで内容が読み取れたか確認をするのですが,解説のところではスラッシュごとに訳を教えています。スラッシュリーディングを導入したての頃はスラッシュごとに訳を教えてあげた方が後々ついてこられる生徒が多いような気がしています。ただし,日本語訳をプリントで配るのは私としては面白くないのでスラッシュ毎に口頭で訳を言っておしまいにします。生徒には必要があればその箇所だけを書きとめるよう指示し,全部は書かせないようにしています。

○慣れてきたところで

本文にスラッシュを入れるところまでは初期段階と同じですが,本文に関する問を5W1Hの形の質問に変えます。このことで「誰が」「何を」「どこで」といった具合に本文の内容に関して具体的な理解度を見ることができます。日本語訳からも徐々に離れたいので生徒の間違えが多かったところだけを解説するスタンスをとっていきます。

○もう一歩進めて

スラッシュの答え合わせをやめます。この段階になってくるとスラッシュを入れられない理由の多くが未知の語句にあります。ですからこの段階に入る前に単語の推測方法などを教えておきます。また,読んでいる最中に辞書の使用を禁止し,自力でスラッシュを入れながら読ませます。その後,「この単語の意味が分かれば!」という語(句)だけを質問で受けます。その際に,「どのような意味だと思う?」と他の生徒に自分が推測した結果を答えてもらいます(このためにも予習厳禁にしておく必要があります)。その上で,もう一度,場合によってはスラッシュを入れ直しながら読んでもらいます。そして本文に関する質問を解いてもらい理解度を図ります。

○パラグラフごとの要約

スラッシュを使うことなくパラグラフを読み,そのパラグラフについて要約ができるようにしたいのですが,まだまだ実験段階で指導が確立には至っていません。わからない語彙をどの程度まで教えるか,辞書を使わせるかどうか,どうしたらスムーズな要約ができるか,生徒の学力の問題,などなど手探りの状況です。パラグラフの成り立ち(Main Idea / Topic Sentenceなど)やディスコースマーカーなども教えたりしてみましたがスムーズに正解に至るということは少なく,苦戦をしています。

5.おわりに

スラッシュリーディングを取り入れて実践していく中で,「意味のカタマリ」で入れるということが一見,簡単そうではあるものの実際にやらせてみると奥が深いものであると感じています。そこには句や節の働きというものがあり,そこを意識させる(ルール化する)ことに気が付くまでに時間がかかりました。つたない実践報告ではありますが諸先生方のご参考になれば嬉しく思います。