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授業実践記録(地学)

兵庫県立三田祥雲館高校天文部 活動紹介

兵庫県立三田祥雲館高等学校 谷川 智康

1.はじめに

三田祥雲館高校天文部は2010年1月に創部され今年で5年目を迎える,新しいクラブである。創部以来の5年間で国際会議に招待され,全国高等学校総合文化祭で地学部門優秀賞を受賞するなど,確実に実績を上げてきた。本稿では創部以来の天文部の活動紹介と目指すところについて紹介する。


ACM2012での発表の様子


創部時当時に最初に作った手作り望遠鏡“ケレス”

2.創部までの背景

兵庫県立三田祥雲館高等学校は2002年に創立された普通科単位制高校である。1学年7クラスで,現在829名の生徒が学んでいる。毎年100名程度の者が国公立大学へ進学する。本校は2009年から文部科学省スーパーサイエンスハイスクールの指定を受け,今年度は6年目を迎えており,理数系に所属する生徒は「自然科学探究」や「探究Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」等の科目において,先進的な学習をしている。

私はスーパーサイエンスハイスクールの指定を受けた2009年に三田祥雲館高校へ転勤してきた。この年は7月21日に奄美大島や北硫黄島など日本の南部で皆既日食が起こる年であり,一般生徒に募集をし,4名の生徒と奄美大島へ遠征観測を行った(曇天のため観測できず)。その後も校内の観望会を続けるなどし,天文同好会を経て,正式に天文部が誕生した。


西はりま天文台での観測風景

3.天文部の活動

天文部には現在14名が在籍し活動している。活動の2本柱は「研究」と「天文普及活動」である。

(1)研 究

その時々に起こる天文現象を観測するに加えて平常は太陽の黒点観測と流星電波観測を行っている。また夜間の観測としては,小惑星・彗星等の星の明るさを測る測光観測の基本を学び観測技術を磨いている。2011年度は夏から秋にかけ明るくなったギャラッド彗星の観測を続け,その観測結果をまとめた。この「ギャラッド彗星の測光観測」が認められ,2012年5月に新潟市で開催された国際学会Asteroids, Comets, Meteors 2012へ小倉高校(福岡県),一宮高校(愛知県)とともに招待を頂いた。第一線の研究者が集う国際学会にご招待頂いたのは大変光栄であったがそのプレッシャーも大変なものであった。校内の外国人講師から特訓を受けるなどして,英語での発表練習を重ねた上で生徒はポスター発表を行い,成功裏に終えることができた。そして,このACM2012への出場を記念して小惑星sandashounkanが誕生することになった。

また2012年5月21日の金環日食では高感度ビデオカメラを使った観測を行い,その結果を用い太陽半径の測定を行った。理科年表には太陽半径は696,000kmと書いてあるが,正確な太陽半径の測定は未だ行われたことがない。日本の月探査機「かぐや」が詳細な月の地形図を作って以後,最初の金環日食だったのである。部員同士で議論を重ね,「かぐや」のデータを利用した私たちなりの方法で太陽半径の決定に挑戦した。この結果,第37回全国高等学校総合文化祭自然科学発表部門,地学分野で優秀賞を頂いた。

最近の活動としては,上述した小惑星sandashounkanが2014年の秋以降に地球に接近し観測しやすい状況になったので,これを機に西はりま天文台や,また世界各地に設置されたインターネット望遠鏡を利用した観測を行った。小惑星は現在60万個以上発見されているが,詳しい研究がなされているのは,そのうちの1%程度の約6000個であり,sandashounkanも未解明の小惑星の一つである。小惑星は非常に暗い天体であるが長時間連続して観測すると,明るさが微妙に変化する。これは小惑星の自転に由来するものである。私たちはこの観測から自転周期を33.2時間と求めた。この研究の成果は,生徒たちが英語論文にまとめ国際天文連合(IAU)へ報告した。2012年のACM2012に続き,生徒たちの手によって活動の成果を世界に向け発信することができた。


全国総合文化祭での発表


2012年5月21日金環日食の観測風景

(2)天文普及活動

「天文普及活動」については三田市内の小・中学生を学校に招き公開観望会“祥雲星空教室”を開催している。事前の解説から実際の観測指導まで,すべて生徒の手で行っている。クイズなどを織り交ぜ,子供たちに楽しく星空の解説をすべく,生徒同士で話し合い,いろいろ工夫をしている。“教えることは学ぶこと”の言葉通り,自分たちで子供たちへ解説・指導をすることで大変良い勉強になっている。その他,市民,児童を対象とした行事でプラネタリウムの演示なども行っている。また三田市が行っている「こども科学教室」の一つとして望遠鏡作りの指導も行い,地域に貢献している。


小惑星sandashounkan (中央)オーストラリア・パース天文台撮影

4.天文部の活動が目指すところ

(1)めざせ「世界初」

先ほどの小惑星Sandashounkanの自転周期も「世界初」であった。天文学は他の分野に比べアマチュアでも最先端の成果を上げやすい学問である。特に彗星や小惑星や流星など,太陽系内の天体に関しては昔から日本のアマチュアが活躍し,世界をリードしてきた歴史がある。これは大きな天文台の望遠鏡だけでは,さまざまな天文現象をカバーし切れないことがある。ねばり強く観測を続けることや,方法を工夫することによって,有用な観測データを得,天文学の発展に貢献することは高校生でも十分可能なのである。天文部を創設したときに目標としたテーマは「小惑星を見つけよう」であった。研究をすることの醍醐味はまだ誰も知らないことを世界に先駆け,最先端の成果を真っ先に自分の手にする「ワクワク感」にあると思っている。私も生徒にこのワクワク感をしっかり伝えたいと思っている。


「祥雲星空教室」での観望会風景

(2)人間としての成長

部活動は教育活動の一環であるので子供たちの人間的な成長を何よりの目標にしている。「世界初」を達成する喜びは大変大きなものであるが,それは容易に得られるものではない。寒い中で延々と撮影を続けるとか,解析のために地味な作業をこなし続けるためには多大な忍耐力や集中力を要する。モチベーションを維持し活動を継続させるためには工夫が必要である。きれいな天体写真を撮るための観測を行うなどして,飽きがこないようにしている。星空教室で異世代の人々と関わることでコミュニケーション能力の育成にもなっている。いろんな場面で,今までにできなかった事を克服した自分を発見させ,次の目標に向かう動機にするという良い循環を作っていきたいと思っている。

しかし,この人間育成については大変難しく私にとっても永遠の目標と言える。私自身の成長も目指し,生徒たちとさらに努力を重ねたいと思っている。


2012年6月6日金星日面通過では全校生に向け中庭で観望会を行った。