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授業実践記録(数学)

具体的な事象の中から二つの数量を取り出し,それらの変化や対応を調べることを重視した指導の実際
~第3学年「関数y=ax2」の実践を通して~

宮崎大学教育学部附属中学校 元田 正幸

1.はじめに

関数指導においては,現行学習指導要領解説(2008,文部科学省)によると「具体的な事象の中から二つの数量を取り出し,それらの変化や対応を調べることを通して,関数関係を見いだし表現し考察する能力を3年間を通して徐々に高めていくことが大切である。」とされている。しかし,実際は,関数の式を求めることやグラフをかく指導は多く見られるが,具体的な事象の中から二つの数量を取り出すことや取り出した二つの数量の変化や対応を調べることについての指導の場は少ないように感じる。

本実践記録では,第3学年「関数y=ax2」を取り上げる。今回は,導入段階で,具体的な事象の中から二つの数量を取り出し,それらの変化や対応を調べることを重視した。その際,対話をとおして多様な見方・考え方にふれ,変化や対応の様子を自分なりに説明できるように,ジグソー学習を導入した。また,考えた表,式,グラフをグループごとに提示できるように,iPadを用いてワークシートの画像を撮影し,説明する場を設定した。

2.実践事例

(1)指導計画

第3学年「関数y=ax2」の導入段階の3時間であり「身の回りの事象からこれまでとは異なる関数関係を見いだし,既習の関数と比較しよう。」という目標で行った。以下に示す学習指導過程等は第3時のものである。

目標 時数 活用する知識や経験 観点別評価規準
知識・技能 見方や考え方 関心・意欲・態度
身の回りの事象からこれまでとは異なる関数関係を見いだし,既習の関数と比較しよう。
(本時3/3)
・表のかき方,表を用いた変化や対応の捉え方
・数量の関係を等式で表すこと。
・比例,反比例,一次関数の意味と特徴
身の回りの事象の中にある,既習の関数では捉えられない関数について,変化や対応の様子を,表,式,グラフをかき,説明することができる。 二つの数量についての変化や対応の様子を予想し,表,式,グラフから既習の関数では捉えられない関数を見いだし,結果を振り返ることができる。 既習の関数では捉えられない関数を,表,式,グラフを用いて表現し,特徴を説明することに関心をもつことができる。

(2)本時のめあて

二つの数量についての変化や対応の様子を予想し,表,式,グラフから既習の関数では捉えられない関数を見いだし,結果を振り返ることができる。

(3)資料及び準備

カッターナイフ,ワークシート,iPad,HDMIアダプター,電子黒板,B4用紙,ペン

(4)学習指導過程

過程 生徒の学習活動 教師の支援
導入 1 前時を振り返る。 ○ 既習の関数では捉えられない関数の存在を確認できるように,前時を振り返る場を設定する。
2 本時の問題を知る。
○ 身の回りの事象と関数を関連付けることができるように,カッターナイフの刃を出すことによって変わる数量について考える場を設ける。
○ カッターナイフの刃の長さと,刃の面積の変化や対応のようすを理想化して考察できるように,問題を黒板に提示し,生徒にワークシートを配付する。

【問題】
右の図のように,長方形ABCDと直角二等辺三角形EFGが直線ℓ上に並んでいる。長方形を固定し,直角二等辺三角形を矢印の方向に頂点FがBに重なるまで移動させる。ABとEGの交点をHとする。
このとき,線分BGの長さをx㎝とし,長方形の外にある△HBGの面積をy㎠とする。
3 xに伴って,yはどのように変わるかを予想する。
【予想される生徒の反応】
・ xが増加すると,yも増加する。
・ 式はになるのではないか。
○ xに伴って,yはどのように変わるかについて予想できるように,考えをワークシートに記入する場を設定する。
○ 表,式,グラフを用いる必要性を認識することができるように,予想した内容を具体的に調べる方法について問いかける。
4 本時のめあてを確認する。 ○ 本時,何ができるようになればよいかを認識できるように,めあてを確認する場を設定する。
二つの数量の関係を,これまでの関数と比較しながら考えよう。
展開 5 ジグソー学習を行う。 ○ 対話をとおして多様な見方・考え方にふれ,変化や対応の様子を自分なりに説明できるように,ジグソー学習を導入する。
① 4人1グループとしたホームグループを形成し,役割分担をする。 ○ 役割分担ができるように,それぞれのグループに4種類のワークシートを1枚ずつ配付する。
(ジグソーA)xを0,1,2,…と変化させて,表をつくり,式を考える。
(ジグソーB)表をつくり,グラフをかく。
(ジグソーC)表をつくり,x,yの変化を見たり,変化の割合について調べたりする。
(ジグソーD)x,x2,yについての表をつくり,x2,yの関係をグラフに表す。
② エキスパートグループを形成し,意見の交流を行う。 ○ ホームグループ内での役割を果たすことができるように,意見を交流する場を設定する。
③ 再度ホームグループを形成し,エキスパートグループで確認した内容を共有する。 ○ エキスパートグループで確認した内容を共有できるように,再度ホームグループに戻るように指示する。
○ 既習の関数と比較した結果を全体に提示できるように,B4用紙,ペンを配付し,内容を記述するように指示する。
○ 表,式,グラフを全体に提示できるように,iPadを用いて,ワークシートの画像を撮影するように指示する。
6 変化や対応の様子について調べた結果を全体で共有する。
【予想される生徒の反応】
・ 変化の割合は一定ではない。
・ 式はとなる。
・ グラフは原点を通り,曲線になりそうだ。
・ x2とyは比例関係にある。
・ これらのことから,これまでに学んだ比例,反比例,一次関数とは異なる。
○ 変化や対応の様子について調べた結果を全体で共有できるように,iPadと電子黒板をHDMIアダプターによって接続し,提示した画像を用いてグループごとに説明する場を設定する。
○ 個人,グループで調べた結果と他のグループが説明した内容を比較することができるように,ワークシートに必要事項を記入しながら説明を聞くように伝える。
終末 7 本時をまとめ,振り返る。
① 調べた関数が,比例,反比例,一次関数ではない根拠を個人でワークシートに記述する。
② 新たな関数について知る。
・ yはxの2乗に比例する関数,y=ax2となるものがある。
○ 本時の内容をまとめることができるように,調べた関数が,比例,反比例,一次関数ではない根拠を個人でワークシートに記述する場を設定する。
③ 本時の振り返りをワークシートに記述する。 ○ 本時の振り返りができるように,感想等をワークシートに記述する場を設定する。

3.おわりに

授業を通して,生徒は,導入段階で既に関数y=ax2の表,式,グラフの特徴の一部を捉えることができていた。以後の授業では,生徒自らが捉えた関数y=ax2の表,式,グラフの特徴を基に授業を進めることができた。結果,生徒は課題意識をもって授業に取り組み,知識・技能の定着の度合いも良好であった。他学年でも,具体的な事象の中から二つの数量を取り出すことや,取り出した二つの数量の変化や対応を調べることを重視するという観点で指導計画を見直していくとよいと思われる。