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授業実践記録(数学)

耶馬溪鉄道の旅客運賃表の秘密を探ろう!
~ 地域教材を活用した「いろいろな関数」の指導 ~

大分県中津市立三光中学校 小倉 英志

1.はじめに

子どもが数学の有用性を感じながら学習を行うためには,身近な事象から教材を発掘することが大切なことは以前から叫ばれています。私は数学の有用性の意識を高めさせる教材として長年地域における教材(以下これを地域教材と呼ぶ)の実践を行っています。地域教材とは,次のような要素を持つものを示すこととします。

  • ○ 文化的なもの,歴史的なもの,自然現象,人工物,社会現象などであること。
  • ○ 生活の中で活用(利用)できるものであること。(生きた数学である。)
  • ○ 古くから作り出された生活の知恵。(先人の英知)

また,上記の地域教材を扱う意義として次のことがあげられます。

  • (a) 興味・関心を持って取り組める内容である。
  • (b) 数学の有用性を感じ取れるものである。
  • (c) 先人の知恵に学ぶことが出来るものである。
  • (d) その地域で暮らすための意義を感じ取れるものである。

これらの意義は,地域教材が生活的概念にある「生活の経験知」と数学的概念にある「数学の知識」を結ぶことができるものとして言い換えることができます。そして数学的意味だけではなく「社会的歴史的意味」「文化的意味」なども含めて数学と深く結びつけていくことのできるものとして,数学の有用性の意識を高めさせることのできる教材であると考えられます。

地域教材を授業構成していくうえで現実の事象から出発し,数学的問題に置き換え数学的解決を行うことで現実の問題を解決していくという段階をふみます。これは,『PISA2006年調査評価の枠組み』の中で,「数学化のサイクル」として示されていることでもあります。専門的には「数学的モデリング」と呼ばれるものであり,現在まで数々の先行研究が残されています。(詳細は割愛させていただきます。)ここでは,以下の図1のように6つの段階を経て授業構成を行っていきます。

  • ① 現実をつかむ段階
  • ② 現実的モデルをつくる段階
  • ③ 数学的モデルをつくる段階
  • ④ 数学的解決を行う段階
  • ⑤ 得られた結果を現実世界と比較して検証・修正する段階
  • ⑥ 数学理論を一般化し,普遍性を構築する段階

今回はこの授業構成に従って①~⑤の部分を取り上げた授業実践を紹介いたします。

2.授業実践

地域教材として,以前中津市に存在した「耶馬溪鉄道」(1975年廃線)を取り上げて実践しました。耶馬溪鉄道は三光中学校のある三光諌山にも駅があり地域の足として利用されていました。普段通っている道に鉄道が通っていたという事実は子どもたちにとって意外なことであり,「今もあればよかったのに」という気持ちを喚起させます。以下,授業の流れを説明します。


図 2 耶馬溪鉄道(柿坂付近)

(1) 耶馬溪鉄道(図2)を紹介し現実の事象を把握します。諌山の料金表を見せて行き先までの料金を知らせます。(図3参照)

図 3 諌山駅の料金表

諌山駅の両隣の駅の「上の原駅」と「真坂駅」とは40円と60円で違いがあります。「料金表の運賃には何が関係しているのでしょうか?」と発問すると,子どもから「距離」という答えがすぐに返ってきます。そこで,班で運賃と距離の関係がどのような仕組みになっているかを考えさせていきます。

(2) 資料(図4)を提示し,次のように発問して子どもたちに自由に考えさせます。現実的モデルを作り課題解決に取り掛かります。

  中津駅 古城駅 八幡前駅 大貞公園駅 上ノ原駅 諌山駅 真坂駅 野路駅
大人(円) 110 70 70 60 40 60 70

1974年8月11日 改

諌山駅からの距離(km) 7.34 3.9 3.39 2.18 0.96 2.03 3.1

図 4 提示資料

当時の人たちはどのような基準で料金を決めていったのでしょうか。資料をもとに調べてみましょう。

資料をもとに乗車料金と距離の間にどのような関係があるのかを考えさせます。子どもたちの意見はほぼ一緒で,「1㎞まで料金が40円で,乗車距離1㎞ごとに,10円ずつ上がっていく」という解答に行きつきます。

(3) 整理した内容をもとにグラフ(数学的モデル)をつくります。どのようなグラフをかけば料金表に合うグラフになるのかを考えます。(図5参照)

図 5 子どものかいたグラフ


図 6 完成したグラフ

(4) グラフができたら現実の問題と比較し,検証します。他の駅でも成り立つのか?子どもたちは疑問を抱きながら今までとは違うグラフを考え始めます。 子どもからいろいろなグラフが出されますが,「 の関数である」ことの定義を押さえることによって,自分たちのかいたグラフを修正していき, の値がただ一つ決まるグラフを完成させていきます。以上・未満の表現など,注意点を取り上げグラフは完成です。(図6参照)そして,グラフの特徴をまとめて理解を深めます。

<グラフの特徴>

  • 連続ではないが関数である。
  • はある区間一定の値をとる。

このような関数は他にどのような場面で使われているのか子どもに問いかけてみると,タクシー,電車,携帯電話…と生活で経験している内容のものがあげられます。ただ,タクシーや電車は最近では利用したことのない子どももいました。その子どもたちにとっては新しい発見となりました。

  洞門駅 羅漢寺駅 冠石野駅 平田駅
諌山駅からの距離(km) 6.96 8.51 10.37 12.97
大人料金(円)

図 7 評価問題

(5) 最後に理解が深まったか評価を行います。諌山の料金表にある駅以遠の駅の場合,グラフの規則性に沿って考えたら運賃はいくらになるかを考えさせます。(図7)ほとんどの子どもがグラフを理解できているために,その規則性に着目し,2分ほどでグラフに表されない駅も含めて運賃を見出すことができます。

3.授業実践を通して

地域教材を扱うことによって子どもたちに興味・関心を持たせることができます。また,数学の有用性を意識させることに対して意味のある教材です。子どもたちの感想の中にも,

  • ・ 関数は日常によくつかわれているなぁ。
  • ・ これから日常のことを考えて,いろんなことを応用したりして関数を使っていきたいです。
  • ・ 関数には関数でも,いろいろな形があるとわかりました。
  • ・ 料金がすぐわかるので,計算せずに運賃が払えるので便利だと思った。

などがあり,数学の有用性を感じとり,生活と数学が結び付けられています。 また,地域教材は地域に対する愛着も高められることが過去の実践の中のデータに表れています。子どもたちが地域を愛し,地域で暮らしていこうと意識させる教材としても効果的です。

【参考資料】

  • 「郷愁のローカル鉄道耶馬溪線」,大分合同新聞社編(2004)