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授業実践記録(理科)

無脊椎動物の学習単元における継続的な観察を活用した指導法

東京都練馬区立開進第四中学校 上田 尊

1.はじめに

無脊椎動物の学習について,学習指導要領には,「(イ)無脊椎動物の観察などを行い,その観察記録に基づいて,それらの動物の特徴を見いだすこと。」とある。無脊椎動物を観察する学習は新たに追加された内容である。学習指導要領の解説には,「無脊椎動物の学習では比較,飼育,解剖による観察を通して無脊椎動物をとらえ,生物の理解を深め,生命を尊重する態度を育てることが大切。」とある。

私は無脊椎動物の学習において継続観察をとり入れることによって,生徒が自然に対して自ら探究する意欲を高めることができると考えている。そこで,授業の中でも扱うことが容易で,飼育の手間も負担がかからず手軽にできる無脊椎動物の飼育について報告する。

2.飼育条件の検討

飼育容器には60cm水槽の他に2ℓ,500mlのペットボトルを用いた水槽を検討した。60cm水槽は濾過とエアレーションを行い,オオカナダモを入れ飼育を行った。

2ℓペットボトル水槽とは,ペットボトルを平置きにし,上部をカッターナイフで切り取ったものである。ペットボトル水槽内にはオオカナダモ・酸素石(直径1cm程度の円柱の石で,水に投入するとおよそ1か月,酸素を出し続ける。)・温度計・塩素を抜いた水道水を入れた。ペットボトルは容易に入手できるため水槽を各班に1つずつ用意することができる。ペットボトルを持ち上げることで動物を後ろや,ななめ,下からも観察することができる。また,生徒は毎回同じ動物の観察を行うことで大きさなどの変化に気づきやすい。ペットボトル水槽は温度計などの用具とともにコンテナに入れると扱いやすい。

2ℓペットボトル水槽 コンテナに入れ管理している様子

500mlペットボトル水槽は小さいため手に取りやすく,生徒一人に1つずつ水槽を与え,観察させることができる。炭酸用のペットボトルを用いれば表面の凹凸が少なく中の様子を観察しやすい。また,そのままコンテナに入れられるので,持ち運びに便利であり,飼育場所も取らないという利点がある。教室でも個別に観察することができ,ひとりひとりが観察技能を向上させることができる。しかし,2ℓ未満の大きさのペットボトルでは中に入れられる水量が少ないため水温,水質といった環境が変化しやすい。長期飼育にはある程度の水量が必要であるため,複数の動物の継続観察を行うには2ℓのペットボトルでの飼育を行った。

夏場は室温が28℃以下の環境下で飼育するか,高価になるが熱帯魚用の循環型冷却装置の使用が考えられる。水温の影響を考えると継続観察を夏前までに終了させるか,10月から始める計画にする必要がある。

3.動物の選択

無脊椎動物の学習に関して,学習指導要領には,「節足動物や軟体動物の観察を行い,それらの動物と脊椎動物の体のつくりの特徴を比較することを中心に扱うこと。」とある。脊椎動物と無脊椎動物の比較をするために同じ水槽内で飼育できる動物を検討した。節足動物としてはエビ類を,軟体動物としては貝類を飼育することにした。

動物を選んだポイントは次の5つである。(1)安価で入手しやすいこと。(2)管理,飼育が容易であること。(3)班で観察することが可能であること。(4)繁殖が容易にできること。(5)共生できること。

以上のことをふまえて,脊椎動物としてヒメダカ,無脊椎動物としてミナミヌマエビとサカマキガイを飼育することにした。

ヒメダカは小学校での飼育経験が多いこと,環境ストレスに強く,繁殖させることが十分に可能であることから選んだ。ミナミヌマエビを選択したのは淡水で一生を送るエビであり,繁殖ができるからである。サカマキガイはオオカナダモを購入する際に付着していることがあり,入手しやすい。繁殖力があり,成長の様子を生徒が観察しやすいことからサカマキガイを選んだ。なお,サカマキガイは死がいなどを食べ水質の悪化を抑える。

メダカ ミナミヌマエビ サカマキガイ
利 点 ・小学校での飼育経験が多い。
・環境ストレスに強い。
・繁殖が可能
・共食いをしない。
・淡水で繁殖が可能。
・購入金額が安い。
 1匹20円程度。
・入手しやすい。
・繁殖力がある。
・殻の固さ,体の大きさから変化の様子が分かりやすい。 ・水温の変化に強い。
課 題 ・小さなエビやカイを食べてしまう。 ・小さく観察しにくい。
・水温の変化に弱い。
・寿命が1年。
・小さく観察しにくい。

ヒメダカ 体長(0.1cm~1.2cm)  サカマキガイ 体長(0.1cm~0.8cm)  ミナミヌマエビ 体長(0.1cm~2.0cm)

4.継続観察

生徒には授業開始の5分間で継続観察を行わせた。生物単元以外の学習を行っている間も生徒や教師の負担にならない程度に観察を行った(表1)。5月から7月まではサカマキガイとオオカナダモのみの継続観察を行う。この段階では変化は多くはないので週に一度程度の観察でよい。夏場の水温の管理は難しいので9月からヒメダカを加え生物単元への動機付けとして活用する。生物単元の学習と関連付けて視点を与えていくとよい。10月になり気温や水温が28℃以下で安定したところでミナミヌマエビを加え,無脊椎動物の学習の動機づけを行う。3月には継続観察を行っての気づきやわかったことをまとめさせ,発表させる。

表1 年間を通した観察の指導計画
学習活動など
4月 ・継続観察の説明をする。
・「気温」「水温」「pH」などのチェック項目の説明をする。
・サカマキガイとオオカナダモを500mℓ水槽で飼育を始める。
5月

7月
・短時間の観察を行う。
※授業の導入や終わりの5分程度で観察を行う。
※この時期は変化が多くないので観察の頻度は週一回程度でよい。
9月 ・2ℓペットボトル水槽を作製する。
・2ℓ水槽に,サカマキガイとともにメダカを加え飼育する。
・短時間の観察で視点を与えて,観察させる。(継続観察)
 例:メダカは呼吸をしているか,サカマキガイの殻は骨格か,貝やメダカは何を使って動いているか
10月 ・ミナミヌマエビを2ℓ水槽に加え,メダカ,サカマキガイとともに飼育する。
・短時間の観察で視点を与えて,観察させる。
 例:メダカは光を感じているか,音や餌のにおいへの反応をするか
・10月に学習予定の単元と課題観察を関連付ける。
単元 継続観察と学習内容の関連
生物と細胞(4時間) 組織と器官→飼育動物の体のつくりの観察
生命を維持する働き(8時間) 呼吸の仕組み→飼育動物のえら呼吸の観察を行う
血球の観察→メダカの尾びれの観察
・50分の授業で課題観察(視点を与えた観察)をさせる。
※課題(視点)の例:移動方法や行動性,体の表面の様子,食物の採り方など
11月

12月
・11月に学習予定の単元と課題観察を関連付ける。
単元 継続観察と学習内容の関連
刺激と反応(6時間) ヒトの骨と肉→メダカの泳ぐ様子の観察
脊椎動物の仲間(5時間) 脊椎動物の特徴→メダカの体のつくりの観察
無脊椎動物の仲間(4時間) 節足動物の仲間→エビの体のつくりの観察
軟体動物の仲間→貝の体のつくりの観察
・継続観察のまとめを50分の授業で行う。

生徒一人一人が気温・水温・行動の様子・水のpHなどを調べ,ワークシートに記入した。9月下旬から12月下旬までの間は,水替えなども生徒に行わせ観察を続けたところ生徒は観察の技能を習得し,徐々に観察の視点も増えていった。

飼育動物の生態としては,動かないと思っていた貝がよく動いていることや,新しい個体が生まれたことなどに気がつくことができた。

外部形態としてはエビが脱皮をしたこと,脱皮した皮が白かったことなどに気がつくことができた。

飼育環境の変化としては水温が20℃以上であると動物が過ごしやすそうにしていること,気温が下がってくると動物の動きが鈍くなっていくことなどに気がつくことができた。他にもメダカとエビがほとんど接触しないことなど様々なことに気がつくことができた。

毎時間生徒は同じ水槽の動物を観察するため,動物に対する愛着をもつようになる。「メダカがすくすく大きくなってこれからもっと大きくなって欲しいと思いました。」といった生徒の感想から,動物に対する興味・関心を深めることができたと言える。

5分間の継続観察では成長の様子や繁殖の様子を見せることができ,生徒によって生態や形態など様々な気づきがあった。

5.課題観察

生徒に課題を与え50分間で行わせる観察を「課題観察」とした。課題(視点)を与えてじっくりと観察させ5分間の観察ではできないスケッチなどを行わせた。観察では「(1)行動性(短時間ごとに移動と静止を記録させる)」や,「(2)食物の採り方」,「(3)からだのつくり」などを調べその違いについて考察させた。

「(1)行動性」の観察では20秒間ごとに動いているか止まっているかを記録した。生徒は「エビはほとんど動かなかった。」「貝は思ったよりも移動していた」ということに気づいていた。行動性の課題観察を行うことで短時間の継続観察では明確に出来なかったことに気がつくことができた。

「(2)食物の採り方」の観察では水槽内にえさを少量加え観察をした。ヒメダカやサカマキガイが浮いているえさに寄ってくるのに対して,エビは沈んだえさを食べることに気づく生徒がいた。ヒメダカの口のつくりは浮いているものを食べやすい形になっていることに気づく生徒もいた。5分間の観察ではえさに寄ってこないこともあるが,課題観察を行うことで,えさを食べる動物の様子を観察することができた。

「(3)からだのつくり」の観察では丸底又は平底フラスコに生物を入れることで動物を拡大させて観察することができた。肉眼では気づかない細部まで見ることができ,興味・関心を持って観察ができていた。

足の形や本数,体の表面の様子,口などに注目させた。足の形ではミナミヌマエビの腹肢に気づいたり,サカマキガイの腹足に特徴をとらえたりしていた。体の表面の様子では,エビの外骨格の様子やメダカのうろこに気づく生徒がいた。口の形については,小さいため発見することが困難なサカマキガイの口に気付いていた。じっくりと観察することで多くの生徒が継続観察では気付けない,生物の特徴を自ら見いだすことができていた。

6.解剖観察

飼育している動物を観察することで行動や生態の様子を知ることができた。その上で動物の特徴を見いださせるため,解剖観察を行った。継続観察,課題観察を行ったミナミヌマエビ,サカマキガイは小さいため解剖することは困難だった。そこでエビの仲間としてアカエビ,ヒメダカの仲間としてマアジの解剖を行った。

脊椎動物と無脊椎動物を比較しやすくするために,アカエビとマアジを50分の授業で同時に行った。

生徒の感想には,「アカエビとマアジの内臓の位置がわかってよかった。アカエビの神経と腸の位置が予想と違ってビックリした。」「神経と腸のある部分が反対でびっくりした。」

「エビの神経が実際に糸状で驚いた。」「神経の色が同じでびっくりした。」「同じ生き物でもセキツイと無セキツイではずいぶんちがうことがわかった。」「セキツイ動物と無セキツイ動物で異なる所がわかった。エビもアジも重要なところはちゃんとあることがわかった。」といったように,脊椎動物と無脊椎動物を比較し,共通点と相違点を検証した感想が多く寄せられた。解剖観察によって,より身近な生物として生徒に感じさせることができた。

7.成果と課題

(1)観察動物の飼育と繁殖

本研究で飼育した動物のうちヒメダカ,サカマキガイは同じ水槽で繁殖した。サカマキガイは水槽に入れさえすれば何もせずとも,卵塊を産み増えることがわかった。ミナミヌマエビはメダカや貝と同じ水槽で飼育すると繁殖させることができなかったが,60cm水槽で単独で飼育することで繁殖させることができた。

これらの動物を同時に飼育することで,えさの採り方や動き方などを比較することができた。また,ミナミヌマエビやサカマキガイは水槽内の苔や死んでしまった動物を食べるため,水槽内の環境を維持することができ,水換えの回数が減るという利点もあった。

(2)継続観察,課題観察,解剖観察のつながり

3ヶ月間の継続観察を行うことで生徒に動物の成長,産卵といった生命の変化を気付かせることができた。サカマキガイの殻が徐々に固くなっていくこと,ミナミヌマエビが脱皮をすることなどを観察することで,メダカとは成長の仕方が違うことに気付けた。

また,エビや貝を無脊椎動物と認識して継続的に飼育することで,無脊椎動物を身近な生物として感じることができたようである。

継続観察,課題観察を行うことで生徒は,エビはいつ脱皮をするのだろうか,動物にとって20℃より少し温かいくらいの水温がちょうど良いのではないかといったように目的意識をもって観察を行い,結果を解釈することができていた。

生徒の感想には「陸上にいる生物を観察してみたい。」「もっと大きな動物の観察をしてみたい。」といったものも多く見られた。本研究で行った飼育,観察を通して,自然界には様々な動物が存在していることに気付かせ,動物に対する興味・関心を高めることができた。

また,「水が汚いと元気が出ない。」「ストレスがたまって脱皮をした。」「落ち着かなくてずっと泳いでいた。」といったように動物のことを考え,飼育・観察していたことからも,生命を尊重する態度を育てることができた。

また解剖観察も継続観察,課題観察を行うことで生徒が動物のからだのつくりに疑問を持った状態で取り組むことができた。継続観察,課題観察,解剖観察を組み合わせることで生物への興味を高め,自ら観察を行えるようになっていた。

(3)科学的に探究する能力の向上

継続観察をする中で温度計,pHメーターなどの測定技能が向上し,観察技能が向上した。また記録などをとる機会が増え記録方法への理解が深まった。さらに観察方法を組み合わせることで観察の視点も増え科学的に探究する能力も向上した。

(4)自然に対して自ら学ぼうとする意欲の向上

動物を長期間飼育し継続的に観察することで生命に対する関心や尊重する態度を育て,愛着を持たせることができた。また,無脊椎動物についての理解を深め,動物としての共通性や多様性を見いだし生命に対する理解を深めさせることができた。本研究で行った飼育,観察を通して,自然界に様々な動物が存在していることに気付かせ動物に対する興味・関心を高めることができた。