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授業実践記録(数学)

第3学年 数学的な見方・考え方を養う「円周角の定理」の授業
~動的幾何学ソフトウェア(GeoGebra)を用いて知識を拡張・統合する~

岡山大学教育学部附属中学校 横林 慎也

1.はじめに

平成28年12月に公開された次期学習指導要領の答申によると,算数・数学科における「数学的な見方・考え方」について,『既習の知識・技能等を関連付けながら統合的・発展的に考えることである』とある。また,「主体的・対話的で深い学び」の過程で,ICTの活用は効果的で,積極的な利用も求められている。

本稿では,第3学年「円の性質」の単元における授業実践を紹介する。円に内接する四角形,接線と弦のつくる角の性質は発展課題であるが,中学生でも具体的な数値を与えた問題を見る機会は多い。知識や技能の習得のみならず,高等学校への学習の系統性を踏まえつつ,数学の有用性やよさを感じられるような題材としても扱いたい。そのためには,自分が発見したことを証明によって確かなものとしたり,別々のものとして理解していたことが,統一的に見られるようになったりする体験が重要であると考えている。

2.実践事例

単元計画

第1次 円周角と中心角 …………………………………………………………………… 4時間
円周角の定理 …………………………………………………………………… 1時間
円周角の定理の逆 …………………………………………………………………… 1時間
円に内接する四角形 …………………………………………………………………… 1時間
線と弦のつくる角 …………………………………………………………………… 1時間
第2次 円の性質の利用 …………………………………………………………………… 4時間
第1時 同じ弧に対する円周角や中心角との関係を利用して,いろいろな角の大きさを求めることができる。
  主な学習活動と予想される生徒の反応   指導上の留意点
1 「円周角」の定義を確認する。  
T1:円Oの弧ABを除いた円周上に点Pをとり,点A,Bと点O,Pを結んで角を作りましょう。図ができたら,近所の人と比べてみましょう。 S1:点のとり方が違うと,違う図に見えるなぁ。 ・点Pの位置を誘導しないように,生徒がそれぞれ点をとった後に黒板に図をかく。 ・図をもとに「円周角」を定義する。
2 動的幾何学ソフトウェア(GeoGebra)を使って,同じ弧に対する円周角や中心角との関係を予想する。 T1:点A,Bや点Pを動かすと,中心角や円周角の大きさが変化しますね。何か気がつくことはありますか。 S1:円周角は中心角の半分になる。 S2:円周角の大きさは変わらない。 ・生徒の気付きを発表させて整理し,その性質が「いつでも成り立つ」ことを示すためには,証明を要することを確認する。
3 「円周角の定理」を証明する。  
T1:何が証明できたら「円周角の定理」を証明したといえますか。 S1:円周角は中心角の半分になることです。 S2:「∠APB=1/2×∠AOB」です。 T2:点Pをどこにすると一番証明しやすいでしょうか。 S3:線が重ならないところがいいと思います。 S4:PA(PB)が直径になるようにすると,図が簡単になります。 -S4の方針で証明する- T3:この証明で,どんな場合でも成り立つといえますか。 S5:いえません。中心Oが∠APBの内部にある場合と,外部にある場合の証明が必要です。 ・「1つの弧に対する円周角の大きさは,その弧に対する中心角の大きさの半分である」ことは,文字式でどのように表現できるか丁寧に確認する。 ・中心Oが∠APBの内部にある場合を選ぶ生徒が多いと思われる。その発言を認めつつ,図をソフトウェアで動かしながら示すことで,点Pが特別な位置にある場合にある場合(PAが直径になる場合)が,中心角と円周角の関係をとらえやすいことに気付かせる。 ・点Pの位置を少し動かすと,同じ証明では説明がつかないことに気付かせると共に,補助線(半直線PO)の発想を促す。考え方は利用できることを確認し,3つの場合について比較しながら記述するよう指示する。
4 授業を振り返り,まとめをする。  
T1:円周角について,どんなことがわかりましたか。 S1:等しい弧に対する円周角の大きさは,その弧に対する中心角の大きさの半分です。だから,同じ弧に対する円周角の大きさは,いつでも等しくなります。 ・教科書の演習問題で,円周角の定理の習熟を図る。 ・半円の弧の場合を取り上げ,タレスの定理を紹介する。

*第2時は省略(円周角の逆を扱う)

第3時 円に内接する四角形を考察し,既習の円に関する性質を利用して説明することができる。
  主な学習活動と予想される生徒の反応   指導上の留意点
1 「円に内接する四角形」の定義を確認する。  
T1:円Oに円周角∠ACBを図にかきいれましょう。次に点Cを含む弧ABに対応する円周角∠ADBをかきいれましょう。どんな図形ができましたか。 S1:円の中に四角形ができました。 T2:4つの頂点が1つの円周上にある四角形を「円に内接する四角形」といいます。 ・円周角をもとにして円に内接する四角形をかかせることで,その性質について関係が深いことを意識づける。 ・前時の学習内容に触れ,三角形とは異なり,四角形では円に内接しない場合があることに言及する。
2 GeoGebraを使って,円に内接する四角形の性質を予想する。 T1:点を動かすと四角形の形が変わりますね。どの四角形についても,成り立ちそうなことはありますか。 S1:向かい合う角の大きさを足すと180°です。 S2:(対角線を結んだとき)向かい合う三角形は相似です。 S3:(対角線の交点をPとすると)PA・PB=PC・PDです。 ・予想で構わない(証明はできていなくてよい)ことを伝え,形や長さなど,様々な視点で観察させる。
3 「円に内接する四角形の向かいあう内角の和は180°になる」ことを証明する。  
T1:何を証明すればよいですか。何が使えそうですか。 S1:∠ACB+∠ADB=180°です。 S2:円周角の定理が使えそうです。 S3:四角形の内角の和が使えそうです。 T2:一つの方法で証明ができたら,別の方法はないか,いろんな方法で説明できるようにしましょう。 ・多くの生徒は向かい合う内角の性質に気付くと思われる。形や長さについての気付きは,次時以降に扱うことを伝え,本時で扱う課題を確認する。 ・班にホワイトボードを配布し,根拠を明らかにして説明できるよう,図を指し示しながら伝える練習をさせる。 ・代表的な方法を2~3種類紹介して共有する。
4 授業を振り返り,まとめをする。  
T1:今日の授業では,どんなことがわかりましたか。 S1:円に内接する四角形の,向かい合う角の和は180°になります。円周角の定理や四角形の内角の和などを利用して証明もできました。他にも形や長さについても証明できることがありそうです。 ・証明したことは「1つの内角は,それに向かいあう内角のとなりにある外角と等しい」と読み替えられることを押さえる。

第4時 円の接線と弦のつくる角を考察することで,円周角の定理を拡張してとらえ,円に関する性質を説明することができる。
主な学習活動と予想される生徒の反応 指導上の留意点
1 GeoGebraを使って,「円周角の定理」と「円に内接する四角形」との関係を確認する。 T1:1つの円に2つの円周角∠APBと∠AQBがあります。(点を動かして)何か気付くことはありますか。 S1:同じ弧のとき,大きさは等しいです。 S2:四角形になるとき,2つの角の和は180°です。 S3:点を動かして考えると,2つの性質は点の位置(関係)が違うだけです。 ・2つの円周角を直線ABに対して同じ側に表示したり,異なる側に動かしたりすることで,「円周角の定理」と「円に内接する四角形の性質」の関連を意識づける。
2 円の接線と弦のつくる角と,その角内にある弧に対する円周角との関係を予想する。  
T1:2つの性質を説明する境界に注目すると,どんなことがわかりますか。 S1:点Qが点A(点B)に重なったとき。 S2:直線AQ(直線BQ)が接線になっている。 S3:接線と弦でできる角と,円周角は等しくなる。 ・点を動かして,「円周角の定理」と「円に内接する四角形の性質」で説明できる境目を示す。 ・等しくなる角の位置は言葉で説明しにくいので,図を指し示して確認させる。
3 接線と弦のつくる角の性質(接弦定理)を証明する。  
T1:何を証明すればよいですか。何が使えそうですか。 S1:∠BAT=∠BPAです。 T2:円の接線にはどんな性質がありましたか。 S2:接点を通る半径に垂直です。 S3:弦が直径なので,タレスの定理が使えそうです。 ・「円の弦と,その一端を通る接線のつくる角とその角内にある弧に対する円周角」と表現できることを確認する。 ・必要に応じて,円の接線の性質やタレスの定理を復習し,証明にその考え方が使えることに気付かせる。
4 授業を振り返り,まとめをする。  
T1:今日の授業では,どんなことがわかりましたか。 S1:別々のものとして理解していた図形の性質が,点を動かすことで一つの現象に整理して,まとめることができました。円の接線の性質も,見つけて証明することができました。 ・円の接線と弦のつくる角は点の位置によって直角や鈍角になる場合があることを図で確認する。 ・「接弦定理」と呼ばれる性質であることを紹介する。 ・図形を動的にとらえることは,図形を考察するうえで,大切な力であることを伝える。

3.実践事例の省察

第1時の学習内容は,円周角の性質を見出し,それを証明によって確かめるものである。動的幾何学ソフトウェア(以下GeoGebra)で同じ弧の中心角と円周角が連動して変化する様子を具体的な数値とあわせて観察させることで,多くの生徒がその関係や性質に気づくことができた。生徒の授業の振り返りに「ひとつ証明できても,(点の位置を)少し動かしただけで違う証明になるので,どんな場合でも証明できているか調べないといけない」「証明するときには,特別な場合で考えるとわかりやすい」という記述があった。本時の証明は円の中心Oと円周角∠APBの位置関係によって場合分けをするが,その必要性や手順など,証明の方針を立てる手段として「動かす」ことのよさを実感できたと考えている。

第3時の学習内容は,円に内接する四角形の対角の性質を証明するものである。導入部で5分程度の短時間ではあるが,自由に円周上の点を動かしたり,対角線の交点を動かしたりして,いろいろな四角形を観察させた。対角の和が180°になることや,相似な三角形の組についてはほとんどの生徒が気づいたが,GeoGebraでは数値が四捨五入して表示されるので,画面上の数値では方べきの定理(PA×PB=PC×PD)やトレミーの定理(AB×CD=AD×CB+AC×DB)が成り立たっていない場合が多く,長さに関する性質に気づく生徒は少なかった。自由に点を動かす中で,頂点を入れ替えて,四角形を向かい合う2つの三角形にしたり,対角線の交点を円の外にしたりする生徒がいたが,本時は四角形であることの前提を崩さないことを指示したうえで,その自由な発想を称賛し,方べきの定理を扱う際に活躍させた。証明の場面では,円周上の4点と円の中心を結ぶ補助線や,四角形の対角線を結ぶ補助線の表示・非表示を切り替えられるようにしていたため,2種類以上の証明に挑戦した生徒が多かった。また,証明の後,GeoGebraで図形を動かして変化の様子を確かめる生徒が多かったのも印象的である。

第4時の学習内容は,円周角の定理と円に内接する四角形の内角の性質をもとに,接弦定理を見出し,証明するものである。別々にとらえていた2つ(最終的には接弦定理を含めて3つ)の知識が,円周上の点の位置によって区別されただけで,一連の動きでまとめられるという発見は,生徒に驚きと感心を与えたようだ。その後,接線と弦のつくる角と円周角の関係を見出し,課題を設定する流れは,第1時で「どんな場合についてもいえるのか」を検討した経験がいかされていた。また,本時では簡単な説明に留めたが,円周角が鈍角や直角の場合について考える場面も同様である。証明はやや難易度が高いが,円の接線の性質や,半円の弧に対する円周角など,ここまでの学びを振り返る機会として意義があった。

4.おわりに

GeoGebraは代数的な入力から幾何学的な出力を行うことができる作図ソフトで,フリーソフトであるため,学校教育に導入しやすい。作図には多少の慣れが必要であるが,操作自体は直感的で,生徒に対してほとんど説明は不要である。図形を動的にとらえることで,一見別々のものを統一的に見ることができるようになったり,逆に場合分けの必要性を感じられるようになったりすることは,数学的な見方・考え方が養われていることに他ならない。しかしながら,静的な図を動的にとらえることは生徒にとって容易ではない。これまでにも様々な教具やデジタル教材(アニメ―ション)が開発されているとはいえ,実際に「自分で動かしてみる」ことに勝る方法はないだろう。本稿では,「動かしてみる」ことで,課題の発見や,証明の必要性の実感,知識の統合が得られる実践を紹介した。ICTの活用においては,何をもって「効果的」といえるのか留意して,さらなる実践を重ねたい。

引用・参考文献

・中央教育審議会(2016)『幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策について(答申)』

・上垣渉(2014)『数学史の視点から分析する 中学校「図形」領域の重要教材』

・埼玉県算数数学教育研究会中学校部会(2016)『主体的に問題解決する力を育む数学学習指導 第47集』