特集 小学校「総合的な学習の時間」−国際理解−

「英語活動」の現状と展望
目次

宮崎大学教授 影浦 攻

1.今,英語が熱い

 今,英語を取り巻く社会の状況は,「熱い」という言葉が当てはまる。ある新聞に英字新聞の講読を勧める次のような面白いキャッチ・コピ−(sales message) が出ていた。
「2002年には小学校でも英語。
 受験はもちろん,
 パパの昇進も英語力で決まる!?」
この言葉は,まさに現在の「英語」の立場を明確に表している。

  (1) 社会の英語教育に対する期待
 我が国が国際化する中で,仕事や研究や旅行等において,英語を使う機会が増えてきている。その中にあって,英語に対する私たちの意識は,英語に相当の時間とエネルギ−とお金を掛けて一生懸命に勉強したのに,思った程英語を使えないという思いが強い。私たちの多くは,社会の現状と自分の英語力とのギャップに心を痛めており,できるだけ早急に英語力の向上を願っている。そのことが英語教育に対する大きな期待となって表れて,次のような英語教育改善の理由となっている。

1) 我が国の国際化の進展
 国際化の中で,日本から外国に出掛ける人の数は,年間1,700万人以上に達し,年々増えている。また,入国する外国人の数も,年間700万人を超えている。このような激しい国際化の波が,英語教育改善を求めている。
2) 社会の英語への需要の増加
 国際化に伴って,学問の世界や企業の世界でも,英語を使う場面が増えている。企業も独自で英語力を向上させるプログラムを持ち,社会が英語を必要としている。
3) 英語教育改革への期待
 我が国の英語教育は,ここ十数年間に目を見張る改善がなされてきたが,それでもなお,英語教育の効率や効果に対する疑問から改善を求める声が大きい。
4) 外国の早期英語教育の開始
 近隣の外国も早い年齢から英語教育を開始している。例えば韓国では,1997年から小学校3年生から必修教科として,全国民が英語を学習している。

  (2)

 我が国の英語教育改善への取り組み
 我が国の英語教育をめぐって,小・中・高・大学における改善が検討されている。その検討の過程を通して,我が国のこれからの英語教育の改善の道筋が明確になってくる。

1) 自民党文教部会の「外国語教育に関する分科会」の提言(平成12年12月)
 「国際化が進展する中にあって,英語によるコミュニケ−ション能力の重要性は今後ともますます高まっていくと考えられ,今後の国の命運をも左右する重要な課題の一つとなっている」という認識のもとに,英語教育改善について提言をしている。その中で,「小学校段階での教科としての英語教育の導入について検討を行うべきである」と述べている。
2) 「英語指導法等改善の推進に関する懇談会」 (平成13年1月)
 英語教育の課題に触れつつ国民に求められる英語力に言及し,英語指導法の改善策を提言している。小学校英語について,「研究開発学校における研究実践,子どもの言語習得の特質などを踏まえつつ,教科としての英語教育の可能性等も含め,今後も積極的に検討を進める必要がある」と述べている。
3) 「英語教育改革に関する懇談会」(平成14年1〜5月)
 平成14年1〜5月にかけて5回に渡り,計20人の有識者から意見を聴取し,英語教育改善に向けての提言を受け,「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」が策定された。
4) 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(平成14年6月)
 経済活性化戦略の「人間力戦略」の中に,「文部科学省は,『英語が使える日本人』の育成を目指し,平成14年度中に英語教育の改善のための行動計画を取りまとめる」と提言がなされた。
5) 「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」の策定(平成14年7月)
 「経済・社会等のグロ−バル化が進展する中,子どもたちが21世紀を生き抜くためには,国際共通語となっている『英語』のコミュニケ−ション能力を身に付けることが必要であり,このことは,子どもたちの将来のためにも,我が国の発展のためにも非常に重要な課題となっている。その一方,現状では,日本人の多くが,英語力が十分でないために,外国人との交流において制限を受けたり,適切な評価が得られなかったりといった事態も生じている。このため,日本人に対する英語教育を抜本的に改善する目的で,具体的なアクションプランが必要である。」という問題意識のもとに,この戦略構想が策定された。
 これに基づき,今後,直ちに実施可能なものは実施に移し,予算の必要なものは平成15年度の予算の成立を待って,この構想を見直し,行動計画として決定することになる。
 この戦略構想は,今後我が国の英語教育政策に大きな影響を及ぼすと考えられるので,それらを簡潔にまとめて表記する。特に,小学校英語の学習指導要領改定に向けての準備が言及されている。
  ア.学習者の動機付けの高揚
高校生や大学生の留学の促進等による英語を使う機会の拡充
高校や大学における入試等の改善
  イ.教育内容等の改善
コミュニケ−ション能力を重視する学習指導要領の推進
生徒の意欲・習熟の程度に応じた選択教科の活用や補充授業の実施
「ス−パ−・イングリシュ・ランゲ−ジ・ハイスク−ル」の指定の拡充
外国語教育改善実施状況の調査や外国語教育に関する先進的指導事例集の作成
  ウ.英語教員の資質向上及び指導体制の充実
教員の英語力の目標設定や評価の促進,英語教員の研修の実施
ALT の配置の増加と有効活用,外国人の正規の教員への採用
  エ.小学校の英語活動の充実
ALT による英語活動の支援
学習指導要領の改定に向けて必要なデ−タの整理・問題点の検討を行う研究協力者会議の組織
  オ.国語力の増進
国語力の向上を目指して,教員研修や国語教育改善推進事業等の充実

2.「国際理解」のねらいと英語活動の位置づけ

  (1) 「国際理解」のねらい
 「国際理解」のねらいは,子どもが,新しい時代に自信を持って生き生きと生活することができるように,次のような資質や能力を身に付けることである。

1) 英語や英語圏にとどまらず,様々な言葉や文化に対する興味・関心を高める。
2) 国際社会において,子どもが生き生きと生きていくための国際感覚を身に付ける。
3) 言葉を使って,積極的にコミュニケ−ションを図ろうとする態度を身に付ける。
4) やさしい英語を聞いたり話したりして,ある程度の意思の疎通を図ることのできるコミュニケ−ション能力を身に付ける。

  (2)

 英語活動の位置づけと配当時間
 「国際理解」の学習活動には,主に「国際交流活動」と「調べ活動」と「英語活動」がある。それらの活動内容は次の通りである。([ ]の時間は,「国際理解」の学習活動に,仮に年間35時間配当した場合のそれぞれの配当時間を示す。)
国際交流活動
 様々な学校行事や地域の外国人との直接の交流を通して,様々な言葉や異文化に触れながら,子どもの国際感覚を磨く体験活動である。
[3〜4時間]
調べ活動
 子どもの興味・関心に応じて,外国の生活や文化等について子どもが調べたり発表したりする活動である。
[3〜4時間]
英語活動
 歌, ゲ−ム,クイズ,チャンツ,ロ−ルプレイ,スキット,読み聞かせなどを通して,子どもが楽しみながら身近で簡単な英語に慣れ親しむ活動である。
[25〜30時間]

 「国際交流活動」と「調べ活動」では,子どもの負担を考慮しながら必要に応じて,簡単な挨拶などの語句や表現については,英語以外の言葉を聞いたり話したり,また,英語圏以外の様々な文化に触れたりすることもある。

3. 小学校英語活動の現状と展望

  (1) 英語活動への取り組み
 小学校における英語活動への取り組みについて,文部科学省の調査によると,平成12年で全国の小学校の20%が,平成13年で41.8%が,成14年には3年生で51.3%,4年生で52.3%,5年生で53.5%,6年生で56.1%の学校が実施している。来年度は英語活動に取り組む学校数は,更に増加するものと思う。
 年間授業実施時間は,いずれの学年においても,1〜11時間が最も多く63〜65%を占めている。次が12〜22時間で23%台であり,23〜35時間の10〜11%が,それに次いでいる。

  (2)

 「小学校英語活動研修講座」の状況
この研修講座は,文部科学省と独立行政法人教員研修センターが平成13年度から小学校の教員や指導主事を対象にして,英語活動の基本的理論と具体的なアイディアを紹介するものであり,5日間にわたって行われる。平成13年度に3回開催され,平成14年度は4回開催される予定である。参加者は,各都道府県から推薦された人が,平成13年度は466人が参加した。平成14年度も既に2回開催され,275人が参加した。

  (3)

 『小学校英語活動実践の手引』の出版
 小学校において英語活動の基本的な考え方や具体的な方法等を日本語と英語で示した本が,平成13年に文部科学省から出版された。『小学校英語活動実践の手引』( 開隆堂出版,定価 100円) は,平成14年までに90,000部が発行され,全国の教員や行政関係者に読まれている。

  (4)

 小学校の英語に関する研究開発学校の指定
 文部科学省は,小学校における教科としての英語の研究開発学校を次の8校指定して,研究を行っている。

年 度小学校における教科としての英語の研究開発学校
平成12〜14年度・千葉県成田市立成田小学校
・石川県金沢市立南小立野小学校
・大阪府河内長野市立天野小学校
平成13〜15年度・福岡県小郡市立東野小学校
・鹿児島県川内市立平佐西小学校
平成14〜16年度・大阪府千早赤坂村立赤坂小学校
・兵庫県揖保川町立河内小学校
・高知県田野町立田野小学校

 また,平成15年度からの英語活動の研究開発学校の指定を希望する学校が多く,1月現在で,多数の学校から申請書が提出されている。


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