特集 小学校「総合的な学習の時間」−国際理解−

「年間活動計画」について
目次

宮崎大学教授 影浦 攻

はじめに

 先生方が英語活動に取り組む際に,まず気になるのが「年間活動計画」と「授業展開」である。英語は自分が長年苦労しながら(?)勉強してはきたが,英語をこれまで教えたこともないし,また,教えることを考えたこともなかっただけに,英語のどういう語句・表現(言語材料)をどういう方法で教えればいいのか(指導法)についての具体的な知識もない状態から英語活動を始めることへの不安が非常に大きい。
 今回は,まず「年間活動計画」を作成する際のおおまかな手順と基本的な考え方を披露することにする。

1.年間活動計画は,授業をしながら1〜2年かけて作成すればいい

 英語活動を開始する際に,これまでの教科と同じように,最初から単元や取り扱う内容や評価の方法等を吟味した後に年間活動計画を作成するというのでは,内容や方法が漠然として作りにくく,そのことがかえって英語活動に取り組む意欲を失わせてしまう。年間活動計画を作成する際に大切な基本的な考え方を述べてみよう。

  (1) 子どもの「言いたい」「したい」を材料にする
 英語活動を行う際に大切なことは,子どもが「言いたい」とか「したい」とかと思っていること,すなわち,子どものニ−ズを英語活動に取り入れることが大切である。教師が教えやすいと判断する英語や自分が習った英語であるという視点から,取り扱う内容や 年間活動計画を決めたり,自分が視察をしたよその学校の年間活動計画をそのまま取り入れたりすると,子どものニ−ズとかけ離れてしまい,「英語嫌い」を生み出す結果になる。基本は,あくまでも,子どもが「言いたい」と思うことや「したい」と思うことを英語活動に取り入れることである。

  (2)

 トピックや言語材料の配列は,試行錯誤しながら考える
 子どものニ−ズを探りながら授業を行い,それらを積み重ねながらしばらくの間,授業を行っていけばいい。「この言語材料や内容は,子どもにとってどうだったか」を,子どもの反応などを見ながら,教師として培ってきた子どもを観る視点から分析し,それらについて,授業で取り扱う月や学年を再検討すればいい。大体2年程度の実践を積み重ねながら,その間に取り扱う内容やレベルや言語材料を吟味して,年間活動計画を作成すればいい。そうすることによって,自分の学校の子どもにぴったりと合った,子どものニ−ズを生かした年間活動計画ができ上がることになる。授業をしながら年間活動計画を更に改善していくことによって,先生方独自の体系的・系統的な年間活動計画ができていく。

  (3)

 低・中・高学年で取り扱う話題の系統性に配慮する
 年間活動計画を作成する際に,子どもの興味・関心の広がり具合に配慮しながら,学年によって取り扱う話題を限定することが,子どもにとっても教師にとっても便利である。
 小学校の英語活動に取り組む手掛かりになる資料として,筆者らが作成した『楽しく遊ぼう!歌おう! Let's enjoy English! 』(Step1〜3の3冊構成,啓林館発行)を例にあげると,

 ・Step 1:「自分の身の回り」についての話題
 ・Step 2:「友達や学校生活」についての話題
 ・Step 3:「家庭や社会」との関係についての話題

と限定しているが,その中では様々な話題と言語材料の輪を広げている。

〈Step1〜3の表紙と目次〉

  (4)

 内容を大きなくくりでまとめる
 単元を構成する際に,年間の配当時数を考えて4 〜5 時間配当の単元として,大きなくくりで構成することが,年間活動計画を作成するコツのようである。その中に互いに内容と広がりの面から関連を持たせて,取り扱うトピックを決め,その中に入れ込むべき言語材料を決定することになる。
 前述の『楽しく遊ぼう!歌おう!Let's enjoy English! Step 1』の中の単元「3 色で遊ぼう」を例に取ろう。(→この単元のPDFファイルの画面を開いたとき,人物イラストは粗い画像になっていますが,プリントアウトすれば鮮明になります。)

3 色で遊ぼう
ねらい
身近にある色の表現に親しむことと友達に好きな色をたずねる。
自分の好きな色を言ったりする。
配当時数
4時間(各次1時間)
授業の展開
第1次 いろんな色を探そう
 1. 大きな声であいさつをしよう。
 2. カ−ドを見ていろんな色を英語で言ってみよう。
 3. “Colors”を簡単な動作を入れて歌ってみよう。
 4. 教室の中にあるいろんな色を探そう。
 5. いろんな色の言い方をふりかえる。
 6. 元気に終わりのあいさつをする。

第2次 いろんな色で遊ぼう
 1. 大きな声であいさつをしよう。
 2. “Colors”を簡単な動作を入れて歌ってみる。
 3. 色カ−ドでカルタをしよう。
 4. ついたての間を通る物の色を当てよう。
 5. いろんな色のたずね方をふりかえる。
 6. 元気に終わりのあいさつをする。

第3次 好きな色を言ってみよう
 1. 大きな声であいさつをしよう。
 2. “Colors”を歌ってみよう。
 3. 自分の好きな色を言ってみよう。
 4. Colors Basket をしよう。
 5. 友達に好きな色をたずねてみよう。
 6. 好きな色のたずね方をふりかえる。
 7. 元気に終わりのあいさつをする。

第4次 好きな色を使って遊ぼう
 1. 大きな声であいさつをしよう。
 2. “Colors”を簡単な動作を加えて歌ってみよう。
 3. 色おにをする。
 4. いろいろな色を使ってアイスクリ−ムの色ぬりをしよう。
 5. 好きな色のたずね方をふりかえる。
 6. 元気に終わりのあいさつをする。

2.年間活動計画に盛り込む要素を考える

 より効果的な年間活動計画を作成する際に,その中に盛り込むべき要素を考えてみることにする。ただし,これらの要素を最初から年間活動計画の中にきちんと盛り込んだ上で作成するのは不可能である。1〜2年間の試行錯誤を通して,結果的にこれらの要素が盛り込まれていれば,言うことはない年間活動計画となる。

  (1) 子どもの遊びを取り込む
「おはじきで遊ぼう」(数遊び)
「おにごっこ」(数遊び)
「ツイスタ−ゲ−ム」(体の名称や動作の聞き取り)

  (2)

 子どもに身近なことを取り入れる
「好きな食べ物や飲み物」(好き嫌いの表現)
「色紙で遊ぼう」(色の名前や数や形など)
「好きなテレビ番組」(好き嫌いや一般的な動作など)
「私のペット」(動物,飼っている,好き嫌いの表現など)

  (3)

 季節を盛り込む
「落ち葉を集めよう」(色や数や形など)
「雪だるまを作ろう」(寒い,雪,など)
「天気」(晴れ,雨,寒い,暑いなど)

  (4)

 行事と関連させる
「運動会」(簡単な動作)
「パ−ティーをしよう」(プレゼントの授受の言葉)
「発表会」(簡単なスキットやオペレッタの発表)

  (5)

 地域の特性を考慮する
「外国人と話そう」(観光地での外国人との簡単なあいさつ)
「アメリカン・スク−ルを訪問しよう」(学校訪問による相互理解)

  (6)

 文化に触れる
「動物のなき声」(様々な動物のなき声の表現の違い)
「ジェスチャー当てゲ−ム」(しぐさの意味)
「クリスマスって何」(クリスマスの意義や習慣や歌についての知識)

  (7)

 子どもの知性や経験に訴える
「世界の時間」(時差の認識)
「世界の住まい」(住居の種類等)
「世界の食べ物」(食べ物の種類や習慣)

  (8)

 他の教科との関連を考える
「どんな形があるのかな」(算数)
「お絵描き」(図工科)
「植物の名前」(生活科・理科)

3.その他の配慮事項

  (1) 同じ内容でも学年によって方法を変える
 各学年で取り扱う内容が話題によっては似たものがある。例えば,12月になれば,多くの学校でクリスマスが取り上げられる。このことは,宗教色を帯びないように配慮することはもちろんであるが,その外に,子どもの知的な興味・関心の程度を考慮して,低学年ではサンタやトナカイ等の絵を描く,中学年では簡単なプレゼントの交換やツリ−の作成,高学年ではクリスマスの意味や習慣の文化的背景を言及するなどの工夫がいる。

  (2)

 英語学習の経験年数によって内容を変える
 前述したように,『楽しく遊ぼう!歌おう!Let's enjoy English!』Step1〜3は3種類の内容を示している。これを利用するときは,学年に合わせるよりも,「英語経験年数」に合わせて利用するのがよい。英語経験年数が,1〜2 年目であればStep1を,英語経験年数が3 〜4 年目であればStep2を,英語経験年数が5 〜6 年目であればStep3を利用するのが便利である。
 したがって,「総合的な学習の時間」に『楽しく遊ぼう!歌おう!Let's enjoy English!』Step1〜3を利用するのであれば,第3学年にStep1を利用して開始することが,子どもにとって無理がないし,また,先生方も気楽に開始できるものと思う。



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