私の実践・私の工夫(生活科)

2年
とびだせ!きたっ子たんけんたい           
愛媛県松山市立石井北小学校
清水 澄子

1.はじめに

 生活科は,自立への基礎を養うことを目指している教科である。生活上の自立,精神上の自立,学習上の自立を目指す,つまり生き方そのものを学習する教科である。生活科では,自分の思いや願いをもとに自らが活動をつくり出していく。レールを敷いてもらってだれかにやらされるのではなく,自分自身が課題を設定し,学習を組み立てつくりあげる,マイストーリーでなくてはならない。 子ども一人一人がすばらしいマイストーリーをつくりあげるには,子ども自身がじっくりかかわる時空間が必要である。

 そこで,1年間を通して繰り返しかかわることができるように単元を構想した。繰り返しの中で,問題解決力を培い,自分らしさを発揮し,他者と共によりよく生きていこうとする子どもを育てたいと考える。

2.単元名   とびだせ!きたっ子たんけんたい

3.ねらい   仲間と協力して問題解決しながら,校区を楽しく探検する。

4.指導計画

<1学期>町探検パート1・・・5月(午前)
町探検パート2・・・6月(午後)
<夏休み>自由研究
<2学期>町探検パート3・・・10月(午前)
<3学期>町探検パート4・・・1月(午後)

5.活動の実際

 (1)  失敗を生かせるように問題解決過程を大切にした2回の町探検

<校区ってどこ?>

 子どもたちにとっては,初めての町探検。教師の「どんな所に行きたい?」という質問に,子どもたちは,即答できない。また,校区内探検の説明をしてもポカーンとしている。子どもたちは,親と買い物に行く以外はまだまだ行動半径が狭く,地域にあまり親しんでいない,校区自体わかっていないという,実態がわかった。

 そこで,幼年期の発達特性も考慮して,1回目の探検をオリエンテーションとし,実際の探検を通していろいろ気付きながら探検の仕方を考えていけるように2回の探検を構想した。

<お店探検も虫探検も両方したかったのね!>

 ドーナツ屋さんを探検場所に選んだA男が,探検当日虫かごと網をもって現れた。じっと黙っているA男に,お店探検であることを確認し,虫かごも網もおいていくように話した。ドーナツ屋の探検の帰り,そのA男が「虫が呼んでる,先生,虫が呼んでるよ。」と叫ぶので,じっと耳を澄ましてみると,確かに虫の鳴き声がする。声をたどっていくと,そこには,草いっぱいの広い空き地が広がっていた。A男に悪いことをしたなと反省をした。

 子どもの多様な思いや願いに対応できるように,クラスを解体し学年TTで行うことにした。教師が指導しやすいのは,お店・自然・神社などの課題別のグループであるが,地域の様子がよくわかるのは地域別である。どっちにすべきか悩んでいたが,こんな子どもたちの実態から,分化されていない幼年期特有の課題追求の有り様がわかった。1回目の探検は,教師にとっても子どもや地域の実態把握をするオリエンテーションとなった。

<お豆腐って,朝暗いうちから作っているんだね>

 2回目の探検は,午後の探検を設定した。お豆腐屋さんに承諾をもらいに行くと,午後は製造をしていないので断られてしまった。そこで初めてお豆腐屋さんの仕事は朝早いことに気がついた子どもたちであった。

 1回目の探検では,腕時計をもってきたが電池が切れていたとか,地図の見方がわからず迷ってしまったとか,2時間はいっぱいあると思っていろいろ計画したが,歩いていくのに時間がかかって約束していたところにいけなかったとか,恥ずかしくてインタビューができなかったとか,数々の失敗があった。

 しかし,2回目の探検では,1回目の失敗を生かし,計画通りにうまく探検することができた。午前と午後の違いにも気付き,自らが獲得したものは大きかった。

 (2)  季節の変化や町の移ろいを実感する秋の町探検

 2学期が始まり,9月は運動会一色で過ごしたが,朝夕の涼しさに秋の気配を感じるころ,地方祭も近づき,探検への思いが高まってきた。

<虫を売ってるあのお店はどうするんだろう?>

 1学期の探検では,シーズンでもあり,カブトムシやクワガタを売っているお店が大人気であった。特に男の子は,お小遣いを貯めて買ったり,山へ捕りに行ったりして家で育てる子も多かった。

 家の虫たちが次々に死んでしまうと,あのお店はこれからどうするんだろう。店じまいをするんだろうか。心配になり,行ってみることにした。

 店じまいはしていなかった。虫もいっぱいいて,子どもたちは,安心した。そこの店長は,日本はシーズンオフでも虫を買い付けに行き外国から輸入することや,虫の好きな人は手に入れる喜びから卵をかえして育てる喜びへとバージョンアップすることなどを,少年のように目をきらきら輝かせながら話してくれた。子どもたちも教師も,いつの間にか,店長の人柄に魅せられていた。

 2学期の探検では探検そのものに慣れ,計画の時からとてもスムーズに進んだ。食べ物を扱うお店で手をしっかり消毒をした経験から,「公園で遊んだ後にお店に行くのは失礼だから,お店探検の後公園に行こう。」と話し合ったり,稲刈りの探検をして「バケツ稲」をしている5年生と情報交換したり,その成長に目を見張った。

<小野川のダムがなくなった!>

 秋の日の小野川探検は,とても気持ちがよかった。近くに住んでるおばさんが,進んで草刈りをしている姿に感動したり,いろいろな生き物が生息していて人間だけでなくみんなの癒しの場になっていることに気付いたりしながら,楽しんだ。

 虹の橋を東へ少し上ったところに,堰があり,ダムのようになって,いつも水が勢いよく流れていた。子どもたちは,そこへ葉っぱを投げ入れてはその動きを見て楽しんでいた。小野川探検で発見したことなどをまとめていたとき,記憶が曖昧になったので,もう一度見に行ってみることにした。

 するとどうだろう。10月にあったダムが,11月にはなくなっているではないか。みんなびっくりして目を丸くした。いったいどうしたんだろう。

 護岸工事でも始まったのだろうか。地域のことに詳しい人に聞いてみると,すごいことがわかった。堰はゴムでできていて,必要なときにふくらませ,せき止めた水を利用し,また,必要でないときはしぼませて,普通の川に戻すようにしているそうだ。1年の間に,川は変化していた。今まで,こんなに近くにいたのに,その変化に気付いてなかった。農繁期と農閑期,人々の暮らしに合わせて,上手に水を利用していることがわかった。

 これは,中・高学年の学習のつながる大発見であった。繰り返しかかわる活動をしたからこそわかった事実であった。今度,堰をふくらませるとき,見てみたくなった。

 探検報告会での発表も,小野川の模型を作り,堰の所には長細いビニル袋とストローを使って,ふくらませたり縮めたりできるように工夫していた。

<手作り豆腐に挑戦>

 豆腐屋さんに探検に行った子どもたちは,2回目の子が多く,また,1学期の野菜作りで大豆を栽培した子もいた。1回目に豆腐の作り方を教えてもらった子どもたちは,単に見てきたことや発見したことの報告では飽きたらず,新たな課題が生まれ,次は自分で豆腐を作ろうということになった。

 簡単に作る方法を調べ,手作り豆腐に挑戦した。思わずおいしい豆腐ができ,大豆から豆腐が加工できた満足感と,ものを作る喜びを味わうことができた。豆腐屋さんには,その様子や探検のまとめをビデオレターにし,送って見てもらった。

<伝えたい時に伝えたいことを伝えたい人に>

 1学期の探検報告会は,発表の日を1日設定し,前半後半に分かれて,学年内で聞き合ったが,2学期の探検報告会は,子どもが,「伝えたい時に,伝えたいことを,伝えたい人に」伝えることができるように,日程や場の設定を柔軟にした。前述の通り,表現方法も表現内容も回を重ねるごとに工夫を凝らし,多様になっていった。

 子どもたちは,探検でお世話になったお店の人や出会った人,保護者の方などを招いて発表し,感謝の気持ちを伝えることができた。初めての試みであったが,教師の発想の転換ができ,大変意義深かった。また,地域への思いを地域の人と共有でき,今後の活動につながる双方向の活動となった。

 (3)  こだわりの町探検

 3学期の最後の町探検は,何年かぶりに雪が降り,心に残る雪の町探検となった。参観日に設定したことで,親の参加も多かった。子どもたちは,もう地図を持たずに出かけて行き,探検後の報告も見通して映像や資料を集めてくるようになった。新しくは,結婚式場や,同級生の中華料理店,遠くの公園などがあったが,2回目の場所が多く,こだわって探検した子どもが多かった。

 子どもたちのお気に入りの場所は,場所の魅力だけでなく,そこにいる人の魅力が大きく,その人の生き方に惹かれるようになった。

 おもちゃのお医者さんや野菜作りの名人など,校区には自分たちを支えてくれる方が大勢いることに気がついたようだ。


6.成果と課題

 (1)  子どもたちは,地域の人々や自然に繰り返しかかわることで,社会のルールやコミュニケーション能力を身に付けながら,町の様子や自然,季節の移り変わりなどを体全体で感じ取ることができた。また,一人一人が自分らしいこだわりをもち,仲間と共に問題解決しながら楽しく進んで活動することができた。さらに,自分たちを支えてくれている人たちの存在に気付き,その魅力的な人柄や生き方に引きつけられるようになった。

 (2)  子どものこだわりを大切にし,思いや願いが実現できるように,探検の日程や活動計画を柔軟に設定することにより,探検したことをまとめながら曖昧になったことを調べるために再度探検に出かけるといった姿が見られ,子どもたちの課題追求が,より意欲的になった。

 (3)  探検後の表現活動では,活動期間や発表期間にゆとりをもたせ,子どもたちの活動進度に合わせて発表日を選択できるようにしたので,試行錯誤の時空間が保障でき,多様な表現活動が生まれた。

 (4)  子どもたちの多様な課題追求に対応できるように,1学期同様学年TTで支援を行ったが,教師の担当地域を固定したので,地域の実態や子どもたちの変化がよくわかり,効果的な支援ができた。また,探検当日は,安全面の配慮と活動の見取りを行うため,保護者の協力を得たが,探検後の感想から,問題点を含め子どもたちの様子を詳しく知ることができ,子どもを多面的に見る一つの手だてとなった。

 (5)  単元全体を見ながら子どもを見取ることができるように,評価規準を話し合い,課題追求過程に沿って子どもの活動の様子が書き込めるように補助簿を作成した。また,子どもには,振り返りカードに活動の感想や反省を記入させ,後で活動を振り返ることができるように活動の記録を残していった。これらは,子どもの意識の流れや活動の様子をとらえることができ,支援と評価の手だてとして,大変有効であった。

 (6)  表現活動では,発表する側,聞く側共に,めあてをもって楽しく活動できるように評価カードを活用した。お互いに感想を伝え相互評価することで,自分なりの気付きを深め,自分や友達のよさにも気付くことができた。

 (7)  クラスを解体して課題別のグループで活動したため,自分のクラス以外の子どもを担当することが多く,回を重ねるに連れて子どもの実態把握に苦労した。年間通じて4回の探検を設定するのであれば,探検の様子がよくわかるように個人カルテを使用すべきであった。課題追求の軌跡を把握していれば,その子らしい発想をより大切にし,効果的な支援ができるものと思う。簡単で使いやすいものを考案したい。

7.おわりに

 1年間を通して町探検を続けたのは,初めての試みであったが,子どもの姿からじっくりかかわることの大切さを実感した。じっくりかかわる中で,子ども自らが獲得していったものは大きかった。数々のマイストーリーが生まれ,温かいぬくもりと共に子どもの心に刻み込まれた。これからもこの町に愛着をもち,親しんでいってくれるにちがいない。

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