2年
地域への,心の扉を開く子どもたち        
〜『秋を楽しむ活動』より〜          
愛知県豊橋市立谷川小学校
佐野 智里

◇ 『秋を楽しむ活動』に込めた私たちの'願い'

 私たち豊橋市の生活科研究部では,子どもたちの潜在的な学習能力の掘り起こしを意識して,生活科の学習活動の展開について新しい発想を取り入れる方法の模索を続けてきました。その一例として『ふるさと谷川 秋いっぱい』と題して「私たちの住むまち谷川で,秋をこんなにいっぱい楽しめてうれしかったです。ありがとう。」といったメッセージを地域に発信する展開を試みました。その活動の概要を紹介します。


 これは,子どもたちが取り組んだ《お知らせします 楽しかった秋のニュース》の活動に対する地域の人々からの反響のひとこまです。これまでこの単元では,『秋のお祭り』『秋とあそぼう』といった形で,手作りおもちゃや遊び道具を作って園児や1年生を招待してのイベント的な活動の展開が多く見られました。

 今回の試みは,「自分たちの住む地域にはこんなにたくさんの秋を楽しむ生活ができることの発見と,それを支えてくれている地域の人々への感謝の気持ちを味わえる子どもたちに育てていこう」といった願いの具現化を図るものにしました。先程のお便りは,そうした試みの中で届いた地域の人からの励ましのお便りともいえます。


◇ 校区(地域)の'良さ'を活かすための展開の工夫

 ホタルの舞う川,ミカンの実る山,群れなすススキの穂の波・・・豊かな自然に恵まれている校区の'良さ'を存分に享受できるような活動に心がけた一年間でしたが,とりわけ『秋を楽しむ活動』では,'実りの秋'を堪能する活動に力を注いでみました。

 そのためには,自然の恵みの享受だけでなく,自然の恵みを活かすことのできる地域の人々の知恵にも触れ合うような活動をも意識的に採り入れようと試みました。それは,子どもたちが,地域の自然の良さとそこに暮らす人々の温かな心遣いに触れながら,誇らしげに生活していってくれることを願ってのことでした。

 『秋を楽しむ活動』への取り組みには30時間(約2か月半)という長い時間をかけ,見る活動や調べる活動,作る活動や試す活動,さらには自分たちが堪能した様々な活動を地域の人たちに紹介しながら感謝の念をアピールする活動へと拡充していきました。その中から,2つの活動を紹介することにします。

 (1) 食べてみよう'谷川の実り

       学校の畑で作ったいもや庭の木になった柿など,身近な秋の素材を使って料理に挑戦。子どもたちは,調査カードをもとにグループで話し合い,材料や道具の準備,協力者への交渉など自分たちの力で行いました。

 お父さんがシェフの仕事をしているA君は,「柿シャーベット」という料理を皆に紹介し,冷たくて美味しいシャーベットづくりを計画。お父さんの鮮やかな手さばきに感心しながら,自分たちも挑戦。楽しいひとときを味わいました。

       また,子どもたちは,畑で採れたサツマイモでも料理を計画。お母さんたちの知恵と腕を借りて,大学いもや鬼まんじゅう,サツマイモスティックやスイートポテトなど,いろいろなサツマイモの手作り料理に挑戦。子どもたちは,お母さんたちと一緒になって料理を楽しみ,賑やかなパーティーを繰り広げました。

 (2) 「楽しかったよ,谷川・実りの秋!」・・・'教室からの発信'活動の展開

       これは,実際に谷川の地域の人々に読んでいただいた回覧板のひとつです。

 谷川の秋の実りを様々な形で満喫した子どもたちは,その楽しさを皆に知らせたいとの機運が高まってきました。初めは,家族や友達など身近な対象に知らせたいと考えた子どもたちも,話し合いをする中で,様々な形で自分たちの「秋を楽しむ活動」を支えてくれた地域の人にもお知らせしたいと願うようになりました。

       そのような子どもたちの内面に湧き起こる願いを引き出し,その活動を保証することで,学校の枠を越えて地域へ発信していこうとする活動への扉が開かれました。子どもたちは,それぞれが捉えた「谷川の秋」の楽しさをわかりやすく伝えるのにふさわしい伝達方法や表現方法を考え,教室から谷川校区に住む多くの人たち(地域)へ向けて発信しました。


◇ 充実した体験と活動後の意識の掘り起こしを大切にして

 子どもたちが,地域の人々に感謝し自分たちの活動を誇らしげに語れるようなっていくためには,一人ひとりの子どもたちの内面に,自分たちの行っている活動を誰かに伝えたいとするほどの充実した活動体験なしには,そうした'目的意識'は芽生えないと考えて取り組んできました。

 そして,「いつ・どのようなことを・誰に・どんなふうに伝えたいのか」という活動後の意識の掘り起しにも力を注いできました。これによって,表現欲がさらに高まった子どもたちは,この活動に本気で取り組み,生き生きと自信を持って地域へと働きかけることができました。

 今後も子どもたちの思いや願いにそった活動に心がけ,新しい生活科の学習活動の展開を求めて研究していきたいと思います。


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