5年
簡単でわかりやすい発芽の観察
大阪府大阪市立高殿小学校
井上 克己
1.はじめに

 学校内には,数多くの樹木や草花が子どもたちを取り巻いている。また,多くの学校には学習園があり,子どもたちは植物を栽培するということを経験している。このことは,室内における理科の学習に限らず,普段の学校生活の中で植物というものに意識を持たせるということに大いに役立っている。植物教材を取り扱った学習では,植物のつくりや成長のきまりや環境とのかかわりについての見方や考え方を養う。さらには,植物の発芽・成長・結実のしくみをそれにかかわる条件に目を向けながら調べ,ヒトと動物とも対比させながら生命の神秘さに気づかせる。そして,生命を尊重する態度を育てるとともに,生命は連続しているという見方や考え方を養う。

 以上のようなことをめあてに授業が展開されている。特に発芽という現象を小学校の子どもたちに観察させると,土から芽が出た状態を発芽ととらえている。しかし,発根の様子を観察させるにも土の中なので観察は困難である。そこで,準備が簡単でしかも発芽の様子が見やすく,地中と同じような種子の状態変化の様子が観察できる方法について述べることにする。

2.観察・実験の方法

(1)種子の発芽の観察

 種子の種類は,小学校で扱うアサガオ・ヒマワリ・ホウセンカ・マリーゴールド・ヘチマ・キュウリ・カボチャ・インゲンマメ・トウモロコシの9種類に限定した。従来の方法であれば,地中の発根の様子を観察しやすいように透明な容器の壁面に発根の種子を寄せたり,脱脂綿の上に種子を載せたりして観察していた。

 前者の方法では,一部の根の様子しか見ることができないし,根の広がる様子を観察するには不十分である。後者では,根は横に広がることはできるが縦に伸びることができないので発根の様子を観察するには不適切である。

 以上のことから地中で発根している様子に近い状態でしかも見えやすく,しかも観察の途中でも世話がかからないようにここでは,次のような方法で発根の観察を行った。土の代わりに寒天を用いた。
 保湿を目的とするので寒天には何も溶かさず,根が伸びやすいように,濃度は0.8%〜1.5%が適当である。小さい種子は,濃度の低い寒天で大きい種子は濃度の高い寒天を用いることが望ましい。

 室温25℃〜28℃で,上で紹介した種子は発芽する。発芽は2〜5日目に見られる。種子の殻が固いアサガオなどは,水分を十分に吸収できないことが発芽を遅れさすので,種子の表面に傷をつけると発芽しやすい。

 寒天培地を使うことで当初は,カビの発生を心配していたが,予め,種子は漂白剤(ハイター)を100倍に薄めたものによって殺菌したが,しなくともあまり結果は変わらない。ただし,試験管の口にアルミホイルをかぶせて蓋をする必要はある。容器は試験管を用い,試験管立てに立てたまま観察ができる。場所をとらず,移動も容易で場所を選ばずに観察できる。

 また,このような方法であれば,自由な角度から見たり手にとったりすることができ,スケッチも容易にかくことができる。

アブラナの発芽の様子
インゲンマメの発芽の様子

カボチャの発芽の様子

(2)屈性反応の観察

  トウモロコシの屈性反応
 「種には上下左右があるのだろうか」「どんなふうに種を土に埋めても芽は上に出て,根は地下に潜るのだろうか」というような子どもの素朴な疑問を確かめる方法を紹介しよう。ここでは,発芽した状態で根になる部分と子葉になる部分とに分かれて成長するトウモロコシを用いることにした。ペトリ皿に1.5%の寒天を薄く敷く。そこに水を含ませたトウモロコシの種子を4粒おく。寒天が固まるのを待ってペトリ皿内の種子の一粒が真上になるように立てる。薄暗いところに設置し,実験が終わるまでペトリ皿の位置を変えないようにする。そして,3日間観察する。

寒天を敷いたペトリ皿にトウモロコシの種子を固定して,立てておいて観察する。


トウモロコシの発芽の様子

 トウモロコシの種子は,いずれの方向に置いたものも根が出ると,下の方向に向かって伸び始めた。芽生えにおいては,4つの種子とも上の方向に伸び始めた。以上のことから,トウモロコシの根は重力に対して反応したと考えられる。反応は正の方向といえる。一方,芽生えにおいては,根と同じように重力に対して反応したと考えられるが,反応は負の方向である。

3.おわりに

 発芽や屈性反応の観察・実験の方法はこれまでにもさまざまなものがある。しかし,今回は寒天という素材にこだわって観察・実験の方法を模索してみた。寒天は食材でもあることから私たちの身の回りでも身近な素材と言える。扱いも安全で,しかも簡単である。寒天の濃度を調節し,暖めて溶かし,容器に流し込むだけで培地ができあがる。そこに種を置くと,後は水やりの心配もなく,傾けたり倒したりしてもこぼれることはない。発芽の様子を観察するのは,主に5年生の理科の学習で取り上げられている。しかし,この方法であれば学年を問わず,実施できるのではないだろうか。ひとつの可能性として自信をもつことができた。

参考文献
1) 日本適用版 日本BSCS委員会編:BSCS生物 生態を中心に(1970)
2) 清水 清:植物の運動(1971)
3) PAUL SIMONS著 柴岡 孝雄・西崎 友一郎訳:動く植物(1996)


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