教育改革のとりくみ 目次

学ぶ喜びを実感させ,心豊かでたくましい子どもの育成を図る

「パチパチ計算科」(教育課程特例校)

兵庫県尼崎市立杭瀬小学校

 

はじめに

 本校は尼崎市域の南東部,JR尼崎駅の南に位置し,近くには市内でも有数の規模を誇る杭瀬商店街があります。かつてのこの地域は交通の便のよさや産業の発達で人口も急増し,活気にあふれていましたが,近年は少子化による人口の減少に悩まされてきました。そのため平成18年に旧杭瀬小学校と旧常光寺小学校が統合し,新しく杭瀬小学校として創立されました。

 

1 今,なぜソロバンなのか

(1)背景
ここ数年,全国的にも「学力低下」が問題となり,その一方で学校選択制や少人数学級の導入,補習や習熟度別指導の実施など,各地で教育改革の取り組みが報じられており,積極的な施策の実施が求められている。
昭和60年以降は児童生徒の学力向上を学校教育の主要な課題と位置づけ,学校の創意ある取り組みを支援する学力向上対策事業が行われた。
 
保護者や市民からは依然として学力向上を求める声が上がっている。
学校においては,授業に集中できない,指導に従わない,といった児童生徒が増加しており,また不登校児童生徒も依然として憂慮すべき状況である。
 
教員についても,児童生徒の状況の変化や保護者の価値観の多様化により,学級経営や学習指導に苦慮する教員が増えつつある。
(2)目的
基礎学力向上への一つの取り組みである。学力の基礎は「読み・書き・ソロバン」であり,特に計算力は学力の重要な要素である。その計算力の向上のためにソロバンを活用し,計算に対する興味・関心を高め,聴く態度や集中力を高める。
 ソロバン(珠算)の学習を通して,集中力や持久力の向上を図ると共に,日本の伝統文化の良さを体験させ,豊かな人間性の育成を図るものである。更に,家庭での取り組みや地域人材の活用,商工団体などとの連携を図ることによって,「ソロバンによる学校と地域の交流・活性化」をも目指すものである。
「暗算を楽しめる児童」「数を見て,判断できる児童」の育成につながることを目指し,日常生活や地域の活動で生かせる計算能力の向上を図る。
(3)期待される効果
数を視覚で捉えることにより「量の概念」や「繰り上がり・繰り下がりの仕組み」を理解できる。
そろばんの仕組みの習得から,応用技術の習得への展開を行うことで”右脳の発達”につながる(知覚→記憶→選択の流れの活性化など)。
脳が活性化されることで,数学以外の幅広い教科の学習に効果が期待できる。
読み上げ算・読み上げ暗算による集中力,記憶力,速聴能力の発達。
「量の概念」の習得による情報処理能力,洞察力,発想力,速読能力の発達。
定量的作業の繰り返しによる持久力の向上。
実用性が極めて高く,永年的効果があるため,地域の商業をはじめ,地域活動の効率性向上に大きく寄与する。
日本文化の振興に貢献する。
キッズ検定(4年生)

 

2 計算科の目標

 計算の基礎的な知識と技能を習得するとともに,日常生活等で計算を活かそうとする態度を育成する。
(1)ソロバンの技能を習得することにより,計算の仕組み(繰り上がり,繰り下がり等)を理解するとともに,正しく確実に計算できる技能を養う。
(2)計算の楽しさを体得し,日常生活等において積極的に計算を活用しようとする態度を育成する。

 

3 年間指導時数

3・4・5年生・・・年35時間(算数から5時間,総合的な学習の時間から30時間)
その他,週2回各10分の「試す場」(計算タイム)を設けている(年間15時間)。
平成22年度からは3・4年生の指導となる。

 

4 実施方法

(1)「学ぶ場・試す場」を設ける
 週1時間の計算科の時間は,集中して取り組みができることから,「学ぶ場」として位置づけ,ソロバンによる量の概念や計算方法の礎知識やソロバン技能の習得をめざす。毎日の継続した取り組みは「試す場」(計算タイム)として位置づけ知識・技能の確実な定着を図る上でも効果的な反復練習を中心にし,安定した計算力の習得を図る。

学ぶ場
(2)ソロバン講師を中心に,子どもたちの発達段階,能力,技能に応じたソロバン指導計画を作成し,系統的な指導を行う。また,子どもたちが目標を持って取り組めるように独自のソロバンの級を設ける。
(3)ソロバン指導においては,担任と計算科担当講師の複数指導により個別指導など,個に応じたきめ細かな指導を行う。

 

5 具体的な指導

 週1時間の計算課の授業は,ソロバン専門の指導者が中心となり,担任と協力しながら進めるT.T.方式をとっている。この指導者は計算だけできたら良いとの考えだけでなく,話を聞く時や計算時の姿勢に厳しく,学習の基本は集中力との考えで授業を進めている。担任の主な役割はソロバンの授業への雰囲気作りや進度の遅れている児童への励ましや個別指導である。

 3年生はソロバンの基礎基本から理解させるので,2学期までは一斉授業で行い,3学期から習熟度別授業に移行する。初歩指導では運指・運珠の指導に留意している。加減法では読み上げ算をベースに指導し,乗算では「新頭乗法」,除算では「商除法」を用いている。尚,計算の速度より正確さに重点を置き指導している。

 週1時間の計算科の授業にプラスして朝学習の時間に週2回,各10分間の計算タイムを計算科の授業のない曜日に設定している。これにより週3回は計算科の学習をすることになる。さらに本校では20分休み(2校時と3校時の間)や昼休みも,習熟度別,または個別に補習を行い,計算力を高める機会を創っている。

 日頃の練習の成果として,学期ごとに「キッズ検定」を行い,10級から師範まで13段階の試験にチャレンジさせている。児童は進級を楽しみにしているとともに,自分の目標もたてやすい。

 また年に1回,「キッズ計算カップ」という大会を行い,様々な級の児童がグループになり,力を合わせて買い物計算や見取り算競争等を楽しんでいる。

 小野市からソロバン作りの職人の方々に来校いただき,「手作りソロバン体験」を実施し,県の伝統工芸に触れる貴重な体験もしている。作ったソロバンはマイソロバン(個人所有)として活用している。
キッズ計算カップ

 

6 効果・成果と課題等


【効果・成果】
平成20年度 学力テストの結果から
 計算科の発足当時から取り組んでいる6年生の全国学力・学習調査の結果によると,「B活用」に関しての平均正答率が,「数と計算」領域はもとより,どの領域においても全国を上回っている。
計算科の取り組みにより 他教科や生活面への良い影響も出てきている。
 例えば
 
 
話がしっかり聞けるようになった
 
物事に集中して取り組むようになった
 
生活面での落ち着きも見られるようになった 等
平成20年度 計算科のアンケートから
 
 (児童)
 
やってみると楽しくて,どんどん進みたい。
 
学校以外でも役に立っているのでうれしい。
 
買い物に行った時,暗算で計算できるから習ってよかった。
 
級が上がるとうれしいし,計算も速くなった。
 
電卓がなくても暗算でできることが多い。
 
計算が速くなったし,集中力もついた。これからも続けたい。
 
割り算の間違いが少なくなった。
 
毎年の計算カップが楽しみです。 等
 
手作りソロバン体験
 
 (保護者)
 
指先を使い計算することは,集中力を高めるためにも大切な事だと思います。
 
計算力がついた。計算や暗算が正確で速くなったように思う。
 
みんなが集中して静かに机に向かう。それだけでも大きな効果だと思う。
 
機械に頼らず,自分の力で計算できるのが良い。暗算も速くなった。 等


【平成20年度卒業生のデータ】
  今年3月に卒業した児童は2年生の3学期から計算科の取り組みを始めた。2年生の3学期の末のキッズ検定の結果は,66名全員が10級を合格した。その後,今年3月までに在籍は88名となり,各級の合格者は次の通りである。
 
 6級 2名
 5級 9名
 4級17名
 3級19名
準2級19名
 2級11名
準1級 3名
 1級 4名
 師範 4名
 
 また,現在5年生の児童のキッズ級と,その児童のこれまで(3年生の時,4年生の時)の進級状況を表したものが下のグラフ。それぞれ1学期終了時点のもので,順調にその取り組みの成果が見られる。
(転出入の関係で合計人数に変化あり)
 


【課題】
一般の珠算検定を受験させてほしいと言う希望にどう応えていくか。
級が上がると検定に合格しにくくなり,意欲が持続しにくくなる児童もいる。
今年度(21年度)から対象学年が変わってくるので,到達目標の見直しが必要となる。


【参考】
キッズ級にチャレンジ計画
キッズ級(K) 見取り算 かけ算わり算合格基準
K師範加減算10桁
10口10題
実法11桁20題
小数端数処理
法商10桁20題
小数端数処理
K1級加減算 9桁
10口10題
実法10桁20題
小数端数処理
法商 9桁20題
小数端数処理
K準1級加減算 8桁
10口10題
実法 9桁20題
小数端数処理
法商 8桁20題
小数端数処理
3種目30分240点
最低合格ライン無し
K2級加減算 7桁
10口10題
実法 8桁20題
小数端数処理
法商 7桁20題
小数端数処理
K準2級加減算 6桁
10口10題
実法 7桁20題
小数端数処理
法商 6桁20題
小数端数処理
K3級加減算 5桁
10口10題
実法 7桁20題法商 6桁20問3種目30分210点
最低合格ライン無し
K4級加減算 4桁
10口10題
実法 6桁10題法商 5桁10問
K5級加減算 3桁
10口10題
実法 5桁10題法商 4桁10問
K6級加減算 2桁
10口10題
実法 4桁10題法商 4桁10問
K7級加減算 2桁
 8口10題
実法 4桁10題法商 3桁10問3種目20分210点
最低各50点
K8級加減算 2桁
 6口10題
実法 3桁10題 2種目15分140点
最低各50点
K9級加減算 1桁・2桁
 5口20題
  
K10級加減算 1桁
 5口20題
  10分70点



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